なのは+『未完の護り手』   作:黒影翼

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最終話・始まりの気持ちを手に

 

 

 

最終話・始まりの気持ちを手に

 

 

 

Side~月村雫

 

 

 

速人さんがまだそんなに忙しくなかった頃の一幕。

私は一歩も動かない速人さん相手に一太刀も浴びせられなかった。

 

「っ…手も足も出ないなんて…」

「そりゃ天下無敵のヒーローだからな。」

 

私は先人の軽い台詞に少しだけ疑問を持っていた。

こんな実力が軽口を吐く人間に身に付くわけがないのに…

 

「無敵無敵って、お父様やリライヴ相手だって危ないんでしょ?なんでそんな軽口ばっかり言うの?」

 

技量こそ尊敬するものだっただけに、剣に関わる事だけは厳しかったお父様相手に訓練されていた私は、そこだけはどうしても疑問だった。

かと言って軽いだなんだって未完の子供の私が注意みたいな真似できるわけも無くて、気になって聞いてみることしか出来なかった。

はぐらかされるかなーとも思ったんだけど…

 

「言霊、って知ってるか?」

 

意外にも、速人さんは真面目に答えてくれた。

 

「こと…だま?」

「言葉には力がありますよ、って事だよ。」

 

子供の私でも分かる、言っててそうなるのなら苦労なんてしない。

そんなの嘘っぱちだと思って…

 

「言葉の意味を知っていれば、それを具体的にはっきり想い描く事が出来る。繰り返していれば、身体に染み入るように入る。」

 

否定できない事があった。

 

繰り返して、染み込んで来る。

 

剣も、考えて振っていたんじゃ戦闘で使えない。

だから、基本の斬も、ひたすらひたすら繰り返す。

毎日毎日呆れるほどに、何も考えなくてもそうなるように。

 

「試しにお前も決めてみたらどうだ?自分の在りたい形をさ。私はお父様より強いんだーとか。」

「それ、余計悲しくなりそう。」

 

私の返事に苦笑する速人さんを横目に、私は自分の手を見る。

 

負けて負けて負けて、褒められる事もロクになくて、泣き言を言えば諦めさせられそうで…それでも、剣を諦めたくないのなら…

 

 

「私は…決して砕けない…」

 

 

その一念のみで、全ての苦難を堪え続け…あれから私は…未だに誰にも何にも届かないままで…

 

 

 

 

 

「死ねやあぁぁぁ!!!」

 

 

 

 

血走った目の男が放った射撃が、ヴィヴィオとアインハルトを撃ち抜き視界が赤に染まった。

 

 

 

 

 

「っ!…ぐっ!?」

 

飛び起きて身体の痛みに呻く。

 

 

夢?なんて悪夢を…

 

 

ゆっくりと、何があったかを思い出す。

 

 

「こらこら、まだ寝てなさいって。」

 

聞こえてきた声に視線を移すと、ベッドの隣の椅子に母さんが座っていた。

 

「普通に病院に行く訳にもいかないし、シャマル先生に診て貰ったんだけど、大丈夫だって。」

 

私の身体なら大概どうにかなるし、それよりもっと大事な事がある。

 

「ヴィヴィオとアインハルトは?」

「二人とも無事よ。」

「犯人達に死人は?」

「一人完治に時間がかかりそうな人がいたけど、誰も死なずには済んでるわ。」

 

聞きたかった事に素直に答えてもらえて、私はようやく一息吐けた。

息を吐いて、ベッドに身を預ける。

 

「今日くらいは休んでおきなさい。まったく、冷たい振りしてる割に優しいんだから。」

「別に…」

 

横になった状態で頭を撫でられて顔を逸らす。

そんな褒められたものじゃない。

 

「それじゃ、恭也も後で来るからゆっくり休んでなさいね?」

「…うん。」

 

とりあえず、終わったんだ。

私は大きく息を吐いて目を閉じた。

 

 

 

Side~高町なのは

 

 

 

アインハルトちゃんのお見舞いを済ませ、雫ちゃんの部屋へと足を向けようとした時、速人お兄ちゃんと恭也お兄ちゃんにばったりあった。

私はお兄ちゃん達にお礼を言って謝る。

 

「ごめんね、ヴィヴィオの事で雫ちゃんに無茶させて。」

「お互い様だ。それに、コイツがとっととついていれば誰一人怪我なく済んだんだがな。」

「面目次第もございません。」

 

恭也お兄ちゃんの淡白な台詞にしゅんと肩を落とす速人お兄ちゃん。

けど、速人お兄ちゃんに落ち込まれたら私はどうすればいいのやら。

私の事でヴィヴィオが捕まって、挙句ヴィヴィオ救出に関してはろくな事ができなかった。

せいぜい後から速人お兄ちゃんの飛行を許可して報道規制かけたのと、私を呼び出した側の残りを逮捕出来ただけだ。

 

「アクアにも礼はしといてくれ。今回は正直アイツが笑いながら寝込むまでインフィニティーアナライザー使ってくれたおかげだ。」

 

20分もしないうちに海経由で逃亡した犯人の潜伏先を暴くなんて真似、あれが無かったら出来るわけがない。

勿論、それまでの逃走ルートから犯人達の思考を読む必要があったわけで、雫ちゃんが残してたと言う髪の毛が無かったらそれすら分からず難航していたらしい。

たまたま一緒にいただけとはいえ、雫ちゃんの力が無かったら今頃どうなってたか…

 

「所で、アインハルトちゃんから聞いた話だから、ちゃんとあってるか分からないんだけど…」

 

半信半疑のままだったけど、だったら尚更剣の師である恭也お兄ちゃんには伝えておく必要がある。

 

「雫ちゃんが…目の前で消えたって。」

「は?え?本当に?」

 

速人お兄ちゃんが目を瞬かせてそう聞いて、無理に笑わない限りポーカーフェイスが板についてる恭也お兄ちゃんすら目を丸くする。

身体強化が無いって言ったって目は自分のものだし、高速移動魔法相手ならともかく、普通の人間をアインハルトちゃんが見失うなんてありえない。

 

「それってやっぱり…」

「…しかないよなぁ。おいおい…アイツ自信なさそうだったのに一足飛びかよ。」

「別に褒められた話じゃない。だが…」

 

一人きつい事を言う恭也お兄ちゃん。けれど、その表情は珍しく笑顔だった。

 

「自分の危険を割り切るアイツが、ただ使えるようになるわけが無い。」

 

割り切る。

大人になるにつれて時に必要になる、心を切る行為。

ただそれは…過ぎれば蓋や足かせのように、先に進む可能性を断っていく。

 

負けたくないって強い気持ちが競技選手を体の限り立ち上がらせるように、雫ちゃんも…

 

「強くなるのに必要なもの…見つかったみたいだね。」

「らしいな。全く、兄さんが堅物でなけりゃこうまで時間もかからなかったろうに。」

「いつ何処で刀を振るうか分からん治安で、軽い気持ちで守るなどと喋らせておけるか。」

 

速人お兄ちゃんに横目で睨まれた恭也お兄ちゃんは、私達に目を合わせないままで言い訳のように話す。

 

Js事件からなにから、魔導師や組織が犯罪を犯すとどうしても大規模になってしまうこの世界で、雫ちゃんが巻き込まれない保障は無い。

その時、誰かを斬って笑いながら、護れたと手を叩いてはしゃいでいるような事があったらと心配になるのは分からなくもない。剣を手にするなら、恭也お兄ちゃんが甘いこといえる訳が無い。

 

とはいえ、その結果厳しすぎて、結構過酷な日常送って来た筈のアインハルトちゃんすら甘いだ何だと評価するようなきっつい娘になっちゃって。

嘘を教えた訳じゃないとはいえ、いたたまれない気持ちはあったみたいだ。

 

「この鬼は直りそうもないし、俺は俺で甘すぎるって思われてるからさ。お前から教えておいてやってくれ。」

「任されたよ。」

 

自信満々に胸を叩いて答えて見せる。…表層くらい。

 

今回私が出来た事は、ヴィヴィオ達が助かったと報告を受けて、呼び出された先にいた人たちを捕まえる位のことだけだった。

武装隊は調査班が見つけた場所に急行するような形で動くし、インフィニティーアナライザーで見つけた位だから、準備、指揮の必要な局員が先回りなんて出来ないのも無理ないんだけど…

 

うん、無茶しない程度に頑張ろう。

何度思ったか知れない誓いを新たに、私は雫ちゃんの病室へと足を向けた。

 

 

 

Side~月村雫

 

 

 

なのはさんが私の病室に顔を出す。

忙しいだろうに…

 

「ありがとね。ヴィヴィオを助けてくれて。」

 

笑顔のなのはさん。

その言葉があまりにも意外すぎて、私は俯きがちだった顔を勢いよく上げた。

 

「どうかした?」

 

私の反応が意外だったらしく、首を傾げるなのはさん。

あぁ…全くこの人は…本気で私の心配をしているのか…っ!!!

 

 

 

「何を呑気な事をっ!私はヴィヴィオ達を殺しかけたんだぞ!!!」

 

 

 

身を裂くように全身を包んでいた自責の念を、少しの怒りに乗せて叩きつけるように叫んでいた。

本職の…命を実際預かる管理局員が、気付いてないなんて馬鹿な事は有り得ない、あっていい筈が無い。

 

「半人前がいきがって、自分に夢見たいな力があるって勘違いして、そうして飛び出した結果、二人に怪我を負わせた。それだけじゃない、まぐれで切り抜けられたけど、ぼろぼろの状態で銃を向けられたあの時、私達は本当は殺されていた。おとなしく待っていれば助けがこれる状態になっていたのに!!」

 

思い上がりで失いかねなかった二人の顔を思い出すと、手先が震えてさえ来る。

大人で実際に命を預かる仕事についてる癖に、こんな事を注意もせずに感謝なんて馬鹿な事が何で…

 

 

「本当に?」

 

 

なのはさんから、静かに問いが投げかけられた。

目が据わってる…って訳でもないけれど、さっきまでの笑みは消え、私を真っ直ぐに見てくる。

両肩をつかまれ、顔が近づく。

 

「本当に調子に乗って剣を振ったの?戦いたくて?目立ちたくて?」

 

怒ってるって様子が無いのが、逆に怖かった。

特殊能力があるとかそんな訳じゃない筈なのに、心を見ようとしている瞳が見辛かった。

 

私は目を閉じて顔を背け、呟くように言う。

 

「命を背負える強さなんて無いくせにでしゃばった人間が、そうでなきゃなんだって言うの?」

 

溜息を吐きながら、私の肩に置いた手を離すなのはさん。

平手打ちでも飛んでくるかと思って目を開いて…

 

 

 

 

「守りたいもの…ありますか?」

 

 

 

 

優しい笑顔のなのはさんに、そんな質問を投げかけられた。

質問も、その優しげな表情も予想外すぎて、私は何も答えられなかった。

 

「はぁ…全くもう。」

 

呆れたような溜息を吐いたなのはさんに抱き寄せられて、頭を撫でられる。

ゆっくりと、壊れ物でも扱うかのように。

 

「強くなるのに必要なもの、それなんだ。雫ちゃん、自分で護る必要が全く無いほど周りが強い人たちばっかりだったし、勝手をするなって怒られて素直に聞いてきたから、ずっとなかったんだよ。」

 

お父様や速人さんや紫天の騎士の皆、そして、そんな皆がかなりの頻度で傍にいて、私なんか何一つ役に立てない半人前。

ちょっと鍛えてるからって思い上がらないように注意されて、それを素直に受け入れて…

 

そうしてきたからこそ、そう思ってきたからこそ、私が持てなかったもの。

 

「襲われそうだったヴィヴィオが放って置けなくて飛び出して、皆が死んじゃうと思って無我夢中で戦ったんでしょ?確かに雫ちゃんが動かなかったら命は確実に助かったかもしれないけれど、変わりに心と身体に癒えない傷が出来てたはず。私も多分…ね。」

 

頭から背中を撫でる優しい感触に、強張っていた身体や気持ちが安らいでいくのを感じる。

 

「だから…護ろうとして悪かったなんて言わないで。」

「…はい。」

 

銃を向けられ、二人が死ぬと思ったあの時感じた気持ちと、直後に出来た偉業の感覚。

その二つとも、はっきりと胸に焼き付いている。

 

 

何の為に剣を振るうのか。

 

 

今の今まで、私は剣士として大成だけを望み、それは、護りたいものを護れる力と言う『結果』だと思ってた。

 

 

決定的に、逆なんだ。

力を手にした者に成り上がり、持ってるから仕方なく護ってあげるんじゃない。

 

だからこそ強くなる為に必要なもの、護りたいもの。

その結果を得るために、『どれだけ強くなっても足りないかもしれない』と言う、際限なく強く前に進むためのもの。

 

頭の理解でなく、失うと言う気持ちを生で感じられた今になって初めて、怒るでも褒めるでもなく私を見ていたお父様やなのはさん達の気分が分かった気がした。

 

 

 

SIDE OUT

 

 

 

 

 




実際問題素人だと危ないは危ないんですが、雫は自信持たなきゃいけない方を目指して居る身なので控えすぎるのも…色々と匙加減って難しいですね(汗)
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