なのは+『未完の護り手』   作:黒影翼

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第一話・酷な護り手

 

 

 

第一話・酷な護り手

 

 

 

Side~高町ヴィヴィオ

 

 

格闘戦技、ストライクアーツの師匠のノーヴェから紹介された、アインハルトさん。

スパーリングという事で進められたんだけど…とっても強くて、楽しくなって。

 

 

 

「趣味と遊びの範囲内でしたら十分すぎるほどに。」

 

 

 

そんなタイミングで、こんな事を言われてスパーを中断された。

ショックも一瞬、それでも食い下がろうとして…

 

 

 

「そこまで言うなら私が教えてあげようか?趣味と遊びの範疇外。」

 

 

 

唐突に開かれた扉。

そこから現れた女の子が、笑顔でそう言った。

 

「何だお前?借り切ってる場所にずかずかと。」

「それは悪いわね。私はそこの覇王様に用があるだけだから、問題があるなら場所は変えるわ。」

 

紫色の長い髪を後ろで束ねた女の子は、ノーヴェに睨まれながらちっとも悪そうじゃない様子でそう言う。

覇王って…最近の連続襲撃事件の…

 

「貴女は一体…」

「私に勝てたら教えてあげるわ。ご先祖様が強かったなら余裕でしょ?」

「っ…分かりました。」

 

私からは背中しか見えないから、アインハルトさんの表情は見えない。でも、ご先祖様といわれた瞬間に何か力が入ったような気がした。

きっとそれが、ノーヴェがアインハルトさんを私に引き合わせた理由なんだとは思うけど…

 

 

何か…嫌な予感がした。

 

 

 

Side~アインハルト=ストラトス

 

 

 

私は急な乱入者と戦うと決め、ノーヴェさんの指示の元距離をとって構える。

 

ルールは魔法なしの格闘のみで4分間。

 

 

けれど…嫌な予感がした。

 

 

『趣味と遊びの範疇外』を教えるといった彼女は、何の気負いもなく立っているだけなのにどこから攻めても危険な気がする。

 

 

「それじゃ、合図お願い。」

 

 

彼女はノーヴェさんに向かってそれだけ言って…

 

 

 

 

 

直後、私の足に何かが絡みついた。

 

「っ!」

 

正体は鋼線。先端のみに重さを持たせ、自在操作を可能とした金属糸。

咄嗟に私は迎撃の体勢をとる。たとえ片足がとられたところで…

 

「遅い。」

「え?」

 

視界がふさがった。

 

何が起きたのか分からなかった。ただ片足を浮かされていた私はそのまま…

 

 

 

 

頭から勢いよく落とされた。

 

 

 

Side~高町ヴィヴィオ

 

 

 

合図を薦めたその瞬間、よく分からない糸を使った奇襲によって、アインハルトさんは顔面を捕まれたまま床に向かって頭を下ろされて、受身もままならない形で後頭部から叩きつけられた。

 

「てめぇ!!」

「ちょ、ノーヴェそれは…」

「うるせぇ!今のが試合な訳あるかっ!ぶっ飛ばして連衡してやる!」

 

武装形態をとったノーヴェが、びっくりするほどの剣幕で怒っている。

でも、正直私も同じ気持ちだった。

 

あんな卑怯な真似…

 

 

「今のが試合なら私の負け。項目的には反則負けによる退場って所かしら。」

 

 

ところが、紫色の髪の女の子は、自分の負けだと何のためらいもなく言い切った。

潔い…というか、あんな真似をする人の台詞ではないとその意外さに荒れていたノーヴェも動きを止める。

 

 

 

「でも…私が卑怯だからって理由で、その状態で誰かを守る事が出来る?」

「っ!!」

 

 

 

ビクリと、意識が混濁しているだろう筈のアインハルトさんが大きく体を震わせた。

 

「無理ね、貴女は何も守れない。趣味と遊び…と、競技かしらね。貴女が軽く見積もったヴィヴィオと、その点で貴女は何も変わらない。」

 

ズキリと胸が痛む。

なのはママをいつか守れるように。私の中にある想いも、まとめて否定されて…

 

 

 

 

幽鬼のように、ゆらりとした挙動でアインハルトさんが立ち上がった。

 

 

 

 

「お、おい!」

 

何かを否定するように展開される武装形態。

さっきまでと違って私の大人モードと同じように成人の姿をとったアインハルトさんは…

 

私じゃまともに対応も出来ないだろう速度で踏み込んだ。

 

 

 

「覇王…断空拳っ!!!」

 

 

 

瞳を閉じて、語りかける様相で棒立ちで居た、紫色の髪の女の子に一直線に向かっていった拳。

女の子からは魔力が感じられない。直撃すれば死―

 

 

 

 

瞬間、パンッ!と軽い音が響いた。

 

 

 

 

「嘘…」

 

私が見たのは、アインハルトさんの右拳をかわして、懐で左拳をアインハルトさんの頬に当てている女の子の姿。

全く振り切っていない拳、けれど、先に頭を揺らされていたからか、アインハルトさんはそのまま糸が切れたようにへたり込んでしまった。

 

 

今度は、何一つ文句のない…むしろ、アインハルトさんの方が不意打ち気味だったにも関わらず拳での対応。

 

まともに…戦えたんだ。

 

彼女は本当に…『戦いと試合の違い』を見せるためだけに、あんなわざとらしい反則をしたんだ…

 

「傷負う気は無かったんだけどね、さすが魔導師って事にしておこうか。」

 

女の子の言葉によくみてみれば、拳圧なのか拳が掠めたのか、彼女の左腕から血が痛々しいくらいに流れ出ていた。

けれど、顔をしかめる事すらなく、へたり込んだアインハルトさんを見下ろす女の子。

 

 

「守る強さ…趣味でも遊びでもない力って、こういうものよ。実戦ごっこをしていた貴女には、荷が重いわ。」

「ぅ…ぁ…」

 

アインハルトさんは、女の子を見ながら立ち上がろうとしたけど、出来なかった。

否定したくても、もう体がまともに動かないんだろう。

 

そんなアインハルトさんの様子を見届けた女の子は、今度はノーヴェたちの方を見る。

 

「彼女が訴えるようなら逮捕でもいいですよ。一応は約束どおり、『趣味でも遊びでもない戦闘』を教えてあげただけなんですけどね。」

 

彼女の言葉に、誰も何も返せなかった。

そこは言うとおりで、何よりアインハルトさんからの命すら危ぶまれた奇襲に対しては、完全に体を気遣った対応だったから。

 

そのまま、彼女はやる事は済んだとばかりに背を向けて帰ろうとする。

 

 

「あ、あのっ!」

 

 

私はそれを呼び止めた。

仲良くなりたいとか、そんなわけじゃない。

でも、このまま二度と彼女と会えなくなるのは、何か許せない気がした。

 

「試合なら…負けだったんですよね?負けたら貴女の事教えるって約束ですよね?」

「ぅ…」

 

私の問いかけに、女性は苦い表情をして頭を手で押さえる。

しばらくそうしていたかと思うと、深く息を吐いて…

 

 

 

 

 

 

「月村雫、旧姓高町恭也の一人娘よ。叔母さんは元気にしてる?ヴィヴィオ。」

 

 

 

 

 

 

硬直、静寂。

しばらくそんな空気が辺りを支配して…

 

 

「「「「「えええええぇぇぇぇぇぇっ!!?」」」」」

 

 

 

 

何重かも分からないくらいの叫びが響き渡った。

 

 

どこの誰がこんな事をと思ったら私の身内だった。

ど、どうしよう…アインハルトさんにすっごい失礼なんだけど…ああぁぁぁ!

 

「無理もないけどね…会ったことある人とも本当子供の頃だし、店にも出てないしね。」

 

言いながら雫さんはスバルさんとティアナさんの方を見る。

二人は雫さんを改めて見回して、昔のイメージと照らし合わせているみたいだ。

 

「ま、本当はここまでするつもりじゃなかったんだけど、趣味と遊びの…競技の範疇では頑張ってるヴィヴィオを大した差もないのに馬鹿にしてたからね。お灸をすえるって意味も兼ねてた訳。納得してくれた?」

「出来ません。」

 

ノーヴェ達に説明するように語っていた雫さん。

私はそこに割って入るように断言した。強く、はっきりと。

 

「私がストライクアーツをやってるのは、趣味と遊び…だけじゃないです。」

「だから『競技』も入れてあげたでしょ?それとも、犯罪者や悲劇が、開始の合図くれると思ってるの?」

 

雫さんの話は何もおかしくない。だって実際に、犯罪者も事故も事件も、前もって連絡してくれないし、ルールをもう破ってる。

 

だからきっと、これは私のわがまま。

 

でも…

 

「なのはママは…こんな事練習しなくたって、皆も守って…私も救ってくれた。こんなのが守る強さだ何て…絶対に納得できませんっ!!」

「ヴィヴィオ…」

 

断言した私を見て、ノーヴェが笑みを浮かべた。

 

言葉にして改めて思う。

そうだ、こんなのが強さだなんておかしい。私がなのはママと約束した…強くなるって決めた先は、こんなのじゃないっ!

 

「証明するのは簡単なんだけど、身内が守ろうとしてるものをどうこうするのは気がひけるわね…」

「っ!」

 

顔が引きつったのが分かる。

証明って言ったのは、きっと私を倒すとかじゃなくて、友達とか、他の何かを奪ったり壊したり…そういう方法なんだろう。

思わず睨みつけてしまう私に対して、雫さんは小さく息を吐いた。

 

 

「分かった。それじゃ、来週私と貴女で試合をして、もし私が負けたら全力で謝るわ。」

 

 

私を真っ直ぐ見て言う雫さん。

それは意外な提案だった。

てっきり全うな方法なんて受け入れてくれないと思ってたから。

 

「それでいい?」

「はいっ!」

 

私は強く答えた。

そうしたら雫さんは仕方ないとばかりに肩を竦めて微笑んで…

 

 

何かに気付いたように手を打った。

そうしてポケットをごそごそと漁りだす。

 

直前にあったことがあったことだけに私達は全員少し身構えて…

 

 

 

「エメラルドスイーツ割引券、二回目の人もいるけど今回はサービスで渡しとくね。」

 

 

 

と、割引券の束を取り出したのを見て全員ずっこけた。

 

 

し、雫さんのキャラが分からない…

 

 

 

Side~月村雫

 

 

 

はぁ…妙な事になっちゃったな…

 

家について、湯船に体を浸しながら思う。

 

 

単に辻斬り紛いの真似をしている迷惑な奴を止めようと思って、調べて追って行ったら、

魔法の使い手が守る守れないの話をしていいなんて勘違いをしていた上、ヴィヴィオの憧れを突っぱねたから仕置きのつもりだったんだけど…

 

 

当のヴィヴィオに睨まれて、まさか宣戦布告に近い真似されるとは…

 

 

って、予想できないでもなかったんだけどね、こんな汚い事したら。

 

でも、とりあえず言う事は言った。

あの程度なら魔導師の人だって分かってるとは思うけど…見た感じ皆ヴィヴィオの味方っぽかったなぁ。

 

 

『なのはママは…こんな事練習しなくたって、皆も守って…私も救ってくれた。』

 

 

それはそうだろう。正攻法でどうにもならない部分は全部速人さんが、偶にお父様の力を借りてどうにかしてきたんだから。

 

奇襲で墜ちたのはどこのどいつか、あの子本当に分かってるのかな?

 

 

「あんな奴に…守り手なんて名乗る資格…ある訳がない。」

 

 

湯船に深く体を沈め、私は小さく呟いた。

 

 

 

SIDE OUT

 

 




いきなり、『お前はフレアかっ!』とツッコミが来そうな11歳(苦笑)。
加減知らずで魔導師と戦闘がらみがきっついですが、根はいい子なんで仲良く…なれるか?これ(汗)

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