第十七話・インターミドルに向けて
Side~月村雫
ルーチンワーク気味に修行に明け暮れていた今までと違ってイベント三昧だった外泊修行が終わり、帰ってきた翌日…
「と言うわけで、今日からは貴女の訓練も担当します。」
「よろしくシュテル。」
シュテル指導の下、対魔修行に入ることになった。
私がインターミドルに参加するに当たって目下対魔導師の一番の問題である射砲撃、バインドへの対処。となれば家で最良の相手は、シュテルしかいない。
訓練について考えるのもアクアとクラウ相手にやってるし、教師としては適任だ。
セコンドも彼女がやるらしい。まぁ、大舞台で下手な話をしそうなレヴィやユーリなんて引っ張り出すわけにも行かないけど。
「と言っても、貴女に剣を教えるなんて事は到底出来ませんので…」
言いつつ、シュテルは誘導弾を展開する。
燃えてるよ…競技設定って言っても、当たったら熱いことだろう。
「基本に沿って、身体で覚えてください。尚…ライフタグで管理しますので、凶行は控えるように。」
「うん。」
皮肉っぽい口調のシュテルだったけど、私は真面目に頷いた。
実際、なのはさんが殺す気だったらアレだと死んでる。最低でも急所は避けないと。
私が真面目に答えたからか、シュテルはそれ以上何も言わなかった。
砲撃は絶対回避か発動阻止。回避には真横移動が必須。射撃は誘導性のせいで器用に避け辛い部分もあり、すれ違うように避けることになる。
魔力とか言う不思議パワーを使ってる割に慣性が皆無って訳ではないのか、進行方向や曲線の移動もある。だから、軌跡の追えないタイミングで接近回避。
誘導弾サイズなら斬って壊れるデバイスじゃないとの事だったから、回避方向の邪魔な弾を斬って、開いた道に飛び込む形が理想…接近しないと話にならないし。
私は前傾姿勢で殺到する誘導弾を待ち構え…
斬ると同時に潜
「…と、このように、着弾炸裂のものもありますので、爆発時には爆風にあわせて後方に飛ぶなど、工夫も必要になります。貴女の反応速度ならそう問題ないでしょう。」
爆発した弾のせいで接近を図れず、潜るはずだった全弾の爆炎に飲まれた私は、日差しの暑さに拍車をかける魔力熱を受けて倒れた状態でシュテルの声を聞いていた。
…やっぱり魔法嫌いだ。
Side~高町ヴィヴィオ
私は、リオ、コロナ、アインハルトさんとまとめて、ノーヴェにコーチとして正式に申請して貰えることになって、同時に大会までの間皆の訓練を見て貰えることになった。
と言っても、特技強化の必要があってそれぞればらばらで特訓している。
「と言う訳で、まだ早い段階って置いておいた対射砲戦闘をやってる。そう遠くないうちに単発じゃ何もつうじなくなるかもね。」
「はー…」
そんな中、定期的に集合してるある日に、クラウさんが顔を出して雫さんの訓練状況について話してくれた。
シュテルさんは、単純スペックでなのはママと互角らしい。
個性を得て種類や傾向は変わってるけど、それでももしシュテルさんを破れるようになったなら、近接戦の不利が否めない以上大変なことになる。
「それにしてもそんな告げ口みたいなことしていいんですか?」
「様子を話しに来ただけだから。それに、皆がどんな感じなのかも見るからあいこだよ。」
言って私達を見るクラウさん。
手につけている魔力育成用の負荷バンド。
「魔力値が伸びる時期で、身体を下手に壊したら危ない時期だからって。」
「だから、魔力負荷だけかけて訓練してるんです。」
と、話した所で、背後に気配を感じる。
席を外していたノーヴェが戻ってきた。
「こらこら、スパイにべらべら喋る奴があるか。」
「あう、でも雫さんの話聞かせてもらったし。」
「ちょっと位いいかなーって。」
苦笑しながら言うリオとコロナ。
けど、ノーヴェはクラウさんに近づいていく。
「で、アクアは?」
クラウさんの目を覗き込むようにして言うノーヴェ。
クラウさんは少しの間を置いて…
「有力者の情報収集を僕に頼んで訓練中。」
「スパイじゃねーか!!!」
ものすごく正直に答えたクラウさんに間髪いれずにつっこむノーヴェ。
凄いノリだ…そして雫さんの話が出てアクアさんの事を一つも聞いてない事に気付く。
クラウさんも情報収集のやり手なのかな?上手い流れだ。
「参加選手の情報を得ているという意味では、私も幾人かとスパーリングを組ませていただいてますし、気にするほどでも…」
「相手があのアクアだと気にもするっての。ったく…ま、確かに世間話でどうこういう事はねーけどな。」
アインハルトさんに窘められて肩をすくめるノーヴェ。
あのアクア。
とは、勿論想定外の手で手玉に取られ続けたアクアさんの戦い方だろう。
初めから何がどれくらい出来るかわかってれば戸惑うことも無いけど…下手をするとこの間の模擬戦で全力出してない可能性すらあるからなぁアクアさん。
「でも実際アクアさんどんな感じなんですか?あのときも私いいように振り回されちゃったから気になって。」
素直に気になったから聞いてみる。
と、クラウさんは黙ったまま少しだけ俯いてしまった。
人の…それも応援してる人の話を勝手には出来ないか。
あんまり無茶言うべきじゃなかったかな?と、そう思って…
「水族館。」
諦めかけた所で、クラウさんがそう呟いた。
「え?」
「水族館作ってる、勝つのは大変だよ。」
それだけ言って、手を振って帰ってしまうクラウさん。
水族館…それだけ言われて具体的に何がわかるって事は無いけど…
「やっぱり…楽しそうっ!」
「だねっ!」
あのアクアさんが想像もつかない何かをしてるとか、雫さんが魔導師対策をしてるとか聞いて、燃えないわけが無かった。
Side~月村雫
一応、ヴィヴィオ達に条件を合わせる意味もあって…まぁ無意味だけど、学校に行っている時間帯はお父様との通常訓練限定になっている。
日中お父様といつもの訓練をこなした上で昼以降にシュテルからの訓練。
アクアは別に練習があるらしく、シュテルは私の専属みたいに熱心に潰…鍛えてくれる。
何でもシュテルは、訓練中私に一撃も食らわなければ、速人さんが一日何でも付き合ってくれると約束したらしく、怖いくらい本気だ。
もっとも、それくらい乗り切らなきゃ魔法戦技会なんかに乗り込んでも何も出来ずに終わるけど。
「や、きつそうだね。」
「あぁ、アクア。」
片手間に挨拶を交わしてくるアクア。
疲れてる様子も無いところを見ると、そんな動いてないようにも思うけど…
「サボってる…訳ないわよね。」
「いやぁ、秘密兵器の開発をね。誰にでも勝てるんだよ。」
「そんな都合よく行くといいけど。」
冷めた声で返すと苦笑するアクア。自分でも言いすぎだとは思ってるんだろう。
誰にでも勝てる…誇張表現だとしても、普通に評価して『ある程度の相手なら勝利できる』って所になるかな?大した秘密兵器だ。
「雫ちゃんのほうは…って、直接具合聞いたらまずいか。」
「別にいいわよ。…芳しくないけどね。」
隠すでもなく返した。
どうせ、弾幕や砲撃をさばけるかさばけないかでばれることだ、隠す意味も無い。
「あらら…」
「時間に追われて成果も出ずに迷走…って言う状況には、少しは慣れてる。それに、今回は見聞が目的だから、こつこつやるよ。」
本気ではやるけど、それは武器を手にしている間はあたりまえ。
私とアインハルトに無いもので強さに関わるもの。それが『余裕』って可能性もあるわけだし、勝手に追い詰められるのもよくない。
「そっか…魔法戦自体には元々そこまで興味も無かった?」
「と言うか、今までいろいろはやってる暇が無いって感じだったから。興味がないというか、そこまでやるのは後のつもりではいた。」
「説得力ないなぁ、アインハルトちゃんに襲い掛かってるようじゃ。」
「う、うるさいな…我慢してたのよ。」
そして、しきれずに他人たたきのめすわ身内に斬りかかるわ、まったく…
振り返って呆れていると、アクアが私の頭を撫でる。
「冗談だよ、雫ちゃんは頑張りすぎなくらい頑張ってるって。」
「目標点が普通の人と違うからね。でも、ありがと。」
励ましてくれてる手を跳ね飛ばすのも気が引けて、私はその手をやわらかく掴んで頭から下ろさせる。
彼女だってトラウマの払拭に挑むんだから、人の事気にするほど余裕に満ち溢れてるって訳でもないだろうに。
「励ましてる暇があったら、選考会で私に当たらないように祈っておけば?」
「あ、言ったな?雫ちゃんこそ大口叩いてきたんだから、無名選手に負けて落選とか情けないのやめてよね。」
笑いながら言い合う。
けど、不安と言う程ではないけど、このままで一戦目から射砲メインの相手に当たればそんな情けない事態も起こりかねない。
アクアにしたって不安を抱えてるだろう。
純粋にわくわくしてそうなヴィヴィオ達には見せられない本心ね、まったく。
Side~アインハルト=ストラトス
強い。
ノーヴェさんの紹介もあって出来た公式戦経験者巡りは、誰も彼も強かった。
今のまま覇王の力を示そうとしている事に引け目すら感じかねないほどに。
実戦だったら何回死んで…
「…一回ですね、どう考えても。」
一回死んで、そこから先何も出来ない死体に変わる。
ヴィヴィオさんが雫さんの骨をただの一撃で折って痛感した、命と戦いについての重さ。
それを間近で見ている身として、とてもじゃないが何回も死ねると思えない。思う訳には行かない。まして、護りたいものを護る強さが欲しいなら、なおさら…
「にゃぁ?」
「ティオ、ああいえ、知り合いの事を思い出していただけですから。」
インターミドル参加資格を満たすためのデバイス、アスティオン。
猫のぬいぐるみ外装を着ている上に、当人も機械音声ではなく猫の音声を登録されている。
おそらくは、クリスさんの対になるように考えてくれた結果のサプライズ。
出会ったばかりと思えないくらい私になじんで、なついてくれている。それだけに、少し重くなった気分を察して心配してくれたのだろう。
「とても強い方です。仲良く…なれるかはわかりませんが、凄い人ですよ。」
出会い方はよくなかったものの、嫌うほど間違った事も無く、むしろ心身ともに強く尊敬できる。
けれど仲良くとなると、彼女がどうしても一線を引いている気がする。
私はアクアさんに指摘されたとおり、単にいろいろ下手でやってこなかっただけだけど、彼女は普通に話したり遊んだり出来るのに深入りを避けている。
戦えば勝つ剣。
雫さんの到達点もあるいは、覇王の望んだ本当の強さと同じものなのかもしれない。でも…
「大会で当たれば、彼女も倒さなければなりません。」
「にゃ!」
笑顔で答えてくれるティオ。なんだか心が落ち着く。
私と雫さんに無い物が同じと言う話は、きっと的外れではない。なら、こうして広い世界を知ることで、私も足りないものを見つけられる筈。
次元世界最強。
たとえ今届かないものだとしても、私はそこに辿り着かないといけない…必ず。
Side~アクア=トーティア
とりあえず理論設計は済んだ。
と言う訳で、さし当たって試す相手として…
「すみませんリライヴさん。忙しいのに…」
リライヴさんに声をかけた。
速人さんと揃っていろいろと忙しいらしく、ホントならあんまり私用を頼むのも悪いんだけど…
「家のパティシエの親友さんの頼みだもん、問題ないよ。」
いつも通り笑顔で答えてくれるリライヴさん。
ヒーローとその仲間達そのままな感じで皆優しいんだよなぁ…ディアーチェちゃんなんかは厳しくも見えるけど、なんだかんだで家族の事考えてるし。
「でもいいの?私…エレミアさんにも勝てると思うけど。」
「わかってます。」
そうでないといけない。
何しろ…誰にでも勝てる武器として作り上げたんだから。
「わかった。それじゃ全力で…いくよ。」
「はいっ!」
たった一人で世界と戦ってきたリライヴさんは、力を使い切れば誰もフォローしてくれなかった。だから多分…ほとんどの人が知らない、白い堕天使の全力。
一年位前まではただの一般人だった私が、そんなものとつりあう訳が無い。
でも…
届いてみせる。
魔力値の高さ、少し思いのままに動いて使える槍。
お人よしで子供に甘い両親があっさりくれた高性能デバイス、アクアリウム。
そんな自分に自惚れて思いつきで出た大会で、これ以上ないくらいあっさりと負けて、それで全部諦めた。
一流と呼ばれる人たちのように、頑張ってみることすらないままに。
当時の私はただの子供、コテンパンに負けた後頑張る気になれなくて、遠目に見てるだけになった。
そして…遠目に見るために色々調べ、ヒーローに近づくことが出来た。
近づいて…改めて自分がどれほどただの子供だったのか思い知った。
朝から晩までに近い勢いで鍛錬生活を送っている雫ちゃん。
そして、そんな雫ちゃんを鍛えているから自分の修行がしきれないとその後でまだ試合を組む速人さんや恭也さん。
興味本位で修行に混ざってただ一年、私自身は一回諦めたへっぽこなお子様として評価されてもしょうがない。
でも…一年の時を過ごして尚、大して育たないような程度のことしかやっていない人達だと、私の尊敬した、本当に凄いと思った人達が、そんな評価を受けるのは…絶対嫌だ。
だから…
「れ…らい…リライヴひゃんれも…たおひゅんらー…」
「目を回すくらいに叩いてもそんなこと言える気概は十分私達に染まってるよ。」
遠くのほうから聞こえてくる声にまともに答える事も出来ずに私は力尽きた。
うー…やっぱりそう簡単にはいかないか…
SIDE OUT
暑い日に炎熱魔法…非殺傷に出来ても喰らいたくない、というか熱中症で死ぬかもですね(汗)