なのは+『未完の護り手』   作:黒影翼

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第二十五話・勝利と目的

 

 

 

第二十五話・勝利と目的

 

 

 

Side~月村雫

 

 

 

ジークリンデとの試合前、私の前にはノーヴェがアインハルトとコロナをつれてきていた。

 

「何も知らないヴィヴィオ達は気兼ねなく楽しんで貰うためにつれてこなかった。」

「人の事心配するほど余裕もないだろうし、妥当ね。」

 

ヴィヴィオもリオも、接戦とはいえ敗戦に終わってしまった以上、あとはのんびり楽しんでて貰いたい。…負けたくない所で負ける気分は私も分かるし。

 

ノーヴェは言いたい事を呑んでコロナを促す。

そして、コロナはおそるおそると言った感じで口を開いた。

 

 

 

「雫さん、この結果…雫さんの予想通り…なんですか?」

 

 

 

アインハルトの勝利が予想通り。

もしそうなら…負けさせる前提でヒントを放り込んだとするなら、当て馬にされたようなものだ。おっかなびっくりと言った様子なのも無理はない。

 

「ううん、望み通り…よ。さすがに予想はちょっとね。」

 

そして…殆どそうしたも同じ。

敗北に誘導したわけではないけど、結果は望み通りなんだから。

 

「アインハルトに聖王の技を破らせたかったんだな?だが何でだ?」

「それが出来るなら、アインハルトの夢を潰さないであげようと思って。」

 

何も考えてなかった訳じゃないのか、ノーヴェが私の目的を当ててみせた。けど、理由まではさすがに分からないらしい。

夢を潰さないと言っても、まだ皆の理解は及ばないようだ。

 

「アインハルト、貴女はここで見つかった?」

「え?」

「私達が持ってないらしい、強くなるのに必要なもの。」

 

そこまで言ってようやくそんな話があった事を思い出すくらいの反応を示すアインハルト。そうして、少しの間をおいて首を横に振る。

 

「でしょうね。私は試合繰り返しながら考えてたけど、よくよく考えたらこういう所に出てくる前のヴィヴィオですら持っていたんだから、きっとここで探すのは必須じゃない。」

 

事情を知らないのか、コロナとノーヴェはアインハルトと私の様子を交互に伺う。

 

確かに、色々な経験はつめる。

対戦相手それぞれに対策を考える過程、用意された環境で戦う等々。

 

けど、ヴィヴィオがもう既に持っているのなら、こういうものはあまり関係ない気がする。

当然、まだ見落としが多くあるかもしれない。ただ…

 

「ある『かも知れない』を確認するためだけに、夢や希望に満ち溢れた選手を潰しているこの状況を振り返って、ここまでする必要はないのかな…って。」

 

アクアが伝えてきたジークリンデからの伝言、『何で大会に出てきた』と言う問いへの答えを改めて振り返ったところで、自分がしてきた事についてはっきり気付いた。

 

 

勝者とは、望むものを奪って勝ち取れた者。

 

喉から手が出るほどジークリンデと戦ってみたかった娘だっていただろうに、私は探し物で何の気なしにそれを片付けて来た。

しかもその勝利に特に意味がないとなればさすがに気が引ける。

 

互いに譲れない状況ならまだしも、餓死寸前の娘がもつパンを『今日はパンの気分だから』なんて理由で、食に困ってない大富豪が笑いながらひったくったら最低極まりない。

大会を勝ち進む事そのものにこだわりの無い私は、それと同じような事をしているんだ。

 

「だから、これ以上勝つだけの為に戦うのをやめようと思って。」

「どういう…事ですか?」

「ジークリンデに勝利判定を受ける方法については思いついてるのよ。とても褒められたものじゃない…ね。」

 

確実に勝利できるとも限らない、でも調整しだいでかなりの高確率で勝つ方法。

ただ…

 

「それに成功したら、彼女は世界最強と謳われている力の殆どを使う事も出来ずに終わる。それは多分…この大会に関わる全ての人が虚しい結果。」

 

夢の舞台で夢を奪わぬように、私が思いつく『全て』は使わず、与えられたルールにしたがって力を出す、ただそれだけなら悩む事でもない。

 

けど問題が一つ。私の実力が、彼女の全てを引き出せてしまったなら…

 

 

「ただ、彼女の最大攻撃は私の防御力じゃ…クラッシュエミュレートで済んでくれるかどうかすら分からない。そもそも去年、一応ちゃんと『魔法使い』のミカヤさんも病院送りにされてるし…ね。」

「ぁ…」

 

 

デバイスの力で最低限規格は通るだけの防御力は確保してるけど、生肉の身で普通に彼女の、防具を紙切れ扱いするような攻撃を受けたなら、病院送りにすらなってくれない可能性がある。

 

直撃でもすれば死ぬ。

 

割と深い怪我でもちゃんと治ってくれる身体だけど、それでも頭や心臓つぶれたらどうにもならない。

 

「だから…アインハルトに、世界最強に挑戦するだけの資格が…その機会を私が命がけでも譲ってもいい位かどうか、それが見たかったの。」

 

全力を出し合ってぶつかれば、彼女が予定調和の如く私を倒しても、私の技量が彼女の全てを破っても、アインハルトはとりあえず、最強の称号に近い十代女子と戦える。

 

もし万一コロナが勝つことより自分の力で戦い、貰い物の力での勝利を我慢して選ばなかったのなら、私も自分から魔導師へ屈すると言う苦を我慢してジークリンデとの試合を棄権するつもりだった。

もしアインハルトが聖王の影に振り回されたまま終わるなら、私がどんな手で勝ってもさして悪いとは思わなかった。

 

でも…アインハルトは勝利して見せた。

 

「貴女は私がコロナに囁いた、聖王の力を餌にする戦い方を乗り切って勝ってみせた。…だから、これ以上この場を望んだ人達の夢を奪わないように、私も命を懸けてくる。」

 

探し物に来ただけの私と違い、アインハルトは元々覇王の拳が強いんだって示すためにここに来た。

その分かりやすい機会を、自分と関係のない所で台無しにされたらたまらないだろう。

 

スポーツ大会で結構な命がけの状況だと知っては責められなくなったのか、最初は怒っていたノーヴェも苦い表情になっている。

 

そんな中…アインハルトが私を真っ直ぐに見て、口を開く。

 

 

「正面から戦って、世界最強を超えて来て下さい。その先で…貴女を倒して見せます。」

 

 

まさかこの状況で励まされるとまでは思ってなかった私は、一瞬呆けてしまった。

 

「それはどーも。」

 

これ以上皆を見ている気になれず、私は目を閉じてそう返した。

本当、向いてないなここは。

 

 

 

Side~アインハルト=ストラトス

 

 

 

自分が戦う覚悟の為にコロナさんを利用した事を許せもせず、それでもスポーツが命がけになってる雫さんに怒れもしなかった私は、あんな事しか言えなかった。

 

そもそも、企みがあったとはいえ雫さんがコロナさんにした事は単なる助言。

私の勝利を望んでいたのにコロナさんに助言をした。と言うのが歪な空気を生んでいるものの、内容に嘘偽りがあった訳でもないし責められる謂れはないんだ。…納得はし辛いけれど。

 

聞く事は聞いた私達は客席へと向かう。その道の中、コロナさんが重々しい口を開いた。

 

「当たり前みたいな顔して私達と一緒にいますけど、雫さんは魔導師じゃないんですよね…」

「はい…」

 

それがどういう事なのか、わかっている、知っているはずなのについ忘れてしまう…否、忘れさせる力を持つ雫さん。

思えば、私達が胸を躍らせたヴィヴィオさんのお母様方との試合も、彼女にしてみれば命懸だった。高所から落ちて着地をしくじれば、射砲で吹き飛んだ瓦礫の破片が頭にでも当たれば、ただで済むわけがないのだから。

 

魔導師に負けたくない、負けるつもりでいない雫さんが、それでも勝つために使える全ての手を使わない。

強さの概念が私達と似て非なる雫さんにとって、それはどんな気持ちなんだろうか…まして、今回は…

 

「私の夢を護る為…なんですよね。」

 

全ての力を出し切って戦い、勝利する。そうでなければ、競技を選んだ意味がない。

雫さんが相手の全力を封殺して競技の域を外れた勝利を手にしたなら、仮にそれで勝ち上がってきた雫さんに勝利しても、何の意味もなさないだろう。

 

 

私はこの大会に出ると決めた時…

 

『満足…出来るわけ…無い…っ!』

 

その戦いを選ばなかったんだから。

 

 

思い返していると、ポンとやわらかい掌の感触が頭におかれる。

 

「こうまで騒がせてくれたんだ、世界最強に届くようにしっかり見ておこうぜ。」

「…はいっ!」

 

沈んだ雰囲気を晴らすノーヴェさんの励ましに力強く頷く。

そんな中、派手な足音が聞こえてきた。

 

「は、走る必要ありましたの?」

「勝手に…ついてきたんでしょう?」

 

足音の方へと視線を移すと、クラウさんと…雷帝、ヴィクトーリア選手が並走している姿があった。

よく見ればアクアさんもクラウさんにおぶられている。

 

確かヴィヴィオさんの試合前くらいに魔法の過負荷で眠ったと話があったのですが…大丈夫でしょうか。

 

「過負荷で倒れた娘を引き連れて走り回ってる人がいれば気にもしますわよ。って…あら?貴女は…」

「…どうも。」

 

私に気付いたヴィクトーリア選手に、小さくお辞儀をする。

敵という訳でもないけれど、古代ベルカに縁のあるトップファイターとなるとあまりいい顔が出来ないので無愛想になってしまう。倒さなければいけない、と言う思いが強くて。

 

「姉さん、アインハルトだよ。起きて。」

「んー…」

 

クラウさんの肩で眠そうに目を擦るアクアさん。

…完全回復、と言うわけでもないはず。倒れたという話だし。

ポヤポヤとした雰囲気のまま細く目を開いて、どうにか私を見ようとするアクアさん。

 

「あー…アインハルト?」

「はい。」

「よく見たげてね。本当、よくぅ…」

 

が、眠たげな声のまま私に話すだけ話してぐらぐらとまた瞼を閉じてしまった。

 

「…この娘、連れ帰って眠らせたほうがいいんじゃないかしら。」

 

ヴィクトーリア選手は小さく溜息を吐くと、アクアさんの項に手を伸ばす。

 

「ぴみゃ!?」

 

パチンと、何かがはじけるような音がして跳ね起きたアクアさんはクラウさんの背からおちて尻餅をついた。

電気変換を利用して起こしたのか…頭じゃ調整が難しいはずなのに、相当自信がないと出来ない。

 

「簡易的な眠気覚ましですわ。身体には良くないから眠いのなら寝なさい。」

「あ、ありがとヴィクターさん。」

「まったく…素直なんだか卑怯なんだか…」

 

感心する私達を他所に、ヴィクトーリア選手は客席へ進む。私達もその後を追った。

客席には、ヴィヴィオさん達がミカヤさん、ミウラさん、ハリー選手等が集まっていた。

 

「…なんで貴女まで。」

「あー?ここで戦った上にジークの試合なんだからそりゃ見るだろ。ミカ姉もいるから丁度いいしな。」

「仲良くとまで言わないが、興味のある一戦なんだ。隣で喧嘩は勘弁して貰うよ。」

 

会って早々睨み合うハリー選手とヴィクトーリア選手。それを苦笑しながらたしなめるミカヤさん。

なんだか仲のいい知り合いのようだ。同レベルの人同士は自然ライバルになるからかも知れない。

 

「そう言えば、アクアさんは雫さんから何か聞いているのですか?」

「へっ?あー…うー…」

 

わざわざ私によく見ておけなどと言う念押しをするくらいなら、雫さんから変わった話が出ていないかと思って聞いてみると、分かりやすい反応が返ってきた。

言い辛いのか言葉を濁すアクアさん、その泳ぐ目を見つめる。

 

「少なくとも…私達には聞く権利はあるはずです。」

 

アクアさんに何があるわけでもないけれど、どうしても問い詰めるようになってしまう。

私がコロナさんに一瞬視線を向けると、アクアさんも気まずい表情をする。

 

「…まっすぐ曲がっちゃってるからさ、雫ちゃん。」

 

正々堂々の勝負…どころか、勝敗以前のところから考えて動いている守り手。

その厳しさは正しいもので…時に受け入れる事すらままならないほどで。

そして…本人はとっても優しい。だからこそ、自分に理由の薄い命がけの戦いをあっさり引き受けて見せた。

きっとそんな重くてずれた雫さんの、言い辛い何かを知ってるんだ。

 

その何かを知りたくて次の言葉を待っていたが、アクアさんは何も言わない。

様子がおかしいと思った瞬間、アクアさんはいきなり自分の頬を張った。

 

 

「や!うん!大丈夫大丈夫、コレだけは見ないといけないんだから絶対何が何でもっ!」

 

 

またおちかけてたらしい。

本当眠ったほうがいいんじゃないだろうかとも思ったが、そんな事はあのクラウさんが分かってない訳がない。

 

今重い話を強請るのは、アクアさんに悪い。

それに、ミカヤさん達に取ってはあまり関係ない身内話になる。

私はそれ以上何を言う事も出来ず、会場に目を向けた。

 

整備も終わった、そろそろ…か。

 

 

 

Side~月村雫

 

 

「…そろそろ入場です、準備を。」

「分かった。」

 

シュテルから準備を促されて、私は目を閉じた。

 

なのはさん相手に夜の一族の力を使って無理やり機能させていた、脳内麻薬の分泌による身体能力強化。

 

なのはさんに一瞬瞳の赤が映ったと指摘されたため、独力だけで使えるようにと連日使う事で慣らしていき、どうにか能力なしでも使えるようになった。

 

拳をゆっくりと握って開いて、力の具合を確認する。うん、問題ない。

 

「死ななければ何とかなる、と言うのは、死ねば終わりという事です。くれぐれも自覚を。」

「私がわかってないって?」

「ええ。正確には、貴女の基準が厳しすぎて、普通恐れるものを恐れず、躊躇うものを躊躇っていないように見える…と言うべきですか。」

 

シュテルの指摘は、私でも納得できるものだった。

一般人が厳しい、汚いと顔をしかめるような事を平然と出来るのは、私にとってそれらが当たり前だから。

ただ…当たり前と教わり、当たり前だと把握して剣を振るうようでは、その『重さ』の認識が足りなくなる。

 

傷も死も、耐えて進むものであって、当たり前にしていいものじゃない。そこを間違えたら、刺激が足りないからなんて理由で殺し合いに走りたがる生きた悪鬼になってしまう。

 

「ありがと。でも、今回は特に怖がるわけには行かない。」

 

ジークリンデから伝えられた伝言、その意味を考えるに当たって初めて彼女を見たときから思っていた事。

 

 

あの人は、あまり強くない。

 

 

試合映像を見た限りじゃその感想が浮かんだのが間違いだったとしか思えなかったけれど…エレミアについての情報と、彼女の伝言のおかげで、その原因が分かった。

 

「相手の弱点を突くのは戦術の基本中の基本…なのですが、貴女も大概お人よしと言うか何というか…」

「まぁ競技の試合だから、私に必須の用事がないなら尚更。」

 

アインハルトに世界最強との戦いの機会を譲ると決めたんだ。

それでも負けたくなかったら…真正面から今の私が彼女の全力を破るしかない。

 

「普通に戦ったら、10%もありませんよ?勝率。」

「シュテルの予想って、レヴィによくひっくり返されるけどね。」

「貴女はあの娘並みの馬鹿を…やる気でしたね、今から。まったく誰も彼も…」

 

笑って返した私に言葉だけ呆れるシュテル。

言葉だけなのは、返事をしながら口元が微笑んでいるのを見れば分かりやすい。

家の馬鹿代表の速人さんが好きなんだから当然と言えば当然か。

 

「動いている間は止めません、死なない程度に好きなように。」

「ありがとう。」

 

負けた事のない次元世界最強の十代女子に教えてあげよう。

王様やその子孫なんかじゃ手も足も出ない、『御神の剣士』って生き物が、この世界に存在する事を。

 

 

 

SIDE OUT

 

 

 

 




対世界最強十代女子戦…対なのはとどっちが危け(以下略)
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