なのは+『未完の護り手』   作:黒影翼

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第十六話・答えを求めて新たな道へ

 

 

 

第十六話・答えを求めて新たな道へ

 

 

 

Side~月村雫

 

 

 

一人で休んだほうがいいとなのはさんが去って静かになった部屋。

私はそこで、頭を抱える羽目になっていた。

 

 

 

 

「私はきっと、御神の剣士月村雫に口出しできる立場じゃない。けどね…それを踏まえてでも、雫ちゃんに伝えておかないといけないことがあるんだ。」

「何?」

「強くなるのに必要なもの、私も恭也お兄ちゃんも、ヴィヴィオですら持ってるモノ。それを雫ちゃんは持ってないの。多分、アインハルトちゃんもないかな?今回ここで一緒になったのは、雫ちゃんにそれを見つける機会を作るためなんだよ。」

 

 

 

去り際のなのはさんとの会話。それを思い出して握り拳に力をこめる。

身体に走る痛みが丁度いいくらいに頭を冷やしてくれた。

拳を握った腕でベッドを叩く。

 

「なにが『答えは手に入ったら教えてあげる』よっ!こっちは時間が無いって言ってるのにあの鬼めっ!手に入ってからじゃ遅い!!」

 

口汚くなったけど無視する。

どうせあんな派手なことがあったらあの人が特別嫌いなのはヴィヴィオにも分かっちゃっただろうし、今更行儀よく、まして人前でもないのにする必要が無い。

 

「教わるばかりだったから考え足り無い?でも自分で剣や練習法編み出すような立場でも無いし、第一回り道してる暇も余裕も無いのに…っ!」

 

回り道できない、時間が無い。

今の今まで御神の剣に全てをかける為の枷で、言い訳や甘えを断ち切るための最大の力を持つ言葉。

でも、引っかかりを残されたせいでそうも行かなくなった。

 

 

『強くなるのに必要なもの』が無い。

 

 

エネルギーなしでアクセル踏んで動く車が無いように、必要なものとかいうのがないままで修行だけに明け暮れてても意味があるかどうか…

下手をすると、才能とかでもなく、それが無いために速人さんより進行が悪いって可能性だってある。

 

誤解を解いても人を悩ませる原因なのかあの人は、まったく。

 

「お父様に足りないものを聞く…訳にも行かないか。」

 

考えが足りないのが問題っていう可能性もあるくらいだ。大抵の事に確認取ってるし。

 

 

「…こんなの休めないな。」

 

 

どうせ芯にダメージなんて無い、痛いだけだしあれだけ血を貰えばそれもすぐ消える。

朝にはなっていることだし、朝食に早い時間でも起きてる人もいるだろう。少しうろつこう。

 

 

 

 

 

「「「あ…」」」

 

 

外の空気を吸うのに家を出て早々、難しい顔を見合わせているヴィヴィオとアインハルトがいた。

…気まずい、特にヴィヴィオに。

最初挑発こそされたけど、殺意全開で挑んだのは私のほうなんだ、ヴィヴィオの母親に。

 

「あの…大丈夫…ですか?」

 

けれど、そんな私の懸念を他所に、私を心配するヴィヴィオ。

本当、優しい娘だ。

普通に答えても無理してると思われるだろうし、今は傷とは別に問題を抱えてる。

察されたら面倒かな…と言うわけで。

 

 

「…無理、駄目、死にそう。」

「えええぇぇぇぇっ!?」

 

 

額を押さえてさらっとでまかせ吐いてみた。

 

「いや、出歩いてる通り身体の芯にダメージは無いんだけど、全身痛いしだるいし…大体あの砲撃人が食らっていいものじゃないでしょ。太陽でも落ちてきたかと…」

「あ、あの、その…」

 

勝負だから誰が悪いと責められないのかヴィヴィオが言葉に困ったように戸惑いを見せる。

このまま、むしろ平気そうにすれば騙されたと思うだけで本心まで見抜かれないだろう。そう思ったんだけど…

 

 

「私達は…素直に話をするに値しませんか?」

 

 

アインハルトが私を真っ直ぐに見ながらそう言った。

 

『今更隠すな。』

 

目がそう言っていた。

そう言えば、件の覇王様とやらも、何も出来ずに終わったんだっけ?そこまで好きでもない相手の応援なんて必死にするなんて変だとは思ったけど…

 

確かにアインハルトからは覇王の話も聞いてるし、ヴィヴィオの出生の経緯も少しは知ってる。もう何もかもやってしまった後なんだ、二人には黙っておけないか。

 

 

 

殺意の理由、その勘違いを知った事、そんな身の上話をかいつまんで話すと、ヴィヴィオは何処かほっとしたような笑みを浮かべた。

 

「じゃあもうなのはママ怒られたりする理由も無いんですね?」

 

私となのはさんの折り合いが悪いのはヴィヴィオ的に気分のいい話ではなかったらしい。

たしかに、あの運動神経を見た後では納得せざるを得ないけど…

 

「あの人単純に腹立つ。」

「えぇっ!?」

 

綺麗さっぱり遺恨がなくなって、手を繋いでダンス踊ったりするような仲にいきなりなることはさすがになかった。

 

「去り際に問題投げてってくれたのよ。こっちは時間が無いって言うのに楽しそうに…ったく…」

 

最早嫌がらせだ。こっちは時間が無いって言うのに、あんな問題…

と、問題の内容を反芻したところで、そういえばアインハルトも無いかも知れないって言ってたと思い出す。

 

「私とアインハルトに無くて、ヴィヴィオが持ってる『強くなるのに必要なもの』があるんだって。当たりだとすると貴女も人事じゃないね。」

「なっ…」

 

うろたえるアインハルト。

無理も無い、私にとっては時間が無いとは言え段階踏んでる最中だけど、彼女の覇王流にとって強さ=目的なんだから。

 

「アインハルトさんと雫さんが持ってないもの?えー…」

 

ヴィヴィオが私達を見比べながら考え込む。

答えを見つけて貰えれば楽って言うのと、人に考えさせるの自体なんだか『足りてない』事を露呈している気がするのとでちょっと悩む。

ヴィヴィオが一瞬難しい顔をする。あれ?まさか答えわかった?

 

 

 

「友達じゃない?」

 

 

 

と、屋内から出てきたアクアが放り込んだ一言で、アインハルトが凍りついた。

ヴィヴィオを見れば、引きつった顔で私とアインハルトから目を逸らす。…同じ答えにたどりついたって訳ね。

 

「私の情報によればアインハルトちゃんは教室でも近寄りがたい寡黙な無愛想っ娘だし、雫ちゃんはそもそも外出てないしね。」

「どっ、どこから人の学校の情報を集めてるんですかっ!」

「こっちが私の本領、中学生なんて菓子の一つも摘めばいろいろ話してくれるものだよ。噂話に耳を済ませるってのも有効。今回温泉もあったし大体私服や下着の選択基準とかまで拾ってえぅあ!!」

 

耐え切れなくなったらしいアインハルトが腰の入った拳を全力気味でアクアに向かって振るう。

どうにかかわしたか…家で修行してなきゃ今のでスプラッタだったな、彼女の本来の生活にも役に立ってるようで何よりだ。

 

「まーまー、そう怒らない。小物の選択基準も人の思考を知るのに使えるんだよ。」

 

軽く手を叩くようにしてアインハルトをなだめるアクア。

 

「色気も無ければ戸口も狭い二人は、案外そういう所足りてないんじゃない?」

「色気があるのが強いなら、家で最強なのは多分忍お母さんになる。大体エースオブエース様が枯れてるんだから、それは関係ないでしょ。」

「…ごめんママ、否定できない。」

 

ヴィヴィオですら庇わないあたり、結婚事情は相当干上がっているんだろう。

ところで…

 

「ヴィヴィオ、私はともかくアインハルトは友達じゃないの?」

 

ビクリと肩を震わすアインハルト。アインハルト的にもそれは気がかりなんだ。

 

「あ、や!そんなつもりじゃないです!けど…先輩だから友達とかって失礼になっちゃうかなって…」

 

わたわたと大慌てするヴィヴィオ。大変だなぁ世の中って。

 

「堅いなぁ、私なんてフレイアさんと友達でOKって言われたよ。アインハルトちゃんは駄目なの?」

「そんなことは…」

「OKだって。じゃ今度から友達のアインハルトさんって堂々と紹介できるね。」

 

アクアがさらっと誘導して話をつけてしまう。

 

人の思考を知る、先読み、心の隙を突く。

戸口を広く、色々を知るって言うのは、事実彼女の戦闘方法にも使えている。

 

私やアインハルトが使わず、アクアがちゃんと力として機能させている能力という意味では、確かに足りないのはそういうものなのかも知れないな。

 

「戸口を広く…か。なるほどね。収穫にはなったわ、ありがとうアクア。」

「それじゃついでに、二人ともインターミドル参加しようよ。いろいろ広がるよー。」

 

魔法戦技の話か…と、人事のようにきいて、今のフリがおかしいことに気付く。

ヴィヴィオは誘うまでもなく参加だろう。じゃ、二人って…

 

「私が出られるわけ無いでしょ。何言って」

「規定デバイスは装備できたでしょ?安全基準を満たせてれば大丈夫。」

 

わざわざ今日の模擬戦のためだけに私用に改造したのかと思ったけど、まさかインターミドル用だったとは。アリシアさんも暇じゃないはずなのによくやるな。

 

「そう言えばアインハルトさん、確かめなきゃいけないことがあるって…」

「そうですね…アクアさん、ちょっと見ていただきたいものがあるのですが…」

 

言いながら、アインハルトが私とアクアのほうに向かってくる。そして…

 

 

 

唐突に、私の腕を掴んだ。

 

 

 

Side~アインハルト=ストラトス

 

 

 

完全な奇襲。

でも、傷だらけのはずの雫さんは一瞬で戦闘態勢になる。

 

「はあっ!!」

「っ…」

 

下手に技術を使えないよう、掴んだ雫さんを無理やり振り上げる。

さすがに死なせるわけには行かないので、振り下ろすときだけはそれなりに加減して背中から落とす。

でも、息が止まる程度の衝撃にはなったようで、動けなくなった雫さんの顔面に向かって…

 

 

 

拳を寸止めで突き出した。

 

 

 

ヴィヴィオさんもアクアさんも呆然としている。

当たり前だ。死人に鞭打つと言っていい事を、奇襲でやっているんだから。

 

 

 

「……で、満足できた?」

 

 

 

でも…呼吸を取り戻した雫さんが苦しそうに吐き出した言葉は、私が確かめたかった事を悟っている内容だった。

 

 

私が持つ記憶の中のクラウス、その想い。

護るべきものを護れる力、覇王流の…私の求める到達点。

 

でも、決して本人と話せる訳じゃない。

 

だから結局…雫さんが示した、護るための…勝利の為の手段を全て使い切る事が、それでいいのか悪いのかがわからない、クラウスから答えはない。

どれだけの力を手に入れても、どれだけの敵を倒せても、穢れる覚悟が無いと護れないのかもしれない。

護りたいときに護りたいものを護る力が、いつでもどこでもあるわけじゃないのだから。

 

 

でも、私は…

 

 

「満足…出来るわけ…無い…っ!」

 

 

嫌だった。

 

記憶の中のクラウスが、こうしてオリヴィエを護るのも…これから先こんな事をするのも。

クラウスにとって護れればよかったのだとしても…『私』が嫌だった。

 

 

「ごめんなさいクラウス…私…私は…っ!!!」

 

 

雫さんに負けて、突きつけられた現実。

あの時、雫さんが『奪う者』だったなら、私には、覇王流はまた何も護れず終わるところだったのだという真実。

 

それを前に尚、私はこんな力は嫌だった。

 

「とりあえずアインハルトは参加だって。」

 

いつの間にか起き上がっていた雫さんの声で、私は現状を思い出す。

護るより正々堂々の戦いを選んでしまっている自分に気付いた私は、申し訳なさに泣いてしまっていて、今私が何をしでかした状態なのか忘れてしまっていた。

 

「あ、あの…」

「元々けしかけたのは私なんだから気にしなくていい。」

 

そう言って、雫さんはさっさと屋内へ行ってしまった。

 

「ちょ、結局雫ちゃんはどうするのー!?」

 

大会参加の返答を聞いていない雫さんを追いかけるアクアさん。

私とヴィヴィオさんは並んでその背を見送る。

 

「強い…ですね。」

「はい。」

 

あんな敗北の後、私自身も躊躇いながらの奇襲だったと言うのに、まるで何事も無かったかのように済ませてしまった雫さん。

…悲しみ、怒り、失意。

クラウスですらあったものが、あんな年端も行かない少女に一つもないわけがない。

それでも、怒ったり嘆いたりを選ばない。

 

そんな彼女を、私は本当に強いと思った。

 

 

 

Side~月村雫

 

 

 

ついてきたアクアにお父様からの許可が必要だって旨を告げる。

放送されるような場所に出ていいものかどうかもわからないし、そもそも今回の一件で剣を取り上げられるかもしれない。まだその話だってお父様と出来ていないんだから。

 

 

 

 

…と、言ったが最後、ずるずるとお父様の元まで引きずられていきなり二人きりにされた。

 

 

 

元から傷だらけで、アインハルトにダメージを追加され、魔導師の力で掴まれて逃げられるわけも無かった。

確かにいつまでも先延ばしにする意味も無いけど…昨日の戦いや今の傷の痛みなんかと比べ物にならないくらい怖いし苦しいって言うのに…

だって、私が諦めないって言っても、指導を断られればほぼ完成の道は断たれるんだから。

 

黙って私を見るお父様と向かい合う形で立つ。

 

 

「あの…お父様…私…」

 

どうしても怖くて俯き気味になってしまう私が、言葉を言い切る前に額を平手ではたかれた。

結果、首があがってお父様と目が合う。

 

「インターミドルに参加するんだな?」

「え?あ、はい…」

「対魔導師に使えそうな技を教える。左右の徹とあわせてそれまでにモノにして見せろ。」

 

呆然と、けど徐々に理解する。

新しく技を教えて貰える、つまり、剣を教え続けてくれる。

 

それだけで、十分のはずなのに…

 

 

ポン、と軽く、頭を撫でられた。

 

 

励ます、許しをくれる。そんな甘いことはお父様がするはず無い。

でもそれが、口にしない事の変わりのような気がして…

 

 

「ありがとう…ございます…」

 

 

私は泣きそうなのを必死でこらえながら、背を向けたお父様に向かってお礼を搾り出した。

…必ず、応えよう。絶対になるんだ、御神の生き字引に。技術だけでなくその存在意義も含めて。

 

 

 

SIDE OUT

 

 

 




友人がいないことに疑問一つ持ってない雫。
そりゃ皆家から出したがります(汗)
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