なのは+『未完の護り手』   作:黒影翼

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注※ここから先は本編よりそれていきます。


第三十話・舞台の裏表で

 

 

 

第三十話・舞台の裏表で

 

 

 

Side~高町ヴィヴィオ

 

 

 

えーと…

上位選手の皆さんと一緒に食事にお話という事で、ついさっきまで色々楽しみにしてた私は、目の前の光景に口を動かせずにいた。

 

 

 

睨み合うヴィクターさんと雫さん。

 

 

 

正直、何で固まってるかコレだけで察して貰えると思う。

 

正確には睨み気味なのはヴィクターさんだけで雫さんの方はそんなでもない。

身長差のせいでただでさえ険しいヴィクターさんの視線が余計怖く見えるけど、雫さんは何処吹く風。さすがって言えばいい…のかな?

 

とにかく、緊張感が凄い。

 

 

「…何か?」

 

 

睨み合いを続けた挙句、首を傾げる雫さん。

しらばっくれた!?

 

「何か…って、貴女ね」

「ヴィクター、言っても仕方ない事くらいわかっているだろう?」

 

食って掛かりそうになるヴィクターさんを、ミカヤさんが止める。

凄い色々やったし言ってるしなぁ雫さん。

でも、ヴィクターさんもそれ以上人前で食って掛かったりするような事はなく、ようやく落ち着いた。

 

「…ほんとにこんな空気の中いちゃっていいの?」

「それはもう!」

 

はやてさんを見て苦い表情を見せる雫さんに、飛びつくように声をかける。

雫さんが嫌ならともかく、『いていいの』って確認だったから。

 

「ヴィヴィオもこう言うてくれとる事やし、友達の昔話みたいなもんなんやから聞いといて損はない思うよ。」

 

はやてさんも雫さんを促してくれて、頷いてくれる雫さん。

そうして、チャンピオンも合流した所で場所を移す事に。

 

 

 

Side~月村雫

 

 

 

さすがの税金ど…出世コースの司令さん、いいホテルをとっていた。

豪華な料理の並ぶ部屋で、皆で料理を摘む。

 

「たまにはこういうのもいいわね。」

 

パスタを食べながら少し嬉しくなる。

と、漏らした感想を聞き取られたのか、ヴィヴィオがこっちに視線を向けた。

 

「普段はどんなもの食べてるんですか?」

「母さんとかメイドが調べた超回復食を基本にしてるから、濃い野菜とか固めの肉が多いのよ。いいの探してるんだって。」

「超回復食…」

 

竜種の肉とかどうやって調達してるんだろうか?…ヒーローがいるくらいだから変な事だけはしてない…と思いたいけど。

と、ミウラが私を見て呆然としていた。理由を考えて…もしかしてと思い至る。

 

「言っとくけど、超回復って消耗後の回復で筋力なんかが前より強くなる事だから、スーパーヒーリングフードなんて面白メニュー食べてるわけじゃないからね?」

「あ、あはは…」

 

念押した説明にミウラは苦笑いした。

やっぱり知らなかったか、鍛えて強くなるって事実だけあれば現象名なんて知らなくても大丈夫だし。

 

「雫ちゃんがそんな感じの食べとったらなかなかギャップあるなぁ。」

「どーでもいいけど、貴女がよく私にフレンドリーに…」

 

談笑していた私達のところにひょっこり顔をだしたのは、チャンピオン様ジークリンデ。

いきなり軽い彼女に突っ込むと、何故かショックを受けたように一歩後ずさり。

 

「あ、ご、ごめん…ややった?」

「いや、むしろ私が嫌われてるかと思ってたんだけど。友人には睨まれたしね。」

「あー…」

 

困ったようにヴィクトーリアに視線を移すジークリンデ。

あ、目を逸らした。ジークリンデが仲良くしようとしてるとバツが悪いのか。

 

「遠慮とか萎縮せんと話せるんが珍しくてな。ヴィクターや番長、ミカさん位やったし。」

 

分からなくも無い理由だった。

別に尊敬されるのが嫌いって訳じゃなくても、四六時中それは息が詰まるだろう。彼女みたいな性格だと特に。

と、アクアがジークリンデの背後からひょっこり顔を出す。

 

「私はー?」

 

どうやらさっきの羅列に自分の名前が挙がらなかったのが不満らしい。

首に抱きつくようにして顔を出すアクアに照れるジークリンデ。

 

「詐欺師と安心して話せる人はいないでしょ。」

「詐欺師って言うなー!」

「じゃ多数決でもとる?」

 

抗議の声を上げるアクアを他所に、私はざっと全員を見回す。

…大体が目を逸らしたり俯いたりだった。散々振り回されたヴィクトーリアに至っては頷きすらしている。

とるまでも無い多数決に、アクアはがっくりとうなだれた。

 

「うぅ…元々決闘用じゃないものまで使って頑張ったって言うのに詐欺師扱いなんて…」

 

悲しげに呟くアクア。

 

確かに、彼女が教わってきたのは情報収集をするための旅なんかに使える系統の技術。

何処でも水分が確保しやすいよう空気中の水分を利用する氷結系を覚えたり、群れや組織相手の状況を切り抜けるために多対一でも機能するウェイブステップを覚えたりしてきたわけだし、インフィニティーアナライザーに至っては、単に情報整理を楽にするためにデバイスに追加した高速処理能力を利用して一からアクアが考えた切り札。

騙して楽しよう…って言うより、それらを必死に使ってどうにか喰らいつけただけだし、詐欺師も酷いのかもしれないけど…

 

「諦めたら?さすがに切り札大公開の最後の最後で最大出力隠してた…って、知ってる人以外予想もできなかったでしょうし。」

 

正直、ここまでしては庇えるものも庇えない。

自覚はあったのか、アクアは笑いながら視線を逸らす。

 

「けど、騙す言うんなら雫ちゃんもやよ。自分で使てもいい手を彼女に譲るなんて…」

 

少しだけ翳りのある厳しい視線を私に向けるジークリンデ。

アインハルトに作戦教えて私が玉砕した事を言ってるんだろう。

直撃しておいて分からないらしい。

 

「使えなかったのよ、私には。」

「え?」

「刀で頭は揺らせないし、腕を『斜め上』に伸ばしたら、半歩分速く踏み込めても、結局直撃までが遅くなる。」

 

紙一重の攻防には決定的に重い、身長差という壁。

大人に変身できるアインハルトと違い、普段のアインハルトと同じかそれより少し低いくらいの私の体格では、その紙一重を超えられない。

 

「それよりも断空、蹴りで使ったほうが驚きだったわ。まだ出来ないんじゃなかったの?」

「腕で防御して足で攻撃をする事は出来ても、足で防御して動きまわる事は出来ませんから、危機極まれば必要になるかと思いまして。」

「なるほど。」

 

簡単に言ったアインハルトだったけど、一日二日じゃ無理だ。

インターミドル参加が決まった段階からこつこつ試していたんだろうな。

 

それでも、倒すには至らなかった。

医務室出てすぐだったから聞こえちゃった悲鳴も…無理ないか。

 

顔に出そうになったから視線をさまよわせると、丁度はやてさんが手を振りだした。

 

「皆ー、食べながらでいいからちょう聞いてなー。」

 

旧ベルカの血統としての話の為に来たアインハルトとジークリンデ。二人に加えてその周囲に集うベルカの王族。

大人側からだと、それが余計なものを引き込みそうだという懸念から、この会に参加したという話があった。

 

夜天の書継承しただけで完全地球出身なのに、さも血統のように話すなぁ。

そういう扱いでいるらしいし、家族は皆純ベルカ生まれみたいなものだから当然…なのかな?

 

 

…古代ベルカの事は気にしなくていいか、私にとってはただの情報に過ぎないんだから。

 

 

 

Side~アインハルト=ストラトス

 

 

 

私はクラウスの…オリヴィエとヴィルフリッド=エレミア…リッドとの過去の記憶を語った。

ゆりかごに赴いたオリヴィエを止められなかった…笑みすら曇らせずに負けた事を、その前にリッドが姿を消していた事などを語り、その頃のリッドについて尋ねた。

けれど、予想通りというべきか、記憶が残っているわけでもないジークリンデさんは、何も知らなかった。

 

そして、エレミアの名に聞き覚えのあるヴィヴィオさんの勧めで無限書庫に行く事になって…

 

 

「行ってらっしゃい。」

 

 

雫さんがそう言って手を振った。

皆さん意外だったようで、雫さんに視線が集まる。

 

私も、何故か胸が痛んだ。

 

彼女には関係ないし、言ってもおかしくないと言うのに。

視線が集まる中で彼女は小さく笑って…

 

「ただの人間が無重力空間で何の役に立つの?足手まといが確定してるのに行く必要ないわ。」

「ぁ…」

 

人間って言葉に、また忘れて久しい事を思い出す。

別段事実を話していなかった人達は、それだけでは理解が及ばない。

 

「いくら飛行が初めてだからここまで来てそりゃ」

「ハリー、彼女はそもそも飛ぶ事自体出来ないんだ。魔法が使えないんだから。」

「は?」

 

理解が及ばなかったらしく、事実を知らなかった人達が幽霊でもみるかのような目で雫さんを見る。

地を砕き、岩を投げ、巨木を割り、そんな力が当たり前にある魔導師たちの中に生身で立っていた。

魔力値が低い、とは決定的に違う恐ろしい事実。理解が及ばなくて当然だった。

 

「それに私は、今の昔話で一番不幸なのが名前も出ないまま誰の記憶にも残らず殺された普通の人達だって思えない王様の記憶なんて、探す気にもなれないし。次代もちゃんと繋げてるのに悲しい運命?冗談じゃない。」

「っ…」

「アインハルト、クラウスの記憶が残ってる貴女がそんな顔してるって事は事実なんでしょ?他人より友達のが大事なのは分かるけど、それで他がどうなろうと知った事じゃないなら、私にとってクラウスもオリヴィエもヴィルフリッドも他人だし。」

 

歴史になれなかった人たち。

それも命なのだと、彼女がそう言っているのに私に否定できる訳がなかった。

 

戦乱も知らない子供が…という思いが聞こえる一方で、知っているからこそ否定できない事実がある。

戦乱を終わらせるためゆりかごを目指したオリヴィエを、『何の案もないまま』クラウスは止めようとした。自分がゆりかごに行った所でオリヴィエが見送る身になるだけなのに。

 

「そういう訳で私は今回は遠慮するわヴィヴィオ。何かあったらまた。」

「あ…はい…」

 

言うだけ言うと、荷物を手に部屋を出る雫さん。おそらくはこのまま帰るつもりなのだろう。

 

「偉そうに…」

「誰かを護る事に、私は彼女に口出しできる身じゃありません。きっと、クラウスでさえ…」

 

相変わらずな雫さんの去った扉を睨むヴィクターさん。

けれど、言い返せる事が思いつきだけの私には、何も言う事が出来ない。

私がそれを知っている事を告げると、それ以上誰も雫さんを批難しなかった。

 

雫さんが自分にだけ特別甘いのなら、あるいは同じものを誰にでも向けるなら、否定も批難も出来る。

けれど、力を以って護るという目的を持っている人に対しての厳しさで、別に私達が同じだけ苦難を選ばなくても、雫さんは一番割が悪い部分を引き受ける気でいる。護り手として。

 

そんな彼女に口出しなど、出来るはずがなかった。

 

 

 

Side~ヴィクトーリア=ダールグリュン

 

 

 

子供達が空気を戻そうと明るく振舞う中、私はその輪をこっそり外れる。

雫のいなくなった扉を見つめる八神司令に、小さく声をかける。

 

「心配そうですわね。」

 

私が声をかけると、司令は小さく息を吐いた。

 

「強いし夢見てもない娘やから、こういう事になるんよ。」

「夢を…見てない?」

「夢見て現実に泣く子はよくおるし、そうなって事実やって知るから強く否定も出来ん。けど、それだけやと…なぁ。」

 

もどかしげに呟く司令。けれど、その気持ちは少し分かる気がした。

初めからああで、ああなるべく育ってきたと言うのなら…人を離れて一人膝を抱えていた頃のジークと同じだ。

一つ違うのは、ジークは壊す自分が嫌でそうしていたのに対し、彼女は殺す者になろうとしているから、それがもたらすものを知って示したり離れたりしているという事。

 

一人になりたいわけではない…と思う。さっきは楽しそうに喋っていたように見えた。

 

「という訳で、私は雫よりは物分りいいつもりやから、別に普通の女の子の彼女にどうこうしようさせようって気はないから、心配せんでもええよ。」

 

内心を言い当てられてちょっとだけ驚く。

ジークが普通の女の子である事が弱点なんて言い切った月村雫。彼女の心配をする司令が、同じような事を思ってエレミアの過去漁りを手伝う気でいるのか否か、少し心配になったのだ。

 

「…バレバレでしたか。」

「職業柄な。」

 

私より余程腹に色々抱えた偉い方々と交渉などをするなら、この程度の予想は立つんだろう。若い方だけれど、よくある魔導出世の新人という訳ではないらしい。

 

「ヴィヴィ達と違って直接関わる機会があるとは思えませんが…まぁそういう事でしたら、私も気にかけてはおきますわ。」

「ええの?」

「ジークも少し引っかかってるようですし、見てないところでヴィヴィ達が泣かされては可哀想ですし。」

 

直接的でないにしろ、今日のように仲間外れになろうとする彼女を止める理由がないまま寂しい思いをする姿を何度も見るのも忍びない。

ああも態度がよくないと彼女を気遣う気にはなれないけれど、それでも悪い子じゃないのは十分分かる。何をするにも、厳しさや緊張感はあっても悪意が見られなかったから。

尊敬できる技量の同年代の娘。悪い娘でないのなら、人当たりが悪くてもヴィヴィ達は嫌ったりしないだろう。

 

「ありがとな、これからも仲良くしてくれると嬉しい。」

「此方こそ。数々のご好意、ジークに変わり感謝いたしますわ。」

 

見たとおりの人とは思うのは早計かもしれないけれど、さすがにいい人なのは分かる。

仲良くできると嬉しいとの事だったけれど、私もそう願う人だった。

 

仲良く…か。

 

あの調子では仲良くなれないだろう事は彼女も想像つくでしょうに、それでも彼女は、私が知っているだけでも一度、アインハルトの為に命を賭けている。

覚悟も過ぎると悲しいものね…

 

 

 

Side~月村雫

 

 

 

翌日、私は目的の場所に立っていた。

 

 

管理局本局。

 

 

本局とはいえ町まである場所となると、人の出入りを完全に見切るのは難しいらしい。

そして、私でも来れるって事は…

 

 

「お前は…」

「はじめまして。」

 

 

侵入者を完璧に防ぐ事などできないって事でもある。

 

目の前にいるのは、ファビア=クロゼルグ。

確か順当に行けば後でルーテシアが当たるらしい選手。

 

「その有様で私を止める気?」

「覗いてたみたいね、隠す気はないようで何より。」

 

元々、妙な視線と言うか気配と言うか、そういうのを感じたから張ってたんだけど、距離とか位置が分からなかったのは魔法だったせいらしい。

私は答えて左腕を包むギプスに、右手の刀を向ける。

そして…

 

完治している左腕を外気に晒した。

 

魔法でも、見た目はともかく中身の回復がありえない速度だから隠していたけど、実際に当たりを引いてまだ隠してはいられない。

 

「普通に混ざるだけなら止めないけど…ヴィヴィオ達に手出しするつもりなら、止める。」

 

旧ベルカの王様は他人、魔法世界の歴史にもさしたる興味はない。

でも…私を友達と言ってのけたヴィヴィオ達は、私の護るべき者だ。

 

 

理由はそれで十二分、この戦闘も、彼女が襲おうとしている事も、何も知らず気にせず楽しめばいい。

それが出来るようにするために、私は今ここにいる。

 

 

 

SIDE OUT

 

 

 




雫とヴィクターの二人、いままでの流れでそれぞれと個別に知り合いで、鉢合わせになるところに一緒にいると、何気に怖い組み合わせです(汗)
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