第二十四話・情報使いの最終兵器
Side~アクア=トーティア
あーもー…向こうどうなっただろう。
結局せがんで全部話して貰ったのはいいけど、雫ちゃんが心配でしょうがなかった。
アインハルトちゃんが負けててくれれば…いやいや、そういう望み方はよくない。
って、こんな悶々とした気持ちを繰り返しっぱなしだ。
「姉さん。」
「OKOK、分かってる。こっちはこっちでとりあえず目標地点が見えた訳だしね。」
クラウに釘を刺すように呼ばれて笑顔で頷き返す。
天性の魔力値におぼれて…ってまぁそれなりには練習もしてたけど、それでも今みたいな修行と呼べるだけのものはロクにしてなかったお子様時代。
初戦であっさり私を敗北に追いやった、ヴィクトーリア=ダールグリュン。
まっさかジークさんと超仲のいい友人で、おまけにそのジークさんと知り合うなんて展開想像もしてなかったから、初めて鉢合わせになった時はちょっと驚いたっけ。
当時負けて、一年前の私の修行前はきっと天地の差。
向こうからしてみれば記憶にも残らない相手な訳だし。
だからこそ…もし一年で追いつけたのなら。
私が尊敬してやまない人達が辿っている道が、いかに凄いか分かりやすい証明になるはずだ。
それは、憧れで白い堕天使やヒーローを追った私としては、願ってやまない第一目標。
ま、まぁ所詮一年目のペーパーって言う見方も出来なくもないんだけど…
「ええい!ここまで来て考えてられるか!!!」
気持ちを切り替えるために両頬を軽く叩く。
やる事はやった、この間の試合でちょっとだけ使っちゃった切り札も機能した。
後は全部ぶつけるだけだ!
「とっとと片付けて雫ちゃんの試合観戦行こう!」
「…気を逸らすか不安になるかしかないの?」
「分かってるなら言うなぁっ!」
情けない話で、このごに及んでまだこんな調子だった。
あーもー…頑張れ私!
雲を掴むような探し物に振り回されてる雫ちゃんに比べたら、はっきり目標が目の前にいる私は幸運なんだから!!!
「さぁ此方三回戦!前回のシャンテ選手との一戦で幻惑演舞を魅せてくれたアクア=トーティア選手!『雷帝』ヴィクトーリア=ダールグリュン選手にどう戦うか!」
さすがのカリスマヴィクターさん。沸き立つ会場に勝負と言うよりは挑戦者的な実況を耳にしながら入場して、ヴィクターさんと向かい合う。
「まさかあそこまで三味線弾いてたとは思わなかったわ。」
一応知り合いではあったけど、私から話しかけるとインタビューの時とか大変そうかなーと思って黙ってるつもりだった。
だけど、なんかヴィクターさんの方が話しかけてくれた。
「あっはっは。褒めてくれるならあだ名をパパラッチから水の妖精にしてくれると嬉しいなぁ。」
「破廉恥詐欺師ね。」
「より酷い!?」
嬉しくなって調子に乗ってみたらすっごい酷い返しをされた。
うー…確かにドレス透明だとある意味全身タイツに靴と手袋にサークレットだから、コマンダーとかスパイ映画の人でもない限り変態さんっぽいけど、それにしたってちゃんと効果はあるんだから。
「予選6組三回戦、レディ・セット…」
定位置に付き、私はいきなりジャケットを透過する。
元々防御が高い設定じゃない、もう隠してるわけでもないし…
「ファイト!」
ウェイブステップ・ミラージュ。いきなり使…
斧が私の体を薙いだ。
どうにか回避したけど、本当ぎりぎりで少し焦った。
「あ、あっぶなぁ…」
「休ませる気はありませんわ!」
戦斧を振りぬいたくせに慣性を無視してるかのごとく打ち下ろしの体勢に入っているヴィクターさん。
だあぁ!でたらめな!
重さをまったく感じさせない的確かつ当たったら終わりな連撃。
何度もかわすのはいいけど…シャンテちゃんの剣より長いせいか、大雑把に狙われると視覚がぶれる程度じゃ武器の間合いを外しきれない。
とうとう捕らえられた私は、デバイスで受けたものの斧の重さを受け止めきれず吹っ飛ばされて地面を転がった。
Side~ヴィクトーリア=ダールグリュン
アクアを紙切れのように吹き飛ばした斧、その『柄』からの感触に内心でいらつく。
分かっていたことだけど…やり辛い。
斧の先端部を当てられるようにいつも通りに狙っていては、あっさりと間合いを外される。
あのウェイブステップとかいう代物だけでそれが出来てしまうほど厄介な上に、破廉恥な透明のドレスのおかげで、体の輪郭を捉える事すらままならない。
だからといって、まさか長柄に大体全身像を捕らえる練習をする羽目になるとは…
まるで『下手になれ』と言われるようなその対策内容には、対策段階からいらつかされた。
けれど、まるで対策なしに当たるには、あの技も服も脅威が過ぎた。
目の疲れは、距離感どころか、視認したものに対する反応速度にも影響してくる上、まさか目を閉じて戦う訳にも行かない。
その上、あのステップは捕まえるには骨が折れる。
治癒や防御でどうにかならない、実際の体の…目の消耗。
結果、それを避けるには消耗が積み重なる前に倒すべきと判断した。
おかげで、当たるまで大雑把に狙いをつけて連続で攻撃を仕掛ける。と言う、屈辱的な作戦を取らざるをえなかった。
しかも、それで攻撃を当てられても先端部…斧の刃を当てられてはいないからダメージはどうしても低くなる。…厄介な相手ね。
「よっ…と!」
アクアが立ち上がったタイミングを狙って再び一閃。
けれど、即座にまたあの妙な移動で回避する。
水の妖精…上手い事言うわねまったく!
けれど…
「待ちの一手の相手に引き下がるほど、雷帝の力は甘くありませんわ!」
九十一式『破軍斬滅』。
周囲の敵を根こそぎなぎ払うための技。
どこが、とか何が、は気にしない。とにかく当たればそれでいい。
そして、想定通り手ごたえが返って来る。
「っ…」
デバイスで防いでこらえているアクア。
でも、その姿勢が…ステップが止まる瞬間が欲しかっただけ!
「砕っ!」
頭から叩き切るつもりで振り下ろす。
が…それでも甘かったらしく、彼女は距離ととるどころかつめて私の一撃を回避した。
すれ違うように回避しながら、私の身体を槍で…
撫でた。
「あらっ?」
「軽い。」
本人は攻撃したつもりだったのだろうけれど、一撃の重さが足りない。
きちんと踏み込んで放った突き等ならいざしらず、通り過ぎざまにはたくように攻撃していったところで、大したダメージにはならない。
「外式『天瞳・水月』!」
分解した石突部分を利用した居合い術。
通り過ぎて背後を取ったと思っているアクアに向かって、反転の遠心力を利用して斧を置き去りに一閃。
けたたましい衝撃音と共に、再びアクアが吹き飛んだ。
またガードしてましたわね…ずいぶん反応のいい。余程油断したら墜ちるような修行繰り返してきたんでしょうね。
「半端な抜刀なんて食らっちゃ…雫ちゃんに怒られるからねっ…」
場外まで吹き飛んでる身でよく言う。
けれど…早いうちに狙い通りにいきましたわね。
軽い痙攣を起こしているアクアの身体を確認して、私は作戦が上手く成った事を悟った。
Side~シャンテ=アピニオン
セインに引っ張られるようにして顔を出した、アクアの三回戦。
120程度のダメージ一撃当てただけのアクアは、全撃防いではいるものの、そのライフを半分近く削られて8000にまでおちていた。
オマケに…
「軽度感電…アクアには最悪だね。」
武器の直撃は防いでいても、帯電する魔力の余波を受けてたらさすがに痺れが回る。
普通なら大した事ない程度の軽度感電症状。
だけど、あのアクアのステップは高度な脱力が必要。痺れのある身体じゃ、ちゃんと力を入れて動く事は出来ても脱力は…
「こんなあっさり終わるなよ…」
アタシを倒しておいて。そう言いかけて口ごもる。
負けなきゃよかっただけの話、人に何か言うのは間違ってる。
「なんだ、やっぱり応援してるんじゃんか。」
「っ!?別にそんなんじゃねーっ!」
セインに聞こえたかと思って焦る。でも、当のセインはこっちを気にせず楽しそうにアクアを指差した。
「まだやりそうだよ、あの曲者妖精。」
あんまり確信めいた様子で言うからよく見てみると、焦るでも慌てるでも落ち込むでもなく笑っているアクアの姿があった。
アイツはそのままデバイスを突きつけて…
「後一分で、この試合を終わらせる!!」
まるで予言みたいに、会場に響くような声でそう言い切った。
KO予告…嘘ぉ?
Side~アクア=トーティア
私の宣言に、ヴィクターさんは眉を潜める。
そりゃそうだ。圧倒的不利な殆ど新参者の私にKO予告されたんだから。
身体の痺れは軽度、ウェイブステップが使えなくなっただけで、普通に動くに大した問題はない。
「舐めた真似を…」
呟き…って言うにはものすっごいドスのきいた声が聞こえた気がして軽く頬が引きつる。
あー、意外と怒りっぽい?いや、意外でもないかも…
ま、いいや。全力で来てくれた方がこっちもやりやすいし。
「行くよ、アクアリウム。」
『了解。』
試合再開の合図と共に…
「『インフィニティーアナライザー、起動!!』」
最終兵器を起動させ、私は全力で駆け出した。
「今更付け焼刃の槍術で!」
ウェイブステップすら捉えられるくらいの相手、私の槍で真正面から通じる訳がない。
…普通なら。
「はい残念!」
「な…」
打ち下ろしをぎりぎりのタイミングで回転しながらかわし、遠心力を伴った一撃を放り込む。
さすがにこれだけだと柄を利用して防がれる。
そのまま斧を振り上げて私の槍ごと跳ね除けようとしたので、今度は小回り気味に逆回転。
振り上げでがら空きになった胴体向かって思いっきり突きを放った。
「く…っ!」
ダメージより、こうも近接戦で私に上手くやられる事そのものに戸惑っている。
無理もない。何しろ、『事前に分かってないと』無理なタイミングで回避と攻撃を繰り出してるんだから。
これが、インターミドル…強敵との一対一正面衝突用に作り上げた『誰にでも勝てる秘密兵器』インフィニティーアナライザー。
効果は…莫大な演算と分析を利用した『限定的未来予知』。
相手の思考とか性格なんかも把握しておかないといけないし、誰にでも確実に機能するかまでは試してないけど、リライヴさん相手に調整に付き合ってもらって機能して、この間シャンテちゃん相手にもちゃんと本体相手にあっさり反応できたのもコレのおかげ。
正常に機能してるなら、いくらヴィクターさんでもリライヴさんより上な訳がない!
「ハズレ!」
「っ!?」
珍しく後退しようとしたヴィクターさんの足元に向かって槍の柄を置いておき、足を引っ掛ける。
転ばされて転がったヴィクターさんに向かって即座に跳躍回転。
「風車!」
「小賢しい!!」
こっちは空中から回転して打ち下ろしの一撃を放っているのに、あっさり防がれ跳ね飛ばされる。
転がった直後だったのに、力持ちだなぁ。
「読むなら、読んでも防げない攻撃をするまでよ!!」
言いつつ大技に入ろうとするヴィクターさん。
ここで、私は最後の札を切る。
「ディザスターフリーズ!!!」
「っ!?」
空中で既に狙いをつけながらの三連砲撃。
まさかここで砲撃がくるなんてまるで分からなかっただろうヴィクターさんは大技の溜めの姿勢のまま氷結砲撃を三連続で直撃して動けなくなる。
分からなくて当たり前だ、何しろ…
「貴女最大出力まで!?」
射砲、ウェイブステップ、高出力攻撃。この全てを封じてやってた序盤。
その内、改良したウェイブステップと新しいインフィニティーアナライザーはシャンテちゃんのときに明かしている。
誰もが手こずって全てを開封したように思える豪華で珍しいほうを先に使い、ここまで砲撃と出力を封じてきたんだ。
まさかヴィクターさんに通じる砲撃が使えるなんて誰も予想してないだろう。
「4割程度でした!!」
「こ、この詐欺師っ!!!!」
さすがにヴィクターさんより低いけど、想定の倍以上の出力の攻撃を前に動けない状態ではさすがに焦るらしい。
トドメの一撃は決まってる。
デバイスの先端のみに集中させた魔力、形成される氷の刃。
「乾坤一擲…アブソリュートランサー!!!」
砲撃魔法と共に放たれる全てを貫く槍は、氷に包まれたヴィクターさんに突き刺さり、その身体を場外まで吹き飛ばした。
Side~ヴィクトーリア=ダールグリュン
砲撃の氷すら意外と強固で破りきれなかった私は、彼女の突きを前にただ防御に集中するほかなかった。しかも動けないためただ魔力を鎧に集中するだけ。
予想より二回り以上高い魔力値で、しかも槍の先端部のみに異常に集中された魔力は、全てを貫くと言って過言ではない威力を有していた。何しろ、実際に鎧が貫かれている。
しかも…
「な、なんとここへ来て魔力値まで隠していたアクア選手!ヴィクトーリア選手を場外へ!!しかも、その身体が場外に凍り付いて縫いとめられています!!」
ここまで予想していたのか分からないが、私は場外の壁ごと氷に包まれていた。
カウント内にコレを割らないとリングに戻る事すらままならない。意識はあるとはいえ、3桁まで減らされたライフとエミュレートを抱えた身体で。
「っ…の!」
残る力全てを使いきる気で氷を破砕。どうにかリングに戻る。
試合再開の合図を聞いて、冷え切って動きづらい身体で斧を構え…
アクアが唐突に前のめりに倒れた。
同時に、セコンドの弟からタオルが投げ込まれる。
誰もが呆気に取られていた。
当たり前だ。私はここ1分、致命打どころか一撃すらまともに加えられて…
1分?
「えー…アクア選手のセコンドからの情報によると、先のヴィクトーリア選手の攻撃を読む為に使用した、インフィニティーアナライザーに必要な莫大な情報処理の負荷の結果、強制的に睡眠状態におちてしまったとの事です!」
あまりに不信な終わり方の為、実況から情報が明かされる。
Ko予告、なんてものではなかった。
初めからここで勝負をつけなければ終わりだと分かっていたのだ。
よくもまぁ緊張感もなく笑って大見得きったわね…こんな危険で際どい状況で。
まったく…恐ろしい妖精だったわ。
SIDE OUT
いきなり飛んでしまってますが、順序的にこの流れになりました。