幕間・世界最強の先へ
Side~ジークリンデ=エレミア
滞りなく、って自分で言うとアレやけど…インターミドルに優勝したウチは、手にしたチケットを見る。
『負けられなかったら…本物の次元世界最強の十代女子を紹介してあげる。』
興味が無い、と言ったら嘘になる。
そんな強いなら何で大会出ないとか色々思うところはあるけど、少なくとも雫ちゃんが根拠も無くハッタリを言うとは思えない。
会ってみたい、素直にそう思った。
そして…顔を出したエメラルドスイーツで…
「どうも…ユーリ=エーベルヴァインです。」
本物の次元世界最強の十代女子。
そう紹介されたその娘は、あまりに普通な女の子やった。
「あの…私十代でいいんでしょうか?」
「登録上そうなんだしいいでしょ。能力的な話するならコレも最低500才だし。」
「コレ言うなぁ!」
投げやり気味にウチを指差す雫ちゃんに怒るも、雫ちゃんは聞き流す。
アーちゃんから聞いた話やと、友達なくすとか以前に最初からおらん状況受け入れとるっぽいし…悲しいなぁ。
触れたもの全てを壊す破壊の力を嫌ったウチが、人を殺す忌み嫌われる技を望んで会得しとる彼女の心を開くのは無理なんやろか。
「ほう、この小娘が噂のエレミアか。」
エレミアと言われて目を向けると…
「へ…?」
小さな白髪の八神指令がいた。
声も若いけど同じ。
「ディアーチェ、あだ名は王様。」
「あだ名とは何だあだ名とは!」
「なら自称。」
「貴様そこを動くな、エクスカリバーを叩き込んでくれるわ。」
冗談のようなやりとりから、ディアーチェと呼ばれた娘は、見覚えある形状のデバイスを構え、デバイスに冗談じゃすまん魔力を溜め始めた。
「ちょ、ちょう待って!こんなとこでそれはアカンて!!」
大慌てで割って入ると、ディアーチェって娘はなんでもないようにデバイスをしまう。
「ふん、戯れよ。この程度で狼狽えていては底が知れるな。」
「家の戯れは普通の人にはきついと思うけど…」
まともな反応をしとるのはウチやと思うけど、なんでもない風に片付ける雫ちゃんとディアーチェちゃんを見とると、自分がおかしい気がしてきてまう。
ウチ…ひょっとしてものすごい所に来てしもうたんやろか?
招待したのは雫ちゃんなんに、興味ないとばかりに引き合わせを済ませるとさっさといなくなってしまった。
そうして、そこそこ話した所でヴィヴィちゃんが来て、ユーリちゃんと試合をするために移動する事になった。
わざわざ別の世界まで飛んで、随分大掛かりや。
「小娘…今、貴様は格下だ。何も気にせず己が全てを振るうがいい。」
「はぁ…」
王様と呼ばれてた通りの態度のディアーチェちゃんに念を押されるも、まだ半信半疑やった。
と言うのも、ここまでユーリちゃんを見てて、ウチと戦えそうな何かを感じることがなかったから。
これなら雫ちゃんから感じた威圧感のほうが強いし鋭い。
普通の女の子を前にしとるような気がして…
「では行くぞユーリ。全制限解除、コントロールを紫天の盟主、ユーリ=エーベルヴァインに!」
制限解除と言うことで、出力が跳ね上がるんやろうと予測したウチは…
直後、言葉を失った。
「…大丈夫です、制御できてます。」
「そうか、ならよい。後は好きに遊んでこい。」
遊んでこいの意味が分かってぞっとする。
ウチとあの娘が戦うんや、そのために来たんやから当たり前や。やのに…
目の前の娘がウチと…いや、大会で会った誰とも天と地ほどの差が…
ううん、これは、まるで別のモノ…や。
出力があがるって予想自体はあっとったけど、規模が予想とかけ離れとった。
「じゃあ行きますよー。」
気の抜けるような優しい女の子の声、直後…
射出、リング状射撃攻撃。
性質不明、威力極大。
殲撃。
「わ…凄いです。」
殺意も何もない少女の声のおかげで我に返る。
ハッキリと残る手応え。
殲撃なのに…だ。
「じゃあどんどん行きますね。」
「いっ!?」
どんどん。
当たり前や、ノータイムで撃った攻撃が連発出来ないわけがない。
『何も気にせず己が全てを振るうがいい。』
王様の言葉が蘇る。
気にせずゆーか…
気にしたら死ぬ。
Side~高町ヴィヴィオ
さすがユーリさん。とんでもない。
リングが走った余波で地表がひび割れてる。
一瞬でエレミアの真髄状態になったチャンピオンは、そのままで戦うことになった。
「起動直後でもなく安定もしていて対抗プログラムも組まれておらんユーリの全力は初めて見るが…ここまでか。」
ディアーチェさんも予想外だったのか、少し険しい表情になっていた。
それもその筈、いざとなったらユーリさんを止めるのが、ディアーチェさんがここにいるわけだから。
ちなみに、ユーリさんのほうは…
懐に踏み込んだ殲撃をボディに直撃したのに突っ立っていた。障壁が一枚割れる音がしただけで。
たしかなのはママのブレイカーでようやく一枚破れる4重障壁で守られてるんだっけ?
しかも理知の伴わない暴走状態じゃないから張り直しも自由、出力は高くてエネルギーはほぼ無制限。
つまりまぁ…ジークさんがやりすぎてユーリさんがどうにかなるって心配はほぼないみたい。
「小兎、観戦はかまわんが広域攻撃以外は避けろよ。なのはが泣く。」
「はーい。」
ちなみに、流れ弾が既に危険なレベルなので私も大人モード。
特にユーリさんの攻撃は、ディアーチェさんでも治るのに支障をきたすような特殊攻撃。絶対触れない。
でも…
正直緊張より興奮のほうが凄かった。
歴代級の大戦の一幕をみている気分だ。何しろ戦争を終わらせるゆりかごに対して、世界を終わらせる破壊の力との真っ向勝負なんだから。
頑張れっ!ジークさん!!
Side~ジークリンデ=エレミア
性質不明刃、二本。
回避、接近。
赤い腕、危険きけんキケン…
殲撃。
破壊失敗、姿勢を制御する。
「一応普通のも教わってるので、いきますよー。アロンダイト!」
極大砲撃が接近、殲撃で相殺する。
余波で転ばされる。
起き上がって、今度は誘導弾が多数接近してきた。
「ゲヴェイア・クーゲル!!」
誘導弾で相殺を図って…
こっちのだけ全弾涼風のようにかき消された。
…さっきから、意識がちゃんとしたのに戻ってきとる。
命の危険を感じると自動で発動するエレミアの真髄状態。
それはつまり、命の危険を脱しようとする行為に他ならない。
戦闘中で、嵌められた訳でもないのに正気でいるのは、何てこと無い。
エレミアの戦闘記憶全て使っても、このまま彼女と戦っていたら死ぬ。
自動発動のエレミアの戦闘経験が、そう結論づけたから。
彼女に殺意がなく、これがただの試合やってウチは知っとる。
だから、『とっとと降参して頭下げれば生きて帰れる』から、ウチに正気が戻ったんや。
だけど…ああ、何やろこの気持ち。
「っはぁ!」
中空を殲撃でなぎ払って接近してきた誘導弾を全部消し去る。
直後、ダッシュ。
「はっ!」
振り降ろそうとしていた手、その甲目掛けて魔力弾を単発で放つ。
ダメージは通らなかったけど真っ直ぐ振り切れれなかった手とともに、地上から放たれる牙のような力の塊もあらぬ方向にそれる。
無視して直進、抱え込んで…
「ど…っせぇぃっ!」
「うわわわわ!!」
背中から叩き付けた。
普段ならこのまま投げを続けるんやけど…
「え?」
「はあああぁぁぁぁっ!!!」
仰向けの彼女に向かって、両の手に力をたたえたままでラッシュに入る。マウントポジションで。
障壁なのか何なのか、砕けるような感触がするけど気にしない。
と、彼女の背中から生えた赤い腕が掴みかかってきたんで、跳躍して回避。
「ガイスト・クヴァール!!!」
仰向けのままの彼女がいる辺りを、殲撃でなぎ払った。
周囲の地形が抉れて変わる。彼女の姿はまだ見えない。
けれど、確信があった。彼女がこの程度で終わる訳が無い。
それと同時に、ある気持ちも。
努力しとらん、って言うたら言い過ぎや。
けどきっと、ウチが皆を凄いと思っていたのと同じで、彼女もウチの事を凄いって見てる。
『ある程度で戦っていい相手』が楽しくて。
全力を出す事そのものが禁忌のような力を抱えていた。競技でも何でも、無闇に使うもんや無いって思いながら、使えば勝てるってどこかで思ってて…
そんなウチを、尊敬する事なく挑んでくれた雫ちゃんが示してくれた事。
それを…
「舐めるな。」
宣言する。
分かってる、エレミアの戦闘経験が叫んでるんだ、『逃げろ死ぬぞ』と。
舐めているのはウチの方、思い上がりもいい所。
それでも…
「ウチはこれでも、次元世界最強のチャンピオンや。いくらでも付き合って…勝たせてもらうから、全力でおいで、ユーリちゃん。」
戦って、倒して来た娘達の姿が浮かぶ。
あの娘達に…今楽しみに見てくれているヴィヴィちゃんに胸を張れる自分でありたい。
だから…ちょっと強いだけの娘に『心配なんかされたくない』。
「人の心配しとるなよ!」
とびっきりの緊張感と、ほんの少しの楽しさの中、笑って告げる。
競技者であるウチが思う心のままに。
やがて起き上がったユーリちゃんは、パンパンと二回自分の頬を叩くと、大きく息を吸い込んで…
「はいっ!!!」
笑顔でいい返事をくれた。
Side~高町ヴィヴィオ
「やれやれ…無窮の力を振るう存在同士の戦いとは思えんほど明るいな。揃いも揃って。」
隣でディアーチェさんが呆れたような事を言う。けれど、口調とは違って顔はどう見ても笑顔だった。
でも気持ちは分かる。
ユーリさんの事が秘匿気味でないのなら、私一人これを見ているのが勿体無い位だ。
…ちょっとだけ、嫉妬と言うか悲しいと言うか。
ジークさんがいま一番生き生きしてる気がする。って言う事は、つまりインターミドルの参加者じゃ皆ジークさんを満足させられて無かったって事で。
「…うずうずしておるが、混ざりたいなどとほざくなよ小娘。」
「は、はぁーい…」
ディアーチェさんに横目で睨まれる。
図星だけど、わかってもいる。こんな所混ざっても私じゃ一瞬で挽肉になる。
いつになるかは分からない、けれど…
いつかここに辿り付いて、いつかこの先に進んで…ママ達を守れるくらいに。
果てしない、って言って過言じゃないほど遠い目標だけど、それでも諦めるつもりは無かった。
Side~ジークリンデ=エレミア
思ったとおり遠慮していたと言うか、一発一発様子見ながら撃って、ウチが大丈夫か確認していたらしい。
開き直ったユーリちゃんは、中遠距離で無尽蔵に近い勢いで攻撃を乱射してくる。
ホントに雫ちゃんの気持ちが分かる、危険だろうがなんだろうが、近くでやらなきゃ何も出来ない。
防御すらまともに出来ない威力やから、攻撃で相殺しながら強行突破しかない。
「っおおおぉぉぉぉ!!!」
懐に入って腕を掴む。と、背中から生えてきた赤い巨大な腕の方がウチを捕らえに来て、慌てて手放して離れる。
くっ…あの腕のせいでまともに投げも出来ん!
けど!!
「はっ!」
「っぅ…」
爪の大振りをかわして懐に潜り込んで下から持ち上げるようにボディーブロー。
浮き上がったユーリちゃんの顔面に向かって今度は逆の手で打ち下ろし気味に拳を叩き込む。
地面にバウンドした彼女が体勢を整える前に追撃に…
適当にか振るわれた爪の一撃をぎりぎりで下がってかわす。
振り回すだけで凶悪な威力や、ホント。
「スピアー!!!」
「は?なっ!?」
上位能力者でも30前後がせいぜいの誘導弾。
勿論、ただの直射弾幕ならその限りやないのは知ってるけど…同じ規模を弾にしたら砲撃より余程消費魔力が大きくなる以上…
視界を埋め尽くすような弾の雨なんて撃って来る娘は知らない。
「はああああぁぁっ!!」
手当たり次第になぎ払って相殺…するも、砲撃と違って弾の雨になってるせいで、消しきれなかった数発の弾が身体を撃ち貫いた。
「ぐ…っ…」
弾幕が収まったところで、ウチは脇腹を押さえてよろめいた。
…こんな長い時間、しかもフルパワーに近い勢いで殲撃を使いとおした事はない。
もう限界近かった。
「気は使いません、いきますね。」
虚空に手を突き入れたユーリちゃん。そして…
絶望的な力を持った、赤い槍を取り出した。
腕の爪と同じような、何か分からない力の塊で形成された槍…というか棒。
あ、はは…まだ全力じゃなかったん?
「エンシェント…マトリクス!!!」
ボディダメージのせいかろくにきかない足で放たれた赤い槍。
避けられない、殲撃でも相殺しきれない、喰らえば死ぬ。
なら…
両腕を大きく開く。そして…
「く…っぁああああああ!!!!!」
眼前で、開いた手を閉じるようにして槍を捕らえた。
ぶっつけ本番の、両の手同時の全力の殲撃。
片手じゃ相殺できないだろう赤い槍は、挟み込むように放った二発の殲撃で砕け…散…
Side~ディアーチェ
「…ひやひやさせおって。」
事故じゃすまんレベルの攻撃だったため悪態をついてみるものの、それよりも倒れたエレミアの方が恐ろしかった。
…エンシェントマトリクスを、それも、今のユーリの全出力で放たれたそれを、相殺するか。
全ての命は価値を持たない、とまで言われるらしい黒のエレミアだが、ここまで行くとそれも納得だ。
そんな力を使った割に、当人は仰向けに転がって気持ちよさそうに眠りについている。
力を使いきったらしい。ダメージも緊張感も半端じゃないし、無理も無かったろうがな。
「ね、ねぇディアーチェさん。ユーリさんが駄目ならディアーチェさんと試合したら駄目?」
「む?」
妙な提案をしてくる小娘を見れば、何か目を輝かせてうずうずしていた。
収まりつかんのかこのバトルジャンキーめ。
「あ、あの…私もディアーチェに教わりたいです…通常出力に制限かけたので大丈夫ですよね?」
突っぱねようと思った段階で、あろうことかユーリまでそんなことを言い出す。
「えー!ユーリさん今戦ったばっかりじゃないですか!」
「あまりディアーチェは付き合ってくれなくて…ヴィヴィオさんはコーチやお母さんがいるでしょう?」
「皆お仕事で暇じゃないですよ!」
「別にディアーチェ達が暇という訳でも」
キリの無い口論を繰り返す二人の子供。
ええいまったく面倒な…
「黙れ身の程知らず共!!まとめて相手にしてやるからかかって来い!!!」
暗黒甲冑を展開、杖を突きつけ宣言すると、二人が目を合わせ、頷きあって、同時に我を見る。
…あ、やばいかこれは?
直後、それでいいならと言わんばかりに揃って襲い掛かってきた。
「…で、デアボリック・エミッション・ドールズシフトまで使って帰って来れなくなった…と。」
「あ、あからさまに呆れておらんと…さっさと連れて行け…」
結局、かろうじて二人を昏倒させることが出来たものの、限界ぎりぎりまで戦ってしまって身動き取れなくなった我は、通信でリライヴを呼ぶ羽目になった。
リライヴは視線を我から外し、一点を見る。
「…とりあえず、彼女に渡すお詫びの代金は全部ディアーチェの小遣いからでいいね。」
言われて視線を移すと、疲れきって眠っていたエレミアを魔法戦に巻き込んでいたらしく、妙な姿勢とボロボロで端切れしか残っていない防護服で転がっているエレミアの姿があった。
魔力ダメージでやってたから死んではいない筈だが…
さすがに開き直れず、我は首を縦に振った。
ちなみに、起きたエレミアは気絶中の事で大して覚えておらず、例に漏れず高出力魔導師の一人として大喰らいらしく、結構な量の菓子を満足気に抱えて帰っていった。
これでも暇を奪われ子守についたと言うのに…理不尽だ、くそう。
Side~ジークリンデ=エレミア
大量のお菓子と疲れきった身体で、ウチはヴィクターの家に来た。
中に案内されて、半分ほどを渡して出されたお茶と貰ったお菓子を摘む。
「…何かあったの?」
「あ、うん。そうなんやけど、分かる?」
「嬉しそうな悲しそうな、そんな顔してるわよ。雫絡み?」
雫ちゃんの話を聞いたときに近い気分で、エメラルドスイーツ製の菓子を持っていれば、そんな結論に至るのも無理は無いのかもしれない。
ちょっとだけ心配そうなヴィクター。
…ホントは、ユーリちゃんの事は誰にも話したらアカンことになっとって、ウチとあわせてくれたんも特例って言うか、そんな感じ。
けど、何と言うか、ヴィクターにだけは黙っておきたくない事が一つだけあった。
「…ごめん、負けてもうた。」
搾り出すような気持ちで言う。
これだけは、黙って隠しておきたなかったから。
顔を見ていられなくて目を閉じる。怒られるか、がっかりさせるか、悲しまれるか。
「馬鹿ね、全く。」
頭をゆっくりと撫でられ、思わず目を開く。
ヴィクターは、優しい笑顔だった。
「…泣いていいのよ。私にだけは話しに来てくれて嬉しかったわ。」
「あ…っ!!」
優しく撫でられてて頬を伝う感触に気付いて、慌ててテーブルに突っ伏した。
強くなろう、もっともっと…
SIDE OUT
気兼ねなく遊ばせてあげたいなー…と思ったらこの組み合わせに。
舞台用意するだけでも一苦労ですが(苦笑)