第三十四話・開かれた扉
Side~月村雫
金属の扉を前に、鞘に収めたままの刀を手に、突きの構えを取る。
あえて目を閉じ、外からの感覚に全神経を集中…
「はぁっ!!!」
高速長射程の刺突技、射抜。
虎切を使うつもりでとった距離を余裕で埋めて来た美由希さんのアレを使って、扉ごと外の交代を吹き飛ばす。
さすが母さん特別製の鞘だ、扉は変形して吹っ飛んでるのに罅も歪みもない。
と、妙に静かな二人の方に視線を向けると、二人は揃って口を開いて呆然としていた。
「行くぞ!」
「「は、はいっ!」」
呆ける理由は知らないが、少なくとも今はそんな場合じゃない。
一気に部屋を出て…
「左です!」
右に行こうとした所でアインハルトが逆だと叫ぶ。
そう言えば目隠しされて無かったわね…ルート覚えてるのか。
「案内して、ただ、別の方に向かったら私についてきて。」
「はい!」
一から十まで来た道帰るとさすがに罠くらい敷ける。
そこまで説明しなくても理由は分かってくれたのか、素直な返事が帰ってきた。
『人質が逃げたぞ!』
「有線放送とカメラか。」
ここまでの設備を準備しておいて、むしろ無いほうがお粗末だ。
ただ、この事態を想定していなかったのか作戦も何もなくまばらに人が来る。
設備の割にお粗末だな…
「な、何っ!?」
「何だこのガキ!?」
驚きつつも銃を抜く通路の二人に、撃たせる間もなく接近。
峰打ちで足の骨を折る。
銃は…いいか。
ヴィヴィオは射撃もできるかもしれないが、魔法とハンドガンでは勝手が違う上に、さすがに反動を受ける筋力もないはずだ。
「次は」
何か言いかけたアインハルトを片手で制す。
曲がり角を曲がった先に人がいる。
こっちに来てないあたり、出待ちか。
上着を脱いで、手にしたまま飛び出す。
直後、二人がかりで射撃。
斜め横に跳躍して回避、壁を蹴って接近するも距離を埋める前に次が向かってくる。
想定済み。
手にした上着を振るって弾を受け、左手の刀を投げる。
一人の足に突き刺さったそれを抜くことなく、もう一人が銃で殴りかかってきたので手首を殴り返す。
うめき声を上げて後ずさりした男の足を容赦なく踏み砕き、顎を掌で跳ね上げて昏倒させる。
「て、てめ」
「寝てて。」
足に刀が刺さったままでこっちに銃を向けようとしていたもう一人も昏倒させて刀を回収する。
「足ばっかりですね。」
「死なせず戦闘不能にするなら足が楽だから。」
ヴィヴィオの言葉に簡潔に答えると、ヴィヴィオが小さく笑みを見せた。
別に不殺の為に殺してないわけじゃないんだけど…まぁいいか。
「階段を上った先、右、左、真っ直ぐで広間です。そこを過ぎれば…」
「広間か…」
包囲や罠を用意するなら丁度いい場所だ。避けて通りたいが、今までのがハンドガンだったからってアサルト系統やマシンガンなんかを持ってる奴がいないとは限らない。
長い直線でそんなのに出くわしたらどうしようもない。広間ならまだ…いけるか?ヴィヴィオ達は撃てないだろうし…
「よし、とりあえずそっちに。」
告げて先陣を切って飛び出す。
階段の途中では、何でか大した事ないくせにトンファーなんて持ってる奴がいた。
その手の映画とか嵌まってるんだろうか、何か気が抜けそうだ。
無理にでも気を引き締めるよう心中で繰り返し、先を急いだ。
Side~アインハルト=ストラトス
力のほぼ全てを封じられ、生身となった今になって改めて…驚きしかなかった。
血を抜かれたヴィヴィオさんの手を引いているとはいえ、戦闘まで済ませて進んでいるのに、私達はほぼ止まらず雫さんを追わなければついていけなかった。
吸血鬼…と言うものの、伝承の化物のような違い方ではなく、あっても動物同士の組成の違い程度。下手をすれば、それすら大して違わない可能性すらある。
なのに…今やっている雫さんの真似は、生身では挑戦しようとも思わないような事ばかりだった。
普通の身体で、魔導師と…兵器と戦うという事が、どれだけの事なのか、こんな状態に陥ってようやく思い知る。
知っていたけど、分かってなかった。分かっていたつもりだった。
まるで聞きかじっただけで体験したかのようなつもりで話をするような、そんな程度の間の抜けた理解だった。
広間の扉に着くと、雫さんは刀を納めて一呼吸。
一気に扉を開いて広間に踏み入った。
甲高い音が聞こえると同時に開けた視界。その先にあったのは…
二足歩行駆動兵器だった。
雫さんの剣は関節部に綺麗に入ったのに、まるで通じた様子がない。
サングラスのようなモニターが色づいて、雫さんを視界に捉え…
右腕に取り付けられたブレードを振り上げた。
速い…魔力が上手く働いても厳しそうな相手だ。
「くっ…」
間一髪で回避した雫さんは再度斬りかかるが、胴の当たりに当たっただけで結局とまる。
直後、高速の横薙ぎ。
どうにか右の刀で防いだ雫さんは…勢いよく跳ね飛ばされた。
左の背中あたりから壁に叩きつけられ、壁に背を預けずるずるとすべる雫さん。
まずい…あれは意識が…
「くっ…はああぁぁぁっ!!」
「アインハルトさん!?」
考えている間は無かった。
トドメを差そうといわんばかりにブレードを振り上げ雫さんの方へ向き直った機体に向けて、全力で拳を叩き込む。
メキ…と、嫌な感触がした。
保護も何もなしで普通の人間が金属の塊を殴れば、拳が砕けるのは当然だった。
「っ…くっ!」
攻撃を仕掛けたとみなされたのか、私に向かってブレードを振り下ろしてくる機体。
なりふり構わずバックステップでかわすと、次いで後ろ回し蹴りが向かってきた。
並の機体じゃない、避けきれない…っ!
せめて防ごうと腕を交差させ…
意識がとんだ。
一瞬か長時間かはわからない。気付けばやわらかいものに抱えられていて…
「だ、大丈夫ですか…」
「っ、ヴィヴィオさ…っぷ…」
振り返って叫びかけて、吐血する。
まずい…内臓にまでダメージがある…
例の機体は、ヴィヴィオさんを殺傷しないよう設定されているのか、私達を捕捉しながらすぐに動こうとはせず…
「こっちだ。」
機体は声が聞こえたほうへとその頭部を動かした。私も釣られるように視線を動かし…
雫さんが立っていた。
ブレードを振り上げる機体、そしてそのまま突進から超高速の打ち下ろし。
脳天に向かったそれを、雫さんはすれ違うように回避して機体の胸部に斬撃を叩き込んだ。
チャンピオンの殲撃相手にやった、半身での回避攻撃の一種なんだろうけれど、関節部でも届かないのに一番強度が高い部分なんて斬れる訳が…
「装甲が厚いって事は、壊れちゃいけないものがある…って読み、当たって何よりだわ。」
言いつつ刀を納めた雫さんが此方に向かってくると、煙を吹き始めた機体はそのまま爆発音を内部から響かせながら炎上した。
ヴィヴィオさんの手を防御越しに斬った貫通斬撃…あれなら内部の精密機器やケーブルは斬れる。
ただ、重要機関を外し、普通の部分損傷で終わったら雫さんは間違いなく殺されていた。これは実戦なんだから。
こんな状況下で冷静な上に覚悟も凄い。
「…動ける?」
軽く身体を動かしてみる。
痛むが…すぐにどうこうという事はなさそうだ。
両腕が使い物にならないけれど、本来戦うなって言われているのだから足が動けばいい。
「すみません、大丈夫です。」
「ヴィヴィオは?」
「うん、大丈夫です。」
ヴィヴィオさんにも聞き出した雫さん。
嫌な予感がして振り返ると、表情を少し歪めていた。
…私を受け止めたせいで肋骨のどこかを折ったのか。
「…すみません。」
「反省会はキリがない、血を吐くダメージのアインハルトが一番危険だから早く外へ行こう。猫の力を借りれば怪我なら死にはしないでしょ。」
高濃度AMF内の為ただの機器と化しているティオとクリスは、一応私達の懐にある。
そうだ、今悔いている場合じゃない。
すぐに先に…
「こ、このクソガキドモガアアァァァァ!!!」
丁度進行予定の扉に視線を移した時、濁った怒声と共にその扉が開かれた。
Side~月村雫
唐突に扉が開かれ、絶望的な状況を悟る。
ヴィヴィオ達の様子を見るのに背を向けていて完全に出遅れた。
咄嗟に振り返るも、到底一歩で埋まらない距離。しかも刀を抜いてさえいない。
オマケに…私達に銃を向けた男の目は壊れていた。
ああなったのは一撃で…それも急所への直撃で殺さないと簡単には止まらない。
飛針の牽制なんかは痛覚がちゃんと伝わらず役に立たない。
「いくらしたと思ってんだクソオォォ!!!」
よだれを撒き散らし血走った目の男が私達に向けた銃は、アサルトライフルだった。
死ぬ。
私一人は避けながら距離をつめて致命傷を避けられるかもしれない。
でも…
背後のヴィヴィオとアインハルトは確実に死ぬ。
当たり所も何もない、今既に重傷と失血の二人が、射撃に晒されて無事で済むわけがない。
「ぁ―」
自分の口から声にならない声が漏れた気がした直後、銃口が光を放つ。
アレが素通りしたら間違いなく二人が…
嫌だ。
踏み込みながら銃弾を右の居合い抜きで斬り払う。その間に3発の弾丸が追加。
直撃コースは一発、それを左の居合い抜きで斬りながら更に一歩。
今度は二発が直撃コース。けれど、後一歩。
二刀の鍔で弾を受け、同時に刀を手放す。
銃の発射口を右手で下から思いっきり跳ね上げ、左の拳を思いっきり鳩尾に叩き込んだ。
Side~高町ヴィヴィオ
死んだと思った。
もうどうしようもないと思った。
魔法の使えない空間だし、たまたま丁度速人さん達がやってくる位の事でもない限り終わったと、そう思った。
魔法の使えない空間なんだ、そう。
だからありえない。
フルオートの銃の弾道を見切って私達に当たりそうなものだけ止めて瞬間移動する人間なんて。
胃が壊れたのか、殴られた男の人は思いっきり血を吐いて倒れる。
雫さんは拳を叩き込んだ体勢のままで動かない。
「…何…が?」
アインハルトさんが、絞りだすように声を出したけど、目の前で見ていたはずなのに現状が分かっていないみたいだ。
でも…私は、実は本当は知っていた。
身体が、心が叫んでた。『お前はコレを知っている』と。
戦闘魔導師になるにしたってルールーと同じ中後衛系統の資質なのに、格闘技を志して進めて来た理由。
なのはママより圧倒的に低い『力』の速人さんが、なのはママを護れる、夢みたいな力。
私はそれを知っている。
だから…その負荷も知っていた。
「し、雫さんっ!」
尻餅をつくようにして崩れ落ちる雫さんを見て、私は金縛りから解き放たれたように叫んでいた。
発動時間は一瞬に近いけれど、きっと途方も無い負荷と消耗のはず。
さっきの機体に強打されて無傷で済んでる訳がない雫さんが今あんなもの使って平気なわけが…
と、思って駆け出そうとしたけれど、私もそんな身体じゃなかった。
よろけながら必死で近づく。
「はぁ…っぷ…ぁ?え?」
アインハルトさんが内臓をやられているのに、思いっきり壁に叩きつけられた雫さんが無傷な訳ないとは思っていたけど、やっぱり血を飲み込んでごまかしていたらしい。
体裁も整えなくなったらしく口の端から血を零しながら何が起きたのか自分でも整理できてない雫さんに近づく。
「今…私…」
「し、雫さん、私の血を…まだ大丈夫ですから!」
「っ…それなら私が…」
正直今戦えるのは雫さんだけ。
それを分かってる私達は、身を削るくらいしか出来ない。
雫さんは私達を見て立ち上がり…
足音がばたばたと聞こえてきた。
「…そんな暇、無いわね。」
「っ…」
素手で構えを取る雫さん。おそらくは部屋に入ってきた一瞬が勝負だと思ってるんだろう。
けれど…もう雫さんだって動ける身体じゃ…
「ま、まて」
「無理!!」
扉の向こうから、聞きなれた声とともに打撃音が聞こえてきた。
次いですぐ扉が開く。
「悪い待たせた!大丈夫か?」
「は、速人さんっ!!」
私は思わず歓喜の声を上げる。
目の前で構えていた雫さんは、そのまま速人さんの顔を見上げ…
倒れた。
覚悟や何かの話になると、冷めてるような印象すら受けるくらいの雫さんが、安心したら倒れるくらい必死になってくれてたんだ…
そう思うと、なんだかとても強く胸を打たれた。
SIDE OUT
さらっと出てますが、忍やアリシアも作るほうで色々やってます。
雫の武装は恭也のつい(以下略)