なのは+『未完の護り手』   作:黒影翼

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外話・鮮烈なる約束の拳(前編)

 

 

外話・鮮烈なる約束の拳(前編)

 

 

 

Side~高町ヴィヴィオ

 

 

 

アインハルトさんが痛めたのは内臓だから色々調べなきゃいけないし、雫さんは…種族の話を伏せてる関係でかやっぱり別の部屋。

私は骨をちょっと痛めたけど、デリケートな部分のダメージがそんなにないから回復魔法をかけて貰ったうえで少し休んでる感じだ。

 

そうして分けられた病室で、私は一人で自分の掌を見つめていた。

 

「ヴィヴィオ!」

「…大丈夫?」

 

様子を見に来てくれたなのはママとフェイトママ。

私はどうにか笑顔を作って二人を見る。

 

「ごめんなさい、心配かけて。」

「そんなこと…無事でホントに良かったよ。」

「だね、無事でよかった。雫ちゃんにもお礼を言っておかないとね。」

 

謝る私を前に、怪我こそしたけど重大なことにならずに済んでよかったと笑顔を見せてくれる二人。

それだけならこんな事なんて…

 

「え?」

「ヴィヴィオ?」

「え、あ、ぅ…」

 

泣く事なんてなかったのに、雫さんの名前が出て、耐えられなくなってしまった。

 

「ねぇ…なのはママ…」

「な、なに?」

「雫さんが持ってない、強くなるのに必要なもの…私…持ってるんだよね?」

 

顔を見ていられくなって、俯いてしまう。

布団を握り締める手の甲に、涙がぽろぽろと零れ落ちた。

 

なのはママも、他の皆も、いままでちゃんと護れたから、きっといつかって、そう思ってた。思ってたけど…

 

 

「何も…何も出来なかった!」

 

 

俯いて目を閉じて叫んでいた。

 

「戦っている雫さんの力になる事も!足手まといにならない事も!ただ無事でいる事すら!!!」

 

本当に何も出来なかった。

誘拐され、戦う事も出来ず、銃も下手に回避できないため刀で防いだりする破目になって、挙句重傷を負ってよろよろと。

最後来てくれたのが速人さんだったから良かったようなものの、まだ残ってた犯人さんとかだったら…

 

 

「私は…どうすればよかったの?どうすれば…いいの?」

 

 

聞かずにいられなかった。

たまにしかあわない雫さんにアドバイス出来て、私には何も言わないなんて意地悪、わざとする理由が無い。

でも、わざとじゃないのなら…

 

 

「……ごめん。」

 

 

なのはママから返ってきたのは、予想通りの宣告だった。

言わないのではなく、言えない…無い。

私は横たわって布団に篭もる。これ以上話なんて出来なかった。

 

 

 

 

 

 

ママ達と気まずいままで終わった翌日、私は雫さんに呼び出されてカゲハの片割れを受け取った。

 

守りたいもの。

 

よりにもよって、それが強くなるのに必要なものだったと言う。

正直、自分でもよく雫さんが帰るまで我慢したと思う。

 

だって…今回手に入ったって事は…その守りたいものって…

 

「え、ヴィヴィオさん!?」

「ぁ…や、そのっ…」

 

涙がぼろぼろとこぼれてた。

だめ…泣くのやめないとアインハルトさんが困っ…

 

「っ!!」

 

唐突に、アインハルトさんに抱きしめられた。

やわらかい感じじゃなく、むしろアインハルトさんも強張って震えているようで…

 

「分かってます…私だって…同じなんですから…」

「アイ…ルト…ん…」

 

無力で捕まって、必死で助け出されて、足手まといで何も出来ず…

 

 

 

私達を守ろうと必死になった結果、雫さん一人本当に先に進んでしまった。

 

 

 

守りたくて、守れるようになりたくて。

なのに、大人達ならいざ知らず、命がけの戦いで友達に守られるだけになった。

 

 

 

 

 

「「っ…あああぁぁぁぁぁぁっ!!!」」

 

 

 

 

 

泣いた。

この上ないくらいに泣いた。

渡されたカゲハの片割れを握り締めて。

 

 

 

Side~アインハルト=ストラトス

 

 

 

 

AMF機器の狙撃に始まり、無手で機体を殴って砕けた拳。

それが、この事件の私の結末。

 

『無理ね、貴女は何も守れない。』

 

全力で守られた。

私達を守るために死力を尽くした友人を前に、敵を討つ、人を傷つける役も任せきりで、悪事の解決と言い訳にせず背負う人を前に。

 

何一つ出来なかった。

しかも、当の雫さんは、私達を守るために限界まで超えた。

最後見たアレは今までの雫さんに…と言うか、人に出来ていいことじゃなかった。

 

一気に突き放された。

 

ヴィヴィオさんに至っては、お母様の為の人質としてさらわれたのだ、そのショックは私より大きいはずだった。

だから泣いた。とにかく泣いて…

 

 

「アインハルトさん…そろそろ離して貰えると…」

 

 

ひとしきり済んだ後、今の構図に気付く。

 

一回り小さな友人を全力で抱きしめている私。

クラウスの記憶も相まって、私は大慌てで離れた挙句尻餅をついてしまった。

 

私の様子を見て硬直したヴィヴィオさんは、少しして口元を隠して肩を震わせる。

笑いをこらえている事に気付いて慌てて立ち上がってスカートをはたく。

 

「アインハルトさん、ちょっと提案があるんですけど。」

 

涙を拭って、いつもの少し強い意志を持った優しい瞳に戻ったヴィヴィオさん。

 

「雫さんに追いつく提案なら、いくらでも。」

 

私とヴィヴィオさんは、カゲハを握った拳を軽くぶつけて頷いた。

 

 

 

 

ヴィヴィオさんからの提案は、次の…来年のインターミドルまでを、先の2ヶ月のペースで修行しようと言うものだった。

もとより手抜きなどする気は無いし、ノーヴェさんが組んでくれたメニューに従っていた時のペースなら、体に不調が起きる可能性も低い。

私は二つ返事で了承したのだが、ヴィヴィオさんの方に問題が一つ。

かつてお母様が無茶をして大怪我をしているため、勝手にはやれないので許可を取る、とのことだった。

私の方は元々覇王流の鍛錬に関して苦情が出る謂れはなく、何の問題も無い。

 

 

目を閉じて、思い返す。

忘れられないし、忘れてたまるものか、と言う思いもあった。

 

AMFの結果機能していないデバイスには、当然記録できていなかったあの光景、雫さんが、目の前で消えて弾を切り裂いていったあの光景。

 

 

アレは生身の人間がとかでなく、人の器で出来ていい業ではなかった。少なくとも、私の知る限りでは。

 

私の知る限り…『覇王の記憶』を持つ私が知る限りを以ってしても…だ。

 

次会うのがいつになるのか分からないが、雫さんと並び、超えるつもりでいるのなら…並大抵の事ではすまない。

 

破ってみせる…必ず。

 

 

 

Side~高町ヴィヴィオ

 

 

 

「お願いしますっ!!」

 

ちょっと無茶の過ぎる提案だし、ノーヴェの力も借りられないとなると、記憶にあるメニューを状況に合わせて自分で弄らないといけない。

ノーヴェだって忙しいし。

 

だからまぁ…あんまりいい反応は期待できなかった。

顔を上げてみたなのはママは、優しい笑みこそ浮かべていたが、魔法の話をする真面目な瞳で…

 

「私が、ヴィヴィオが雫ちゃんに追いつく方法を答えられなかった理由なんだけどね。」

「それはその…ごめんなさい。」

 

追いつけないのは私が悪いだけで、そもそも捕まったのから迷惑かけっ放しな訳で。

なのに拗ねちゃったので謝ったけど…

 

「答えようがなかったんだ、私も…追いつけてないから。」

「ぁ…」

 

寂しそうに言ったなのはママに、さっきよりかえって悪い気分になった。

 

そうだ、答えられる訳が無い。

本来頼るべきじゃないのを知っていながら、速人さんに頼らなきゃいけなかったなのはママが、自力で超えたい人を超える方法なんて知ってたらとっくにやっている。

 

俯きかけた私の鼻を、指先で弾いて顔を上げさせるなのはママ。

 

「へぅ?」

「…だからね、色々試してみたいって言うなら止めないよ。」

 

そう言ったなのはママは、とっても嬉しそうだった。

 

「前に進もうって時に俯かないの。頑張って…頑張りすぎなら止めるから。」

「あはは…」

 

 

 

 

 

 

そうして…修行してく事になったんだけど…

全く黙ってるってわけには行かなくてノーヴェにもちゃんと話をしたら、忙しい中面倒を見るって買って出てくれて、リオやコロナにも、対戦相手はいたほうがいいだろうし二人だけずるいって二人まで一緒になった。

 

スパーの相手が必要って暇を見ては知り合いの参加選手やママ達が試合してくれて、ぼっこぼこにされてもへこんでる暇も無かったりして。

誘拐の一件から引きずって始めた事だからって生身でも訓練しようとしてママやノーヴェに怒られたり。

 

そんな日常を繰り返して…

 

 

 

 

インターミドルを迎えた。

 

 

 

 

「はあああぁぁぁっ!!!」

 

 

縮地にこそなってないものの、一歩で距離をつめてきたリボン選手に剣の間合いで連続攻撃を仕掛けられる。

 

秒間何閃なのか数えてみたくなるようなとんでもない速度の剣閃をどうにか捌きつづける。

セイクリッドディフェンダーのノリで防御意識さえ持って受ければ私でもノーダメージでガードできる威力の斬撃ではあるんだけど…この数だと両手ですらガードと回避に回り続ける破目になる。

 

「ここまで圧倒的な手数で勝ち進んできたリボン選手の斬撃の雨を前に防戦一方のヴィヴィオ選手!踏み込めば届く一歩が埋まらない!」

 

去年は雫さんに負けたリボン選手だけど、どれだけ鍛えたらそうなるのか剣の斬り返しが全く止まらない。

エリートクラス4回戦、彼女はここまでを殆ど瞬殺に近い形で済ませてきたんだ、強いに決まってる。

 

額を剣が切り裂く。よろけた私に向かって止まらず続いた一撃を…

 

 

 

弾き飛ばした。

 

 

 

「な…くっ!!」

 

武器を弾かれて、普通引きたくなるタイミング。

けれど、リボン選手はそれだとつめられると判断したのか、手刀で私を狙う。

 

凄いと素直に思った。けれど…

 

 

今の私が拳が届く距離で素手の剣士に負ける事は無かった。

 

 

 

Side~アインハルト=ストラトス

 

 

 

別会場の為映像で見ることになったヴィヴィオさんの戦い。

無事に勝利して見せたヴィヴィオさんの姿を見て、私は安心と敬意を覚えた。

 

防ぎきるもかわしきるも到底不可能事に近い数の斬撃に身を晒して、ほぼ全てを捌ききってたった1ラウンドで見切ったヴィヴィオさん。

見る限りリボン選手の剣は予選で済む戦力じゃない、それをああも軽く破れるなんて。さすがに並じゃない。

 

此方も油断は出来ない、先に進むためにここを乗り切らなければ。

 

 

「よぉ覇王っ子!調子いいみてぇだが、ここで終わりにしてやるぜ!!」

 

いつか会った通りの様相で現れたハリー選手。後押しするように響く声援が、彼女の立つ位置を示しているようにも見える。

 

 

丁度いい。

どの道以前のままでいるわけには行かなかったのだから。

 

私は静かに一礼だけすると、定位置につく。

 

「相っ変わらずっつーか、更にテンション低くねぇか?」

「すみません、こんな所で止まっている訳には行かないので、全力で先へ行かせていただきます。」

「へっ!やれるもんならやって見やがれ!」

 

さすがに何も言わないのもアレなので、宣言だけ済ませて構える。

 

 

「レディ・セット・ファイト!!!」

「ぶっとべぇっ!!!」

 

 

開幕直後からのハリー選手の代名詞、ガンブレイズ。

手加減抜きのそれに私は真正面から突っ込んだ。

 

 

「なんだ?あっけなく喰ら…なっ!?」

 

爆炎にさえぎられて姿なきまま聞こえてきていた声が驚きに変わる。

砲撃を直撃寸前に殴って、消すまでには至らないが凌いだのだ。

 

そして、そのまま無かったことのように接近。

 

「ちっ!」

 

去年晒しているからか、問答無用で延びてくる鎖、レッドホーク。

私はそれを右腕で絡めとりながら、更に距離をつめる。

 

「無茶苦茶だなおいくそ!!」

 

鎖がひっぱられ、張った瞬間に腕をすばやく強く引き腰へ。

鎖は引きちぎれ、私は打撃の体勢になる。

 

「戦車かテメェ!」

「はあっ!!!」

 

 

断空拳。

鎖を纏ったままの重さをのせた拳で、お構いなしに全力で拳を振るう。

思い切り鎖を引いた左手はガードに使えず、右腕でガードの体勢を…

 

とった腕ごとへし折って吹き飛ばした。

 

 

リング外へ吹っ飛んだハリー選手。だけど、あの耐えることで有名な彼女がコレで終わるはずも無い。

右腕は勿論、砲撃の余波で焼かれた身体に全身火傷のエミュレートが痛みを伝えてくるが…無視した。

 

こんなもの、『痛く』ない。

 

「っ…の、ざけんな、この程度で終わっかよ!」

「知っています。」

 

折れた右腕を押さえながら上がってくるハリー選手。そして、少しのやり取りの後試合再開の合図が聞こえ…

ちぎれた右腕の鎖が腕から離れ、身体ごと縛りにかかる。

 

「くたばりやが」

「破城槌!!」

 

身体に纏わりついた鎖を引きちぎりながら地面に左腕を叩きつける。

遠隔発生しかけた砲撃ごと、地面が砕け散った。

 

そして、砕けて小石状になったリングの破片を右手で掻き出すようにして、ハリー選手に向かって投げ放った。

散弾のように飛んでいったそれをガードするハリー選手。

 

そのガードの間だけあれば、十分だった。

 

飛び掛って、上から顔面に向けて左拳を振り下ろす。

叩きつけるように地面を転がったハリー選手は、そのまま動かなくなった。

 

 

「ありがとうございました。」

 

勝利宣言を受け、私は開始前同様に一礼だけしてリングを去る。

ヴィヴィオさん達につく必要があるノーヴェさんに代わり、今回も私についてくれたウェンディさんとディエチさんが、私の様子に少し心配そうにする。

 

「余裕…って感じでもないっスねぇ、大丈夫っスか?」

「はい、ティオもいますし。」

 

エミュレートはそれなりに痛かったし、解除されたから全回復、と言うわけでもない。

それでも、揺るがずに告げた。

 

 

こんな傷の痛み、あの約束の日に比べたらなんでもない。

 

 

きっとヴィヴィオさんも同じ事を思っているだろう。

手にしたカゲハに祈るように、私は目を閉じた。

 

 

 

SIDE OUT

 

 

 




と言うわけで、ヴィヴィオ、アインハルトのお話がもうちょっと続きます。
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