第十八話・新たな舞台
Side~月村雫
「いよいよ選考会前日となりました、組み合わせが発表され通知が届いていますのでこれから確認したいと思います。」
一見、いつも通り冷静なだけに見えるシュテルの通知。でも割とよく一緒にいるアクアはすぐに異常を感じたらしく、私を横目にみる。
「あのー…何かあったの?シュテルちゃん。」
「は?いえ別に?何も無いし何もなくなりましたが?」
「は、はい…」
やぶへびだと察したらしくそれきり黙りこむアクア。
速人さんも想定してくれていたのかどうかわからないけど、とりあえず射砲を抜けるのに2ヶ月はかからなかった。
…それでシュテルのほうは速人さんの一日独占権をパーにされたから仏頂面と相成った訳だけど。
無言で通知の紙を開くシュテル。そして、内容を確認すると、私達に見せた。
「雫、予選1組。アクア、予選6組ですね。」
「うわぁ!雫ちゃん所激戦区じゃん!」
「アインハルトとコロナの事なら初参加の子供なんだし、別に気にするほどでもないでしょ。」
何というか、知り合いの多い所だ。
「いやいや、そうじゃなくてっ!!」
一覧の一つを指差すアクア。
ジークリンデ=エレミア。
私の組のシードにその名があった。確か無敗のエリートとかどうとか。
「ああ、そう言えば。」
「そう言えばって!そんな認識なの!?」
「大会優勝が目的でもなければ全員用の対策を別々に組むわけでもないし。あたりそうな人が判明してからじゃないといちいちイメージ固めてられないって。」
それにしても、序盤で当たるな。
強くなるのに必要なもの…それを探したいから踏み込んでみたわけで。徐々に強くなってくれると良かったんだけど、RPGよろしく自分の都合のいい采配にはならないか。
「試合数経験したければ彼女も倒せば済む話です。」
目を閉じてそう言うシュテル。
私を見ながら言えないのは、おそらく彼女の計算上では、それが途方も無く絶望的な話だからだろう。
「私が心配なのは、世界最強片付けて後がつまらなくならないかって事。」
「うっわぁ…笑顔で…」
だからあえて、自信満々という体で言い切る。
確かに、私としても計算するなら勝率はほぼ無いと考えるし、これが実戦の相手なら出来るだけ正面から勝負する形は避けるべき相手だ。
あぁ…そういう意味では都合がいい。
戦って勝つ、大会でそれ以外の選択肢なんて無い。だからきっと、考え方も色々違ってくる。
「そっちはどうなの?」
「んー…運は良かった、かな。」
言いつつ笑みを見せるアクア。
名前を見たところでそこまで人を知ってるわけでもないし、私が戦う訳でもないんだから当日を楽しみにしておこう。
「ともあれまずは選考会です。特に雫、貴女は食らえば終わりと言って過言ではないので注意してください。」
「了解。」
シュテルの言葉に頷いて、私は手にした刀を見る。
所有者およびデバイスの登録名称が必要という事で、速人さんが使ってるデバイス、ナギハの影打ちにあたるデバイスとして、カゲハと名付けた。
我ながら安直だ。しかも影打ちって…ずいぶん失礼になったな。
とはいえ、これでいいとも思ってる。
お父様や速人さんには、遠く及ばない身である私が扱う、それも仮の刀なんだから。
「って通信?」
感傷に浸る間もなくカゲハに通信が入る。
映像通信…私は無言でそれを開く。
『雫さんっ!見ましたか!?組み合わせ!』
「ハイテンションね…シードだけ面白そうだったけど。」
『あ…』
私の言葉に過剰反応を示したヴィヴィオが向けた視線の先には、眉をひそめたアインハルト。コロナのほうは今更だと流す余裕があるみたいだ。
「冗談冗談。ちゃんと二人も確認してるよ。当たったらよろしく。」
『今度は負けませんから。』
『同じくですっ!』
通信越しに凄い温度差だ。
…と言うのは表面上だけ、私も負けるつもりはない。
『おう雫。二月前のままじゃ話にならないぜ?そっちはどうなんだ。』
「二月でそんなに変わる訳無いでしょ。シュテルに一泡吹かせるくらいは出来るけどね。」
『よく言うぜ…大分鍛えてんじゃねーか。』
自信満々と言った様子のノーヴェ。
向こうは相当鍛えたらしい、技量に伸び代があると身体能力よりはきっかけとかで身につきやすいから手ごわいだろうな。
「それじゃ、大会で!」
『うん!また!』
アクアとヴィヴィオがそれぞれ明るい挨拶で通信をしめる。
大会で…か。
どっちにしろまずは明日、初戦の相手が無名のダークホースって可能性もあるわけだし、油断はしないようにしないと。
Side~高町ヴィヴィオ
たっぷり休んで選考会当日。
どうせなら一緒にという事で、雫さん達と待ち合わせをしていた。
「お久しぶりです雫さん!」
「久しぶり。相変わらず元気と言うか楽しそうね。」
待ち合わせ場所に先についていた雫さんに挨拶して握手する。
「またそんなこと言っちゃってー、あたしたちより先についてたくせに。」
リオが笑いながらつっこみを入れる。
礼儀とか時間とかに厳しいからなのかなーとか、簡単に考えてたんだけど…
「そりゃ会場に来る人大会参加者なんだから、様子位見ておきたいしね。朝一で来て腕利きがいるか見てたのよ。アクアも第二会場で同じことやってるわ。」
「あいっかわらず油断できねーなお前ら…」
当たり前のように既に戦闘準備をしていたと告げる雫さんに、ノーヴェが引きつった笑みを見せる。
見ただけでわかるの?なんて野暮な事は言わない。
歩き方や鍛え方、雰囲気である程度までは察することが出来るんだ。アクアさんは小物まで思考の参考にするくらいだし、まめだなぁ二人共。
「これが護衛戦なら会場の下見とかも必要だし、何でも練習って奴。後でお父様に報告して調査に穴や見落としが無いかとかも採点してもらうことになってる。災害が起きても避難誘導できるくらいには調べたわ。」
「さすがですね…」
アインハルトさんが思わず声に出して感心する。
そっか…護衛となると、ただ戦えばいいって話にもならないんだ。
護れる強さにはきっと必要になる。こういう所は私も見習わないと。
「雫の自慢話はおいておいて行きましょう。」
「自慢って…何してたか話しただけなのに…」
「あはは…」
自慢話で片付けられた雫さんがシュテルさんを恨めしげな視線を送るのを最後に、私達は連れ立って会場に入った。
熱気で包まれた会場内、整列して前年度都市本戦8位入賞のエルス=タスミン選手の選手宣誓。トップファイターの一人の姿を前に、ますます熱が入る。
…よし、やるぞ!
Side~月村雫
待機しながらヴィヴィオ達の試合をのんびりと眺める。
鍛えてきた…ってだけあって、明らかに年上の相手を次々と片付けていく。
アインハルトは一撃勝利…か。さすがだな。
「ずいぶん落ち着いてるな。」
「入る前にも言ったけど場所を選べないのよ、護衛だったらね。」
声をかけてきたノーヴェに、簡潔に答えを返す。
一回しかない命がけの戦いで、場所も人数も空気も選べない。
パーティー会場で戦う必要だってあるだろうし、いちいちとまどってられない。
…ま、慣れてるって程人前でてる訳じゃないんだけどね。
「…もしかして心配してくれたの?」
「一応な。お前ロクに家族間から離れてねーんだろ?人酔いとかしてねーかと思ってよ。」
顔を逸らしながら答えるノーヴェ。一応敵同士なのに優しいもので。
「心配ないことは試合で証明する。安心していいよ。」
自分の番号が呼ばれたので、リングに足を向けて片手を挙げる。
リングには先にシュテルがついていた。
「気をつけて。」
「了解。」
笑顔だったり熱意だったりが飛び交う会場で、私もシュテルもおとなしめの子供だから審判の人が少し戸惑ってる。
対して相手は…近接オーソドックスの槍装備。
とはいえ、射砲が使えても不思議がないのはアクアで十分知っている。
「Bリング、スタンバイ・セット。」
審判の声と共に突きの構えを取る相手。
私はカゲハを両の腰に下げたままで無行の位。
何も知らない人から見れば、構えもせずに突っ立ってるだけで…
舐めてると思ったのか、相手が少し眉を吊り上げた。
「レディー・ゴー!」
「はああああぁぁぁっ!!」
開始の合図と共に、構えのまま突きを放ってくる。
鍛えている魔導師、確かに速く鋭いが…
突進の溜めで突きが来ると事前にわかれば、どうにでもなる。
すれ違うように相手の右足の後ろに右足で踏み込んで、顎に軽く掌打。
突きの勢いが凄いこともあって浮き上がった彼女を…
後頭部から落とした。
顔面を掴んでいた手を離して、審判を見る。
「ぁ…ビ、Bリング選考終了。」
終わったと明言されたところで、倒れた相手側に向かって一礼だけ済ませて、私はリングを降りた。
「…抜きませんでしたね?」
「必要なかったからね。」
牽制攻撃から入られたらこう上手くはいかなかっただろうけど、渾身の一撃で仕掛けてくれたからそのまま返すことが出来た。
「「「お疲れ様ー!!」」」
「お疲れ様です。」
後は様子見でも、と思った所でいつもの四人が駆け寄ってきた。
チームナカジマだったか、わかりやすい名前だ。
「凄かったです!ほとんど一撃で終わらせちゃうなんて。」
「アインハルトもそうでしょ。」
「刀も抜かなかったじゃん。」
ずいぶん騒ぐなぁ…
当たったら負けるのは選考会でも変わらないんだから、当たらずに片付けるのは必須事項なのに。
はしゃぎ気味の皆に詰め寄られてると、唐突に周囲が騒がしくなる。
「チャンピオン?どこどこ!?」
「チャンピオン!?」
聞き捨てならない言葉が入っていたらしく、大慌てで周囲を見回し始めるヴィヴィオ達。
私はそんなヴィヴィオ達より先に、騒がしくなっている客席の一角に視線を向ける。
ジークリンデ。
私の組に居た有名人がそこにいた。
…正直、らしいカリスマ性って言うか、そういうのがまったく、これでもかってほど感じられない。
あ、でもこっちに気付いてポーズとった。サービス精神はあるらしい。
「次元世界最強の10代女子…ね。」
「雫さん?」
つい漏らした私の声が冷めていた事に気付いたヴィヴィオが不思議そうに私を見る。
「…なんでもないわ。」
不穏な言葉は避けるべきだと思った私は、お茶を濁すことにした。
少なくともここで喋らせることじゃないと察してくれたのか、他の皆も何も聞かなかった。
こんな場所で言える訳が無い、『多分あの人そんなに強くない』なんて。
Side~高町ヴィヴィオ
ミウラさんに紹介しておこうと思って帰ろうとする雫さんを少しばかり引き止める。
大分勝ち上がらないと直接戦うことは無いけど、せっかくだし。
「あ、ヴィヴィオさん!…ってうわさっきの凄い人!?」
「月村雫さんです。せっかくなので友達も紹介しておこうと思いまして。」
「え、えとっ!ミウラ=リナルディですっ!よろしくお願いします!」
「よろ…しく?」
緊張気味のミウラさんと握手を交わす雫さん。
でも、なんだか戸惑った様子で…
「どうかしました?」
「いやあの…私友達でいいの?」
なにかと思えば、私を見ながらそんなことを聞いてくる雫さん。
と、そんな雫さんに割って入るように、アインハルトさんが問いかけを投げる。
「嫌なんですか?」
「や、そんなことはない。ただ、色々嫌われてそうだと…」
なんだか恐縮そうな雫さんに、ようやく察する。
色々厳しい話とか対応が多かったから、私達が嫌ってるものだと思ってたんだ。
なのはママとの一戦にしたってママのほうから挑発したって聞いてるし、雫さんがそこまで気にすること無いのに…
「なら友人ですね。」
「はい!」
「だね。」
「ですね。」
アクアさんからの誘導でアインハルトさんが流された状況。
同じ状況を作ったのだと察した私達は、流れに乗るように畳み掛ける。
「ったく…変なとこ真似するのね。」
「『足りないもの』を探すためにここにいるんでしょう?貴女も。なら悪くもないと思いますが。」
アインハルトさんと雫さんが無いらしい、強くなるのに必要なもの。
それを探すのに、籠もって修行してたところから出てきたって意味だと、二人とも似てるのかもしれない。
「そうね、改めてよろしく。」
「「「よろしくですっ!!」」」
軽く一礼する雫さんに私はリオ、コロナと揃って返事を返す。
「え、えーと?」
なんの事情も知らないミウラさんが私達を見回して困惑する。
説明もなしでグダグダになっちゃってたな。まぁ紹介も兼ねてるわけだし、そういう話は今から色々すればいいか。
SIDE OUT
通知の紙一枚に全参加者のリストが載ってるとすると、何気に魔法より凄い技術な気が(笑)