なのは+『未完の護り手』   作:黒影翼

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第三話・人を殺せる力

 

 

 

第三話・人を殺せる力

 

 

 

Side~アインハルト=ストラトス

 

 

 

雫さんに容赦なく叩き伏せられてから1週間。

いきなり入った通信を開くと、そこにはノーヴェさんの姿が映った。

 

「あ…どうも。」

『よう、アインハルト。今暇か?』

「時間はありますけど…」

 

正直に言えば修行に入りたいので暇ではない。

けれど、用事によっては迷惑をかけてしまったノーヴェさんの頼みには応じたい気持ちもある。

 

『今日ヴィヴィオと雫の試合の日なんだけどさ、良かったら見に来ないか?私の勝手だからわがまま言えないとか言ってたけど、本音ではお前に見て欲しいだろうからさ。ヴィヴィオ。』

「そう…ですか…」

 

私は自分の表情が翳るのを自分で感じていた。

きっとこの一週間、真っ直ぐに雫さんと戦う事を考えていただろうヴィヴィオさんの姿を思い浮かべると、自責の念に駆られると同時に、行く意味がない事を知っているから返事を躊躇ってしまう。

 

いけない、当たり障りのない答えだけは返しておかないと不審に思われてしまう。

 

『雫の奴は引きずり出すから、良かったら見に来てくれ。』

「はい、分かりました。」

 

それを最後にモニターが閉じる。

 

 

…引きずり出す?

 

 

疑念を抱いたのは、既に通信が途切れてしまった後だった。

 

 

 

 

 

 

結局気になって試合予定の場所に赴いた私が見たのは…

 

 

 

これ以上ない位不機嫌そうな顔で立つ雫さんの姿だった。

 

 

 

Side~高町ヴィヴィオ

 

 

 

試合当日、私の前に現れた雫さんはものすっごく不機嫌そうだった。

 

「確かにね?試合じゃなくてもいついかなる時でも油断してはならないって言うのが護り手の基本責務よ?でもね…」

 

言いつつ私…ではなく、ノーヴェ達と一緒に固まっている一角に立つ、一組の姉弟に目を向ける。

 

 

 

「身内が共犯の泥棒なんて防げるかーっ!!!」

「情けないなぁ、あんまり言い訳すると恭也さんにちくっちゃうぞー。」

 

 

 

雫さんが怒鳴ったのは、アクアさんとクラウさん。

イクスが救出された時に一緒にスバルさんに助けられて以来、エメラルドスイーツでバイトしたりトレーニングに混ざったりしているらしい。

 

二人は、雫さんの宝物である二本の小太刀を一本ずつ持っている。

 

正直、今日始めて実は雫さんが私と戦う気じゃなかったと聞かされて、またちょっと怒ってたんだけど…

それに気付いたティアナさんがノーヴェ達と一緒にとった対処に、ちょっと雫さんに同情した。

身内全部に手を回して雫さんの刀をアクアさんとクラウさんに持ち出させたらしく、昨日の夜雫さんが家に帰ると、『刀を返して欲しければヴィヴィオとの試合をちゃんとやれ』と書かれた紙一枚だけ置いてあったらしい。それは怒ってもしょうがないと思う。

 

「まぁ、身内の共犯も、言い訳にはならないのよね。貴女ならわかってくれると思うけど…ね。」

「ぐっ…」

「それに、現職の執務官を前に言葉遊びで挑んだのは、剣士の貴女じゃ無謀だったんじゃないかしら。こっちは全くのでまかせでも見抜く必要あるしね。」

 

ティアナさんの解説を横に、スバルさんが楽しそうに笑みを浮かべていた。

雫さんが搦め手を使うって言っても、ちゃんと話が通じる人だからだろう。前回アインハルトさんがやられた時のお返しを今してる感じだ。

 

雫さんは乱雑に自分の髪ごと掴んで頭を抑える。

そうして、深く深く息を吐いた。

 

「…お医者様は?」

「即死でなければどうにかなるわ。元々局でも使ってる訓練場だし、私達も応急くらいできるしね。」

「そう…」

 

何かを諦めたような雫さん。私は一瞬、このまま戦っていいのか疑問を抱いてしまう。

 

それを、頭を振って打ち消す。

 

証明するんだ、なのはママが鍛えたスバルさん達、私が誓った強くなる事。

あんな酷い事しなくたって、ちゃんと守る力になるんだって。

 

「よろしくお願いします、雫さん。」

「アクア、クラウ、刀を。」

 

頭を下げる私には何も言わずに、雫さんは二人から刀を受け取る。

二本の刀、鞘に収められたそれを左右に差して…

 

私に視線を合わせた瞬間、空気が一変した。

 

 

「っぁ…」

 

思わず飛びずさって構える。

礼も何もあったものじゃないのは分かっていたけど、そう『させられた』。

 

 

「抜いたら、司会が止めるまでやるわよ?やめとくなら今のうちだけど…どうする?」

 

 

眼を閉じた雫さんが静かに問いかけてくる。

見られてないと、ちょっと体が落ち着いた。

普段ノーヴェとかとやる時に感じる威圧感とは別物で、一瞬動けなくなったかと思った。

 

でも…

 

 

「セイクリッドハート!セットアップ!!」

 

 

私はウサギのぬいぐるみ…を外装にした自分のデバイス、クリスを掲げて叫ぶ。

瞬間、光に包まれた私は、かつての聖王の時の姿をとっていた。

なのはママと同じ色のジャケットで大人の姿。

高町ヴィヴィオの全力全開、大人モード。

 

 

 

「…お願いします!」

「そう…じゃ司会、合図お願い。」

 

 

 

迷いを振り切るように強く宣言する。

この程度で折れてて、強くなんかなれないんだから。

 

きっと雫さんの優しさだったんだろうけど、それは『強くなんか無くていい』って優しさ。

 

強くなるって決めたんだ、それに頷く訳には行かない。頷いてたまるもんか!

見学に来てくれたリオやコロナ達が居るほうを見ると、アインハルトさんも来てくれていた。

 

ありがとうノーヴェ。

 

私にナイショで声をかけてくれたんだろう師匠に心の中でお礼を告げて、雫さんに向かい合う。

きっと証明する、私だって、アインハルトさんだって…

 

 

あんな卑怯な真似をしなくたって、守る為に強くなれてるんだって。

 

 

「時間無制限、射砲撃無し一本勝負…始め!」

 

 

ノーヴェの合図と共に、私は拳を握って地を蹴った。

 

 

 

Side~アインハルト=ストラトス

 

 

 

ゾッとした。

雫さんが刀を受け取ってヴィヴィオさんと正対した瞬間、一瞬覇王の記憶が掘り返された。

 

戦地での、殺し合いの…相手の命を絶つ為の意志の塊。

 

何でそんなものを、ただ立っただけの雫さんから感じる?

 

「口だけ…じゃないですね。グリフ程ではないですけど、彼以外でここまでの威は彼女が始めてです。」

「うん…」

 

シスターのお二人が雫さんからの殺気に険しい表情を見せる。

聖王教会のシスターと言う事で、ヴィヴィオさんの護衛を兼ねている以上、雫さん相手に気は抜けないのだろう。

 

それでなくても…私と共に立つリオさんとコロナさんは、立っているのもやっとと言う感じだった。

 

 

無理もない。緊張感では済まない。まるで心臓に刃を当てられているような気さえする。

 

 

でも…私は…

そんな雫さんと向かい合って立てるヴィヴィオさんの方に、心惹かれていた。

 

 

 

Side~月村雫

 

 

 

ノーヴェの合図と共に一気に踏み込んでくるヴィヴィオ。

さすがに速い…身体強化とはよく言ったものだ。

 

「っ!」

 

攻撃のモーションに入る直前を見極めてバックステップ。

目の前を蹴り足が風の如く通り過ぎていく。

 

ったく、こんなの一発でも食らったら即死じゃない。

 

「はっ!」

 

右による抜刀の一閃。

たとえ剣閃が見えなくても、さすがに右で放つのはバレバレだから、避けられるとは思った。けど…

 

「っ!」

「な…」

 

ヴィヴィオは私の剣を、腕で受け止めた。

 

 

非常識にも程がある。魔導師め…

 

 

間髪入れずに飛んでくる左拳を、左腕でガードし…

 

 

 

そこで一瞬、意識が途切れた。

 

 

 

Side~高町ヴィヴィオ

 

 

 

「……え?」

 

なんて事ない左拳。

振りぬいてこそいたものの、私は魔力値が高い方でも無ければそう筋力が強い訳でもない。

だから…

 

 

 

 

拳に感じた骨を折る手ごたえと、吹き飛んでいって地面を転がる雫さんの姿に動きが止まってしまった。

 

 

 

 

「っ…はぁっ!」

 

ごろごろと転がっていた雫さんは、一声と共に刀を握った右拳を地面に叩きつけるようにして立ち上がる。

そうして、私を真っ直ぐに見据えて…

 

 

「…どうしたの?来ないの?」

 

なんでもないことのようにそう言った。

 

「っ!」

「待て、お前腕折れてるだろうが。」

 

躊躇う私を前に、ノーヴェが静止の声と共に雫さんを見る。

だらりと垂れ下がった左腕。それを見れば一目瞭然だった。

 

「それで?」

「なっ…」

「別に死にはしないわよこんなもの。大体、スポーツ選手だって骨程度で試合は諦めないわ。その上…」

 

右手の刀を真っ直ぐ私に向ける雫さん。

その目からの威圧感は…殺気はまるで最初と変わって無くて…

 

 

 

「私は選手じゃない、殺せる力で守るべき物を守る剣術家だ。その私に守る力を示すなんて講釈するつもりなら…この程度で躊躇うな。」

 

 

 

なんとなく、理解する。

卑怯とか、裏をかくとかかかないとか、そんな事じゃなくて、力を振るって何かを守るって事の『重さ』が全然違うから、だから雫さんは、私やアインハルトさんに趣味や遊びや競技だって…守るための力なんかじゃないって言い切ったんだ。

 

全力を直撃させたら、雫さんは死んでしまう。それを防ぐジャケットも何もない。

でも、だからって負けるわけにも行かない。その調整は…魔力弾ならともかく、打撃となると自分でしないといけない。

 

でも…

 

 

「…はいっ!」

 

 

 

私は構えた。

ここで躊躇って逃げたら、全て嘘になってしまいそうな気がしたから。

強くなるって決めたんだ…逃げずに、ちゃんと勝たないと。

 

「許可出来っかコラ!」

「審判がうるさいから、後一回でケリにしましょう。」

「はい!」

「あたしのせいかオイ!ちょ、お前らもあたしをとめてどーすんだこら馬鹿姉!」

 

口調の割に優しいノーヴェが静止するのを、スバルさん達が止めてくれている。

それを横目に見た後、私は改めて雫さんと向かい合った。

 

 

尋常じゃない威圧感。片腕が使えないとはとても思えない。

 

雫さんの力じゃ蹴りはまともに機能しない。

なら、どう考えても狙ってくるのは右に手にした刀の一閃。

 

くぐるか左で防いで、右を叩き込む。

 

死なせないように、でも勝ったと胸を張って言える様に。

 

 

 

私と雫さんは、殆ど同時に駆け出した。

 

 

右手の刀を振りかぶっている雫さん。その鋭さを考えれば、突進中に避けるなんて無謀だと判断した私は、左腕で防ぐ事にする。

クリスの防御効果がないと、ジャケットじゃ防ぎきれ無かった雫さんの斬撃は…

 

左腕を抜け、振り始めていた右拳そのものに向かってきた。

 

拳と刃がぶつかる。でも、格闘時は拳も保護されてるからこのまま振りぬいて…

 

 

 

次の瞬間、私の右手から物凄い激痛が走った。

 

 

 

「っあ!ぅ…」

 

 

痛みに硬直したのも一瞬、斬り返された刀の先端が、私の喉に突きつけられていた。

 

 

「審判、勝ち?負け?ノーゲーム?」

「…お前の勝ちだよ。」

 

ノーヴェが雫さんの勝ちを宣告すると、雫さんは静かに刀を鞘に収めた。

 

 

 

SIDE OUT

 

 

 




すっごい今更ですが実際問題、大木やら岩盤やらを平気で破壊する人類(しかも10歳前後ですら)って、法規制他どうなってんでしょう(汗)
軽はずみでこそないだろうものの、目を輝かせて魔法を振るっている彼女達には今の雫を足して二で割るくらいで丁度いいかなーとも(苦笑)
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