なのは+『未完の護り手』   作:黒影翼

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第三十三話・未完のまま来るその時

 

 

 

第三十三話・未完のまま来るその時

 

 

 

Side~高町ヴィヴィオ

 

 

 

毎日が本当楽しくて、すっごく変わった訳じゃないけれど、雫さんやアインハルトさんと会えていままでと見違えるように強くなれた気がして…

 

 

そんな気でいたのが自惚れだったのか、気分も何も関係なく無力だったのか。

 

 

 

 

私は今、誘拐されていた。

 

 

 

 

 

 

メインの通りから外れた日当たりのいいカフェで、インターミドル以来時々会うようになったアインハルトさんと雫さんと、三人でのんびりしていた。

普段はリオやコロナも一緒なんだけど、ミカヤさんやヴィクターさんと用事だって事でたまたま三人で。

 

 

 

雫さんがお手洗いで席を外して、そして…

 

 

一瞬だった。

 

 

狙撃気味に打ち込まれた機械から発生した強力なAMF、破壊しようにも魔力強化できない身体で金属の塊を破壊出来る訳もなく、AMF下にいる間に接近してきた車から何人か覆面の人が降りてきて、セミオートの銃を手に周囲の人に向けて『抵抗したら撃つ』と言われた。

 

その後、私とアインハルトさんは何も出来ず何かを考える間もなく車に連れ込まれた。

 

通信を弄る間なんて無くて、拘束具は車に押し込まれてから少しずつ増やされた。

そこまで念入りにしなくても、関節外すような真似なんて出来ないのに。

 

 

しばらくして、車は変形して海中に。

 

 

無い訳じゃないけど一般的なものじゃない、結構な機構だ。

 

 

「ふぅ…とりあえずはここまで来れば一安心か?」

「油断はすんなよ、今ん所追跡は無いが、管理局が動いたなら魔導師が出てこない訳がねぇ、あいつらが何するかなんざ分かったもんじゃないからな。」

 

前の席で会話する二人の声を聞き漏らさないように集中する。

うっかり漏らした言葉に隠された内容が、後で何かの役に立つ可能性だってあるから。

今更つかまった事を悔やんで俯いていても仕方ない、出来る限りの事をしないと…

 

「やっぱり強ぇ譲ちゃんだな、この状況で目が死んでねぇ。」

「何で私とアインハルトさんを?理由も聞いちゃ駄目ですか?」

「別に駄目って事はねぇな。」

 

隣で私達を見張っている人に質問を投げると、ちゃんと答えてくれた。

口調がちょっと乱暴だったけど、何故かそこまで悪い風に聞こえなかった。

 

ただ…

 

 

「高町なのはへの復讐だよ。」

 

 

たった一言だったけれど、その一言からだけは強い悪意を感じた。

 

「何故お母様への復讐でヴィヴィオさんに!卑怯な!」

「魔導師と直接当たる訳ねーだろ、そういうのは、正々堂々じゃ無くて『馬鹿』って言うんだよ。」

「…そうですね。」

 

怒るアインハルトさんを嘲笑うかのように放たれた言葉に、私は同意を示した。

下手に彼らを怒らせたくないと言う意図をアインハルトさんに伝えるためと…自分への戒めの為に。

 

『犯罪者や悲劇が、開始の合図くれると思ってるの?』

 

かつて雫さんに告げられ、否定できなかった事。

そんなもの、くれる訳が無い。だから、卑怯だろうと何だろうと対処できなきゃいけないんだ、護りたいなら。

だから、対処できずに捕まって、文句をいくら言ったって…虚しいだけ。

卑怯だとは思うけど、だからって対処できなくていいなんて事はない。

 

 

海中に入ってから数分で再び陸地に、そして地下施設の入り口のような場所に来た。

車から降ろされて、連行される。

 

施設にもAMFがかかっている上、拘束具には魔力錠。

とても力任せに引きちぎれる代物じゃなかった。

 

何階層も下った先の一室、金属で出来た重たそうな扉の中に押入れられると、質素なソファに並べて座らされた。

 

「こんな事をしてなんになると言うんですか…」

「言ったろ、復讐だって。」

「後先考えないにも程があります。私達がどうなるかはわかりませんが、この施設外で魔導師と戦えない貴女方が、管理局を敵にとって無事で済みませんよ?」

 

私がさっき止めたからか、怒るのではなく悲しそうな口調で話すアインハルトさん。

 

「後はねぇよ。」

「え?」

「捕まって、その後どうなるか…まぁ、ろくな事にならねぇ覚悟はしてる。」

 

捕まる前提でいるらしい。

捨て身で復讐なんていう彼らに、私はそれ以上何も言えなかった。

 

 

 

Side~高町なのは

 

 

 

「っ…」

 

ヴィヴィオ誘拐の報を聞いて、即座に仕事場から離れ教会と通信を繋ぐ。

直後、犯人から連絡が届いた。

 

『こっちからの要求を簡潔に伝えさせて貰う。高町なのは一人でここに来る事。それだけだ。』

 

堂々と通信を繋いで、自分達の座標まで送ってくる犯人達。ただ…

 

『言っとくが、ここにお探しの娘さんはいねぇ。要求を無視していきなり逮捕に来てもかまわねぇが…その時は、娘さんと引き換えだと思うんだな。』

「く…っ…」

 

当然ながら、そこに人質がいる訳も無かった。

聖王教会、旧ベルカ絡みの組織や団体にはある程度の目をつけていたものの、まさか『私』が狙いでヴィヴィオに手を出す人間がいるって言うのは想定外で、逃げ切られたらしい。

 

拘束されたヴィヴィオとアインハルトちゃんの映った写真と、何に使う気か考えたくもないドリルのような物が映った写真を手に笑う誘拐犯。

 

『30分以内に削り始める。すぐには死なねぇだろうが、急ぐんだな。』

「無茶な!」

『作戦とか考えずに準備すりゃ間に合うだろ?手続きの時間稼ぎはそっちの都合だ、聖王様が大事なら何でも頑張んだな!ははははは!』 

 

笑い声を最後にブツリと通信が途切れた。

 

「いきます。」

『なのはさん!?』

「いかせてください。」

 

今回はゆりかごの時のように作戦次第で世界がどうのという事は無い。

まして、ただ私を名指ししている上に、ヴィヴィオは単に娘ってだけじゃなくて聖王縁の娘。私一人引き換えに安全が確保できるなら局としても問題は無い。

 

『落ち着いて』

「落ち着く時間を作らないための時間指定です。」

『貴女が行って確実にヴィヴィオが開放される保障はないんですよ?』

「私次第でヴィヴィオが確実に危険になるなら、行く意味はあります。指定時間ぎりぎりに行くようにはします、行かせてください。」

 

私が行けば、少なくとも時間稼ぎにはなる。

それに、見失った相手を数分で探すなんていくらなんでも無理な芸当だ。

 

ヴィヴィオを見捨てる気はない。

 

今すぐにでも出ようと思い…

 

『メールです。』

「今そんな場合じゃ…っ!?」

 

呑気にメールとか言い出すレイジングハートに苛立ちをぶつけそうになって、送信者に気付いて飛びつくように開く。

 

 

速攻で助ける。高町速人。

 

 

…また頼りきり…か。

 

『どうしました?』

「ぎりぎりで出ます、助かったら連絡が入ると思うので。」

『…なるほど、彼らですか。』

 

押し殺していた焦燥感は薄れていた。代わりに、疑問が一つ。

写真にはヴィヴィオとアインハルトちゃんの姿があったけど、雫ちゃんの姿が無かった。

無事だといいんだけど…

 

 

 

Side~アインハルト=ストラトス

 

 

 

こんな事態になって、ヴィヴィオさんの方が冷静だと言う事実に軽く打ちひしがれた。

あくまで冷静に話しかけたり周囲の状況を見たり、出来るだけの事をしようとするヴィヴィオさんに沿って、私も出来るだけ冷静に勤める。

動けない以上、暴れてもいい事は無い。

 

 

そうこうして部屋に押し込められたところで、私達を連れてきた人と入れ替わるように小汚い人が部屋に入る。

顔が赤黒く、昼から飲酒でもしているようにみえる。

 

彼はいきなり私の胸元に手を伸ばしてきて…

 

「っ!」

「あで!」

 

腕はともかく、椅子に完全固定されているわけではないので頭突きを顔面に叩き込む。さすがに黙ってはいられなかったから。

 

が…

 

 

「っああぁぁぁっ!!!」

 

 

直後、意識がはねた。

ヴィヴィオさんの声が遠く聞こえた気がする状態で地面を転がる。

 

…スタンガン。

 

「お前さんはオマケだしな、手を出そうが知ったこっちゃねぇ。おとなしくしてりゃこれ以上痛い目見ずに済ませてやるよ、出来るだけな。」

「ぅ…く…」

 

普段ならいざ知らず、拘束状態で魔力も使えないとあっては頭突き程度で成人男性を気絶させられなかった。

しかも、こんな大それた事に加わるだけあってと評価するべきか、地味に鍛えてはいるらしい。

 

「何かするなら私がします、関係ないならアインハルトさんは見逃してください。」

「な…」

 

ヴィヴィオさんがとんでもないことを言い出して、私は何かしないとと思うも、麻痺した身体はすぐには満足に動いてくれなかった。

簡単に椅子と拘束されるだけで動けなくなった私の目の前で、彼は刃物を取り出してヴィヴィオさんの服を掴むと…

 

 

 

天井から…通気口から降りてきた影に首を強打されて倒れた。

 

 

 

 

「叫ばないでよ、ばれるから。」

 

 

 

 

そこには、完全武装をした雫さんの姿があった。

ヴィヴィオさんが何もされずに済んだのだからよかったのに、何故か素直に浮かなかった。

 

 

 

Side~月村雫

 

 

 

 

ああもう、どうして私はこうも…

思い上がってるのか甘いのか、自分で自分が嫌になる。

 

誘拐されたのだから、人質か実験か、とにかく即座に殺される訳じゃない。

私が単独で見張ってたって守りきってAMF範囲外まで離脱できる確率がそこまで高くない以上、殺されたりしないならおとなしく見ているべきだったのに…

 

泣きそうなのをいっぱいいっぱいこらえて無理してるヴィヴィオを見て、我慢できずに飛び出してしまった。

これで誰か死なせたら私のせいだ。

 

「し、雫さん、どうやって?」

「車の去り際にサイドミラーに映らない後部にへばりついてきた。」

 

呆然とする二人を殆ど無視して、私は刀を振るって二人の拘束を解く。

分かってたけど、おかげさまで消耗が激しすぎる。ただでさえ負荷が大きいのに、海中まで通られたから、本当死ぬ所だった。

乗り込んですぐふらついてるような状態で、施設一つから足手まとい二人も抱えて逃げられる訳が無い。せめてAMF範囲外に抜けないと…どう準備したのか知らないけど、手持ちの機器で計測する限りゆりかご級だし、ここじゃ魔導師は全員ただの人間だ。

刃物程度ならともかく、銃持ち出されたらそれだけで殺される。

 

「見張りの交代が来るまでに伝えとく事があるから黙って聞いて。」

 

時間も無く、ここは敵地。

幸いカメラの類も無く、魔法も使えない環境という事は遠隔地から覗く事が出来ないという事でもある。

見張りを倒した以上、すぐには騒ぎにはならない。

 

「一つ、私達の勝利条件はAMF範囲外への脱出か、管理局のエースまたは家の人の誰かの到着。」

 

突破か時間稼ぎ。

敵地なのに時間を稼ぐってのも妙な話だけど、AMFに上手く対処できる局のエースがすぐ来るかはともかく、家の人なら誰が来てもほぼ助かったも同然だ。私達が捕まってなければ。

だから半人前未満の私がでしゃばるべきじゃなかったんだけど…繰り返しても無駄な事と首を振る。反省も後悔も後だ。

 

途中海を挟んだけど、それまでの道の所々に髪を抜いて撒いてきたから、アクアが手伝ってくれるならインフィニティーアナライザーで経路予測も立てられるはず。

 

「時間稼ぎは見張りの交代がくるまで。そこからは突破を試みる。襲撃や施設の発見を警戒してるはずだから、出たら突っ走ったほうがいい。」

 

通路には各所にカメラが設置されてた。

ここに無いのはまぁ…さっきみたいなのを見張りついでに映像で流したくなかったからだろう。

カメラを破壊したところで、侵入者がいることは分かってしまう、出たら突っ切るしかない。

 

「もう一つ…二人はAMF外行くまではなにがあっても戦うな、最悪もう一回捕まっても。」

「それは…」

「死んだら終わりなの。おとなしくしてれば、生かしておく価値がある間は生きてられる。プライドのが大事だって言うなら今ここで微塵切りにしてあげるけど?」

 

何か言おうとしたアインハルトを封殺するようにつげ、刀に手をかける。

 

別に怒ったわけじゃない。

実際お姫様とかならたまに国の誇りか何か知らないが自害するとも聞く。

微塵切りなら死体も下手に扱われないはずだ。

 

ただ…それより大事な目的が生きてちゃんとあるはずの二人には癇癪おこして死んで欲しくないだけだ。

 

二人は殺し合いがどうのと学習してる訳も無いから、下手な事をさせるわけには行かない。

目の前で味方が死んだ時、興奮状態の奴がいたら人質とか忘れて殺しにかかってくる可能性だってある。

一方で、乱戦の中生身の人間相手にそれなりに出来る二人がいい感じの一撃を入れて、高所から叩き落したりすれば…何の覚悟もできてないまま手を汚させる事になる。相手も魔導師じゃないんだから。

 

半人前の私だって軽はずみに覚悟は出来てるなんて吐いちゃいけないことなのに、二人に関わらせるわけにはいかない。

 

殺すの殺されるのは競技者には無縁でいい、ここは私達の領分だ。

 

「…分かりました、戦いません。」

「はい。」

 

重々しい空気の中二人が返事をくれたのにホッとして、最後に移る。

 

「最後に…これ、絶対黙ってて。」

「え?あ、あの…」

 

ヴィヴィオに近づいて、キスをするように顎を上げると、さすがに動揺したのか目を瞬かせる。

私は、そんなヴィヴィオの首筋に噛み付いた。

 

「っぇ?」

「な、何を!?」

 

異常行動。

端から見ればそう見えるのは当然で、止めに入ろうとするアインハルトを手で制す。

 

あ、普通の味じゃない。やっぱりベルカ王族って何かあるんだな。専用の特殊能力とかあるくらいだし。

 

怪我でもない疲労の回復だ、献血より多い程度ですんだか。

 

「ふぅ…」

「あ、あの…雫…さん?」

 

助けに来た友人に急所を噛まれ、しかも血を飲まれたとあってはいくらヴィヴィオでも困惑するのは無理も無い。

けど、のんびりしてる暇は無い。

 

手を握る、開く、握る、開く。…うん、大丈夫だ。力は戻ってきた。

しっかり休んでないから全快には至らないけど、十分だ。

 

「…私、一般で言う吸血鬼なの。正確には色々違うけど、血で色々と回復できるのよ。」

 

怪我なんかも並を軽く上回る回復させられるし、洗脳含めた力だって多用するなら必要だ。

 

「散々魔導師を化物扱いしておいて本人コレだもの、幻滅したかもしれないけど…その辺の小言は上手く帰れたらにしてくれると嬉しい。」

「言いませんよ。」

 

きっぱりと告げたのは、アインハルトだった。

ヴィヴィオも、血を抜かれている身で頷く。

 

「雫さんが普通の身体の強度で、力で技術を駆使して戦ってた事はちゃんと知ってます。治る身体だからって無茶はしないで欲しいですけど…雫さんはちゃんと凄いです。」

 

身体能力も当然高いけど…こっちはあくまで人間の範疇。別に妖怪のように人間と桁外れに違うものじゃない。

…なんだけど、それを理由にすんなり怒らずにいられるとは。

まったく、こっちは魔導師にやりきれない気持ち抱えっぱなしだったっていうのに。

 

「アインハルト、貴女から血を飲まなかったのは、身体能力はどうしても年齢の大差が出るから、貴女がヴィヴィオを支えて逃げるほうがいいからよ。だから…繰り返すけど、下手なことはしないように。」

「はい。」

「よし、親戚頼むわよ。」

 

足音が向かってきている、そろそろ交代が来るのだろう。

 

改めて二人の顔を見て、覚悟を決める。

もうやるしかない、半端だろうがなんだろうが今戦えるのは私だけ。

護るんだ、この剣はそのためのものなんだから。

 

 

 

SIDE OUT

 

 

 




ヴィータ等も重傷負ってますが…献血とか代え利くんでしょうか(苦笑)。
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