なのは+『未完の護り手』   作:黒影翼

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幕間・一枚上手の大人様

 

 

 

幕間・一枚上手の大人様

 

 

Side~ティアナ=ランスター

 

 

「ねぇ、雫、ちゃんと戦ってくれると思う?」

 

雫の凄惨な戦いから数日後、あたしはスバルとノーヴェを呼んで、公園でそう問いかけた。

丁度貰った割引券を使って、個数制限ないのをいい事にショーウィンドウから消える程の数のシューアイスを買ったスバルに呆れつつ、自分の分のシューを啄んで答えを待つ。

 

「相当対人関係問題ありそうだけど、身内相手に嘘言うような類じゃねぇとは思うぜ。根性曲がった奴があんな技量まで辿り着けるかよ。」

「…そうね。」

 

あんな技量、と言うのは当然ながら雫のずば抜けて高い技量の事。

前回の結果を、奇襲なら当然なんて見るのは完全な素人だ。

正確無比で速い糸の操作、力任せでなく斬って落とすようにして相手の重さも利用した、頭から落ちるタイプの受けづらい事この上ない投げ。

更に、奇襲気味の断空拳に対してカウンターで『殆ど同じ型』の拳を叩き込むと言うこの上なくアインハルトの心を折る攻撃。

 

ただの捻くれ者や性格破綻者に出来ることじゃない。

 

「んー…嘘吐く気はないと思うんだけど…」

 

スバルは何か引っかかるのか、一個丸まるシューを口に放りこんでもごもごと口を動かしながら考え始める。片手サイズとはいえ一口はないでしょ一口は…

 

「…私の憶測だけどね、ヴィヴィオにも教える気なんじゃないかしら。思い知らせるって言ってたの覚えてる?」

「あぁ。けどヴィヴィオの大切なものって、家族は勿論の事リオやコロナもそう簡単にいかないし、さすがに襲撃なんてやらかしたら問答無用で逮捕だ。そこまでするとは思えねぇけどな。」

 

その通り。そして、それは雫が手を出すのを嫌った理由でもある。

でも…その後すぐに試合をもちだしたのが引っかかる。

 

「試合に負けたら、謝罪する。そう約束したけど…試合をするって約束はしてないわね。」

「あ?」

「そもそも戦わなかったら負けも何もないでしょ。」

 

多分、これが雫の狙い。

試合に備えているヴィヴィオに、『抜けている』事を、体を傷つけずに思い知らせるには丁度いい方法。

 

「…あのバカめ。」

 

舌打ちしながらノーヴェが苦虫を噛み潰したような顔をする。

怒ってるんだろう、乱入からここまでいいようにされっぱなしだし、それも正攻法呼べないものばかりだから。

 

「ヴィヴィオは?」

「来週の試合に備えてこっちがびっくりするほど真剣に特訓中だよ。くそっ…」

 

真っ直ぐなヴィヴィオ。それを知ってるだけに余計にノーヴェは苛立っているんだろう。

でも、ま、そういう事ならあたしも手を打ちますか。

 

「ヴィヴィオには教えないでおきなさい。雫はあたしが連れ出してあげるから。」

「あ?」

「現職執務官の目の前で言葉遊びの詐欺を謀った浅はかさを教えてあげないと…ね。」

 

これでもあたしも好みじゃない手ばかりしてくれてる悪い子相手にお仕置きを兼ねるなら、徹底的にやらないとね。

 

「あはは…お手柔らかにね?ティア。雫だってまだ小さい子なんだから。」

 

あたしが割と本気で対応する事に感づいたらしいスバルが、引きつった笑みと共にそう言った。

 

 

 

 

とりあえず、速人さんが帰ってるだろう時間を見計らって通信を入れてみる。

 

『はい。』

「あ、ティアナ=ランスターです。速人さんですか?」

 

展開された映像通信には、薄暗い森林が映っていた。

もう夜も遅いって言うのに、まだ訓練してるのかしら?これが通常のペースならとんでもない人ね…

 

『お、ティアナか。珍しいな?』

「今日は少しお願いがありまして…」

『身内からの依頼なら格安だぜ。』

 

お金の話が出て思い出す。

そう言えば裏窓口みたいな所で何でも屋みたいなことやってたっけ。

…戦力としては数十~数百人分は軽いくせにその辺の魔導師貸し出し業なんかの半分くらいの額で動いてるらしいのに、その格安って…そんな事してるから稼ぎ悪いのよ。

 

「雫のことなんですけど…」

『へ?』

 

 

 

 

 

『なるほどね…』

 

事情を伝えると、速人さんは少し考え込むように腕を組む。

何かまずそうな雰囲気だ。

 

「問題でも?」

『そもそもアイツ、この間勝手に動いた一件でこっぴどく兄さんに叩きのめされてるんだよな…この上試合か…』

 

どうやら、雫の鍛錬状況的に他流試合のような真似は許可されていないようだった。

 

『とりあえずそれは兄さんに聞いてみないとな。上手くいったら連絡いれる。』

「そうですか、分かりました。」

 

とりあえずの話だけをつけて通信を閉じる。

…ここまで予定通りなら、本当恐ろしい子ね、雫。

 

「依頼両は」

『ただの言伝で金とるか!』

 

一応聞いてみた話にツッコミで返されて、それもそうかと納得した反面、こんな感じで速人さん大丈夫なんだろうか?と思ってしまう。

 

そうこうしているうちに通信は閉じてしまった。

打てる手はとりあえず打っておいた。後は返事を待つだけ…ね。

 

 

 

Side~月村忍

 

 

帰ってくるなり何か考えている速人君の姿を見かけた私は、気になって話を聞いてみた。

 

何でも、試合をダシにヴィヴィオちゃんに教訓を残そうと謀っている雫を試合の場に立たせる為に恭也を説得しようと考えてるとか。

 

「…ね、それ私に任せてみる気ない?」

「は?」

 

 

 

 

恭也の説得となると、剣の観点から話を進めたところで聞いてくれる訳もない。

けれど、雫の事で私はずっと懸念してる事があった。

学校にも行かず、朝から晩まで剣の訓練と戦闘知識の収集、それから生活に必須な最低限の学習メニュー。

 

 

それじゃ、外に友達所か知り合いも出来ない。

 

 

ヴィヴィオちゃんは身内で知り合いで同年代。

この心配については恭也も知ってくれているし、丁度いい機会だからこの点から納得して貰おう。

 

 

 

 

 

「という事で、どうかしら?」

「…雫の心配をしているにしては随分と楽しそうだな。」

 

寝室で並んで眠る中、恭也に一通りの話をすると、恭也から呆れ混じりの声が返ってきた。

さすがに恭也にはバレバレ…というか、そんなに隠している訳でもないけど。

 

「だって、折角雫が外に接する機会が出来たんだもの。まさか恭也だってそれは反対しないでしょ?ヴィヴィオちゃんなら安心だし。」

 

いくら剣の修行に全てをかけていると言っても恭也だって出会いの全てを無視する気なんて無かったはず。

でも、恭也の顔は難しそうなものだった。

 

まさか、修行の妨げになるとか言って今のまま外と関わらせない気なんだろうか?

 

そりゃ私だって人付き合いとかそこまで上手かったほうじゃないけど…

 

「…賭けにはなるが、それしかない…か。」

「賭け?」

 

雫がヴィヴィオちゃん達と上手く行くかどうかが心配なんだろうか?

確かに今の状況を考えると仲がこじれる可能性が高いけど、だからって何もしないでいるわけには行かない。

第一、こじれる心配をするなら初めから思いっきりこじれてるし。

 

「わかった。しかし、どうする気だ?まさか俺から雫にヴィヴィオに勝てとでも課題として出せとでも言うのか?」

 

恭也の言うとおりにさせたら、多分雫は『死に物狂いで』ヴィヴィオちゃんを倒すだろう。

私のこともちゃんとお母さんと呼んでくれるけど、剣の師でもあり目がないくらいに敬愛しきっている恭也はお父様なんて呼ぶくらいだ。

そんな恭也から、剣の課題と強制されれば、間違いなく何が何でもヴィヴィオちゃんを倒そうとする。それこそ後も先も他の事も一切考えず。

 

だから、私は別に手を考えてあった。少なくとも、待ち合わせ場所まで雫を呼び出す事は確実な手を。

 

「それに関しては私に任せて。少し雫にも灸をすえてあげないとね。」

「…程々にな。」

 

私のイタズラ心に感づいたのか、恭也が目を閉じて呆れたように呟いた。

自分だってイタズラは好きな癖に。

 

 

 

Side~高町速人

 

 

 

兄さんが渋い顔をしつつも了承したと言う話を聞いた俺は、楽しげに根回しを始めた忍さんを横目に流しつつ、兄さんに声をかけた。

 

「良かったのか?雫を引っ張り出して。」

 

俺の方は割と真面目に問いかけたのだが、兄さんの方は肩を竦めた。

 

「お前こそヴィヴィオを騙そうとしているのを見過ごすのか?ヒーローの癖に。」

「茶化すなよ。」

 

話を逸らそうとしている兄さんの言葉を一言で片付ける。

そりゃ、一見すれば『ひたむきに頑張っている女の子を騙そうとしている身内』ってだけなんだから、何が何でもとめて連れ出すのが普通の流れだ。

 

でも、雫が魔導師と立ち会うのを手伝うとなると話が変わってくる。

 

「アイツ、なのは達の事嫌いなんだぞ?」

「分かってる。素直だからな、雫は。」

 

息を吐いて笑みを漏らす兄さん。

 

素直。

 

この一騒ぎだけ知ってる人からすれば信じにくい評価だが、超素直に殺人剣を覚えて行ったからこんな事になっている。

 

真剣にと言えば子供ながらに無理矢理にでも顔をこわばらせ、挨拶も何もなしで兄さんから『教育』の元奇襲を仕掛けられても、そういうものだと教えられているから嫌な顔一つしなかった。そんな子供。

 

それだけに、なのは達を嫌ってるのは分かりやすくて仕方ない。

 

Js事件が片付いた辺りから、『英雄、八神はやてとその部隊機動六課』についての話が出る度に口数が減り、何度かあったパーティーや何かでも、休んでもいいというのに勉強だ刀の手入れだと出たがらなかった。

 

どう考えてもJS事件に関わった面々を避けている。

 

「無理して色々分かったフリしたって雫は普通の子供だろ?嫌ってる相手に普通にしてられると思えないんだが…まして、アイツ魔導師と戦いたがってるし。」

 

アインハルトの噂を知って調べて顔だしたのもそれが原因だろう。

戦っても相手を殺すわけでもない魔導師で、俺達を巻き込むほどでもない世間に迷惑をかけてる相手。

半人前でもとめに入って何とかなると思ったんだろう。最悪の危険性も低いし。

 

「だが、いつになる?」

「え?」

「まともにアイツが外と関わる機会だ。俺から指示して学校くらい通わせてもいいが…」

 

言いかけてとめる兄さん。

でも言いたい事は分かった。

 

 

修行をとめたくないんだろう。

義務教育当たり前の時代に修行で旅してた時期があるとかないとか言うくらいだしな、兄さん自身。

 

それに、雫は急いでる。

最低限の勉強は暇を見て毎日進めてるし、真面目に修行をしているともなれば無理矢理学校通わせるのも気がひけるんだろう。

 

「ヴィヴィオなら…多少もめても身内だからな。」

「苦い顔で言うならせめてなのはに通信入れといてやれよな。」

「あぁ。」

 

俺はとても手が放せる状態じゃないし、上手くまとまるといいんだが…

 

初めから色々と終わってる雫とヴィヴィオの邂逅、一体この先どうなるんだか。

 

 

SIDE OUT

 




遠巻きとはいえちゃんといた執務官様他。さすがに雫が言いくるめるのは無理ですね。
…イタズラレベルの話になると、大人勢のほうが好んでる人多い気がする(汗)
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