第五話・そして再び巡り合う
Side~月村雫
体力鍛錬の為のジョギング中、見かけた光景につい目が行く。
シグナムさん達と、子供の集まる光景。
近所の子供の格闘鍛錬。その中でも、一人…
打撃用バッグを強打して、数人を纏めて吹き飛ばしている子の姿。
『身体強化を全力で駆使して足を常に動かせる状態で牽制打や乱打を繰り返す。それでほぼ間違いなく勝利できると思います。』
こんな言葉で片付けられてしまう、私の11年とその成果。
魔導師…
一瞬足を止めそうになったけど、憤りを押し殺して走る。
私には、関係ない…関係ないんだ…
「は…はっ…」
家に着くなり、視界を塞ぐ程の汗を拭う。
ハンカチでさっと視界だけ空けて、さっさとお風呂場へ向かう。
お風呂からあがったら着替えて食事。順序は違えど殆どルーチンワーク。
頑張ってはいるんだけど…進んでいるのか止まっているのか。
「とりあえず、『徹』くらいは使い物になるようにしないとね…」
11にもなって…しかも修行をずっと通してやってきたのに、未だに右の袈裟斬りと打ち下ろしのみでしか、『徹』を使えない。
速人さんは10で既にまだ私が聞いてもいない第三段階まで扱えるようになっていたらしいのに…第二段階の『徹』でこんな…
『徹』がないとバリアジャケットはともかく防御魔法なんて絶対に…
「っ!!」
頭を振って浮かんできた考えを振り払う為に首を振ると、水音が響く。
いつの間にか浮かぶ魔導師の倒し方。それは…目的じゃない。
…重症だな。
忘れようと無理して笑ってお風呂を出た。
明日からは久しぶりに一週間の外修行だ、不安や憤りにとらわれてないで集中しないと。
「はああっ!!」
森林でのお父様との斬り合い…否、斬り『合わされ』。
次元世界に出てからの対魔導師用の修行や、速人さんとの競り合いの結果、お父様は強くなりすぎた。
隙が出来たらいつでも本気で斬り込むようでは、私なんてただの的にしかならない。
基礎固めのためらしく、私が扱える『徹』までしか使ってしか貰えず、その上手加減までされて…
「甘い。」
「っ!」
右の徹に左の徹を合わされた私は、刀を手放さないように右手に力を込めて…
「う…」
硬直している間に右の刀を喉元に突きつけられた。
…手加減までされて、この有様。
本当、急いで強くならないといけないな…
「初見でも何か狙っているのが丸分かりだ。気迫があるのはいいが、決め手の一撃なのが分かりきっていては今のようにたやすくとめられる。後、以前打ち負けてはじかれたからと必死で握っていたんだろうが、それで他の意識を裂いてどうする。」
試合を終えての叱責を、ただ静かに聞く。
『徹』は奥義もろくに知らない今の私にとって完全に決め技で、オマケに右でしか使えず相当に集中しないといけない為、気軽に打てない。
お父様は左でさも普通の斬撃と変わらない構えから打って来た。
打ち込む時そのものはともかく、その前の構え位はどんな体勢からでも自然に扱える必要があるんだろう。
一通りの話を終えると、お父様は今度は木刀を取り出して、手渡して来る。
「基本型3000本、行くぞ。」
「…はいっ!」
今更回数にも、試合直後なのにも驚きはしない。
刀を納め、練習用の鉛入木刀を二刀手に、お父様に向かって打ち込んでいった。
「ここまでだな。」
「はあっ…はあっ…」
日の課目を一通りを終えてさすがに息を本気で切らす私にタオルを渡すと、お父様は自分の汗を拭い始めた。
肩で息もしてるし、汗も凄いけど…そもそも、普通の人間のはずのお父様の方が何でこんな平気そうなのか…
きっと私の動きに無駄があるんだろう。さすがに体力負けしてるとは思いたくない。
そんなこんなで、普段は少しはさむ勉強の時間もほぼないまま、軽い生き地獄を味わえるような訓練をこなして4日目…
「…え?」
「へっ?」
普通の食事はともかく、火を扱う道具やら色々と調達しなおさないといけないものがあるって事で、管理人の住居に戻る事にした真っ最中、ここにいるはずのない人の姿を見かけた。
一瞬硬直、しばらくの間を置いて私はお父様の顔を見る。
「奇遇だな。」
「わー、こんな所で会うなんて偶然だね恭也お兄ちゃん。」
「嘘吐けっ!!!」
さも予定外とでも言う風に口裏を合わせようとするお父様と棒読みのなのは叔母さんに、思わず声を大にしてつっ込んでしまう。
お母さんとだったらどのへんが嘘なのか分からないような演技するけど、さすがに片方が棒読みじゃ分かりやすかった。
一体何だってこんな事したのやら…
Side~アインハルト=ストラトス
ついて早々、大人達はトレーニングに向かい、私はノーヴェさんに連れられて、ヴィヴィオさん達と水遊びと言う事になった。
そんな中…
「コレは誰の嫌がらせ?ねぇっ…」
『ひらがな』と言う管理外世界の文字で、しずくと三文字書かれた紺色の水着を着た雫さんが、その名前の辺りをつまんで引っ張ってノーヴェさんに抗議の声を上げていた。
…水着になる、と言うのも少し恥ずかしいものがあったのだけど、雫さんのアレはなんというかその…別の類の恥ずかしさがある。
「さーな、あたしは渡された小包を開かず持ってきただけだからな。候補はお前ん家の誰かだろ?」
「にやつきながら答えるな…っ!」
「まぁまぁ雫さん、折角ですから楽しく行きましょう?ね?」
割と真面目に怒っているらしい雫さん。
元々始めての邂逅からいい印象のないリオさんとコロナさんは、怒りっぱなしの雫さん相手に複雑そうな表情を見せていて、ヴィヴィオさんがそれに気付いて雫さんを宥めていた。
「…とりあえず、よろしく頼むわ。」
「はいっ。」
ばつが悪そうな雫さん、それでも今まで見た険しさを見せない彼女相手に、皆さんも砕けた雰囲気を取り戻した。
で、水遊びをするということになったのだけれど…
水泳で置いていかれて、体力も真っ先に尽きた私は監督していたノーヴェさんの横で速攻で休む事になった。
「しっかし…まさかお前よりアイツの方がもつとはな…」
ヴィヴィオさん達とボールを打ちあっている雫さんを見ながら、なんだか悔しそうなノーヴェさん。…訓練付けの私が、水中での体と力の使い方の違いについて全く知らなかったのと同じように雫さんも知らずに参ると思っていたんでしょうか?
「水斬りまで出来るんじゃないだろうな…」
「水斬り?」
「打撃のチェックを兼ねたちょっとしたお遊びさ。見てみるか?」
知らない事、それも戦いに関わる事で。
興味を惹かれないはずもなく、即答で頷いた。
そうして、ノーヴェさんに声をかけられて皆が一列に並び…
突き出された拳の先、水が裂けるように開けていった。
「雫はどうだ?」
「門外漢何だけど…ま、いいわ。」
ノーヴェさんに促されて、雫さんも水中で構える。
ヴィヴィオさん達と同じように突きを放つと、大体ヴィヴィオさんと同じ位の長さに水が裂けて行った。
裂けた水の高さが半分もないところを見ると、鋭さはきっと雫さんの方が上なんだろう。
「おいおい…砲撃かっつの。」
「お父様ならこんな川幅、端から端まで届くわよ。」
「…人間技じゃねぇな。」
なんでもないことのように言う雫さんの言葉に、ノーヴェさんが引きつった声で呟きを漏らした。
ちなみに私はやってみたものの盛大に水柱を作ってしまい、改めて何も知らなかったのだと思い知らされた。
「けど、よく呼ばれたからって来る気になったわね。」
水斬りを練習する最中、傍らにいた雫さんに声をかけられた。
「…貴女の戦いに負けたからです。」
ヴィヴィオさん達も傍にいたので正直に答えるのは躊躇われたけど、黙っているわけにも行かずに結局素直に答える。
「全うな戦いとは到底呼べない奇襲、でも貴女はそれで私を倒して立っていた。護れるのなら貴女の戦いを受け入れるのか…それとも、真っ直ぐに戦って勝ちたいのか…」
「あぁ、そう言えば言ったわね。とりあえずヴィヴィオ達とも一緒に競技にでも関わればって。」
思い出した雫さんがしてくれた補足に私は静かに頷く。
だから…ノーヴェさんの誘いを受け、迷わずここに来て、練習もせず水遊びに混じり…
知らない事を知る事が出来た。
まだ答えは出てないけれど、答えを考える為の視点が…私の見ていた世界が本当に狭いものだったのだと、気付けただけでも収穫だった。
「じゃ、じゃあアインハルトさんも…その…雫さんみたいになるかもなんですか?」
少し恐る恐るといった様子で声をかけてくるヴィヴィオさん。
私は、頷くでも首を振るでもなく、少しだけ俯いた。
「覇王としての正道と、守れなかったオリヴィエを守れる可能性のあった邪道。私は汚い真似は嫌ですが、友を失ったのが弱いまま決闘などと贅沢な願いを持ったせいだと言うのなら…」
後悔と言う形でクラウスの記憶を受け継いでいる私は、『オリヴィエを守れなかった』苦しさを知っている。
アレをまるっきり無視して、正々堂々などと口走るのは躊躇われた。
「だからアインハルトさんはちゃんと強くなろうって頑張ってきたんじゃ」
「その時はいつ起こるかわからない。」
私を雫さんのようにしたくないのだろうヴィヴィオさんが少し悲しげに語るのを断ち切って、雫さんが口を開いた。
「ゆりかごに向かうオリヴィエを前に、覇王流きわめて来るまで決闘待ってーなんて馬鹿な事頼める訳ないでしょ?その点で、クラウスは完全に守り手失格よ。ノーヴェさんだって一応今ここで誰か溺れても、装備がないから無理、とかそんな間抜けな事言わないはずよ。」
「…まぁな。」
命を預かる身として否定できない要素だったのか、ノーヴェさんも雫さんの話に頷く。
師匠のノーヴェさんまでもが雫さんの話に頷いてしまったためか、ヴィヴィオさんもそれ以上は言えず沈黙が…
「えいっ。」
「わぷっ!!」
誰もが黙りそうになった時、私の顔面を水が覆い隠した。
ぽたぽたと顔を水が流れていく感触を感じながら、何が起きたのかと発生源を探すと…
ルーテシアさんが両手を振り上げてニヤニヤしながら私を見ていた。
「ふっふーん、隙ありよ堅物バトルっ娘達。って、言いたかったんだけど…」
右手で私に向かって水をかけ、左手で雫さんに向けて水をかけようとしたらしいけれど…
雫さんは片手を振り上げた体勢で止まっていた。
私は思いっきり被ったのに、どうやら防いだらしい。
こんな所でもきっちり反応できるのかって少し感心していると…
「…ふっ、後衛の図書マニアさんが私相手に奇襲なんていい度胸ね。」
雫さんが、何だか見たことないくらい素直に笑みを見せていた。
「え…っと、雫?両手を腰打めに構えて一体どうする気…」
「水没しろーっ!!!」
直後、平手を突き出して水をルーテシアさんに向かって思いっきりかける雫さん。
しかも、両手交互に連続で。
「わぷ!ちょ!お、おぼれっ…ぶっ!だ、誰か加勢してー!」
完全に顔が出る程度の深さまでしかないはずなのに、連続で巻き上げられた水しぶきにのまれてルーテシアさんが顔を隠して逃げ回る。
それをノリノリで追い回しながら雫さんは私達の元を離れていく。
残された私達は呆然とその様子を眺め…
「「「あははははは!!」」」
しばらくしてヴィヴィオさん達の笑い声が川に響いた。
おそらくは暗くなりかけた空気を払拭する為だったんだろうルーテシアさんの奇襲。
でもまさか雫さんのノリがこうもいいとは思わなかった。
「程々でやめておいてやれよー!」
「覚えとくわー!」
「ちょ!ノーヴェの薄情者ー!」
結構な身体能力の雫さんに追い回されながら少しだけ反撃するルーテシアさん。
私達はそんな様子を横目に、再び水斬りの練習を再開する事にした。
そうして、昼時になって着替えの最中、私はふと気になった事を聞いてみることにした。
「雫さんは私がきたのが不思議だと言いましたが、私としては雫さんが此方に混じられた事の方が不思議なのですが…」
「そうだよ、水遊びであんなにはしゃぐなんて思わなかった。」
私が切り出した疑問に追従する形でリオさんがルーテシアさんを追い回していた時の雫さんのモノマネをする。
雫さんは目線を逸らして少し恥ずかしそうに頬を朱に染めた。
「い、いいでしょ?遊ぶのは好きなの、あんまり機会もないしね。」
照れながら答える雫さんの表情は、どう見ても普通の子供のそれだった。
「それに…」
けど、服に袖を通したところで声が一変する。
きっと剣の話。
私にとっての覇王流のように、雫さんにとって尤も大事で真剣でなきゃならないものの話。
「お父様が、私の剣を鍛えるのに邪魔になる事なんて勧める筈がない。だから、きっと何かあるのよ。」
迷いのない断言。絶対の信頼…いや、最早信仰とすら言うべきかもしれない。
けど、重い空気もその一言で終わり、再び笑顔を見せる雫さん。
「…ま、そういう訳で短い間だけどよろしくね。」
「「「はいっ!」」」
「よろしくお願いします。」
息の合った返事を返すヴィヴィオさん達に続くように、私はお辞儀をした。
…私も発見があった、雫さんにとっても意味のある事。
ノーヴェさんとヴィヴィオさんに感謝しつつ、私はこの開けた世界で答えを捜そうと改めて心に決めた。
SIDE OUT
剣に関しては厳しい環境なものの、家庭環境が荒んでるとかそういう類では妙な事はないので、まともに遊んだりすれば普通にお子様です。
…逆に言うと、戦闘修行に関しては誰一人普通のお子様でいられないのか高町家(汗)。