第二十三話・交錯する糸の中創手は踊る
Side~ノーヴェ=ナカジマ
つかつかと、乗り込む位の気分で歩く。
さすがに夜遅くは寝るか勉強に当てていると聞いているから夕食も終わった今の時間ならいる筈だ。
挨拶もそこそこにエメラルドスイーツ、その家側に入り、雫の元に。
聞かれたくない話なら防音が聞いているからと部屋に招かれ、ベッドに腰掛ける雫と向かい合う。
「通信もあるのに直接顔だすなんてね。」
「家とかだと誰聞いてるかわかったもんじゃねーからな。まさかお前の部屋が防音とは思わなかったけど。」
「…色々あるのよ。で?」
別に何があったわけでもないと言わんばかりの装いの雫。
まさかわからない訳もないだろうに…図太い奴。
「なんでコロナの助言に来た?」
「黙秘権を行使。」
濁すのも面倒だし夜で時間も無いという事もあって、スパッと聞いたらばっさり断られた。
こいつ…
沸いた怒りのまま怒鳴りつけてやろうか、あるいはもう関わるのはやめて帰ろうかと考え…
「とはいえ、黙ってるって事は貴女の言い分と行動を止めないって事でもある。」
けど、続けてそう言った雫が『微笑んで』いたのを見て、あたしはそのどちらも出来なくなった。
悲しかったり不安だったり、そう言うのを隠し潰して見せる笑み。
「怒りたかったら怒ってもいいし、実はアインハルトにも手を貸してるとか疑うなら確認にも行けばいい。コロナを止めるのは…あんまり気が進まない?」
「見透かしたような事ばっかべらべらと…ったく…」
怒るに怒れなかった。
コイツが何かするときに、何の覚悟もないまま動く訳がない。
それに…コロナやあたしがあのまま何も知らずに戦ったなら、あの切り札を切ってかつ決定的な形で破られて敗北する可能性だってあったんだ。
コロナが事前にあたしに明かしてくれたのは、作戦を具体化するのに時間がかかると踏んだから。
雫の話を聞かなけりゃ、切り札の事をあたしに黙ったまま本番で使ったりされた可能性すらあった。
事前に知れてチャンスが増えたのは間違いない。
「…でも、本当に怒っていい。きっと悪い事だから。」
「覚悟を決めたお前に何言っても仕方ねぇのはわかってるよ。きっとコロナもな。ただ…」
あたしは真っ直ぐに雫の目を見すえる。
「試合終わってまだ、何も話さず黙っとくつもりなら…何があっても許さねぇ、絶対にだ。」
間違いなく試合に…競い合いに首を突っ込んだんだ、自分の何かの為に。
その訳を何もかも叶った…終わった後ですら語れないとなれば、理由がなんであれ、許すわけには行かない。
…と、こっちは真剣だってのに、雫はなぜか口元を隠して笑う。
「なんだよ!」
「いや、ノーヴェって本当に、悪いの口調だけなんだなぁ…って。」
こ、んの…口の減らない奴!
言うだけは言ったし、これ以上振り回されるのもごめんだ。
あたしは踵を返して扉に手をかける。
「全部終わったら話す。聞きたかったら…私の試合前に来て。」
同時に、真剣な、それでも望んでた答えが返ってきた事に内心安堵しながら部屋を出て…
扉を閉めた所で違和感に気付く。
試合前って、確かあたし達の知り合いの中で、アイツの試合が…アイツと、ジークリンデの試合が最後だったはずだ。
人の心配してる場合じゃない、間違いなく。本当何考えたらそうなるんだよ、お前…
Side~コロナ=ティミル
ヴィヴィオとリオが見に行ったプライムマッチには、ついていけなかった。
リオは勝ったほうと当たる以上研究目的でもあるし、そうでなくてもプライムマッチとなれば普通に見に行きたい。
けれど私は、煮詰めるものが多くなったからそんな事をしてる暇はなかった。
ゴーレムマイスターとしての戦い、それで勝てるかって考えて、難しいって思ったから手に入れた切り札、身体操作。
それじゃ駄目だって示されて、『じゃあやめよう』ってなれば、勝つのが難しい状態に元通り。
ならどうするか?決まってる。
ヒントどころか雫さんはほとんど答えを置いていった。
その理由はわからないけど、それはこの試合が終わるまで考えないって決めた。
そして…試合当日。
具体的な手も考えた、準備も済んだ、覚悟もある。
私はきっと、アインハルトさんに勝てる。
「それでは選手の入場です!!」
さぁ行こう、私の全ては、皆と同じ場所に立てるんだって証明するために。
Side~高町ヴィヴィオ
コロナとアインハルトさんの試合。
なんだか少しノーヴェの様子が違った気がしてちょっと心配だったけど、コロナは大丈夫そうだった。
なんと言っても、開幕直後の強打。
ゴーレム生成を潰しにかかったアインハルトさんは、避ける事も出来ずに創成された岩の拳をまともに受け止める羽目になった。
あっさり止めて立ってるあたりはさすがだけど、開幕からリズムを崩されたアインハルトさんはゴーレム生成を止め損ねて、ダウン判定の一撃を受けた。
「へぇ、コロナも結構強いじゃない。」
「雫さん!」
モニターに映る試合を見ていると、傍から雫さんの声がした。
「…けど、普通に戦ったらここまでね。」
断言する雫さん。
私は否定の言葉を口にしたかったけど、雫さんを見る事しかできなかった。
勝負はわからないって口にするだけなら簡単だ。
でも、あのアインハルトさんの攻撃が、クラウさんが破壊できたゴーレムに通じないとは思えなかったから。
クラウさんも弱いわけじゃないけど、古流ハードヒッターのアインハルトさんより強いかと言われると…
当然のように、ゴーレムをたったの一撃で粉砕して着地するアインハルトさんの姿が、その答えを物語っていた。
「コロナ…」
「まだ終わってないよ。」
複雑な気分でコロナの名前を漏らすリオ。
私も念押しこそしてみるものの、ゴーレムを破壊されてライフも後一撃分じゃ、コロナにあのアインハルトさんの拳をしのぎきる事は出来そうに無…
「そう、まだ何も…」
「え?」
小さく呟きが聞こえた気がした次の瞬間、試合再開と共にアインハルトさんが棒立ちのコロナめがけてとどめに向かって…
アクセルスマッシュからリボルバースパイクのコンボを返されたアインハルトさんが地面を転がった。
Side~コロナ=ティミル
どうにかラウンドを繋いだ私は、ノーヴェ師匠とオットーの元に戻る事ができた。
「アインハルトさんは?」
「わりぃ、ただでさえ表情に出にくいアイツの様子を気付かれないように伺うってのは…」
すまなそうなノーヴェ師匠。
でも、無理もない事だから私は首を横に振った。
大丈夫…元から、痛くても使うつもりでいた切り札なんだ。
「二人とも何を」
「いいから表情や視線に出すな、気付かれる。」
伝え損ねたと言うか、言いづらかったと言うか。ちょっと無茶だったから親身になってくれたオットーには、全部は明かせてない。
それに…多分今オットーが全部聞いたら色々ばれちゃうし。
「このまま行きます。」
ネフィリムフィスト、身体自動操作、私の切り札。
ゴーレムを操るように、自分の身体で格闘戦を行う事ができる上、事前の設定でカウンターが一瞬で打てる。
コレをとことん使い切る!
Side~高町ヴィヴィオ
ゴーレム操作の要領で自分の身体を動かすコロナ。
だけど、次第にアインハルトさんの反応が早くなっていく、『異常に』。
理由も察しがついていた。
登録してる技…それらを撃つために鍛えたりしてきたわけじゃないコロナの身体を使っての技だと言うことと、ラッシュの流れや組み合わせなんかも設定で使っているだけだから、大体決まった動きをする事。
つまり、見易くて読み易い。
次第に連携も断ち切られ、オートカウンターの間合いを見切られ逆に倒されるコロナ。
私でも見えるんだ、アインハルトさんに見抜かれないわけが無い。
だけど…一つ気がかりがあった。
黙ってモニターを見つめる雫さん。
そのさっきの呟きは、この身体自動操作を含めて何かを知っているようで…
倒れているコロナが起き上がる。完全に外から魔力で身体を動かしてる。
でも駄目だ、私はともかく、アインハルトさんはそれで何をしてくるかまで多分わかっ…
分かってる。私でも読めるのなら、もしかしてコロナも…
直後、高速で動いたコロナが、アインハルトさんの目の前で停止した。
丁度勢いを支えて貰うように、ガードするつもりでいたアインハルトさんの腕に掌を添えて止まるコロナ。
一瞬、アインハルトさんは動かなかった。
多分防御するつもりでいて、まさか目の前で止まられると思っていなかったのだろう。
両腕を交差させて、衝撃に耐えるつもりの前傾姿勢のアインハルトさん。
蹴りも拳も放てないまま、アインハルトさんは足を岩に、腕をリングバインドに拘束された。
Side~コロナ=ティミル
手札で足りず、切り札を手に入れた。切り札が通じない理由を諭された。
だったらどうするか、その答えがこれ。
見抜かれてる事を逆手にとって、切り札を使い倒して、最後の最後で別の手を切る。
ノーヴェ師匠にはアインハルトさんがネフィリムフィストを見切ったのかまだなのか、様子を見てもらってたけど、殆ど表情に出さないから分からなかったらしい。
本当はオートカウンターの発動を止めて反撃するつもりだったんだけど、つい頼ってしまって、倒されたからちょっとだけ焦った。
でも、すっごく痛かったけどライフが残ってくれて…最後のチャンスは逃がさなくて良かった。
交差させた腕、踏み込みに使う足、その両方を封じた以上『繋がれぬ拳』も何も出来る筈もない。
「スパイラル…フィンガー!!」
零距離でのスパイラルフィンガー。
多分最初で最後の好機。でも、まだこの一撃だけじゃ倒しきれる訳もない。
だから…狙いはボディに絞る。
意識は奪えないけど、足を弱らせ一番回復し辛い箇所にダメージを与えられるから。
リングを削りながら吹き飛んでいったアインハルトさんは、止まった所で腕のバインドを引きちぎる。
「ケイジング・スピアーズ!!」
「っ!」
岩の槍を発生させアインハルトさんを囲う。
その槍を破壊する隙に、ゴライアスの再生成を進める。
「創主コロナと魔導器ブランゼルの名の元に…蘇れ巨神…」
復活させたゴライアス。その腕を振り上げたところで…
ゴライアスの操作から、ネフィリムフィストに操作を移す。
「ガイストダイブ!」
「な…」
腕を振り上げたゴライアスに向かい合うアインハルトさん。その腹部に向かって、今度は高速突撃で打撃を放り込む。
止まった所でもう一度ゴライアスの制御に。既に腕は振り上げてある、その一撃を振り下ろすだけ!
「ギガントナックル!!!」
振り下ろされたゴライアスの拳が、アインハルトさんの姿を捕らえた。
手を見せ隠しして相手を手玉に取るアクアさんの流れの組み方。
クラウさんを倒した、ゴライアスですらない『私』自身。
そして、ノーヴェ師匠が私に認めてくれた、知略と戦術を組み立てる力。
その全てで組み上げた、私の『全て』をぶつける戦い方。
「っ!!」
ネフィリムフィストを見せてる時間が長すぎてぼろぼろになってしまった身体で、私は拳を握り締めた。
Side~月村雫
ライフ530とぎりぎりの状態から、アインハルトのライフを残り120まで減らしてみせたコロナは、立てた策が通じたからか俯いて小さく握り拳を作っていた。
概ね私の想像通りに動いたコロナ。
しかも、アスティオンが回復補助能力を持つ事を想定してか、回復し辛いボディへ二発。
その上でのゴーレムの拳。
元々の手札と切り札を組み込んだ連撃。
たいていの相手なら上手く踊らされるだろう。まして…アインハルト相手なら尚更。
ネフィリムフィスト、身体自動操作…元聖王の術を破って、読みきったと思ったからこそバインドからの連撃に何一つまともな対処が間に合わなかったのだから。
アインハルトが起きたところで、既にボディへの強打二発。
近接対近接ならいざしらず、距離をつめるまでにゴーレムを破って魔法を潜り抜けてと言う作業を、自由の利かない足でこなすにはあまりにも厳しい。
ゴーレムの腕が上がると、ほとんど意識が飛んだアインハルトの姿が現れた。
倒れたままだけど、目が瞬いている所を見ると、まだ意識がある。
審判が駆け寄る、カウントが進む。
これで…終わる気か?
そう思った直後、カウント8と同時に拳を叩きつけるようにしてアインハルトが跳ね起きた。
Side~アインハルト=ストラトス
馬鹿か…私は!
オリヴィエの技を使い、その先へと辿り付いた姿を見て、それが切り札と勝手に決めていた。その虚を突かれ、リズムががたがたになった所を狙って連撃を次から次へと叩き込まれた。
彼女はコロナ=ティミル、彼女だけの創成戦技の使い手。
『にゃ…』
『ティオ…すみません…回復はいいです、後でもう一度だけ力を。』
相当無理を押して致命打をこらえてくれたティオに謝罪をして、コロナさんを真っ直ぐに見る。
コロナさんの魔法は特殊なものではあるけれど、ゴーレムも射撃もネフィリムフィストによる攻撃も、空間攻撃の類ではない。
だったら…!
私は、重い足を引きずるように駆けた。
真正面からゴライアスとその肩に乗るコロナさんに向かって。
「っ!ゴライアス!」
当然そんな足取りで間に合うわけもなく、ゴライアスの腕と、コロナさんの展開した魔法が私に全て照準を定める。
私はそこで、足を止めた。
「アインハルトの覇王流って、晶さんの技に似てるんだよね。」
温泉で、模擬戦の合間の休憩時間に聞いた、アクアさんの何気ない話に出てきた覇王流に似た技の話。
少し気になるとはいえ、地球の…魔法無き管理外世界の一人の人類の話。
何気ない一コマとしてその話を聞き流そうとして…
「私、魔力使って普通に負けちゃったんだよね。」
とても聞き流せたものでない話が飛び出した。
あまりの話によくよく聞いてみれば、雫さんですら受け止めなかった魔導師の攻撃を、ヴィヴィオさんより出力では高いアクアさんの槍を、本当にただの生身のままで受け流したと言う。
その気になれば、それこそあらゆる攻撃を断つ事ができるらしい。
意識を切らすな、力を抜け。
彼女の其れが積み重ねただけのモノなら、今までの時を覇王流を積み重ねる事にかけてきた私に…出来ない筈がない。
「ふっ…!」
投げ返さないまま…止める事のないまま、魔力にすら頼らずただ『受け流す』。
弾幕と、ゴーレムの腕。一つでも受け損ねたら終わりだったそれらは、私からそれて周囲の床に着弾する。
総攻撃全てを放ってコロナさんが硬直したその瞬間…
「破城槌っ!!!」
『にゃあぁっ!!!』
フルパワーの破城槌を、『リング』に叩き込んだ。
荒めだが、ひび割れた地面はゴライアスの巨体にとって砂利のように変わり…
パージブラストを放った衝撃を受け止めて立っていたゴライアスは、すべるように転倒した。
肩に乗っていたコロナさんは、巻き込まれないために跳躍する。
「空破断!」
「っ!」
着地前のコロナさんめがけて右で空破断を放つ。
飛び道具と言える技が少ない私の追撃はさすがに予測済みだったのか、岩を纏った腕で空破断を受け止めるコロナさん。
しかも、ボディダメージの影響か威力が足りず、ノーダメージで済んでしまう。
空破断を受け止めた腕を振りかぶるコロナさん。今攻撃されれば避けるも受けるもままならない。だから、ここで倒す必要がある。
「おおおぉぉぉぉっ!!!」
「えっ!?」
砕けたリング、その破片。拳より一回り大きい程度の岩。
私はそれを、隠していた左手で投げ放った。
元々格闘系ですらないコロナさんが、空中で何度も体勢を変えるような真似が出来るわけもなく、岩塊を直撃したコロナさんは、構えいていた攻撃態勢のまま私の前に墜落した。
ライフが0になったのか、試合終了の知らせが響く。
最初、投げ返す事すらままならず全てを弾く事になったのは、留めておいて投げ返すだけの魔力すらもうろくになかったから。破城槌を撃ったらそれで空、こんななりふりかまわない投擲しかできる事がなかった。
泥仕合のような荒業になってしまったけれど、それもコロナさんが強かったからだ。
「…ありがとうございました。」
「っ!」
力尽きたのか、倒れたままの姿勢で首だけ動かして私を見るコロナさん。
私はその姿に突き動かされるようにコロナさんを抱き起こした。
「…こちらこそ、ありがとうございました。」
拍手の音が何故か雨音のように聞こえる中で、私は担架が来るまでの間、ただ静かにコロナさんを抱えていた。
SIDE OUT
ヴィヴィオの打撃で雫は腕折れてるのに…振り返ってみると何気に晶とんでもない事してたんですね(汗)さすが速人の師匠(笑)