初日
織斑 千冬にとって、彼を見たのは実に5年もの月日が経つ、突如蒸発した篠ノ之 束の弟にして篠ノ之 箒の2つ上の兄。
姉の篠ノ之 束が"天災"と言われたように彼もまた天賦の才を持つものだった。
そして今や唯一の篠ノ之 束の抑止力としてその存在を世界から認められた男
「人工の島にしては中々の出来だ。久しぶりにあったね、ちーちゃん」
「織斑先生と呼べ。驚きだな、まさか本当にIS学園に入学してもらえるとは…何をたくらんでいる?」
「はっはっは、そんなに信用ないかな?」
「出来れば信頼はしたくないな」
長い廊下を歩きながら二人は軽く言葉を交わす。互いに互いを認めあっている関係もあり、千冬は自然体で笑顔をつくる、悪戯っ子のようにニヤリとして
「俺が家出したのって何時だったっけ?」
そう、彼は家を出た、何を見越したか知らないがかの有名な白騎士事件の僅か1ヶ月前に…
「多分最終学歴小学校中退くらいだったかな、あと何ヵ月かで卒業できたのになぁ。いやはやまさか高校に入らせてくれるなんて光栄だよ」
なんの前触れもなく、絵にかいたような事件。
トリックはわかっているが証拠がないために"篠ノ之 煌燿"は亡き者になった。
嘘だとわかっていても"篠ノ之 煌燿"が戸籍上消えてしまった出来事から数年がたつ、かつて道場で無邪気に遊んでいた頃とは違い背丈も伸び、体格もガッチリした様子はその佇まいや雰囲気が凶器そのものを連想させる。
「それはそうとしっかり身体が出来上がってきたんじゃないか?」
そうだね、と答えながらも彼は別のところへ、意識を向ける、学園を品定めするように…
「ちーちゃん、ここはいい場所だね」
「そうか?そうだといいんだがな」
「ああ、インフィニット・ストラトスという兵器を扱っている場所には到底思えない緩い雰囲気だ」
「それは誉め言葉か?」
「そりゃ勿論、姉貴も兵器として使われているよりかは喜んでいるよ…まあ今『lS学園に宇宙を目指す基地を造ればいいのに!』なんていっていたしね」
「そういえばあいつは今どこに…いや何でもない。ここがお前のクラスだ、く・れ・ぐ・れも変な行動は起こさないように」
突然、滑るというか転けるというかコミカルな音が2人の目の前にある教室から響いてくる
「…先にやっちゃった子がいるようなんだけど」
千冬は思い当たる節があるようで頭を押さえた、自分の弟が何かやったのだろう
「私の愚弟だ、多分な…ではお前は私が入ってこいと言ったら入ってこい」
そう言って千冬は教室のなかへ入っていく、聞きなれない破音が聞こえた直後、まさに轟音。女子特有の不協和音が教室から漏れ出てくる
「ハハハ…ここはマジで大丈夫か?」
そんな心配は無視するように、心の準備をするまもなく『入ってこい』との宣告が無情にも告げられる
少年は、初めて女の園へ飛び込む
一国の軍隊に護られ続けた少年にとっては初めての社会経験
千冬に自己紹介をしろと促される
「
天災の弟はIS学園で何を思い、何を為すのか
それは煌燿以外誰も知らない。
1
篠ノ之 煌燿がいなくなった訳は至極単純だった、篠ノ之 煌燿は姉の計画を知っていたから。
天災の弟ということもあって頭の回転は悪くない、寧ろ良すぎるくらいだ。だから知っていた、この後自分の身になにが起こるのか、どんな生活を強いられるのか。
そして篠ノ之 束に相談して存在を消し、新たに別人になった。
警察も確かにトリックであることはわかっていたが、証拠が見つからないため、死んだということにするしかなかった。
その後の動向は束しかしらない、箒や一夏、千冬は束に問い詰めるが何をされても束は答えなかった『約束だから』と言って。
篠ノ之 束は箒のことを"可愛い妹"と称すが、煌燿のことは"愚弟"と称す。
自分と似ているくせに凡人に甘い、そのわりに自分と同じようなことをする、やるなら徹底的にすればいいのにと束は思うことがしばしばあった。
理由は人を好きか嫌いで判断していたから、少しばかり嫌い方に異常性があったがその辺はまだ序の口。
本人は知らないけれど(束は知っていたが)、煌燿にはある天賦の才があった。束が煌燿のことを愚弟と称す一番の理由は才能があるのに気付かないこと。それなりの膨大な時間は費やすが努力すればそれ以上を得ることができた。束は何度もその事を言うが相手にされず弟に一周回って馬鹿になってしまったのではないか?と本気で心配されてしまったのは束にとって歯痒い想い出のひとつである。
陽気な性格なため箒や一夏にも好かれており、実に社交的なため父親は勿論、親しい間柄の人々は、束の弟、箒の兄か?と疑ったほどだ。
その証拠に、既に女だらけの
「まだ一限目終わったばかりだぞ…」
適応力の早い煌燿を見て千冬は二度と彼については心配しないと決めたのだった。
2
「では、ここまでで質問がある人はいますか?」
休み時間をはさんで二時限目、IS基礎の勉強の時間。教壇には山田先生だけではなく、千冬も仁王立ちして授業の状況を見つめ、時折山田先生の代わりに解説する時がある。
そういう環境だからこそ全員の視線はおのずと前の黒板に目が行く、lS学園はエリート校、皆頭はよく、運動が出来る、そういうエリートでさえ何とか言われることを聞き逃さないようにノートに書きとめながら、教科書にも重要な箇所にマーカーを引く。
特にIS関連の授業は覚えることが非常に多いため、事前に渡された参考書を読んでいなければ授業についていくことは難しい。
それでも皆当たり前に予習をしているためこの段階でわからない女子は誰一人としていない、そう女子は。
一夏が青ざめて手を挙げるのを躊躇うのに対し煌燿は綺麗に真っ直ぐ挙げた、あたかも皆がわからないところを発表しますと言う風に
「東雲くん、何かありますか?質問があったら聞いてくださいね? 何せ私は先生ですから!」
「センセイ、アイム リブド イン アメリカ フォー ファイブ イヤーズ」
「…は、はい、どうしたんですか東雲君?」
「アイム スタディ ジャパニーズ ベリーハード ビコーズ アイ ウォント トゥ エンター インフィニット・ストラトスアカデミー イン ジャパぁあああああん」
直後、煌燿は落ちた、千冬のミドルキックによってくの字に折れながら
「な、何するんですか織斑先生!?」
「そうだったすっかり忘れていたよ。すまんなよく考えてみろ山田くん、こいつはどうやって入学した?」
「えっと確か…緊急で、あっ!」
「だからこいつは事前に予習も何もしてきていない、参考書を読む暇もなかった、だが心配するな私に任せろ、今日中にこれ一冊頭に詰め込んでみせる」
「(織斑先生に一日もしごかれるなんて)東雲君は大丈夫なんですか!?」
「問題ない、私の知る限りこいつの姉は世界一頭がいい、ではあとは任せたぞ山田くん。諸君、ISはその機動性、攻撃力、制圧力と過去の兵器を遥かに凌ぐ。そういった”兵器”を深く知らずに扱えば必ず事故が起こる。そうしないための基礎知識と訓練だ。理解が出来なくても答えろ。そして守れ。規則とはそういうものだ」
いや、姉がいいからと言って弟がいいとは限らないでしょ、とは誰も突っ込めない
そう言うとぐったりした煌燿を引きずって教室の外へ消えた。
引きずられた道に10本の細い傷がついていたらしい
「お、布仏、鏡、谷本いいところに来た。お前ら休み時間こいつと話していたよな?少し頼み事があるんだが引き受けてくれないか?」
「「はい!なんでしょうか!」」
「そこまでかしこまらなくていいぞ…明日の朝食堂に行くときこの部屋を訪ねてくれないか?一冊無理に詰め込んだせいで混乱しているらしくてな、それと汗臭かったらシャワーを浴びるように言ってやれ」
「「はい!わかりました!」」
「織斑先生~、しののんの制服に黒い染みが沢山あるけどなんですか?」
「ん?ああ、途中で急に頭を机に打ち付け初めてな…」
「「「・・・・・・」」」
煌燿の学園生活はまだ始まったばかりだ。