幕間・白い試金石
Side~ヴィクトーリア=ダールグリュン
ヴィヴィに連絡を取り付けて、渋られたものの交渉の末機会を作って貰う事に。
月村雫と、ジークを倒したと言う世界最強の人との手合わせの機会を。
雫には返礼と意趣返しの意味があり、ジークを倒した人とやらは…仇討ちと言うといいすぎだけれど、放っても置けなかった。
人目につくとまずいらしく…なんと局の訓練施設を使わせて貰う事に。
大掛かりな準備に、自分で頼んだものの、ヴィヴィを頼ったのが少しだけ申し訳なくなった。
「それにしても…そろい踏みですわね。」
「あはは…」
インターミドルでチームナカジマと言っていたメンバーが勢揃いしていた。
ヴィヴィがつれてきたのだろうけど、アインハルトも一緒だったのは少し意外だったかもしれない。
「雷帝の力、存分に見せて貰います。頑張ってください。」
「言われるまでもありませんわ。」
せっかくなので軽く歓談をかわしつつ、雫たちの到着を待つ。
すると、現れたのはあまりに意外な人物だった。
雫がいたのはいい、けれど…
彼女に寄り添うようにして歩いてくる女性は…
「どうかしましたか?」
「え?あ、いえ…」
アインハルトに尋ねられ、生返事でとぼけてしまう。
…ヴィヴィは間違いなく知っているのだろうけれど、他の皆が知っているとは思えない、いや、その筈が無い。
噂程度に聞いていた、歴代最強と謳われている都市伝説、『白い堕天使』リライヴ。
一応わずかに入手できた映像で人となりは遠目に知っていたけれど…何故彼女がこんなところに?
普段着すら明るく柄の無い物が好きなのか、特徴の薄い淡い桜色の服に水色のケープを纏っている。
…黒一色男物近い雫より余程いいけれど。あの娘、黒しか持ってないんだろうか?
「まずは…ごめんね。ジークリンデを倒したって言うのは私じゃないんだけど、その娘、滅多な事で人に会わせられないの。二回も三回もあんなの戦わせられるか!って上の人に怒られちゃって。」
そう言って深々と頭を下げる彼女。
歴史に残るレベルの『犯罪者』と聞いているけれど、噂通りと言うべきか、悪い人間に値する人ではないらしい。
作ったものでない謝罪の念を感じて少々面食らう。
「それで、試金石もかねて私が。満足はさせられるだろうし、もし私に勝ったらあわせてあげていいって事になってるから。」
「なるほど…」
ジークの場合は、雫が約束を取り付けて、しかも見事にインターミドルに優勝したっていう実績がある。
もし本物に会いたければ、相応のものを示せ。と言う事か。納得のいく話だ。
「ではまず雫から…」
「まだそんなこと言ってるの?貴女、気付いているんでしょう。私に負けた後で彼女に勝てる気でいるの?」
睨む、と言うよりはむしろ呆れ混じりの雫の言葉に苛立つも、言葉を呑まざるを得なかった。
もし彼女が本当に本物なら、全力で行ったって勝負にもならない程の差があるはず。
元々、雫とジークを倒した娘を一日に相手しようと言う時点で、確かに自惚れですわね。
…最も、何故か私が雫に負ける前提になっている所は訂正させたいけれど。
「では…」
「うん、セットアップ!」
前置きはもういい、互いに防護服を装備し、武器を…
武器…を?
「…デバイスは?」
「必要なら。」
微笑んで告げる真っ白な女性は、何も手にしていなかった。
白い堕天使の名にふさわしく、白い髪に純白のドレス。
怒ろうかとも思った。が…
涼しげに立つ彼女相手に、それが出来なかった。
威圧感も無い、微笑んでさえいる。
『彼女の微笑みを曇らす事も―』
重々しく告げられた、アインハルトの過去を思い出す。
届かない、そんな気がして…
「っはぁ!!!」
振り払うために、初手から全力で戦斧を振るった。
Side~アインハルト=ストラトス
打ち下ろしの一撃を手で弾くも、纏った雷に触れたせいか、一瞬動きを止める白い女性。
ヴィクターさんは、間髪いれずに斧を横に薙いだ。
手で受けた白い女性は…
吹っ飛ばされた先で地面を転がる事も無く空中で回転して姿勢を立て直した。
「凄いね、下手に触れないや。」
笑顔でヴィクターさんを褒める女性。
けれど、正直…よく言う、と思った。
吹っ飛ばされた。と言えば、攻めているヴィクターさんの方が状況がいいように聞こえるが、彼女は斧を白刃取りで掴んで押し飛ばされたのだ。しかも、あわせて後方に跳躍もしている。
防御で受けて吹っ飛んだのではない、完全に見切ってないと出来ない芸当だ。
「ねぇ、あの人って…」
「うん、やっぱり…」
リオさんとコロナさんが、ヴィヴィオさんを見て小声で話しかける。
ヴィヴィオさんは、二人の追及に首を横に振った。
違うと言いたいのか、名前を挙げてはいけないのか、どちらにしてもまともな自己紹介もすまないまま試合になった以上、普通の人ではないのだろう。
見たところ特別魔力量も多くないようだけれど、あの技量なら…?
「まさか…」
白い女性の指先に灯る光、展開される様々な色の魔力弾。何よりその…
渦を描くような魔力弾の配置。
「ゲヴェイア・クーゲル…だっけ?」
「な…ふざっ…」
「ファイア!」
女性の掛け声と共に、いつか見た弾幕が一斉にヴィクターさんに放たれた。
面食らった様子のヴィクターさん、けれど、チャンピオンと親しく少々気性の激しい彼女は、むしろ形相を浮かべて弾幕を凌いだ。
けど、防いだヴィクターさんに接近した女性は、そのままヴィクターさんの足を掴んで投げる。
「っ…軽い!!」
背中からまともに落ちたものの、女性の出力がそこまででもないからか、ヴィクターさんはそのまま低姿勢で足元を薙ぐように斧を振るった。
後転とびで回避した女性は、左手で…
「ガイスト・クヴァール。」
殲撃を放った。
出力が低かったためかどうにかこらえたヴィクターさんだったが、それでも受けたデバイスがビリビリと振動し、抜けた衝撃で鎧にひびが入っている。
本物…だ…
「様々な技を使う事ができる特殊能力を持った人と戦った、とある偉い人が言った言葉があります。」
驚きに硬直する私達に視線を向けて微笑んだ女性は…
「『その程度素で出来る』…ってね。皆も王家の人達に気が引ける必要ないから頑張ってね。」
そう言ってウインクしてみせた。
冗談じゃない、チャンピオンの技をそんな理由であっさり使われて
「…舐めた…真似を!!!」
たまるか、そう思ったのと同時に、恐ろしいほど低い声が響いた。
私の感想は驚きだったのだけれど、ヴィクターさんは同じ理由で怒りを覚えたらしい。
ヴィクターさんには悪いけれど、正直少し怖かった。
Side~ヴィクトーリア=ダールグリュン
…魔力光は一人一つ、様々な色になっていたのは、わざわざ自分で彩色工程をはさんだから。
人の技を使うだけならまだしも、そこまでなんでもないことのようにやるかこの…っ!
「外式『破城槌』!!!」
告げると同時、斧の柄を地面に叩きつける。
直後、地面に雷光がほとばしって大きく砕けて裂けた。
これで新地よりは動きにくくなったはず。
「っとと。」
「ちょこまか動いて偉そうな事を!この一撃で…!?」
着地位置で私に向けて手を翳す彼女。
バインドかと警戒して…
「スペースインパクト。」
目の前で爆発が起きた。
「ぐ…っ…」
空間爆撃魔法!?
遠隔発生砲撃魔法も存在する以上、出来ない諸行ではないんでしょうけど…でたらめな!
「っざ…かしい!!!」
私は、ダメージを無視して無理矢理技を振り切った。
百式『神雷』。手加減無しの広域殲滅攻撃。
捉えれば、それで倒しきれなくとも痺れの効果を残せる。
少なくとも、ああも借り物の技で好き放題される事はないだろう。
が…
「高速…移動…」
「ふぅ…っ、結構危なかったよ。」
高速移動でも『範囲外には』逃げられないと予測したものの、彼女は雷撃の流れでも予測したのか、周囲の壊れ方の少ない場所で防御魔法を展開していた。
指向性の強い射砲ではなく、変換した雷で周囲を埋める技であるためかは知らないが…雷の流れを読みきるなんて最早人間技じゃない、感だとでも言うつもり?
届く気がしない。
こんな人を『試金石』扱いで出すような人と…ジークは…
『…ごめん、負けてもうた。』
目を伏せたジークの姿を思い出し、気力を取り戻す。
そう簡単に…折れてたまるものですか!!!
「っ!」
四式『瞬光』。
飛び込んで雷を纏った突きを放つ。
私の背側に穂先を通り過ぎるように踏み込んできた彼女。
っ…まだだ!
「外式『天道・水月』!」
アクア相手の時は、完全に背後に到達されたが、彼女の位置は脇腹を叩けるような位置。
半回転、所か300度近く回転する事になるが…
その分遠心力を込めた一撃になる、と、躊躇う事無く振り切った。
生身ではない、硬い感触。
小太刀よりも更に短いナイフが、私の斬撃を止めていた。
「お見事。」
楽しげに呟いた彼女が、ナイフ状のデバイスを握る手を動かしたように見えた次の瞬間、私の意識は切れた。
Side~高町ヴィヴィオ
「あ、あのっ!剣!剣っ!!」
「あ、しまったつい。」
思わず焦って声をかける。
デバイスを展開するまではともかく、いつもの透明の剣を展開してしまっていたから。
射撃の時にはわざわざ彩色していたのに…
「…わざとでしょう?そこまでしなくても倒せたのに。」
「殲撃に魔力を使いすぎちゃって。アレを今使うのはちょっときついね。」
雫さんの言葉にも笑いながら防護服とデバイスを解除するリライヴさん。
簡単に言うけれど、今じゃなければ連発できるんだろうか?あの空間爆撃といい、デタラメな人だ。
「王族が上位に食い込んでるからわざわざ選んでエレミアの技使ったんでしょう?怖がるほど大したものじゃないって励ましたかったんでしょうけど、正直自慢ですって。」
『こういう事を無自覚でするのがマスターなのです。』
「い、いや、よくそう言う反応されるからさすがに最近は考えてるよ?ただ、そういうマイナス思考な娘はヴィヴィオの友達だし雫ぐらいだろうしいいかなーって。」
「だれがマイナス思考ですか!それに日常的に負けっぱなしじゃへらへら笑ってられませんって!」
家では割と明るいのか、怒鳴り気味で猛抗議する雫さんってちょっと新鮮な姿が見られる。
デバイスのイノセントにまで呆れ口調で話されるあたりは、変なところで抜けてるリライヴさんらしいというかなんと言うか…
「とにかく、ばらす気でそれ使ったなら…見ても分かってない人が仲間はずれになります。」
投げやりな口調で話した雫さんが指差した先では、アインハルトさんが置いてきぼりを食らったような顔で突っ立っていた。
この手の話題に詳しそうじゃないもんなぁ…無理もないか。
「ま、予想は皆でご自由に。それじゃ私はこれで」
「アインハルト、この白いの倒せば世界最強よ、年齢区分抜きで。」
「「え?」」
リライヴさんが帰ろうとした直後、雫さんが火種の一言を放つ。
アインハルトさんとリライヴさんの驚きの声が被る。
「ちょ、ちょっと雫?あの、殲撃ホントに消費が」
「見たい人ー。」
「「はーい。」」
狼狽するリライヴさんをあえてスルーする雫さん。
リオとコロナは素直に明るく手を上げて、私はリライヴさんにあれこれやらせるのがまずいんじゃないかとか色々考えながら…
結局おずおずと手を上げた。興味に逆らえなかった。
「…では、挑戦させていただきます。」
意を決したのか、アインハルトさんが武装形態をとる。
ここまで来て渋るほど付き合いが悪い人でもなく、リライヴさんもそれに答えるように戦闘態勢になった。
「どうしてアインハルトさんと?」
折角だからともう少し戦って貰うのはともかく、アインハルトさんを名指ししたのはなんでかと疑問を抱く。
流れ的にそうなったから、と言えばいいけど、名指ししたのは雫さんだ。
命がけになるくらいだし、いつの間にか仲良くなったんだろうか?
「世界最強に拘りがあるからよ。大体ヴィヴィオは全部知ってるんだからいつでも顔出せるでしょ?拗ねないの。」
「べっ…別に拗ねてないけど…」
拗ねていると言われてドキリとする。
本当に、アインハルトさんがリライヴさんと戦える事には拗ねてるわけじゃないはずなのに。
しばらく私の顔を見ていた雫さんは、ニヤリと笑うと私の頭を撫でる。
「お気に入りの先輩の隣も取っちゃったりしないからさ。」
「ぅ…」
言われて、そっちが原因だって自覚してしまう。
恥ずかしくなって一瞬俯いて…
スパァン!と、高い音が聞こえた。
「ふぅ…格闘型でよかった。」
音に目を開くと、アインハルトさんは尻餅をついて立てなくなっていた。
顎のあたりを押さえている所を見ると、平手で頭を揺らされたらしい。
「ノーダメージでホッとしてるところ見てると、なんだか無理にでも倒したくなるわね。」
雫さんの声に、皆でリライヴさんを見て…
「そ、それじゃっ!!!」
当のリライヴさんはダッシュで逃げた。
自分の魔法でもない殲撃を今の魔力値で使ったんだから、実際に疲れてはいたんだろうけど…なんだかなぁ。
なのはママ達とスバルさん達もにこやかに倒される感じだったみたいだし、何度思ったか知れないけれど、まだまだ大変だ。
SIDE OUT
このクラスの人達、模擬戦やるにも大変そうな…