1
「シャルル・デュノアです。フランスから来ました。この国では不慣れなことも多いと思いますが、皆さんよろしくお願いします」
転校生、しかもこの中途半端な時期にやって来た彼、シャルルはにこやかに告げて礼儀正しく一礼した。あっけにとられるクラスメイト…煌耀ですら呆気にとられていたのだから教師側の千冬も驚きを隠せなかった。
「お、男……?」
教室のどこかから、そんな声が上がる
「はい。こちらに僕と同じ境遇の方々がいると聞いて本国より転入を──」
人懐っこそうな顔、礼儀の正しい立ち居振舞いと中性的な顔立ち、一夏や煌耀をイケメンと評するならこちらは美少年というのだろう。
「「「きゃぁぁぁぁああああああ!」」」
歓声と歓声とが重なりあい、教室を揺るがした。
煌耀は必死に鼓膜を守り音をシャットダウンする
「だっ、男子! 三人目の男子!」
「しかも全員うちのクラス!」
─3人目の男性操縦者、いや例え男でなくとも相当な訳ありなはずだ。
「黒髪黒目の正統派イケメン2人じゃアクセントが足りなかったのよね~、お次は金髪紫瞳の守ってあげたくなるイケメン、私達は神に恵まれているわ!」
ざわざわと女子達の興奮した声が教室に広がって行く、2組からも苦情が出されてもおかしくない騒音がひっきりなしに男子勢の耳を痛め付けていた。
「あー、騒ぐな。静かにしろ」
鶴の一声とも言える千冬の声が耳に入るや否や収まるところも風物詩となっていた。
「ゴホン…デュノアは予定より早く来日したが明日も転校生が来る、そのときは静寂を保つように…それではひよっこども今日も着実になにかを得て成長しろ!以上、解散!」
千冬姉が手を叩く音が、ぱんっ! と小気味よく教室に響いた。
2
「では兄さ…こ、煌耀、始めよう!」
「いや、もう兄さんでいいよクラスで呼ばなきゃそれでいい」
「わかった!さあやろう兄さん!」
「お、お~…」
今俺たち兄妹は同じ部屋にいる、箒ちゃんは一夏と同室らしいがわざわざ俺の部屋まで来ていた。
シャルル・デュノアは箒ちゃんと入れ替わり一夏と一緒にいる…はずだ、一夏は昔から男にも興味があるらしく幼少の事から俺にベタベタくっついてきた記憶がある。シャルル・デュノアが掘られないことを祈るばかりだ…
シャルル・デュノアは現状、諸々手続きが面倒らしく今日は授業に顔出ししていない、しかし時間を推して今日から早速一緒になってISの訓練をしている、素性がわからないシャルル・デュノアに日本が頑張って作り上げた白式の情報を親切に公開するなんて何て心が広いのだろうか、それともバカか、おそらく後者だろうが…
俺のIS《アンチェイン》は姉であり、ISの母である篠ノ之 束ですらわかっていないのだから…だがしかしこの前姉貴の用意した
閑話休題
さて何故今俺が箒ちゃんと一緒にいるのかというと一夏のほんの一言が事の発端だ。
「せっかくシャルルも来たんだし、皆で親睦会をしようぜ!」とシャルル・デュノアと肩を組みながらニコニコ笑っていた。シャルル・デュノアすらもひきつった笑いを浮かべていた…だが親睦会はむしろやりたかったらしく、俺もついでに誘われた。
断ろうにも箒ちゃんに誘われたので断るに断れなかった、こんな気持ちはムズムズするが…どういうわけか悪くない
それも兼ね親睦会とやらは手作り弁当を女子達が作って来るという企画へと進化し、今現在に至る。
「さて兄さんはじめにレシピを考えよう」
レシピか、正直一夏に食わせるものなんてそこら辺の溝から採ってきたザリガニを煮て熱いまま手に渡してもいいくらいだが、箒ちゃんが本気でこの企画に懸けていたので言えなかった。
姉貴も結果的にちーちゃんと義姉妹になれるということで応援していることには変わらない、俺も箒ちゃんのことは応援しているし、好きな人を何年間も一途に思い続けることは素晴らしいことだ、相手が誰であろうとも。
という訳で箒ちゃんと料理をしているわけだが、正直俺にとって料理は運ばれてくるものだったし、味も悪くはなかった。毒も入っていることはバックにいる姉貴を考えてもあり得なかったし…箒ちゃんも色々な事情なため料理することはなかったらしい。
言わば一昔前に言われた『料理をしたことのない女子が好きな男のためにバレンタインデー初めて手作りチョコレートを作る』とのことらしく今現在も試行錯誤中だ。
運良く俺の舌が肥えていたので箒ちゃんに言われた通りびしばしアドバイスをしている、初めてのような…懐かしいような、ふわふわとした不思議な感覚に浸っていた。
「うん、これくらいでいいんじゃない?あとは明日の朝に唐揚げとだし巻き玉子を作れば完璧だ」
「唐揚げは今ここにあるのじゃダメ…なのか?」
「それでもいいけど使う油全体の2~3割程度を使いさしの油を入れるといい。新しい油は、素材の味が抜けてしまう。使いさしの油に新しい油を混ぜて使っていくことで、素材の味が守られる。使いさしの油を使うと、より鶏肉がパサパサせずに美味しく揚がるんだ」
「やはり凄いな兄さんは!昔から何をやってもできたし…姉さんとやっぱり似ている」
その言葉は、重く響いた、最後の方は絞り出したような声だというのに
『"やっぱり"姉さんと似ている』
どんな思いで言葉を紡いだのか、言葉の裏にどんな思いが込められているのか…
その表情は、俺には分かりにくいものだった、それほどに微妙で笑っているような、悲しんでいるような表情は理解しがたい。
その事に対してかける言葉なんてない、俺はただ、いつも通り振る舞うことしかできない自己中心のエゴイストだからだ。
「姉貴は姉貴、俺は俺、箒ちゃんは箒ちゃん、それぞれいいところと悪いところがある、変に気にすることなんてない…そして俺たちよりも箒ちゃんの方が魅力的だ」
「そうか…ならそう言うことにしておこう!」
箒ちゃんはそう言うとまた黙々と調理に取り組んだ。俺と姉貴は世間一般から言ってずれている、俺はだからこそ身内である純粋で、普通の箒ちゃんのことが羨ましくて、眩しい存在だ。全く別物だからこそ惹かれあっているのだと思う。
そう思ったのはいつからかも覚えていない、だけれども俺達は兄妹は、ようやく和解できたのだ、それでいいじゃないか。
こう考えることで濁流のごとく頭のなかを飛び回る疑問を考えないようにした。
「もうそろそろ部屋に戻ろう、ちーちゃ…織斑先生が来たら厄介だ」
「そうだな!おやすみなさい兄さん、また明日!」
「はは…頑張って起きるよ」
箒ちゃんと入れ替わりでシャルル・デュノアが部屋に来る、まさか初日から仕掛けてくることはないだろうが…気を付けないとな
デュノア、聞いたことがある
確か
もし、仮にシャルル・デュノアが女だったと仮定しイレギュラーである俺の存在を無視すると、代表候補生でなく専用器を持っている男好きの一夏に急接近するために男装するのもうなずける。
…待てよ、
箒ちゃん、どうやら君の恋路は厳しくなりそうだ
さて話は置いといて、フランスの情報収集能力も捨てたものじゃないな、この短時間で一夏についてここまで調べるなんて…それに俺に色仕掛けをしなくて正解だ。
俺は可愛い女は好きだ、見ていて不快じゃないし、諺と違い飽きることはない、だからと言って個人的な好意を持つことは決してないだろう、アメリカの世話役に聞いたところ『可愛いと思ったら惚れていたんだ』と答えてもらったが理解できない。
やはりずれているのだろう、可愛い→だからどうした?という話だ。
可愛いからといって手心を加えるつもりは一切ない、今まで何人か手をかけた人たちだっていた、皆綺麗で可愛いかったけれど、それ以上の感情は芽生えなかった。
ドアが開く、シャルル・デュノアが張り付けた笑みを浮かべ話しかけてきた。
「よろしくね、えっと──」
「東雲 煌耀だ」
相当な貧乳か…それとも男か、どっちだろう?
まぁいい、少しの暇潰しくらいにはなるかもな
その日は取り留めの無い雑談をして、静かに終わった。
3
「…………」
「……………」
「………………」
「……挨拶をしろ、ラウラ」
「はい、教官」
─はい、知り合い
突然姿勢を正し返事を返した転校生──ラウラ・ボーデビィッヒは沈黙を貫き千冬の一言で喋り始めた、クラス一同も昨日の今日なのであっけにとられている。
そして煌耀は虚空を見つめていた。
敬礼を向けられた千冬姉は面倒くさそうな顔をして小さくため息をついた。
「ここではそう呼ぶな。もう私は教官ではないし、ここではおまえも一般生徒だ。私の事は織斑先生と呼べ」
「了解しました」
そう答えたラウラは気を付けの姿勢を取るが、その姿はどう見ても軍人、もしくは軍事施設関係者ということが素人目にもわかる。しかも千冬を『教官』と呼んでいたからほぼ間違いなく関係者兼厄介者。
千冬は、とある事情で一年ほどドイツ軍隊の教官として働いていたおり、そのあとは一年くらいの空白期間をおいて、現在のIS学園教員になった。
千冬の空白期間の間、煌耀もまたドイツに訪れていたのだ。
「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」
「…………」
クラスメイトたちの沈黙、自分の名前を口にしただけで、それ以降は全くしゃべる様子もない。
「あ、あの、以上……ですか?」
「以上だ」
教室に漂う空気に居たたまれなくなった山田先生が笑顔で訊くが、返ってきたのは無慈悲な即答、山田先生は泣いていた。
「! 貴様が──」
突然、ラウラ・ボーデヴィッヒは軍用ブーツを鳴り響かせ一夏に真っ直ぐ詰め寄る
──ん? なんだ?
バチッ!
「……何すんだよ、お前に俺が何かしたのか?」
何も答えない、ラウラは忌々しそうに一夏を睨み付けるだけだ、目には怒りが燃え盛っている。
「私は認めない。貴様があの人の弟であるなど、認めるものか」
さすがの千冬も予期せぬ行動に戸惑っていた、それほどにラウラ・ボーデヴィッヒの思いは重かったのだ。
「あー……ゴホン! ではホームルームを終わる。各人はすぐに着替えて第二グラウンドに集合。今日は二組と合同でIS模擬戦闘を行う。解散!」
「!……お久しぶりです、兄貴!」
ラウラ・ボーデヴィッヒは膝に手を乗せ、まるで任侠映画のワンシーンのように頭を下げた
「そういうのやめようか、キャラぶれぶれだし」
「はて、しかしクラリッサは」
「いいか、良く聞けよ、あの女の日本の知識はサブカルチャー文化から得たものであり、そのために色々と偏っていたり歪んでいたり誤っていたりするから信じるな」
「男らしく、強く、逞しく、憧れられる人の事をそう呼ぶと言っていたのだが…」
「もういいわ…おい急いだ方がいいんじゃないか?」
「そうだな、ではまた兄貴」
ホームルーム終了後、男子の転校生を一目見んと怒涛のように押し掛けてきた女子たちから逃亡した一夏とシャルル、それを囮に窓から脱出を成功させた煌耀はラウラと談笑?をし終えて、更衣室へと向かっていた。
─フランスから来たシャルル、ドイツから来たラウラ…はぁ面倒くせぇ
「時間は大丈夫だろう」
圧縮空気の抜ける音と共に響いた声が既に2人がいると煌耀に知らせた。
そちらに視線を向けると、シャルルに一夏が迫って話をしていた。
─着替えはいいとして…シャルル・デュノアか
華奢なシルエット、男子高校生としてはかなり背の低い部類に入るであろう身長に、うなじで束ねた濃い金髪、そして、半袖の制服から覗くきめ細やかな白磁の肌、拳をぶつければ折れそうな腕に、華奢な骨格。
「あの、僕の顔に何かついてる?」
「作り笑いが綺麗に張り付いているな」
「……っ、そう? えっと時間も押しているし、早くいこうか」
「ん、それもそうだ」
シャルルの言ったように更衣室でのんびりしている訳にもいかない、遅刻でもしようものならば千冬の制裁が待っている。
既に着替え終わっているシャルルは煌耀よりも早く更衣室から飛び出した。
扉が閉まる寸前、刹那の間目が合う、アメジストを思わせる瞳がそれる。
やはり何かあるなと思いつつも煌耀は気にしない
─どんなゲームも急いでやり過ぎると面白くない、今日はここまでにしよう。
シャルルは逃げるように駆け足でグラウンドへ向かう、更衣室の扉はしっかりと閉ざされた。
新しい煌耀のキャラ難しい…、何かおかしなところがあったらご指摘お願いしますm(__)m
またご指摘、アドバイス、要望等ありましたらお願いいたします。
PS:次の投稿はしばらくできないです