それは此処ではない何処か   作:おるす

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推敲に時間がかかりました。それにしても話を進めるのは楽しいですね。


八日目「部隊創設:優秀な部下を仲間にしよう」

「さてと、だ」

 自室にて身支度を整え準備万端の俺。昨日バッチリ楽しんだおかげで、気力体力ともに十分。大分散財したため財布は大変軽くなったが、昨日の街の様子を見る限り一ヶ月は生きていけるだろう。どうしようもなくなったらエニシダかナズナにどうにかしてもらうという最終手段もあるし。まあ、出来るだけ使いたくはないが……

 だが、それよりもだ。

「何しよう……」

 そう、今日は何をするのか全く分からないのだ。あちゃーである。

 昨日は結局ナズナと顔を合わせなかったし、最後に会った一昨日にも今日の予定なんて聞いていない。確かお金を貰って夢中になってたら、気付いた時にはいなくなってたんだよな……

 仕方がないので椅子に座り、数日前に作った纏め書きなどを読んで時間を潰す。

「むーん……つまらん」

 しばらく読んで時間を潰すも、すぐに飽きて放り出す。こんなつまらないもの、何で作ったんだろうな……昨日街を回った時に本でも買っておけばよかったか……いやでも、いきなりこんな暇な時間が出来るとは思わないしな……

 思考を走らせつつも椅子に座ったまま意味も無く体をぐにぐにと動かす。

 んー、自由って素晴らしい。アイムフリーダムなう。

 そんな奇行をしていると、しばらくしてドアが開いた。エニシダだ。昨日の私服とは違って今日はいつもの魔女っ娘服か。後ろにはナズナもいるな。

「おはようございま――って、何やってるんですかイルさん」

「おお、エニシダか。見ての通り自由を謳歌していた」

「私には異国の面妖な儀式にしか見えないのですが……」

「ふっふっふ。特に意味の無い動きだ。参ったか」

「参りませんし……」

 俺の説明にげんなりとするエニシダ。それと入れ代わって今度はナズナが話しかけてくる。

「おはようございます。一昨日振りですね、イルさん」

「あ、どうも。朝からお疲れ様です」

「聞くところによると随分と休日を楽しんだようで……」

 そこで言葉を切り俺をしげしげと眺めるナズナ。この動きで惚れてしまったか……?

「これまた随分と高価な服を仕立ててもらったのですね? 買った他の品も私宛に送られていたみたいですし、お金は足りましたか?」

「いえ、足りませんでしたが?」

「えっ?」

「足りませんでしたが、何か親切なお姉さんが料金を立て替えてくれました」

「は……!?」

 俺の発言が理解できないらしく、鳩が豆鉄砲くらったような顔してるな。この人のこういう顔も中々愉快だ。ふっふふー。

「イルさん! ナズナさんをからかって遊んじゃいけません! いいですか、ナズナさん。この服はサフランさんって御方が――」

 俺を嗜めてナズナへと説明を始めるエニシダ。むう、もうちょっとからかおうかと思ったのに。つまらん。

「なるほど、サフランさんが……あの方ならそうしても不思議ではありませんね。それにしてもよく知り合えましたね?」

「何かあの人、エニシダに挨拶したら勝手に自爆したんだよな……」

「しーっ! イルさんその話はダメです! 言ったら絶交しますよ!?」

「分かったよ、若奥さ――おっと危ない」

 咄嗟に伸びてきた手を捕まえ、折檻を回避する。昨日嫌というほど喰らったので流石に俺も学習したぞ。そんなに速くないし、来ると分かれば意外と対処しやすいものだ。

「なんですとっ!?」

「くはははっ! そう何度も同じ手にかかる俺ではない! 少しは手を変えてきたらどうだこのピンク魔――あばっ!?」

 ……この魔女、あろうことか掴んだ手からビームを顔面に放ってきやがった。子供相手に何て酷い事をするのだこいつは。おかげでちょっと頬に火傷が出来てしまったぞ。

 それはそうと本当にビーム出せたんだな……初めて俺の前で披露してくれたのがこんな状況ってのがアレだが。

「ふぅ……ちょっとイラッと来たのでイルさんは黙っててくださいね♪」

「あの、室内でビームはこれ以降やめて下さいね……?」

 スッキリ顔のエニシダに困惑気味のナズナ。まあエニシダ弄りはやめて本題に入らないと。

「……それでナズナさん、今日は何をするんでしょうか? 一昨日は何も聞かずにいたので今日は何をするのかさっぱり分からないんですが」

「あれあれ、初日に言いませんでしたっけ?」

 俺の問いにそんな答えを返してくれるナズナ。初日……初日っていうと、俺が召喚されてそのすぐ後に段取りを話してくれた記憶があるな。この一週間、毎日が濃ゆい体験の連続だったからどういう話だったか全然思い出せない……

「むむむ、話してくれた記憶はあるんですけど、詳細が……」

「イルさんったら相変わらず忘れっぽいですね……」

「どうせ前日になったら誰か教えてくれるだろって」

「ええー……」

「仕方がないですね……それでは今日の予定をお話ししますよ」

 そこでおほんと一つ咳払い。

「今日はイルさんの部下になる予定の花騎士との面談です。昨日最後の方が到着したので、期限ぎりぎり、ようやくの打ち合わせとなります」

 

 

 場所は移って城内のとある一室。

 

 ナズナに案内されるがままに移動してきた俺達だが、ここはうんあれだな、いつぞやの予定説明の時に使った部屋だな。無造作に置かれた机に椅子、そして黒板。見間違えるはずもない、まごう事なきあの部屋である。意外と自由に使える部屋が少ないのかもしれない。

 そして、そんな懐かしの場所で俺達は待たされているわけだが。

「…………」

「…………」

「んー……むー……」

「…………」

「何か……緊張してきた……」

「な、なに緊張してるんですか……い、いい、いつも通りにしててくださいよ」

「いや、何でお前も緊張してるの……?」

「き、緊張してませんし! 武者震いですし!」

「武者震いってそんなに椅子ががたがた揺れるものだったっけか……? 取り敢えず落ち着こう? な?」

「だ、だって、私の全力をもって召喚したイルさんを、何かの手違いで花騎士さん達が受け入れてくれなかったらと思うと……うううっ……想像しただけで体の震えが……! そんな事になったら、全世界に申し訳なさ過ぎて耐えられそうもないですっ……!」

「受け入れられないのが前提か!? 今だけはもうちょっとポジティブになってくれ、頼む! 俺も割と今いっぱいいっぱいなんだから!」

 ……待つこと数十分。俺達は緊張の真っただ中にあった。なんていうか、この雰囲気は受験発表とか内定発表の瞬間のようで非常に落ち着かない。俺が緊張して何とかなるものでもないのだが、こう、待つだけの時間って辛いよね。しかもこいつと話す位しか時間を潰す手段がないのに、当の相方が緊張しまくっているという救いの無さ。ああくそ、こういう時に泰然自若としてるような肝の据わった奴に召喚されたかった……!

「お待たせしました。花騎士の皆さんを連れてきましたよ。……って、お二人とも大丈夫ですか……?」

「大丈夫じゃないです! もう緊張しすぎて今にも爆発しそうで……!」

「だから何でお前の方が俺より緊張してるんだよ!? 魔女なんだからもっと自信を持てよ!」

「魔女以前に私という小っちゃいミジンコ人間にこの状況は辛すぎますっ!」

「ミジンコ!?」

「あー、エニシダさんは放っておいて……イルさんは大丈夫そうなので、もう部屋に入れちゃいますね?」

「あうああ!? ま、待って――」

「ああもう面倒臭い! お前はこれでも被ってろっ!」

「んああ!? 前が! 前が見えないですっ!? ううんっむぐぐ!」

 エニシダに影を被せ視界と口を塞ぐ。ついでに暴れられても困るので、念入りに魔力を込めて椅子にも縛り付け、部屋の隅に移動させる。我ながらちょっと扱いが酷いとは思うが、今後の円滑な進行の為だ、許せ。

「むー! むーーー!?」

「悪いな。後でクレープ奢ってやるから……ナズナさん、もう大丈夫です」

「とても大丈夫そうには見えないのですが……まあいいでしょう。――お待たせしました、入って来てください」

 ドアの外へと声を投げるナズナ。すると、ややあって数人の女性が入ってきた。

 数を数えてみる。一人、二人、三人……あれ、何か少ないな……? 部隊って五人構成だったような……というか、最後の一人には見覚えが――

「……アネモネ?」

「……うそ」

 互いに顔を見合わせる俺達二人。お城に用があるとは聞いていたけどこう来るとは……だがまあ、顔見知りが部下になるかもしれないというのは嬉しい誤算だ。おかげで少しだけ緊張も解けた。

「あら? イルさんはアネモネさんと知り合いなのですか?」

「ああ、昨日ちょっと知り合って……まあそれは後にしましょう」

「あ、ええ、そうですね。他の方とは初対面でしょうし、まずは全員の紹介からしましょうか」

 ナズナはそう言って一旦言葉を切ると、最初に入ってきた女性から紹介を始めていく。

「まずこちらの方はサンゴバナさん。お隣の国のリリィウッド所属の花騎士ですが、丁度所属していた部隊の人員に余裕が出たので急遽駆け付けて頂きました。実戦経験豊富で頼れる御方です」

 紹介を受けた女性がぺこりと一礼する。

 外見は長く伸びた髪から服装まで見事に全身ピンク。可愛らしくフリルでふんだんにデコレートされた服装はどう見ても騎士に見えない。だがしかし、長裾のスカートに隠れているが、足に付けた金属製のグリーブが堅気の仕事をしてはいない事を如実に物語っている。

 でもさ、足だけ防具付けてても意味あるのかね……?

「続いてこちらの方はキルタンサスさん。この国、ブロッサムヒル所属の花騎士で元特務部隊所属の凄腕の人なんですよ」

 続いて紹介されたのは色素の薄い髪を長く伸ばした、ショートパンツが印象的な女性である。この三人の服装の中では一番肌面積が多いが、何とか許容範囲内だ。うっかり昨日立てそうになっていた裸族フラグは見事に粉砕されたようで何よりである。

 それにしても気になる事をナズナが言ったな……

「特務部隊……ああ、あの解散になったっていう……」

「ええ、その特務部隊です。キルタンサスさんとは解散してから今まで音信不通だったんですけど、先日ようやく連絡が取れまして……」

「音信不通だったのか……あの、今まで何してたんですか?」

 興味本位で件の凄腕な御方に話を振ってみる。

「家」

「はい?」

「部隊が解散してやる事無くなっちゃったから、ずっと家にいたわ」

「…………」

 ……それって、つまり……

「音信不通になってた間、ずっと家に引き籠っていたと……?」

「そうよっ! 急に団長が死んで部隊が無くなって、どうしていいのかさっぱり分かんなかったのよっ! 悪いっ!? いきなり心の準備も出来ないままに放り出されて、もうこっちも精神が参っちゃって何にもできなかったんだからっ! ここに来るのも超大変だったんだからっ!!」

「あの、その、何かすみません……」

 ……初対面の人にいきなり捲し立てられてお兄さん泣きそうです。でもそっか、リストラからの社会復帰は大変だよな……しかも精神面での病み上がりっぽいし、優しくしてあげないとな……

「……なによ。変な目で見ないでくれる?」

「いや、ごめん。色々あって大変そうだなって。……お菓子食べる?」

「いらないわよっ!」

「ちゃんとご飯とか食べてるか? 何かあったら相談に乗るからな?」

「あんたは私のおかんかっ!?」

「……打てば響く……」

「何の話よっ!? 脈絡も無く変なこと言わないでっ!?」

「なるほど、確かに凄腕だ……!」

 これは素晴らしい。俺のボケに対して的確なツッコミが最速で返ってくる。凄腕の騎士ってのは本当のようだ。引き籠っていて腕が錆びついたとかそういう心配は必要なさそうである。

「あの、イルさん。凄腕ってのはツッコミの腕ではないですよ……?」

「分かってますよ? ただツッコミのキレが半端ないから、特務部隊ってのはすごいんだなって……」

「あれ、これそういう面接だったの……!? 新部隊創設って話は……!? なけなしの気力を振り絞って来たってのにこの扱いは何……!?」

「ああ、キルタンサスさん! 混乱しないで下さい! 落ち着いて!」

 うずくまり頭を抱え始めるキルタンサスさんと、それをなだめ始めるナズナ。俺の会話術で和やかな雰囲気を出そうとしたのだが、どうもうまくいかなかったようだ。

「あの、そろそろ私の紹介もして欲しいんだけど……」

「あ、す、すみません。どうどう。キルタンサスさん、大丈夫ですからね……貴方はなにも間違ってないですからね……」

「…………」

 あやされてキルタンサスさんが大人しくなったのを確認すると、ナズナはようやく最後の一人の紹介を始めた。

「もうご存知かとは思いますが、こちらはアネモネさん。前はガルデ地方に勤務していたのですが、新部隊創設にあたって転属していただきました。こちらも実力は折り紙付きの大変優秀な花騎士さんです」

「転属理由ってそれだったんだ……」

「あれ、知らされてなかったの?」

「うん。手紙には火急の用って書いてあっただけで、何をさせられるのかはさっぱり分からなかったんだよね……」

「うわぁ、お粗末ぅ……」

「お、お粗末とは失礼な! ちょっと忙しすぎて内容にまで手が回らなかっただけですし! 断じて手抜きではありませんよ!」

「それを世間一般では手抜きというんですよ?」

「アネモネさんには絶対に来て頂きたかったので、職権を最大限に行使して王室の焼印まで入れましたし! 厳密に言うとギリギリアウトですが!」

「……そしてそれを職権乱用というんですよ?」

 ……いかん、この人も意外とダメなのかもしれない。目的のためには手段を選ばない人間ってのは結果は残すが、周りに多大な負担を強いるからあんまり好きになれないんだよな。何か苦手な理由がちょっとだけ分かった気がするぞ……

「私、そんなに期待されてたの……? が、頑張らないと……」

 そしてこっちはこっちでなんかやる気出してるし。無理矢理呼ばれたみたいだけど良いのか? やる気が出てるって事は良いんだな?

「……そういえば聞きたいんだが、なんでアネモネにそこまで来て欲しかったんです? 他の人じゃ駄目だったんですか?」

「……イルさんの誕生日聞いたじゃないですか?」

「うん? ……あっ、もしかしてエニシダと一緒ですか?」

「ご名答。ですので多大な戦力になるかと。後でアネモネさんにも教えてあげてくださいね」

「ああ、了解しました」

 そうか、アネモネも俺の誕生花だったとは……昨日一瞬で仲良くなれたのも納得がいく。何か他人に思えない感覚とかもしたし、エニシダとはまた違う関係になったりするのかも。

「??」

 そしてそんな俺とナズナのやり取りに要領を得ないのか、頭上に疑問符を浮かべるアネモネ。知らない人からすれば何の話だよって思うわな……

 それにしてもこういう話を切り出すときはどういうシチュエーションが良いんだろうか? エニシダの時は確かどうだったか――

「あのー、みなさん話し込んでいるところ悪いのですが……」

 ……そこで思考を遮るかのように見知らぬ声が響いた。

 声の方を見ると、最初に一礼したっきりで黙っていたサンゴバナさんだ。見た目通りの非常に可愛らしいお声だが、何か気になる事でもあるのだろうか?

「あちらの後ろでうーうー唸っている女性は何なのでしょう……? 目隠しと口枷してるって事は何か罰でも受けているんですか……?」

「あっ……」

 やばい。何か忘れてると思ったら……!

 恐る恐る振り返り、もう一人の誕生花を確認する。うわー、気持ち的には絶対見たくない……

 するとそこには、

「……ううっ、うっ、ずぞぞ、ずびっ、ふぐぅ、うーうううぅ……」

 ……鼻水やら涙やら涎やらでぐちゃぐちゃになったエニシダさんがいたのでした。おーまいがっ。

 

 

「あの、エニシダさん」

「………………」

「すみませんでしたエニシダさん」

「………………」

「本当にごめんなさいエニシダさん」

「………………ずずっ……」

 ……あの後、即座に拘束を解きタオルで顔を拭いてあげたのだが、それっきり部屋の隅っこで体育座りしたまま、何の反応も示さなくなってしまった。顔も膝に突っ伏しているからどんな表情なのかも分からないぞ……

 完璧に俺が悪いから平謝りに徹するしかないこの状況。とてもつらい。

「初対面の人達の前で拘束プレイとか、流石に弁解のしようも無いですエニシダさん」

「………………」

「……あの、何でもしますので、機嫌直してくださいエニシダさん……」

「…………いるさんのばか」

 おお、ようやく反応が返って来てくれた。たったの悪態一つだがこんなに嬉しい事はないぞ。

「はい、大馬鹿ですから。何でもしますから」

「ほんとうに……」

「はい?」

「ほんとうになんでもしてくれますか……?」

 そう言うと顔を上げてこちらを見てくるエニシダさん。泣き腫らしたのか目が真っ赤だ。本当に可哀そうな事しちゃったな……

「ああ、うん。本当に何でもするから機嫌直してください」

「わかりました……とりあえず」

「取り敢えず?」

「…………すぐにはおもいつかないのでこんどいいます」

「あっ、はい……」

 何が来るかと身構えていたので思わずずっこけそうになる。だがここは我慢だ。我慢だぞ俺……

 そんな俺の胸中を知ってか知らずか、立ち上がり再度タオルで顔をごしごしと拭くエニシダ。それで切り替えたのか、タオルを下ろした時にはいつもより控えめながらも快活な様子が戻っていた。

「えっと、その、面談に戻りましょうか……」

「そうだな。……本当にごめんな?」

「もう謝らなくていいですから。早く戻りましょうっ」

 二人で部屋の隅から皆の待つ方へと戻る。

「お待たせしてごめんなさい。続きをしましょうか」

 エニシダの声で思い思いに休憩していた面々がこちらへ向き直る。その一人、サンゴバナさんがエニシダへと労わりの言葉をかけてくれた。

「あの、大丈夫でしたか?」

「あ、えっと、おかげさまで……サンゴバナさんでしたか、ありがとうございます。助かりました……」

「いえ、お礼を言われることのほどでは……えっと、私は何も見てませんので、エニシダさんも気にしないで下さいね……?」

「うぅ……あんな見苦しい醜態を見せてしまったのに、何てお優しい方でしょうか……」

 かけられる情けに絆されるエニシダ。まあ、同性としてあんな醜態が見過ごせなかっただけだと思うんだが、えらく感動してるし水を差さないでおこう。

「えっとそれでナズナさん。どこまでやりましたっけ? 続きでしたよね?」

「ええ。こちらの三人の紹介が終わったので、次はイルさんとエニシダさんをご説明しようかと」

「おー、なるほど」

「そうよ。さっきから気になってたんだけど、結局この子は何なの?」

 我慢できないと言わんばかりに声を上げるキルタンサスさん。……それにしてもキルタンサスさんって言い辛いな。今度ブエルみたいに何か良い愛称でも考えてあげないとね。

「それを今からご説明します。こちらのイルさんなんですが――」

 ナズナが俺についてとこうなった経緯を簡潔に説明していく。

 団長が死んで切羽詰まった事。即席の代替労力としてエニシダの協力の元、俺が召喚された事。俺の現状についての詳細やその後の教育課程について。

「何というか、にわかには信じがたい話ですねー……召喚されたら若返ったとか……」

「それよりも男性なのに世界花の加護を受けられたってのが異常ね。副作用とかないのかしら……髪が伸びたってのもまあ聞いたことないけど、それだけで済むとは思えないわ」

「王国最強から直接手解きを……」

 一通り説明を聞き終え、三者三様の感想を漏らす。総評としては俺は色々と規格外で、評価しかねるといったところか。それにしても我が身ながらどうしてこんな事になってるんだろうな……一週間前はのんびりと暮らしていただけなのにな……

「おほん。これで全員一通りの説明が終わりました。何か質問のある方はいますか?」

 ナズナはそう言って見回すも、誰も手をあげる者はいない。

「……特に無いようですね。それではこれで面談を終えて部隊創設の手続きへ――」

「ちょっと待った!」

 話を進めようとするナズナを遮り、止めにかかる何者か。――キルタンサスさんだ。

「部隊創設の為に私たちが集められたってのは理解したわ。……だけど納得はしてない」

 そこまで言うと俺の方をズビシッと指さし、なおも続ける。

「こっちに来て一週間ちょっとのよく分からない子供を上司にしてこれから働いていけだなんて、私達の扱いが酷過ぎると思うんだけど? この子がどれだけ凄かろうと、それで『はいそーですか、明日からよろしくね』なんて言うとでも思ってるのかしら?」

「あー……確かにな……」

 至極もっともな意見だ。ぐうの音も出ない。俺だって向こうの立場だったら絶対反発するだろう。

「えっと、実は私も同意見で……」

「……イルの事は嫌いじゃないけど、私も一緒かな……」

 次いで他の二人も同じ意見を口にする。

「えっ、えっ、ちょっと!? ここはみんな仲良く協力して任務を頑張りましょうって、一致団結するところだと思うんですけど!?」

 この反応が予想外だったのか、狼狽えだすナズナ。いやまあ、俺だってそうしたいところなんだけどさ……如何に有能な上司でも信頼できない相手じゃ、仕事のモチベーションなんて出るわけないし……

 だがこの状況はまずい。非常にまずい。何とかしないといけない。

 ……というか、俺からしてみれば、だ。

「……なあ、俺からも一ついいか?」

「ん? あなたも何か言いたい事あるの?」

「うむ、すごく大事な事だな。ひょっとするとお前たちに信用されない事よりも、もっとずっと大事なことかもしれない」

「へぇ、何よ? 言ってみなさいよ?」

「ああ、それはだな――」

 それはこの状況をひっくり返すであろう一言。

 ともすればこの場を良くも悪くも粉砕するに余りある言葉。

 

「…………お前ら本当に使えるの?」

 

 ピシリ、とその場にいた全員が凍りついた。

 凍りついた空気を顧みることなく、尚も俺は続ける。

「いやまあ、お前さん達が各地から集められた優秀な人材様だというのはさっき説明されたわけだが。俺からするとそれはただの情報。本当に強いのか、使えるのか、腐った性根をしていないのかがさっぱり分からない訳で」

「……あにが言いたいのよ……?」

 俺の言葉を受け、怒気を孕んだ声をキルタンサスさんが漏らす。他の二人も剣呑な空気を少なからず醸し出しているな。

 よし、何とか挑発には乗ってくれたようだ。

 ……本音を言えばもうほんと、初対面の相手にこんな事はひっじょーに言いたくなかったのだが、この状況を打破するためには仕方がない。部隊創設できなければ俺の食い扶持が無くなってしまうのだ。

「つまりだ。良く聞け」

 指を一つ立て、出来の悪い教え子に教えるかのように続けていく。

「お前たちが俺を見て感じた事、思った事をそっくりそのまま俺も感じていたって事だ。

 要するに、全く以て、これっぽっちも、信用ならない!」

「あんですって……!?」

「あわわわ……キルタンサスさん! 落ち着いて!?」

 激昂し腰を浮かせたキルタンサスさんをなだめるナズナ。

「信用ならない……それは、ちょっと、うん、聞き捨てならないかな……?」

「使えるのか、と来ましたか……まあ初対面ですし、そう思うのも仕方ないですよね。……大分心外ですけど?」

 キルタンサスさん程ではないがあちらもいたくプライドを刺激されている様子だ。騎士って言うからにはこういう挑発は効果的だろうと踏んだのだが、予想以上に効果覿面でお兄さんちょっと後悔してますよ。

 

 ……だがしかし、既に賽は投げられた。ならば最後まで突き通すのみ。

 

「……そこで、だ。お互いの事をより良く知るために、ある一つの提案をしようと思う」

「て、提案ですか……? 一体どんな……」

 はらはらしながら事の推移を見ていたエニシダが言葉を挟んでくる。

 ……これから言う事でこいつの心労もすごい事になりそうだが、まあ仕方がない。ここが力の見せ所だ。声が震えないよう昨日の決意を思い出し、騎士三人を見据え言い放つ。

「試合だ」

「は……?」

「俺とお前たち三人でこれから試合をしよう。加護の異能を振るい、死力を尽くし、持てる力を余さず見せ合って、相互理解と洒落込もうじゃないか」

 




わーい! たっのしー!
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