第二十二話・現の夢舞台で
Side~月村雫
アクアの派手な試合の後の第二試合という事もあって、一応同チームで登録されている私を遠巻きに見てくる人がたくさんいた。
ただ、私もクラウも人を歓迎するほど明るい空気はないので特に話しかけられたりはしないまま、試合になる。
そうして、試合前向かいあって…
「貴女…ヒーローの知り合い?」
挑発でも宣戦布告でもなく話しかけられた。
リボン=サンフィード…確か、アクアが以前速人さんを追いかけた過程で会ったらしい偽者がそんな名前だった気がする。
私の今の衣装は、お父様のボディーガード正装と同じ上下黒のスーツ。
速人さんも黒上下で統一してるし、アクアとも取調べか何かで会ってはいる筈だ。
同チームの黒服剣士を関係者と予測したのか。正解だけど。
「私が勝ったら紹介して貰えない?」
ただの興味本位…にしては、結構真面目に問いかけを投げかけてくる。
元々速人さんを語ってたし、アクアや私の戦闘を見ていれば気になるのもわかる。
けど、私は首を横に振った。
「っ…」
彼女は表情を歪める。そこで、審判が間にはいった。
世間話をする場所じゃないんだ、当然長々と話せるわけもない。
「レディ・セット…ファイト!」
合図と共に、背の剣を抜いたリボンは、初期位置のままで剣を振るう。
光の刃が剣から放たれて飛んで来た。…魔力刃か。
斜めの光る刃をハードルの要領で飛び越えると、丁度刃を返して踏み込んできたリボンが返した刃を横薙ぎに斬りかかって来る。
私はその斬撃ごと彼女を飛び越えた。彼女の首に鋼糸をかけながら。
着地と同時に背中合わせに彼女の首を絞めながら、背中に乗せるようにして軽く彼女の足を浮かせる。
最細の0番…と言うか、斬撃に使える細い鋼糸は規格外で通らなかった為、太めの鋼糸。
出血判定は当然つかないが、落とすには十分だ。
背負った彼女が足を振り上げる感覚。
それにあわせて私は屈んで肩膝をつき、首を絞めながら背負った彼女を私の前に後頭部から落とした。
首を絞めながら後頭部から落としたんだ、そうそう意識戻ることもないだろうけど…
「っ…ぐ…」
ワイヤーで首を絞めたままで頭から地面に落としたって言うのに、彼女は首を押さえながら立ち上がった。
さすがに魔導師を斬撃なしで倒すには、力が不足気味か。
…抜く…か?
カゲハに手をかける。
残りライフは3000と少し、斬れば簡単に減らしきれるだろうけど…
やめた。
「く…な、めるなぁっ!!!」
一度刀に手をかけ、それでも抜かなかった私を見て、激昂と共に剣を振るうリボン。
近づくことに危険を感じたのか、遠間から魔力刃を連続で飛ばしてくる。
私は飛んでくる刃をかわしながら近づく。
間合いにはいったとして、彼女の剣は決して遅くない。
私はスーツの上一枚を早脱ぎして、彼女の眼前に放り投げた。
バリアジャケットとはいえ、決して速くはない布の軌道。
視界をふさぐそれを切り払うリボン。それと同時に私は距離をつめる。
でも、それは予想内だったらしく、彼女は蹴りを繰り出してくる。
振り上げられた足を避けつつ足裏を押して姿勢を崩す。
力任せに振り上げた足を戻してどうにか着地した彼女。
その首に向かって、私は手を突き入れた。
よろめいた彼女の後頭部を掴んで、今度は額から地面に叩きつける。
同時に、リボンのセコンドからタオルが投げられた。
急所四連続だし、さすがに心配か。
「…悪いわね。あの人、忙しいくせに優しいからあまり頼りたくないの。」
聞こえているかは怪しかったけど、伝えることだけ言って、私は脱いだスーツを拾って羽織ってリングを降りた。
エリートクラス2回戦突破…か。
これで…噂の次元世界最強と戦う事になる。
「お疲れ様。」
「さっさと帰ろうか、アクア心配でしょ?」
二つ返事で頷くと思っていたクラウ。だけど、なぜか不思議そうな顔をした。
「…ヴィヴィオ達の試合は見ていかないの?」
これからヴィヴィオ達の試合となるわけだけど、どうせまだ上位の相手じゃない。
「心配しなくても、こんな所で躓いたりしないでしょ。身内の研究なんて必要ないしね。」
「そっか、ありがとう。」
アクアが心配なのは当たっていたらしく、納得する説明をすると礼を言われた。
私の方もさすがに準備があるし、ヴィヴィオ達には後から結果を聞くだけで十分だ。
Side~高町ヴィヴィオ
全員二回戦を突破してノーヴェと合流した所で、雫さんが帰った事を知る。
「そっか…雫さん帰っちゃったんだ…」
「アイツは次ジークリンデとだからな、さすがに準備とか色々あるんだろうさ。」
「いよいよかぁ…」
元々その順序なのは知ってはいたけど、改めてノーヴェが言葉にして実感がわいたのか、リオが目を輝かせる。
いよいよ。
リオの呟きには同感だった。
文句のつけようのないエリートファイターであるジークリンデさん。
スピードで近く、パワーは大差で低いのに、私やアインハルトさんを破った桁外れの技量の雫さん。
頂上決戦を目の前にした気分だ。
「それより次はお前らも大変だぞ。ヴィヴィオはミウラとだし、リオは次、必ずトップファイターのどちらかと当たる事になる。それに…」
言いつつ視線を移すノーヴェ。その先にはコロナとアインハルトさん。
「アインハルトとコロナ、次は同チーム対決になる。対決することになるから今回は練習も別々にやるぞ。」
少し重い空気。
一緒にやってきた仲間同士での戦いとなると、気が重いのも無理はない。
うーん…
「あ、ねぇノーヴェ!その前に雫さんとアクアさんに応援メッセージ送りたいんだけど!アクアさんもトップファイターとだし、雫さんにいたっては世界最強だし!」
「お!いいねそれ!あたしの方も自慢しちゃっとこう!」
別々になる前に、明るくやれる何かがやれたらいいなって考えて、思いついた。
リオも私の考えを察してくれたのか、煽って乗ってくれる。
「ったく…んじゃ少し広い場所移るか。」
「「「「はいっ!」」」」
話の種として使わせて貰ったものの、雫さんの応援をしたいのも本当だ。
アインハルトさんだって、雫さんへの雪辱戦と最強の称号、まとめて奪えるなら直接ジークリンデさんと当たる必要もないだろうし。
頑張って下さい、雫さん。
Side~月村雫
ジークリンデ=エレミア。
部屋に帰って、いくつか参考になりそうな映像資料を引っ張って見てみるが…
強い。
総合魔導戦技の名の通り、まるでリライヴさんの劣化版…いや、リライヴさんが魔力制限を受けてる今、出力は彼女よりかなり上。
『たった一人で管理局を敵に回して生活していた』あのリライヴさんの劣化版。
つまるところ、彼女も一対軍クラスって事になる。
他の出場選手は、得意分野で彼女と張り合えるのが強い方だ。それでいい勝負が出来ても、他の距離や状況で不利になるし、投げまで使えるって言うのは厄介だ。
ガードに使用している部位を掴んで投げたりすることも出来るし、拳の指より掌の方が当たって受けるダメージが少ない。つまり、掌底を攻めに使えばガードしても掴まれ、攻勢防御もさほど役に立たないと言う便利な使い方が出来る。
その上で、切り札となるイレイザーまで存在する。
アレを受けたら…私の防御だと、エミュレートどころの騒ぎじゃすまないな…
「ヤッホー…」
眠たそうに目を擦りながらも元気に片手をあげて入って来るアクアと、その付き添いのクラウ。
無理して元気なフリしないで寝てればいいのに。
「今日は早めに帰って休めば?」
「そう言ったけど、ジークさんの事で聞きたい事があるって。」
アクアは私を見て、無理して目を開く。
「雫ちゃんの見立てで、ジークさんはどんな感じ?」
タイムリーな話題だ。と言うか、相手が相手だし誰だって気になるか。
私は、さっきまでの考えを説明し、厄介な相手だと素直に告げる。
「それ…本心?」
眠そうだったはずのアクア。それでも、その問いは真剣なものだった。
なんとなく気付いてたのかもしれないな、出場選手たちの憧れである彼女を、自信以外の理由で馬鹿にするものじゃないと思って本音を抑えてた事に。
「弱点…文字通り弱い点がある。そこをつけば多分…そう苦労せずに勝てると思ってる。」
私は、自嘲気味に笑ってそう答えた。
「とにかく、今日はここまで。これ以上の話が聞きたかったらアクアが切り札の話してくれたらね。」
「えー?勝ち上がったら雫ちゃんと当たるかもしれないのにー…」
「その台詞覚えておくね。」
「うぅ…」
クラウに引きずられるように帰るアクア。
扉が閉まるまで手を振って…私は小さく息を吐く。
弱点を突く。
こと戦いにおいて、卑怯でもなんでもない常套手段。
だからこそ、首、頭を狙って問答無用で意識を断ち切って勝ち進む事を選んできた。
明るく楽しく、観客の心をひきつける派手な魔法や高等技術、それらとはまったく対照的な、人の希望を、意志を、命を断つ為の手段。
「何で大会に出てきた…か。」
ジークリンデが私に向けたらしい言葉。
余計なお世話なのは間違いないはずなのに、やけにその言葉が胸の中に残っていた。
私は一つの画像を開く。
『雫さんならいけます!頑張って!』
応援メッセージと共に送られてきた、ヴィヴィオ達の集合写真。
アインハルトまでポーズ取らされて、可愛くデコレーションされている。
「ホント、どうしようか…な。」
私は画像を前に目を閉じた。
Side~コロナ=ティミル
「は…はっ…」
オットーとノーヴェ師匠が指導についてくれる中、それが終わった後も隠れてある特訓をしていた。
アインハルトさんに勝つための秘策。
コーチしてくれてるノーヴェ師匠には怒られるかもしれないけれど、使っても大丈夫だって見せれば納得して貰えるかもしれない。
「なるほどね。」
「っ!?」
いきなりかけられた声にビクリとする。
まさか、これでも隠れて練習していたつもりなのに見つかるなんて思ってなかったから。
でも、相手が彼女なら納得も出来るかもしれない。
「雫…さん?」
複雑な心境だ。
アインハルトさんに見つかったなら論外だけど、もし超えられたならその次に戦うかもしれない相手なんだから。
「知ってか知らずか辿り着いてたのね。」
私に向かって放り投げるように紙束を渡す雫さん。
表紙には…聖王オリヴィエの絵。
「っ…」
「自分の身体も動かなかった、聖王様の身体操作術。当の王様の血筋じゃなく、その友達が修得してるっていうのも、なんだか面白い話だけど。」
渡された紙束には、雫さんが話した身体操作術の詳細が書いてあった。
ばれてるなら隠れてする意味もない…か。
「それだけ普通に使ったら、確実に負けるよ?」
「これは切り札です。アインハルトさん相手だと、ゴーレムを破壊されたり、まともに創成できずに畳み掛けられる可能性がありますから。」
敗北を宣告してくる雫さんに、あくまでも冷静を装って返す。
けれど…嫌な汗が流れた。
雫さんが、戦闘で私より浅い考えを軽はずみに喋ると思えなかったから。
「聖王オリヴィエに破れて護れなかった覇王クラウスの記憶に突き動かされている彼女に、その聖王の技…それも付け焼刃で勝てる訳がない。」
「っ!!」
胸が痛むくらい、その言葉は深く私を貫いた。
間が抜けているにも程がある。
アインハルトさんの戦う理由は知ってたはずだ、回顧録も見たし、そこから思いついたものでもある。
この技には、ある意味他の何より負けてはいけないはずなんだ。
あの日見た、なのはさんに向かっていった雫さんのように。
「納得がいかないなら、私が今破ってみせようか?」
「ぅ…」
確固たる自信。ううん、多分確信。
私用の対策なんて考えてないはずの雫さんですら、きっと破る算段がある。
「…試合開始も前からそんな泣きそうな顔しないの、競技選手でしょ?」
貴女が言うか!と、思ったけど、言うに言えない。
ある意味雫さんがくれたのはアドバイスであって、しかもアインハルトさんの味方のつもりなら、この話はアインハルトさんに伝えに行ったほうがいいんだから。
「直接通じない、弱点がある、そんなものどんな技術も基本的に当たり前。で、相手がそれをわかってる。なら…どうする?」
どんな技術も弱点は当たり前。例えば私の場合…
アインハルトさんは、ゴーレム生成にかかる時間を与えないために初手から一気につめてくると読んでいる。だから、それを『逆手にとって』開始直後逆に…あ。
「アクアを見習うことと、クラウを倒したのが『誰か』を忘れない事。それが出来れば、貴女は勝てるわ。アインハルトが私の予想を超えない限りはね。」
言うだけ言って帰ろうとする雫さん。
でも…
「待ってください!どうして…」
「味方をするのか、疑ってる?」
「信じてるんです!あの雫さんが、試合とはいえ戦いで、えこひいきとかそんなことしないって!なのに…」
これはおかしい。
どっちが勝っても倒すだけの筈の試合で、雫さんが片方に肩入れする理由なんてどこにもない。
「ちょっと…ね。嫌だったら忘れて。」
少し悲しそうな雫さんの声。
何があったのかはわからない。
けれどきっと…初めての邂逅でアインハルトさんにした奇襲の時のような、雫さんにとって必要な悪い事。それが関わってるんだと思う。
それがなんなのか、話して貰えない限りわからない。
でも、少なくとも、今日の話は私がアインハルトさんに勝ちたいなら、忘れる訳にも無視する訳にもいかないものだ。
アクアさんを見習え…か。
「…よしっ!」
頬を張って、気合を入れなおす。
雫さんの考えは、大会にも試合にも関係ない。今は勝つ事だけを考えるんだ。
SIDE OUT
キャラ増えてどうする!って声もありそうな気がしてますが、今のところやられてるだけの方にも名前ついてたりしたんで命名してみました。
…命名どころか覚えがある人がいるのやら(汗)