ハーメルン良いとこ一度はおいでと言われたので、ホイホイ来てみました。
前置きが長くなってもアレなので、本編、どうぞ。
――それは此処ではない何処か、別の世界。そこにあるお城の一つの部屋。
狭いながらも豪奢に飾り立てられた室内。その最奥は澱んだ空気に包まれていた。
そこでは一人の少女が半ば書類に埋もれ、ぶつぶつと何事かを呟きながら事務作業に勤しんでいる。
……言うまでも無く、澱んだ空気はこの少女のものである。
「足りません……」
ぽつりと一言漏らすと同時にため息、作業を一息つけ目を揉む。
こんな毎日はいつまで続くのだろうかと少女は憂う。何の気なしに壁に掛けられた鏡を見れば、眼の下に隈が出来てしまっているのが見えた。
「時間が足りませんよう……」
二言目もまた弱音。私にしては珍しく完全に参ってしまっているようだ、と少女は自嘲する。
「空はこんなに青いのになあ……」
現実逃避し、濁った眼で窓の外を見る。空がとても綺麗だ。蝶々も飛んでいる。何て平和な光景なんだろう。でも太陽が眩しくてちょっときつい……
目を瞬かせて見慣れ過ぎた室内へ視線を戻す。と、見慣れないものが机の端にちょこんと置いてあることに気付いた。……誰かが不在時に送り届けてくれたものだろうか。書類の処理に忙殺されていて、今まで気付けなかったのだろう。
書類を掻き分け、手に取ってみる。
「えーと、なになに……あ、これは……!」
それは一冊の魔導書。一縷の望みを託し、知人に送るよう依頼していた稀覯本。
「これさえ……これさえあれば……!」
……そして、それこそがこの少女への救いへとなりうるものであった。
――三日後。とある個人宅にて。
「ふんむむむむ……」
机上に所狭しと置かれた薬草、薬品を前に部屋の主――エニシダは眉間に皺を寄せながら格闘していた。
桃色の髪を長く伸ばし、服装はミニスカートが目立つ全体的に白い服装。こんななりであるが魔女である。加えて、目下勉強中の身でもある。
そしてそんな魔女が何をしているかというと、友人に依頼された高級薬品の調合であった。
「これが最後……し、集中集中……」
依頼された調合はエニシダにとっては非常に難易度が高く、何度も何度も、面白いくらいに失敗した。当然、材料も面白いくらいに減っていった。結果、これが最後の機会。
調合手順を暗唱しながら、作業を開始しようとする。
そこへ――
バンッ!
「お邪魔しますよー!」
「ひゃああああああ!?」
勢いよく扉が開けられ、部屋の中へ誰かが入って来る。
突然の出来事にエニシダは素っ頓狂な声をあげた。
「あ、ああああああっ……」
驚いたせいで最後の薬品をぶちまけてしまった。友人には何と言い訳したものか……
ひとしきり嘆いた後、来訪者へと向き直る。そこには息を切らしつつも、剣呑な雰囲気を纏った少女がいた。……この少女は見知った顔だ。団長補佐官のナズナさんである。
「な、ナズナさん? どうしたんですか、そんなに血相を変えて……というか、何故うちに……?」
持ち前の親切心で声をかけるも、無言でナズナさんはつかつかと近寄ってくる。そして目の前まで来て、むんずっと何かを差し出してきた。
……顔をよく見れば焦燥からかはたまた過労からか、眼は血走り、深い隈が出来てしまっています。
……なるほど。乙女にあるまじき形相ですね。これだけでただ事じゃない要件だってのがひしひしと伝わってきます。
「えーと、なんですかこれ……?」
気圧されつつも差し出されたものを見てみる。それは一冊の書物。背表紙には、
『異界からの召喚の儀 ~初心者から超級者まで~』
などと冗談なのか本気なのか分からない文言が並んでいた。そして差し出した当人はというと。
「……てください……」
「はい?」
「人手が足りないので新しい団長を召喚してください!」
「はいぃ!?」
とある先代騎士団長の急死。
死因は害虫に潰されての圧死であった。
倒した巨大害虫が墜落し、ピンポイントで団長を潰すという、偶然に偶然が重なった不慮の事故である。奇跡的に死んだと言ってもいい。
噂で耳にはしていたけれど、現実だったとは……
「もう本当にやってられないんですようー! 代わりになる人材が全くいないし! あの人がいなくなってから慕って付いて来てた花騎士達はみんな国に帰っちゃうし! 結果、騎士団も解散になるし! それに残された大量の書類の後始末に加えて、補佐官宛に次々と増える書類も全部一人で捌かないといけなくなったし! この一ヶ月間、馬車馬のように働いても働いても仕事の終わりが見えないし!」
「は、はあ……ご愁傷様です……」
これまでの鬱憤を晴らすかのように、鬼気迫る勢いで捲し立ててくるナズナさん。
こわい。帰りたい。あ、家ここでしたね……くそう。
「ですが! そんな日々の中! このナズナは閃いたのです! 使える団長がいないなら、即戦力になる有能な団長を召喚すればいいじゃない、って!」
「ええー……」
ナズナさんは勢いのままにぐっと私の手を握ってくる。ああ、これでは逃げられませんね……いえまあ、逃げる先なんてどこにも無いのですが。
「そこで! エニシダさんにはこの異界召喚の儀式をなるべく早く実行してもらいたいのです!」
「ちょ、ちょっと待って下さい! 私、召喚なんてしたことないですよ!?」
「いえ、あなたなら出来るはずです! 伝説の魔女のお孫さんですし!」
「そ、それあんまり根拠になってないですよね!? 私なんてお婆ちゃんの足元にも及ばないし……」
確かに私のお婆ちゃんは伝説の魔女と呼ばれる程の凄腕の魔女ですけど、その孫ってだけでちょっと過剰評価し過ぎじゃないですかね……
「そりゃあ努力はしていますけど、お婆ちゃんに比べたら私なんてミジンコ以下の実力ですし……うううっ、言ってて死にたくなってきた……」
だがそんなネガに入る私などお構いなしにナズナさんは言う。
「いいんですよ。駄目で元々なんです」
「え……?」
「本当はこの世界の別の団長を代理として任命する、もしくは一から鍛え上げていくのが筋だと、私も分かってはいます。ですが、事態は一刻を争っていまして――」
そこで話を一区切り。
「もう、限界なんです……何処も仕事がいっぱいいっぱいで余所から任命するわけにもいかないし……でなくても一から鍛える間、何か月もこの激務が続くと思うと……どうか、私を助けると思って、ひっく、引き受けては頂けないでしょうか……ぐすっ、ううう……」
「……ちょ、ちょっと」
本当に限界なのでしょう。座り込んで泣き出してしまいました……困る。非常に困る。
ここで泣き崩れたナズナさんを切って捨て「知らんこっちゃないです」と断るのは余程図太い人間でなければ出来ないでしょう。私のようなちっちゃい人間には無理です。お手上げです。
「しょ、しょうがないですね、もう……一回だけですよ?」
「あ、ありがとうございます……!」
正直言って異界召喚の儀式なんて、魔女仲間から噂として聞いたことはあれ、やった事などない。精々、出来て使い魔作成といったところです。
……ですが、目の前で困っている人がいるのならば、力にならなくては。
それに未知の儀式を経験するというのも悪くは無いのかもしれません。
最初は勢いで拒絶しましたが、こういう事は前向きに捉えるべきですよね。ええ、お婆ちゃんもそう言うはずです。たぶん。
「異界召喚の儀式を勉強するのに少し時間がかかるとは思いますが、詳細が分かり次第こちらから連絡するので、それまで、その、何とか頑張ってください」
「あああ……ありがとうございます! ナズナ、頑張ります!」
泣き顔から一転、笑顔を咲かせるナズナさん。やっぱりこの人は笑っているほうが良いですね。これで隈や目もきちんとしていれば言うこと無しなんですが、それは現状望み過ぎというものでしょう。
「あ、それと一つだけ聞きたいことが……」
「はい? なんでしょう?」
「何故全部一人で仕事を捌いてたんです? 他の人にも頼めばよかったでしょうに」
「……! そ、それは……」
ピキリ、と笑顔が固まる。
「盲点でした……いつも団長と二人で片付いていたので、つい」
「か、考えもしなかったんですか?」
「ええ、まったく……」
……万能の天才は得てして一人で何でもやってしまうというけれど、目の前に実例がいるとは……
「仕方がないですね……では予定を変えて、明日から私もお手伝いしますよ。儀式の勉強をしながらになりますが、私のような取るに足らないゴミ虫でも、いないよりはマシなはずです。それに一緒にいた方が有事の際に質問もすぐに出来るでしょうし」
「エニシダさん……本当に何から何までありがとうございます!」
「……それと、人が増やせないか、上にもちゃんと嘆願書を出したほうが良いですよ?」
「あ、はい、それももちろん!」
「それでは明日からそちらに伺いますから、よろしくお願いしますね、ナズナさん」
「はい! あ、もうこんな時間……急いで戻らないと! で、ではまた明日!」
来た時と同様、勢いよく扉を開け放って退出していくナズナさん。心なしか足取りが軽やかになっていましたが、気のせいではないでしょう。ああ、嵐のような時間でした……
しばらく放心して扉を見る私。三分ほど経って忘れていた大切な事実に気が付く。
「そういえば、頼まれてた薬品……どうしよう……」
後日、友人には謝罪と詫びの品を持って行きませんとね……
――翌日
約束通りにお手伝いしようとナズナさんと一緒に作業部屋に足を踏み入れた私は、あまりの書類の量に絶句した。とてもじゃないが机上に収まりきっていない。床の上にうず高く積んであるものまであって、見るからに「私、圧倒的な仕事量やってます!」って感じ。
「こ、これ全部捌いてるんですか……?」
「ええ、そうですよー。これでも減った方なんですから!」
えへんと胸を張るナズナさん。所々に付箋やメモが挟まっているのを見るに、カテゴライズはキチンとされていそうです。出来る女性カッコいい。
「それで、人手不足は解消できそうなんです?」
「いえそれが、上に要望は出したのですが、どうも今の人員配置で最適化出来ていると判断されていたらしく……しばらくはこのままで我慢してくれと……」
そう言うと肩を落とすナズナさん。どうもうまくいかなかったみたい。まあ、一朝一夕で人事異動なんて出来る筈もないですよね……
「……気を取り直していきましょう。エニシダさんへのお仕事は私が選んで投げていきますので、待っている間に儀式の勉強をお願いします」
「は、はい、お手柔らかにお願いします……」
言い終えるとナズナさんは書類の中へとざばざばと入っていく。あれが日常なのかな……っと、こっちも勉強を始めませんとね。
昨日貰った魔導書に向き直る。
あれから結局友人への謝罪や詫びに奔走していたので、開くのはこれが初めてです。
「……それにしても、こんな魔導書よく見つけましたね」
「ああ、それは知り合いの輸送隊の方が送ってくれまして――」
ナズナさん曰く、この魔導書は元々眼鏡をかけたような外見をした、へんてこな害虫が持っていたそうで。
輸送隊がたまたま出くわしたその害虫を討伐し、その魔導書を鑑定に出したところ、未知の召喚技術と膨大な魔力を有していたようで、安易に解読もしようとした鑑定人は発狂。危険視した輸送隊の隊長が塩漬けにして現在まで保管していたらしい。
「正直言ってかなり危険なマジックアイテムなんですが、無理を言って送ってもらったのです。状況が状況ですので、背に腹は代えられないって奴ですね!」
「え。そんな危険物を私は今から解読させられる所だったんですか……?」
「…………」
「…………」
「えへっ♪」
「いやいやいや、可愛く笑って誤魔化そうとしてもダメですからね!?」
「大丈夫です。私はエニシダさんを信じていますから!」
「ぐむぅ……そう言うのは卑怯ですよ……」
信じられてしまったなら期待に応えない訳にはいかない。お婆ちゃんもそう言うでしょう。たぶん。きっと。メイビー。
意を決して表紙を開く。
「むー……? これは鏡文字ですね……」
魔女の修業を通じて暗号等にも慣れ親しんだ私にとって、鏡文字など物の相手ではありません。ですが油断は禁物です。慎重に解読を進めていきましょう。
……一章から早速召喚の詳細について書かれているがこれはダウト。実際に召喚しようとすると無色透明な名状し難い異形が召喚され、生き血を全て吸われてしまうらしい。異形は消える。
「ってこわっ! 何この本こわっ!」
「どうかしましたかー?」
「あ、い、いえ、何でもないですよ。私のような未熟者がお仕事の邪魔をしてすみません」
「そうですか。あ、これお願いしますねー」
「は、はい」
ナズナさんから仕事を貰いつつ第二章。これは一見まともなことが書いてあるが、理論が一部破綻している。術式に組み込もうとすると、魔力がオーバーフローし爆発。最悪クレーターが出来る。
「あのー、ナズナさん……」
「なんでしょう?」
「この本って本当に異界召喚について書かれているんですかね……読み進めているんですけど、ロクな事が書かれていないっていうか……」
「でも表紙には異界召喚について、と書いてあるのでは? 高度な魔導書ほど題名で中身を匂わせるものって聞きますけど?」
「うーん、そうなんですけど……」
魔導書は中身を名で表す。古今東西不変の言い伝えですけれど、この本はどうなのでしょう……まあナズナさんを疑っても仕方がない。最後まで読んでから判断しましょう。
そんなこんなで。
仕事を手伝いつつ解読を進めること三日。
ついに最終章へと到達しましたよ、やったー。
「やったー。じゃないんですよね……ここまで全部ブラフでしたし……変な魔術がかかってたから読み飛ばしできなかったし……」
正直言って疲労困憊である。最終章の前の五章なんて、無限ループになってる箇所があったし。それも気付くのに半日もかかるとは……
「ですがこれで最終章。きっとまともなことが書いてあるはず……!」
「おお、ついに最後まで到達したんですか! おめでとうございます!」
「ああ、ナズナさん。ありがとうございます」
ナズナさんもお仕事をばっさばっさと片付けながら祝ってくれる。そういえば途中から解読にかかりきりになってしまって、お仕事が全然手伝えてなかったような……
「あの、手伝うとか言っておきながら、全然出来なくてすみませんでした……」
「いえいえ、お気になさらずに。解読してるお姿を見るのも結構な息抜きになりましたので」
一緒にお仕事しているうちにナズナさんとも結構仲良くなれたなーと思うと感慨深い。やって良かった解読作業。
「では最終章、見ていきましょうかね!」
と、頁を捲った瞬間、
パンパカパーン♪
気の抜けた音と共に、一枚の紙片が飛び出してきたのでした。
「きゃあ!?」「ひゃあ!?」
突然の事に驚くも咄嗟に紙を掴む。ナイスキャッチ、私。
「何なんですか、もう……」
本の方を再度見るも、そこには白紙の頁。どうやらこの紙が最終章という訳らしいですね。
成程、また手の込んだことをしたものだと思いつつ紙を見ると、
そこには想像を絶する内容が書いてあり――
~異界召喚のレシピ~
鉢植:一個(召喚対象のサイズに合わせて用意)
華霊石:五十個~(多ければ多いほどレア確率アップ!)
世界花の水:たっぷり(鉢植が満たせるくらい) 以上
「な、う、あ」
余りにも想像を絶する簡潔な内容に私は、
「や、やっぱり私のようなヨワ虫以下の存在でも解読出来る魔導書なんて、こんな、こんなメモ用紙程度の価値しかなかったんですね……」
思わずへなへなと崩れ落ちてしまいました。
「え、エニシダさん落ち着いて!?」
「うううう~っ、三日もかけてこの体たらく……死にたい……いえ、死んでも周りの迷惑ですよね……このまま塵になって何処かに運ばれて、お花の肥料にでもなって余生を過ごします……」
「ですから、落ち着いて! 裏見て下さい! 裏!」
「へ? 裏?」
ナズナさんの言葉にはたと我に返り、裏を見る。
「……っ!」
そこには表とはかけ離れたものがあった。
まず、膨大な魔力。ややもするとこちらが浸食される程に濃密。次に、あらゆる用途に適応できるであろう多種多様な詠唱方式。そして本命の魔方陣の染料の調合法と描き方。それらが一枚の紙(裏だけ)にびっちりと書き込まれていたのでした。
確かにこれだけあれば初心者から超級者まで、誰でも何でも召喚できるでしょう。
……ここまで読み進めることが出来れば、の話ではありますが。
「この本、本物だったんですね……」
食い入るように見つめながら呟く。
「ナズナさん、もう少しです。あとちょっとで召喚の儀式ができますよ……!」
それから準備を進める事丸一日。
ナズナさんの権限を用いれば要求される素材はあっさりと集まった。
召喚時刻は正午。場所は王城内部の庭を貸切って決行。……どうやら陽の当たる場所の方が世界花の加護が受けられ、良い結果が出易いようです。理屈は不明ですが、そう書いてありましたので、ええ。
召喚対象は男性。ナズナさんと協議した条件として、召喚されてもこちらの願いを聞き届けてくれそうな人物。さらに向こうの世界から来てもあまり影響のない人物に固定。
また、実験的な試みとして、世界花の加護を受けられるように術式を組み込む。
「男性でも加護って受けられるんですかね……?」
「うーん……こちらの世界の常識は向こうと違うことを祈りましょう」
世界花の加護は女性しか受けられない。これは不変の真理である。だがそれはこちらの世界では、の話だ。
「別に加護なんて無くても団長職は勤まると思うんですけど……」
「甘いですよ! エニシダさん! どうせ召喚するなら強いほうが良いじゃないですか!」
ふんすふんすと鼻を鳴らすナズナさん。ものすごく強欲だ。テンション高めなのは現状を打破する瞬間に立ち会っているからでしょう。
「失敗しても知りませんよー……?」
「大丈夫です! これだけ準備してるんですから! 大丈夫なはずです!」
「はいはい。それじゃあ準備しますねー」
もうどうにでもなあれ。
早速魔方陣を書き始める。つつがなく二十分ほどで終了。
続いて人一人が入れるサイズの鉢植をセット。
そして中に華霊石を入れて、世界花の水で満たしていくのですが。
「……あれ、何か石の量多くないですか?」
「二百です」
「へ?」
「気合いを入れて二百個用意してきました!」
「いやいやいや、多過ぎませんかナズナさん!?」
「多ければ多いほどレア率アップなのでしょう? ならばとことんやるのがナズナ流です!」
どれだけこの儀式に期待しているのでしょう、この人は……私なんかが召喚していいものか不安になってきました。失敗したらこの責任は何処に行くのでしょう……
……降って湧いた不安を振り切るように石を入れていきます。ざらざらーっとね。
「あのー、ナズナさん。石が入りきらないんですけど……」
「鉢植が小さすぎましたか……まあいいです。上に積んじゃいましょう」
そう言うと石を積み始めるナズナさん。これ、大丈夫なのかな……
何とか石二百個を入れ(入りきらないものはナズナさんによって賽の河原の石のように積まれた)世界花の水を慎重に入れていく。
……これで準備完了です。
「いよいよ召喚ですね……緊張してきたなぁ……」
「ええ、エニシダさん! ファイトです!」
本番前に深呼吸を一つ。気持ちを切り替え詠唱のみに集中。
魔力を開放しながら告げる。
「素に石と陽光。礎に水と土」
詠唱を始めると魔方陣が発光し、鉢植がガタガタと動き始めた。
「全てを救う清廉なる魂よ。寄る辺なき魂よ」
次第に光は輝きを増していき、目を開けているのが難しい程になっていく。
「名を忘れ花の加護を受けよ。来たれ。我は汝を求める者也……!」
それでも何とか詠唱を終える。次の瞬間、世界は白に包まれ――
……
…………
……恐る恐る目を開けると、そこには変わらず鉢植だけがあった。変わったところと言えば、なみなみと入れてあった石と水が無くなっていることくらい。
「そ、そんな……失敗……?」
「手応えはあったのに……」
二人して肩を落とす。と――
ピロン!
「今の音なんでしょう……?」
「あ、鉢植が銀色に……!」
見ると鉢植が銀色に輝いていた。
どういう原理なのか全く不明だが、これが儀式の成果なのは明白だ。
それにしても何故でしょう。見ていると実家のような安心感が湧きあがってきますね……
ピロン!
「おお、金色!」
「えっ、えっ、なにこれ」
次は銀から金へ、鉢植の色がまたしても変わる。金色の鉢植は見るからにゴージャスなのですが、実用性としてはどうなのでしょう。私だったら絶対に使いたくないですがね……ご近所さんから成金趣味だと誤解されそうですし……
そんな事を見ながら考えていたのですが、鉢植は金へと変化した後、プルプルと震えたまま変化しなくなってしまいました。
「な、何だかよく分からないけど、頑張っているみたい?」
「が、頑張って下さいー! 鉢植君―!」
固唾を飲みながら二人でエールを送るも、三十秒ほどプルプルし続けた鉢植君。
もう駄目なのかな、と思いかけたその時。
ピロン!
「おおおお!? 金から虹に!?」
「虹きたー! 虹来ましたよー!」
これには二人とも身を乗り出してグッとガッツポーズ。何が何だかよく分かりませんが、否応無しにテンションの上がる光景です。
金を超えた、虹……!
もうこれはスペシャルなサムシングが召喚されること間違いなしでしょう。
これは、勝ったな……! 具体的に何にと言われると困りますが、勝ちましたね……!
――そうして期待する私達をよそに、次の瞬間、
虹になった鉢植君は、閃光と轟音を響かせながら爆発四散したのでした――
「「きゃあああああ!?」」
「うー……酷い目に会いました……ナズナさん、大丈夫ですか?」
「ええ、何とか……」
まさかあそこから爆発するとは……自分でやっておいてなんですが、この儀式危険すぎる……
周りを見れば先の爆発で白い煙がもうもうと立ちこめ、鉢植の破片が周りの壁や木々に突き刺さっている。貸切にしておいて本当に良かった……
「上手くいったのかな……」
煙でよく見えないが、鉢植のあったところに何かがあるのは見える。
何でしょうね、あれ。人間にしては大きいような……
次第に煙が晴れていき、詳細が分かってくる。
「やけに平べったいですね……なんというか、白くて四角で、ふかふかしてそうな……って、あれは……!」
そう、白くて四角でふかふかで、
それは紛れもなく奴さ――
「「何故にお布団ですかー!?」」
恵まれたガチャ演出からのクソみたいなオフトゥン召喚。どうしてこうなった。
あ、続きます。