なのは+『未完の護り手』   作:黒影翼

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第十五話・明かされた間違い

 

 

第十五話・明かされた間違い

 

 

 

Side~月村雫

 

 

 

ゆっくりと目を開ける。

それほど日は高くない見たいだけど、もう朝になっているようだった。

 

鈍い頭を揺り起こすようなつもりで身体を起こして…

 

「よ、目が覚めたか。」

 

速人さんが、私のベッドの横に座っていた。

 

 

何で速人さんがここに…と、考えて…

 

 

 

 

一気に、記憶が戻った。

 

 

 

 

魔導師、高町なのはからの宣戦布告。正々堂々とした一騎打ち。

御神の剣士として、私の宝物に目もくれずに英雄になってしまった裏切り者。

 

絶対に負けたくなくて…何一つできずに負けた。

 

…あんな感情むき出しで、身内相手に殺意を以って戦ってしまった私を、きっとお父様は許してはくれないだろう。

それでも、自分でやったことだから…

 

 

 

唐突に速人さんに抱き寄せられた。

 

 

 

「ぇ…あ、あの…」

 

 

 

優しく、傷口がわかるのかあまり身体が痛まないように気遣って、肩から抱き寄せられた。

暖かな腕に包まれて、速人さんの意図がわかる。

 

「怒られるタイミングですから…別にこんなこと…」

「いいから。」

「だって…私が…悪」

「大丈夫、ここには誰もいない。」

 

抱き寄せられたままでゆっくりと頭を撫でられる。

我慢しなきゃいけないって、悪いことをしたんだって、そう…思い…

 

 

 

 

「ぅ…ぁ…ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ…」

 

 

 

 

無理だった。

 

 

泣いた。

速人さんの服に顔を埋めて、縋り付いて、体裁も何もなく泣いた。

 

何一つできないまま、絶対に許せなかった相手に負けた。

 

彼女に捨てられた家族の力、御神の剣。

私が誇りにしてた、お父様が振るってた、戦えば勝つ、護るべきものを護る御神の剣。

 

結局私が弱かったから。理由なんてそれだけで…

 

 

でも、納得できるはずが無かった。

 

 

何で…何で何で何で何で何で…

 

 

 

 

 

 

 

どれくらいの時間そうしていたのか、私は歯を食いしばって速人さんを突き飛ばすように離れた。

 

「お?」

 

うつむいたまま、一呼吸。

目元を軽く袖で拭ってから、私は顔を上げた。

 

「もう大丈夫。」

「いや、立ち直り早すぎ」

「少しくらいは無理しますよ、私は何があっても剣を捨てる気ないですから。」

 

アインハルト達にあれだけ偉そうにべらべら喋ってた割に負けちゃいけない戦いで負けて、面目も何もかもズタボロだけど、それでも無理をする。

 

剣を捨てる気が無いのなら…折れてはいられないんだ。

いつまでも縋ってはいられない。

 

とりあえずは…

 

 

 

お父様に会わないといけない。

正直、今となってはこんな怪我よりそれがよっぽど怖い。

 

大体私が諦めないと言っても、お父様に呆れられたらそれまでなんだ。

御神の剣は私が自力だけで習得できるものでもなければ、書物なんかがあるわけでもないし。

速人さんも今の私よりいろいろ知っていると言っても直系じゃない。足りない部分が出てきてしまう。

 

「…とりあえず、英気を養わないと…ね。」

「あー…やっぱりそうなる?一応寝る前にも」

「駄目?」

 

困った様子の速人さん。

でも、ちょっと卑怯なのがわかってて駄目かと聞いてみる。

当然ながら今の私に速人さんが辛辣な対応をするわけも無く…

 

 

軽く服をはだけた速人さんに抱きついた。

 

 

 

Side~高町なのは

 

 

 

「にゃ!?」

 

一瞬、とんでもな光景に目を疑う。

服をはだけた速人お兄ちゃんに、雫ちゃんが抱きついていた。

 

 

よく見て、ようやく状況を理解した。

 

 

雫ちゃんは今速人お兄ちゃんの首筋に噛み付いて血を飲んでいた。

夜の一族は、血を得ることで色々と力に融通が利く。昔忍さんやすずかちゃんも大怪我を治すのに血を貰ったとか。

 

「あのね、見られたらどうするの。」

「大丈夫だよ、近くにお前以外の気配はないし。」

「ぷはっ…ふぅ…」

 

私の声に気付いたのか、それとも十分血を飲めたからか、雫ちゃんが速人お兄ちゃんから離れる。

 

「お兄ちゃんも大丈夫?寝かせる前にも血、分けてあげたんでしょ?」

「慣れてるからな、造血能力は結構高いぜ。」

「一晩でどうにかなるわけ無いでしょ。無茶しないでよ?」

 

自信満々のテンションを見せる速人お兄ちゃん。だけど、顔色が目に見えて悪くなっていた。

…お兄ちゃんの分の食事、多めに見繕って貰うように頼んでおこう。

 

「…すみませんでした。」

 

感情を押し殺した、形式だけの謝罪の声。

それは、ベッドに腰掛けた雫ちゃんからのものだった。

 

「本音で話してくれるとうれしいかな。私は雫ちゃんのお師匠さんじゃないし、密告とかしないから。それとも、信用もしてくれない?」

 

教官と教え子なら少し問題だけど、本当なら皆の本心を、本当の声を気持ちを聞いて、語り合いたい。

…アリサちゃんとの邂逅以来、こういう所は変わってないんだなぁって自分で思う。

 

「…私はちょっと嬉しかったんだけどな、特に最後の一撃。」

「何?」

 

素直な感想だったのだけど、雫ちゃんはあんな戦いになって嬉しかったって言う私の気持ちなんて想像もつかなかったのか、驚きを見せる。

でも、感情むき出しで意識も朦朧としていたはずの最後の一撃。

そんなときの一撃。あれは、きっと雫ちゃんの本心で…

 

「恨んでたはずなのに、それでも肩を狙った。ジャケットすらない部分だって狙えたはずなのに。」

 

そう言って、私は首を指差した。

もしここで直撃すれば、ただですんでなかったかもしれない。

私がそれに気付いてるんだ、あの恭也お兄ちゃんが気付いてないはずが無い。

最後の最後で、血を吐いてでも勝ちたいほど恨んでる相手でも、必要の無い殺人を選ばなかった雫ちゃん。それが、なんだか嬉しかった。

 

「…殺人剣だから?」

「え?」

「貴女が…御神の剣に目もくれずに魔法に走ったのは。」

 

厳しい目の雫ちゃんの問いかけ。

戦う力なら、大なり小なり覚悟は必要で、『死なせない力で便利』だなんて浮かれて魔法を手にした訳じゃない。

けど、今雫ちゃんが知ってる情報だけだと、そう思われてもしょうがない。

 

「ナギハ。」

『プットアウト。』

 

と、様子を静観していた速人お兄ちゃんが、サッカーボールを取り出す。

 

これ以上ないほどわかりやすい、剣を手に出来ない理由。

 

あー…すっごくかっこわるい理由だから正直嫌だったんだけど…今雫ちゃん相手に黙ってる訳にはいかない。

 

「なのは、真似してみ。」

 

それだけ言って、速人お兄ちゃんは軽く放ったサッカーボールを爪先で跳ねあげ、額で軽く私にパス。室内の高さに余裕で収まるやわらかいパス。

私は同じように爪先で…

 

 

蹴ったボールは、加減を誤って思いっきり天井にぶつかって跳ね返ってきた。

 

 

ヘディングに備えて上を向いていた私の顔面に思いっきり直撃して、私はそれで尻餅をつく。

 

「いったた…」

 

鼻を押さえて立ち上がる。

雫ちゃんが白い目で私を見ていた。滑った芸人さんってこんな気持ちなのかなー…視線が痛いよ…

 

「見ての通りだ。」

「は?」

「極度の運動オンチなんだよ、コイツ。鋼糸持たせたら多分ボンレスハム出来上がるぞ。御神の、どころか剣道すらできるかどうか…」

 

笑うでも馬鹿にするでもなく、しみじみと言う速人お兄ちゃん。

うぅ…こんな雰囲気で言われると本当に救いようが無いみたいで悲しい。

雫ちゃんは現状が理解不能らしく、渋い顔で私を見ている。

 

「い、いやだって私の剣止められたよ?最初はデバイスで。」

「目はいいし、距離感も反応も優秀なんだよ。だから、シューティングゲームとかなら好成績出すんだ。距離と軌道がわかってるなら、そこにデバイスをおいておくのはなのはでもできるって事だ。後はベテランの戦闘慣れって奴だな。」

 

反応に困る。

そんな表情を隠すでもなく私を見ている雫ちゃん。

私はそんな雫ちゃんに向かって笑いかけた。

 

「…御神の剣、全部納めて生き字引になろうって頑張ってくれてるんでしょ?これでも私もお兄ちゃん達尊敬してるんだ。だから、ありがとう。」

 

本心からのお礼。それが伝わったのかはわからないけれど、雫ちゃんは私を見ていられないとばかりにうつむいてしまった。

 

 

 

Side~月村雫

 

 

 

顔向けできない。

さっきの有様で剣を握っても、冗談半分になってしまう。

だからむしろ、潔く引き下がったとすら言えて…

 

「別に、貴女のために収めてるわけじゃないけれど…そう言う事ならごめんなさい。勘違いしていて…」

 

うつむいたままで、私はやっとの思いで口を開く。

 

「でも…もう無理かも知れない。」

「え?」

「取り返しがつかない、それが私達の戦い。勘違いで身内に剣を振るい、絶対に負けられない戦いにこだわりを持ち込んで負けた私に、あのお父様がまだ剣を教えてくれるかどうか…」

 

何もかも間違いだった。

わかっていたはずなのに、だから我慢もしていたのに…耐え切れなかった。

 

「『戦えば勝つ』、それが御神の剣士に課せられた課題。でも、必ず勝てる人なんてものがいるわけが無い。」

 

つまりそれは、状況を駆使したり、最悪勝てない相手には如何にして安全を確保するかを考えたり、生き延びるための護り刀。その課題。

だから、今の私が正々堂々この人と戦おうなんて思うこと自体がそもそも…

 

「えいっ。」

「あたっ!」

 

ゴッ、と鈍い音が私の頭からした。

慌てて顔を上げれば、デバイスを手にして呆れた表情のなのはさん。

 

「やーっぱり勘違いしてた、無理も無いけど。」

「勘違い?私が剣の話で何を」

「深読みのしすぎ。短絡的よりいいのかもしれないけど、今回はもっと単純な話だよ。」

 

訳がわからない。そんな私を前になのはさんは続ける。

 

「護る側は、いつ奇襲があるかわからない、相手がどんな装備かわからない、人数がわからない。さっきの雫ちゃんの話、有利な状況を選ぶ能力が大事って話。あってるけど、正確には『できるだけ不利になりにくい状況を選ぶ』力だよ。」

「意味は一緒でしょう?それが…」

 

言いかけて、止まる。

違う。こちらが不利前提で、『戦えば勝つ』というのなら…まるで意味が違う。

 

なのはさんは、私が言葉を止めたことで気付いたことを察したのか、小さく笑うと自分の服を思いっきり捲り上げた。

 

 

右脇腹から左胸に向かって、薄く、でもはっきりとした線、斬り傷があった。

 

 

古いものじゃない、それなら消える程度の傷。だからそれができたのはつい最近で…

 

「何で昨日の朝雫ちゃんだけ模擬戦に出して、恭也お兄ちゃんが監督もせずにお寝坊さんになるほど疲れてたと思う?」

「あ…ぁ…」

 

察する。驚愕の事実を。私と違って本当に生身の人間であるはずのお父様に、できていいはずが無い偉業を。

 

察してそして…

 

 

 

 

「一昨日の夜、私とフェイトちゃん二人がかりでやって負けちゃったんだ。あの人比喩でもなんでもなく、『戦えば勝つ』んだよ。」

 

 

 

 

察した以上の事実に、私は呼吸すら忘れて、斬り傷を見せて苦笑いするなのはさんを呆然と見つめた。

 

よりにもよって、私がお父様を侮っているのだと、この人に教えられた。

私が一人に傷一つつけられなかったレベルの相手二人に、試合のままで勝利したお父様との天地の差を示された。

…悔しい。とてつもなく悔しい。

 

あんな天変地異起こしておいても死なないような便利武器を振り回してるく人に、戦いについて、御神の剣士について言われっぱなしで、何も言えなくてとてつもなく悔しい。

 

 

だから…

 

 

 

「ストリッパー。」

 

 

 

苦し紛れの嫌がらせに一言言うしかできなかった。

 

「いや、傷見せるのに…」

 

何か言おうとしたなのはさんの前で、私はそれを指差す。

捲り上げた服と手が邪魔で見えないなのはさんのお腹。その前で息を殺して傷口を見ている速人さん。

蚊帳の外…というか、私となのはさんの会話にしたかったからか、あえて話に混ざらなかったせいで、失念してたらしい。

覗き込むように下を向いたなのはさんと、動いたなのはさんの顔を見上げた速人さんの目が合う。

 

しばらく硬直。そして…

 

 

 

「うぉ!」

 

 

 

屈み込んだ姿勢の速人さんの顔面に向かって、なのはさんは思いっきり握り拳を振り下ろした。

運動オンチは冗談じゃないようで、野球投手みたいななのはさんの大振り。尻餅をつくようにどうにかそれをかわす速人さん。

 

「フーッ!フーッ!」

「ちょ、ちょっと待て!傷口見てただけだって!」

 

驚いたときと言いなんだか猫のようななのはさん。

怒られてる速人さんには悪いけど、私のささやかな反撃なのできっちりやらせて貰うことにしよう。

 

「速人さん、好きな色は?」

「ライトグリーン。って待て待て待て待て!!」

「っ…!待たないっ!!」

 

しまいにはデバイスまで展開したなのはさんはそれを振りかぶる。

振るわれる前に窓を開いた速人さんはそこから外に飛び出そうとして…

 

 

窓枠に足を引っ掛けて腹からすべるように転んだ。

 

 

立て直してさっさと逃げるように走り出す速人さん。

私との話が済んでないからか、なのはさんはそれを見送って服装を整えた。

 

「…ああいう事、気付かないうちにする人だって分かってるから、アリシアさんもシュテルも速人さんに惹かれるのかな。」

「あ、ああいう事って…」

 

赤い顔で私を見るなのはさん。

その様子だと恥ずかしさが先行してまったく気付いてないらしい。

 

「外で転んだ服なら、洗っても誰も不思議に思わないでしょ。」

「あ…」

 

そこまで言って、ようやく察する。

自分で言うのも恥ずかしい話だけど、縋り付いて泣いていた涙に皺に、ぐしゃぐしゃの服。

しばらくすれば乾くかも知れないけど…洗えたほうが人に知れなくて済む。

 

普通に窓から出て転ぶ人でもないから、慌てたフリをして逃げる状況が必要で…どこから想定どおりなのやら、あの人は。

 

揃ってしてやられた感じの私となのはさんは、顔を見合わせたままで苦笑した。

 

 

 

SIDE OUT

 

 

 




誘導弾使用して複数の的を狙うようなことを凄い精度と速さで出来るような人が、小学校のドッジボールでアタフタするレベルだなんて誰も想像つかないでしょう(汗)
ちなみに、恭也は師匠の立場+忍の独占の為、速人が献血役をやっているので慣れてます。
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