外話・鮮烈なる約束の拳(後編)
Side~高町ヴィヴィオ
左足の痛みをこらえながら、爆煙の中を見つめる。
折れ…ては居ないけれど、今ハードヒッターのアインハルトさんに距離をつめられたら到底回避しきれない。
正直、よく保ったと自分で思う。
ノーヴェとこなしてきたメニューの中、ようやく最近入れるようになってきた、色々とスローモーションに見えるくらいの集中状態。
戦術も何も、全部見えるから打ち勝てると言えばそうなんだけど…
連続1分続けばいいほうだった。
実戦なら、接敵した一瞬や、弾幕が迫る一瞬に分けられるから消耗も少ないんだけど、アインハルトさんはそれを知っているからか、自分のダメージを無視するような勢いで攻め手を維持し続けた。
見えたところで、かわせる身体がなかったら意味が無いため、必死でそれを捌き続ける。ボディなんか間違っても喰らえなかった。
それで1ラウンドをしのいだ頃には限界近かった。
気休めばかりに1分ずっと何も考えずに目を閉じていたけど、それで全快する訳も無くて…とうとう足をやられた。セイクリッドディフェンダーを使って防御に回るのまで読みきられて。
でも…そこまでは私の『予想通り』だった。
アインハルトさんに破れない訳が無い、だって…あの日見た雫さんを超えようとしてるんだ。まだそこまでは辿りつけてない私位、アインハルトさんが超えられない訳が無い。
だから、ここに一手が必要だった。
いくら状況をひっくり返して油断があったとしても、バインド射砲はハリー選手のそれすら突破する今のアインハルトさん相手に望み薄。
だから…覚えておいたリライヴさんの空間爆発魔法を使う事にした。
どうやらなのはママに教えるつもりで作ったらしく、ママの魔法をいくつか覚えてる私には比較的扱いやすかったのだ。
ただ…
『あーっと!アインハルト選手!拳を叩き付ける様にして立ち上がる!彼女は不死身なのかッ!!?』
これは予想外だった。
あれだけ耐えに耐えてようやく得られた攻撃のチャンスなのに、攻め手にって意識は防御の意識を薄れさせるものなのに、アインハルトさんはきっちり防御態勢をとっていたのだ。
それは私を甘く見ていなかった、とことん警戒してくれた、ある意味で最大限の賛辞なんだけど…
…まいった、どうしよう。
ダメージは足だけとはいえ、何時間も勉強した後みたいに頭が煮えてるし目も開きたくない。無理な反応速度に付き合って動いた身体の疲労も半端じゃない。
全くもう…ホント、どうしよっかこれ。
Side~ミウラ=リナルディ
皆が騒いでいた。
明らかな劣勢が狙った流れだったと言わんばかりのアインハルトさんのクリーンヒット。
足を奪われたのに動揺することなく、ここへ来て新魔法を撃ちだすヴィヴィオさん。
二人とも客席の誰も想像つかないような展開をやってのけたのに、まだついていない決着。
騒ぐのも無理なかった。だけどボクは…
「笑ってる…」
ヴィヴィオさんが笑っていた事が一番驚いた。
あの魔法、決め球のつもりで撃った筈だ。立ち上がってきたアインハルトさんを見て、これまでと違って本気で驚いていた。
なのに…その後になって、笑っている。
ボクと戦ってた時と同じに、あるいは…
まるでアインハルトさんが立ち上がってくれた事を心底喜んでいるように。
「去年の事件の後ね、物凄く泣いてたんだ。ヴィヴィオは隠してたけど、目元見ればすぐ分かるくらいにね。」
「二人とも、見てて時々辛くなるくらい必死でさ。」
一緒に観戦しているコロナさんとリオさんも同じ事に気付いたのか、笑顔を見せていた。
「鏡あわせみたいに強くなってきたんだもん、予想以上に強くて嬉しいんだよ、きっと。」
笑顔のまま構えたヴィヴィオさんに驚く様子も無く構えるアインハルトさん。
あまり表情に動きの無い人だけど、ヴィヴィオさんが笑った事に驚いていないのが、同じ気持ちだって証明してる気がする。
なんにしても、コレがラストだ。
Side~高町ヴィヴィオ
再開直後、再び空間爆撃を狙う。
魔導師なら発生までの溜めの間に発生点を感じる事が出来るのが欠点で、この魔法を知ってる人なら、奇襲でもない限りバインドを読むのと同じように発生位置を読むことが出来る。
直接攻撃系のため、隠すのもままならないし。
だからって、爆心地を拳でなぎ払う事で爆発を切り裂いて突っ込んでくるのは予想外にも程があるけれど。さすが破壊不能の移動要塞。
「はあっ!」
容赦なく飛んでくる左拳。
ステップも出来ないし、私はそれを右手で受けて…流した。
踏み込めないなら、アインハルトさんの方を引いて近づく。
あいた懐に向かって左腕を伸ばし…右肘でガードされた。攻勢防御だ。
でも残念、掌でした。拳と違ってそう簡単に砕けない。
「掌底!?」
「せいっ!」
さっき左拳を流すと同時に引いた右拳。それを勢いよく顔面目掛けて…
アインハルトさんが突然形相を浮かべた。
嫌な予感がしたけど、振った拳が止められるわけも無く…
直撃したのに、アインハルトさんは動かなかった。
形相って言うか、首とか顔周辺に思いっきり力込めたんだ。堪える気で。
「っはぁ!」
ズドン、と、何か受けちゃいけないものを受けたような衝撃が身体に走る。
攻撃喰らった直後で体勢安定してないはずなのに…アインハルトさんの右拳を脇腹に受けた私は、押されるように一歩下がる。
「覇王…断空脚!」
全てを潰す左足の一閃。けど!
右腕で受けて押し戻されるも堪える。セイクリッドディフェンダーがある限り、動けなくったってタイミングさえ見違えなきゃそう簡単に!!
「って…ぁ?」
止まれずにぐらついた。
左足に今の衝撃を支えきるだけの力が…耐えられるだけの力が残ってなかったらしい。
そんなことに思考を取られたのも一瞬、既にアインハルトさんは次を放っていた。
全弾断空って…もうお構い無しと言った所だ。
事実、かわしきる事なんて出来ないし、受けて吹っ飛ばされても立て直す足が無い。
当たれば何処でもかまわないとばかりに、体の真ん中目掛けて向かってくる右拳。
そして事実、次直撃なんて受けようものなら終わりだった。
まだだ…まだ―まだ終われない!!!
普通には止められない。なら、防がない。
向かってくるアインハルトさんの拳、その先端。
ただそこだけを狙って最短距離で左手の甲を走らせる。
拳を逸らすと同時、左足の痛みを堪えて右足を一歩踏み込んで…一閃。
アクセルスマッシュ。
得意技にして代名詞。今回も何度も放ってきた意識を刈り取るそれを叩き込む!
拳があごを捉え、アインハルトさんの頭が跳ね上…
首を上に向けた体勢で、アインハルトさんは止まった。
カウンターは、攻撃中や攻撃直後の刹那を狙う事で、意識もしてない所で直撃を受けることで完璧、かつ最高の形で成立する。
逆に言えば、見えていようがいまいが、攻撃を喰らうと思ってる人相手にはどうしても性能が落ちる。
けれど…まさか…ここまで来てまだくらう前提でいたの?
私自分で今の出来たの信じられないって言うのに。
私どれだけ高評価なんですかー!!!
右脇腹に何かがめり込んだような感触と共に私は地面に転がった。
Side~高町なのは
忙しくなってきている仕事に無理矢理間を作って見に来た試合で、私は溜息を吐いた。
まいった。
下手したら本気で私より強くなっちゃったんじゃないだろうか?
少なくとも、二人とも地上戦はやる気がしない。
それにしても…ねぇ。
『ダ、ダブルKOっ!!?な、なんという幕切れだーっ!!!』
あまりの結末に苦笑してしまう。コレはあまりに仲良すぎじゃないだろうか。
反撃まで繰り出したものの、さすがに貰いすぎだったのか、もたなかったアインハルトちゃんは、ヴィヴィオと一緒に背中からばったりと倒れこんだ。
仰向けで眠ってしまって、二人ともピクリとも動かない。
最後の一撃、ちょっと深々とめり込んでいたし心配だな…フェイトちゃんには悪いけれど、見に来てなくて良かった。卒倒してたかもしれないし。
私は運ばれるだろう部屋に様子を伺いに行こうと思って席を立つ。
と、道中で噂程度に知ってる上位選手達の集まりを目にする。
別にミーハーとかってわけじゃない。ただ様子がちょっと変だったから。
フードを深くまで被った娘が、心配されているけど全く動かなかった。
そう言えば、仲がいいと聞いてるメンバーにチャンピオンの姿が見え…あ。
フードの彼女がそうなのだと気付いた所で、私は状況を察した。
二人どっちとも戦えなくなっちゃったんだ、チャンピオン。
親馬鹿のつもりはない私がちゃんと驚かされた位なんだ、戦いたかったんだろうなぁ…
ちょっと不憫に思いつつも、さすがに今はそれ所じゃないから、私は再び歩き出した。
Side~アインハルト=ストラトス
「全く、無茶するものじゃないよ。」
「す、すみません…」
ダブルKOと言うなんともいいようのない結果はさておき、クラッシュエミュレートですまなかったらしいヴィヴィオさんのダメージを聞いて、いてもたってもいられず飛び出そうとした所で、私はぐらついて倒れた。
直撃を堪えたとはいえ、散々頭を揺らされているので、ヴィヴィオさんと同じく私も安静らしい。
それでも頼み込んで、両腕をウェンディさんとディエチさんに掴んで貰ってヴィヴィオさんの下に向かった。
何を言えばいいのか、どう言えばいいのか、奇妙すぎる結果に困惑しながら扉を開いて…
涙目のヴィヴィオさんの姿に一瞬とても申し訳なくなり、次いで頭を押さえて呆れているノーヴェさんの姿に戸惑う。
「あの…何が?」
「…ダブルKOって聞いた瞬間、肋骨折れてるの忘れて大笑いしやがって。それで腹筋とか動かしすぎて痛みに悶えてんだよ。呆れてものも言えねぇ。」
「そ、そこまで言わなくても…アタタ…」
私が負わせた怪我が原因であるものの、なんだか深刻にもなりきれない事情だった。
「さてと…ヴィヴィオと話したくて来たんでしょ?」
と、傍らに座っていたもう一人が、ヴィヴィオさんのお母様である事に声がしてようやく気付く。
「すみません…」
「試合だったんだから気にしないの。ね?」
「…はい。」
当のお母様に笑顔で言われると少し躊躇うものがあったが、それでも恥じるものでもないのは確かなので素直に頷く。
「…それじゃ、私達は出てるから。」
「へっ、あ、ちょ、なのはさん!?」
座っていたノーヴェさんの手を取ると、ひらひらと手を振りながら軽い挨拶で済ませて部屋を出る。
その様子を見たディエチさんとウェンディさんも、私を椅子まで座らせると、後に続くように出て行ってしまった。
雫さんとのやり取りと、その後のやり取りは、特に誰にも話していない。
かいつまんだ程度の話ならともかく、大泣きして抱き合ってたんだから色々話し辛い。
結果何も話せていないから、秘密の話も出来たほうがいいと気を使われたのだろう。
「あはは…」
何もかも言い辛い。
どちらかが勝っていたのなら、次への抱負や全てを託す意味でも、伝えたいものは山ほど出来る。
でも、こうなってしまうとどうしたものか。
ヴィヴィオさんですら笑うしかない状況で、私に話が浮かぶはずも無く…
「…届き…ましたかね?」
ポツリと、呟くように漏らされたヴィヴィオさんの言葉は、どこか寂しげだった。
きっと、分かっているから。
「まだ…でしょうね。」
私は目に焼きついたあの光景を思い返して搾り出すように告げる。
あの時の雫さん、あれはきっと、ヴィヴィオさんの本当の目標。
けれど、ただ集中力があるばかりではあの速さは説明がつかない。同時に、終わった時の急激な消耗も。
ヴィヴィオさんの辿り着いた異常な集中状態は確かに凄い。けれど、1分近く続く…逆に言えば、1分続けていられる程度の『濃度』の力。
それはまだ、追いつけていない証明なんだろう。
一方で私は、同じ域に入るのは困難と思い、破る事に徹したけれど…
雫さんと相対した場合、きっと貫通斬撃をかわしきる事が出来ずに喰らって終わる。
ティオの力を使えば何度かは傷口を塞いでしのげるだろうけれど、失血まではどうにもならない。
「でも…無理も無いですよね。身体が治るからって、痛みそのものまで軽くなる訳じゃないのに、学校にちゃんと行ってる私達でも大変だった量以上鍛えて過ごしてきたんですから。」
焦って欲張ったのかと思ったんだろう。
けれど、私は首を横に振った。
「この刃を託された身として、何が何でも追いついて見せます。友として…」
同じ道ではなくても、同じ高さで。
庇われ、護られ続けることなく、私達なりに彼女と並べるように。
ヴィヴィオさんにもそうあってほしい。勝手かもしれないけれど、そう思って…
「勿論。焦らないってだけで諦める気は無いですよ、私も。」
痛むだろう身体で、拳を伸ばすヴィヴィオさん。
「これからも一緒に頑張りましょう、ね?」
「…はい。」
応えるように私は拳を打ち合わせ…驚いているヴィヴィオさんを見て初めて気付く。
微笑んでしまっていた。
慌てて手を引いて顔を隠す。そんな私を見て、ヴィヴィオさんは優しく笑った。
「今、私と互角なんですよ?ちょっと位誇ってくれてもいいじゃないですか。」
「ヴィヴィオさん…」
余裕…なんてなかった筈だった。
でも、あの時…決め球だったはずのあの空間爆撃から立ちあがった私を見て…驚いてから、笑って見せた。
強がりでもなんでもなく、心から。
浮ついていればいいとも思えない。けれど…
なんだか、最後まで笑顔になれなかったことが、弱さの証明のような気がして…
「はい。」
今くらい、素直に応える事にした。
保険で弱い証明をし続けていても仕方ない、素直に笑えるようにと言うのなら、今笑って後悔しないよう強くなっていけばいい。
「よしっ、写真ゲット。」
「え?…あ。」
クリスもティオもスリープ中で完全に油断していた私を前に、カゲハを手に笑うヴィヴィオさん。
い、今くらいいいって思ったけどそんな保存されるのはちょっと…
「秘密にはしておきますけど、消しませんからね。次雫さんに会ったら見せるんですから。それに、強くなるなら笑っててもいいんでしょう?」
邪気のない満面の笑みを見せるヴィヴィオさんを前に、私は何も言えず恥ずかしくなって顔を逸らす。
なんだか、こういう所では一生敵わない気がした。
SIDE OUT
格闘ゲームだと再戦になったりしますが…
双方ズタボロで倒れた直後、『決着つけるのにもう一回!』って無茶ですね(汗)