第十四話・初めての全身全霊
Side~高町なのは
宣言と同時に距離がつめられ、さすがに驚く。
縮地が元のままだった。
殺意と怒りで冷静さや技量なんて消えてるかと思ったけど、とんでもない。
逆に言って、冷静でなくてもそれが『当たり前』であるほど、修練を続けてきたのかもしれないけど…
どっちにしても、凄いことだ。でも…
こっちだって別に、全て出し切っていたわけじゃない。
『プロテクション。』
機械音声と共に展開される魔法障壁。
雫ちゃんの剣でいくら叩いたところで斬れるはずもない。
「バリアバースト!」
「っ!」
防いだ障壁の爆発。
吹き飛んだ雫ちゃんだったけれど、身体能力が上がってるのか空中で動いて体勢を整えて着地して、私に向かってすぐに駆け出す。
その程度は想定済みで、距離が出来ていればいい。
「ディバイン…バスター!!」
左右に飛んでも避け切れないようにと、ある程度の範囲を塗りつぶす砲撃。
ダッシュの体勢から横にすぐ飛んで、いくらなんでもそんなに大きくは跳躍できないだろう。そう踏んだのだけど…
「な…」
雫ちゃんは私の足元まで来ていた…スライディングで。
砲撃をあんなものでくぐりぬけるなんてどうかしてる。と言うか、正直完全に想定外だった。
しかも、その勢いを止めないまま、地面を腕で殴るようにして跳ね起きて、突きを放ってくる。
咄嗟に障壁を張って左の突きを受け止める。…左?
右が徹の構えになっていた。
「くっ!」
後方に思いっきり跳躍しながら、シューターを放つ。
魔力制限があるときより速い、五発の誘導弾。
雫ちゃんはそれを片っ端から切り払い、どうにか五発全てを切り裂いた。
リングバインドを展開、見えてないだろう足首を狙って…
すぐさま跳躍された。
勘がいいにも程がある。
だけど、空中にいたら狙い放だ…
飛刀。
刀を投げられた。それだけだけど、空中のはずなのに真っ直ぐ私に向かってくる。空戦出来る訳もないのによく綺麗に狙えるなぁ。
私は刀をデバイスで払って…
ようやく刀に鋼線がくくりつけられていることを知った。
真っ直ぐ迫ってきていて鋼線が見えなかった。
刀が弾かれてしなった鋼線は、私のデバイスの先端にぐるぐると巻きつけられ、手繰り寄せる力を感じるのと同時に、雫ちゃんが急降下してきた。
「はあぁぁっ!!」
急降下の勢いをのせて振るわれる左の刀。
一瞬だけ張ったプロテクションでそれを止めた私は、雫ちゃんの下降の勢いが止まり、着地するまでの時間で…
ショートバスター。
空では動けない雫ちゃんは、さすがにこれは避けられず直撃する。
吹っ飛んでごろごろと転がった先に、バインドを…
展開したけど、跳ね起きた勢いのまま回避された。
姿勢を立て直した雫ちゃんは、私を真っ直ぐに見据える。荒れた呼吸につられて閉じることが出来ない口から、だらだらと血をあふれさせながら。
また口の中噛んでおいたのか…全身の擦り傷といい、いい加減馬鹿に出来ない感じになってきてる。
生身で瓦礫とかも防げない雫ちゃん相手。
死なせないようにするには手段を選ばなきゃいけないって言うのも、ここまで持ちこたえられてる理由ではある。
でも…それを除いても…
強いや、本当。
Side~月村恭也
危険ではある、止めるべきでもある。
だが、師として未熟なことにそれよりも胸をしめる思いがあった。
この先を見てみたい。
勝つ必要の無い、勝ち目の無い、そんな相手としか交戦が許されなかった雫。
やれるだけやる、全力でやる、そこまでは常にやってきた。
それでも心の何処かで、『絶対に負ける』って結末が雫には取り付いていた。
今やっているのは、アイツにとって何があっても負けられない戦い。
だからこそ、懸念も我慢も、あらゆる鎖を解いた雫の全力。
止めたらそれが終わってしまうと思うと、止めに入れなくなる。
最も…止めようものなら泣きそうな声で雫が立つよう願ったアインハルトや母親の選択を支えようと俺達に一人でも向かい合ったヴィヴィオを裏切ることになるし、何より今のなのはの邪魔に入る気には俺ですらならない。
先の『誰であろうとぶっ飛ばす』は間違いなく本気だろう。とんだ武闘派になったものだ。
「なのはを恨むなど、八つ当たりもいい所なんだが…」
惜しむべきは、アイツにとっての負けられない理由が八つ当たりじみたものだと言う事。
それはそれで、俺が託した剣を本当に敬っている証ではあるのだが、身内相手に殺す気で戦われては喜べない。
「雫が自分でもわかっててずっと無理して我慢してたものを無理やり暴いたんですから、怒ったりしたら駄目ですよ?」
「…さすがにな。」
だが、傍のフェイトにたしなめられる。
まったく気付くことなく、雫をこの戦いに引きずり出したのは俺となのはだ。
修行中に泣き言を言うような真似を許さなかった俺と、二度と戦わせないようにと優しさを見せる速人に挟まれて、剣を捨てたくなかったら不平不満、不安不信を持つことすら許されないような生活を送って来た結果だ、雫を責められはしない。
速人があれだけ怒るのも珍しいと思ったが、こうなることが想像ついてたならまったくおかしな話ではなかったと言うことか。
本当に後で殴られそうだな。
Side~高町なのは
「っ…ぁあああああ!!」
私がデバイスに絡みついた糸と刀を引き剥がすと同時、咆哮とともに駆け出す雫ちゃん。
視界だってしっかりとしないくらいにはダメージあるだろうに、この状況で大した気勢だ。
雫ちゃんの刀は、右に持ち替えた左の一本だけ。
私は鋼線がついたままの刀を後方に投げ、シューターを放つ。
砲撃で吹き飛ばしてこれ以上地面を転がれば、それだけで傷が酷いことになりかねないと判断したから。
総数16発。さすがに一刀では裁ききれないだろうと踏んだけど…
急所のみカバーして直撃しながら突っ走ってきた。
強引過ぎるのは、きっともう保たないって自分で判断してるからだ。
…実戦なら確実にアウトなんだけどな、まったく。
身体に害の少ない魔力ダメージとはいえ、意志を断つ攻撃ではあるのに…一瞬見た一回以外で力は使ってないはずだから、意志力だけで持ちこたえてることになる。
雫ちゃんの間合いに入る。この一手を凌いで最後の一撃を…
徹だ。
プロテクションで受けたら貫通してくるため、下がって避け…
振るわれた袈裟切りが、途中で止まった。
丁度フェンシングのような、そんな体勢になる。
徹を…フェイントに!?
下がろうとしてる真っ最中に方向かえるような真似が出来るわけも無く、雫ちゃん渾身の突きが私に向かって放たれた。
Side~高町ヴィヴィオ
なのはママが唯一避けていた攻撃。多分まともに通じる雫さん唯一の攻撃。それをフェイントに使った雫さん。
疲労困憊、失血、魔力ダメージと、嫌になるほど苦しいはずなのに、魔力弾の雨を強行突破までして近づいたはずなのに、そんな時に…
これ以上ないほど冷静な選択だった。
狙いはなのはママの右肩。防御魔法は間に合わない、届く。
なのはママの右肩に恐ろしいほど正確に向かった刀は…
バリアジャケットに阻まれて、それ以上動かなくなっていた。
ジャケットを覆う淡い桜色の光。それはなのはママの魔力で構成された防御を抜く力が、雫さんに無いことを示していて…
雫さんの身体を、幾重にもバインドが取り巻いた。
小さく微笑んだなのはママは、思いっきり跳躍して脇の建物に乗る。
これからなのはママが『何』をしようとしているか悟った私はゾッとした。
非殺傷砲撃で怪我するのは、地面を転がって滑るから。
逆に言えば…撃ち下ろしなら、『どんな強力な』砲撃でも撃つ事ができる。
「あ…ぁ?」
「ちょ、なのは…それ…」
あたりから戦慄の声が上がる。当たり前だ。
集束する魔力、展開されるビット、最大出力のはずの魔力がさらに上がる。
「…言った通り、全力で応えるよ。」
自己ブースト、ブラスター…多分最大の3での…
「スターライト…ブレイカーッ!!!!!」
直撃する雫さんの心配どころか、こっちはこっちで防御魔法展開せざるをえないような、そんな破壊の一撃が放たれた。
轟音、崩れる陸戦場。
昼の試合が何だったのかと思うような、恐ろしい一撃。
ただでさえロストロギアのレリックを、聖王の鎧ごと撃ち砕いた、なのはママの全力全開。
やがて引く、音と衝撃。
クレーターの如くへこんだ地面。その中央にいる雫さん。
意識など保っていられるわけも無く、ぐらりとその身体が揺れて…
片膝まで崩れ落ちたところで、そのまま止まった。
右手を見れば、いつ逆手に持ち替えたのかわからない小太刀を杖のように地面に突き刺している。
そのままの姿勢で止まっている。刀を握ったままで。
「…気絶してるな。」
遠目なのにわかるのか、小さく恭也さんが呟いた。
確かに、言わなくても、確認しなくても気絶してて当たり前のダメージのはずなんだけど…
雫さんはそれでも、右手の刀を手放すことも、地面に倒れることも無かった。
『私は決して砕けない…』
全力で戦う前に聞こえた雫さんの呟き。
短く小さな呟きだったけど、今の雫さんの姿がこの言葉を体現しているような気がした。
Side~フェイト=T=ハラオウン
試合の後、凄い勢いで飛び込んできた速人が気を失った雫を、壊れ物でも扱うようにそっと抱え上げて、恭也さんとなのはをそれぞれ一睨みしてホテルへ向かった。
普通に来たら4時間はかかるし船だってとってない以上、リライヴやユーリに力を借りて無理やりに吹っ飛ばして貰ったんだろう。
無茶や強行をしたと怒るべき場面。
ホテルの予約も何もしてないし、治癒魔法が使えるわけでもない速人。
だけど、事件中ですら滅多に見せない本気の様相を感じ取った皆は、一切口出しできなかった。
誰も何も言えないままでそれぞれの部屋に戻っていく中、私はなのはと二人少し夜風に当たっていた。
「…どうしよ。」
ポツリ、と、なのはが呟く。
速人の雰囲気があれだけわかりやすく変わるのは珍しいし、怒られるの心配なのかな。
「今度ばっかりは庇えないよ?私はなのはも心配」
「そういう心配じゃなくて…ね。」
言いながら、なのははバリアジャケットのままだったその姿を元に戻す。
肩の出てる服。その右肩を指差す。
小さく、針で刺されたような赤い痕。
虫刺されとかじゃない。これ、雫の最後の一撃…
「リミット解除してたのに、『徹』でもないのに抜かれちゃった。」
…少し、呆然とその肩の痕を見る。
未だ未完の雫。その通常攻撃。それでなのはのバリアジャケットが抜けた…
「ホントどーしよ、強いや家の皆。面目立たないなぁ。」
「はは…」
高町家最弱だとか妹だとか、いろいろからかわれてるなのはとしては、このまま雫にまで抜かれちゃったらと思うと心配になるのもわかる。
でも…さっぱりとそう言ったなのはは、凄く楽しそうだった。
「あ、でも…」
「?」
「雫ちゃんにはナイショにね。『傷一つつけられなかった』のほうが衝撃大きいし、どん底乗り切ったらきっと強くなるからね。」
笑顔で人差し指を口元に当てるなのはに、私は苦笑を返すほか無かった。
とことん厳しい高町家だった。それは強くもなるよ皆。
SIDE OUT
生身で射砲系とやりあうって大変だなぁ(遠い目)。
対火器(ではないけど)訓練は御神でも神速修得後の筈なので、よくやったほうです、はい。