1
洗練された技術や行動等は凄みや感動だけでなく芸術性をも帯びてしまう。
日本刀という例を挙げれば人を斬るのに……否斬るためだけに造られた磨き抜かれた刃と曲線を伝う光が人々を魅了する理由のひとつとして、無駄の排除という部分が大きいのだろう。
一切の無駄を省きある1つの物事のみに特化した物体は美しい。
この美しいに当てはまる意味としては、りっぱである。見事だ。と色・形・音などの調和がとれていて快く感じられるさま。人の心や態度の好ましく理想的であるさまにもいう。の大きく2つの意味が該当するが、言葉を借りるのであれば洗練された何かというのは理想を突き詰めて体現しているからこそようやく立派で見事という感想に辿り着つく。
ましてやそこに辿り着くまでの血塗れ泥まみれの過程など一切浮かび上がることはなく、積み重ねてきた過程という名前の不純物の姿はなく目に見えるのは膨大なまでの糧の上に生成される上澄みだけが目に見えてそこにあるのだから何も知らない第三者から見ても、その道に関わりはなかったとしても人を引き付ける何かがそこに宿るのだ。
千冬を一本の完成された刀だとすればまだまだ二人は叩かれ形を整えられている状態、それでも十二分な凄みを感じさせるのはそれだけ潜在力が高いと言うことなのだろうか。
煌燿はある程度の共感覚でそれを感じ取っていた。
─ラウラはこの前見たときまだ刃として不十分だったが今はちゃんと形になっている、対してオルコットは予想通り素材だけはよかったようだな、この前叩いてやったから随分良いものになっているじゃないか
刹那、盛大な爆発音と煙がアリーナを覆った。
その場にいた誰もがその経緯を予想できていなかったが、広がっていた光景はそれでも想定をは外れた結果になっていた。
シュヴァルツェア・レーゲンを纏ったラウラ・ボーデビィッヒは所々装甲が破壊されているものの、損傷度合いは低く爆発の規模と比べても軽い。
優位なのは変わりないがラウラ・ボーデビィッヒは、何か理解できないものを見るような視線で一点を見つめていた。
「……解せないな、そして全くもって理解できん。それほどまでにこの勝負に賭ける意味がわからない、実力差を判らないほどの操縦士ではない、それにも関わらず序盤から絶対的勝勢が自分にないのを知っておいてどうしてそこまでするんだ?」
ブルー・ティアーズのアーマーはラウラ・ボーデビィッヒに比べて損傷は少ない、六機のビットも全て墜とされ、主武装であるスターライトmkⅢは実体化しておらずどうなっているかはわからないが、握られたインターセプターには無数の罅が走っており、いつ砕けてもおかしくはない。
セシリアの身体からは特に目立った外傷はないが、綺麗な白い肌に赤く腫れ上がる部分が痛々しくある。
目は焦点があっておらず意識は気を抜けばとんでしまうだろう、しかしまだ戦う姿勢を見せているのは彼女の意思によるものだった。
痛みのよって視界も確かに確保されていないがセシリア・オルコットの瞳には強い光が宿りラウラ・ボーデビィッヒを確かにとらえていた。
「あなたには……わからないでしょう、尊敬する人たちが…、それこそ世界で三本の指に入る実力者なのですから」
「……だから聞いているんだ」
「貴女にとって──は───ですか?その気持ちを──たらどう感じますか?」
喋ることすら辛いのか、話す声も途切れ途切れ。誰が見ても、文字通り満身創痍だと判断できる。そんな中で彼女は―――その顔に、笑みを浮かべた。
回線はオープンなのにその言葉は煌燿には聞き取れなかった、聞き取れないが所詮は弱者の遠吠えにしか聞こえない言葉に煌燿はさほど興味を示さない。
「そんな弱者の言い訳は説得力なんか毛ほどもないな」
─流石に考えることは同じか、長く一緒に居ただけあって考え方は似てきたな……実力が伴えば面白いんだが今はまだまだいつも通り気長に待つか
「だが、それはお前が強くなれば説得力を帯びるかもしれない……あの人が言った言葉の意味がお前の戯れ言と同じならば」
セシリア・オルコットとラウラ・ボーデビィッヒは水と油だ、基本混じり合うことはない。
だが、極限られた状態で混ざり合うことは出来るのだ、考え方も生まれも境遇も違う二人は強くなりたい理由を媒体にして僅かではあるが混じり合った。
「どうしたんですの、そんな顔をして?目の前に今にも倒れそうな敵がいるのになぜそうも固い表情を?」
「今さら精神攻撃など意味はない」
「私が知る煌燿さんは……笑っていましたよ、貴女と違って」
そういうとセシリア・オルコットは薔薇のように赤い唇を歪ませる、敗北寸前なのに、どう足掻いても形勢など逆転するはずもないのに不敵に笑う。
ラウラ・ボーデビィッヒは思い出す、あの弱くて存在価値が無いと思っていた頃に投げ掛けられた煌燿の言葉を。
しかし何故目の前の女がそれを思い出させるのか、地面に這いつくばる負け犬のような女が眩しいくらいに輝いているのかわからない。
どういうわけか心の中の大切な所に土足で上がられたような嫌悪感と危機感が少しだけ心地よく思ってしまっていた、それを認めたくなくて振り払うかのように雄叫びを上げて僅かな距離を肉薄する。
だが──最後の攻防が行われることはなかった。
ラウラ・ボーデビィッヒが接近しようとした時からセシリア・オルコットの意識は途切れていた、痛みが精神力を越えて本能がもう休めと身体の機能をシャットダウンしたため糸の切れた操り人形のように落ちて行く。
そして
『そこまでだ』
有無を言わさぬ一言はその声を聞いたほとんど全員の身体の自由を奪った、言葉のひとつひとつが意思をもった別の個体のように不思議な強制力がアリーナ全体を支配する。
『模擬戦をするのは構わん。が、各国から預かっている大切な資本を非公式に潰されるのはIS学園の一教師として認められん。それでも不満があるなら戦いの決着は、学年別トーナメントでつけてもらおう、異論は認めない───それでは鈴と織斑はアリーナ入口付近にある担架を使いオルコットを医務室まで連れていけ、デュノアも付き添ってやれ。それでは速やかにアリーナから離れろ』
千冬が手を打つ音が、アリーナに溜まった何とも言いがたい空気を押し退けていつもの静寂を作り出した。
2
シャルル・デュノア改めシャルロット・デュノアは煌燿に並々ならぬ思いを抱いている、それは愛情と似ているがどちらかと言えば親愛に近いのかもしれない、命の恩人?とも言える煌燿へシャルロット・デュノアはまるで飼い主に付き従う犬のように甘えていた。
父親からは何の愛情も貰えず(本当は見えないところで大事にされていたが)それでいて母親しか知らない彼女は煌燿を父親……いや兄のように慕っていた。
対して煌燿も面倒くさがりながらもしぶしぶシャルロット・デュノアと戯れておりその関係は本当に見ててほ微笑ましいものだった、血の繋がりもなく少々危ない綱渡り状態だが上手くSとMが嵌まって煌燿がシャルロット・デュノアをいびり倒すような関係なのだが、本人達が満足しているため千冬もあまり口出しをしてはいない。
煌燿も完全に監視されている状況で過ちを犯すほど飢えてはいないので比較的良好な関係だと言えるだろう。
彼女は煌燿にセシリア・オルコットの状況確認と夕食の買い出しというお使いを任され今日はなにしても遊ぼう?と頭のなかに花を咲かせて部屋に戻りドアノブを握ったところで異変に気付く。
針で刺されるようなプレッシャーが部屋のなかに確かにある、だがいつもより僅かに鋭いが微妙に軽い威圧感は中にいるのは煌燿でないとシャルロット・デュノアに感じさせた。
それでも手に食事をのせたお盆をもっているためそう長く立っているわけにもいかず取り敢えずは自分の家だから大丈夫と言い聞かせて勢いを殺してそっとドアを開ける。
そこには借りてきた猫のようにおとなしく煌燿のベッドの隅にちょこんと座り周囲を落ち着かない様子でキョロキョロ睨み付ける織斑千冬の姿があった。
いつもはピシッとしたスーツ姿なのに今は着崩し傲慢そうに組んでいる足はそこにはなく女の子らしく内股で座っていた。
何かがヤバいと直感的に判断したシャルロット・デュノアの答えは正解だろう。
音もなく後退りながら部屋を出ようと試みるが突如視界が塞がれ更に眼球をグリグリと押さえ込まれた。
「っ!……~~~!」
「だーれだ?」
「こんなことするの煌燿しかいないよ!」
「チッ、面白くないな」
次に余った親指でこめかみを押し始めた。
「痛い痛い痛い!ちょっと本当に痛いっ」
「あっそ」
「あ゛~もうやめてよ!」
「頼み方があるんじゃないかなぁ」
「煌燿、やめてください」
「何だって?人にものを頼むときそう教えたつもりはないんだけどなぁ」
遂に悶絶し始めたもののそれでも食事の乗ったお盆を落とさないのは使命感ゆえか恐怖ゆえかはたまた義理堅いかのどれかには該当するだろう。
「おいあんまりいじめるな、可哀想だろう」
「お、早かったね……見たところ俺のベッドの隅にしか座っていないようだけど、もう少し寛いでても良かったのに」
「そこまで私も図太くはない」
「そう言うのは気にするんだ、意外と。ふぅ~ん、男でもでき……っと……た?」
「次は手加減せんぞ」
出席簿ではなく手刀が空を斬る、銃弾が空を切り裂くのに似た音が鳴る、シャルロット・デュノアは心のなかで悲鳴を上げるが声を上げると二人に睨まれそうなので絶対にしなかった。
いるだけでも逃げたしたくなるのに目を会わせるだなんてとんでもない、お盆のものを溢してはいけないという精神を守るために見いだした下らない目標だったのかもしれない。
「あ、シャル、少しの間だけオルコットの部屋に遊びに行っててくれ。お盆はそこに置いてな」
「ひゃい!」
脱兎の如く、と表現の通りにその場から一目散に逃走する、その姿はどうやら煌燿の目には好ましいものに映ったらしく、全く可愛いなと満足げに頷いていた。
「さて、本題に移ろうか煌燿」
「オッケー、千冬」
さっきとは打って変わり部屋の空気が引き締まり歪む、IS学園に煌燿が来てから幾ばくか行われてきた誘導尋問だ。
「今回は何をしようとしたんだ?」
「今回は俺はほとんど何もしていない、オルコットとラウラを引き合わせたのは俺だけど勝手にやりあったのはあいつらだ」
「ほとんど何もしてないじゃなくてほとんどお前の目論み通りの間違いだろ」
「結果的には思い描いた通りだが過程は全く違ったよ、そこでまぁ何というか一つの共通点があった、俺はそれがいまいち理解できない」
「お前の言いたいことはよく分かる、その疑問は逆に私からお前に聞きたいことでもあるのだからな」
「「何故強さを求めるか」」
「考える必要はない、本能のままに誰しもがそう思う、俺も例外ではなく純粋な本能に従っているだけだ」
「それしか道がなかったからだ、強くなるしか生きていく方法がなかった」
「一夏がいたからそうなっただけだ」
「束がいたからそう出来ただけだ」
「戦闘において不純物を含んだあんたとやりあって俺はまだ100%勝てる自信はまだない、どちらかが無事でいれないことしかわからない、それじゃあ俺が求める強さとはほど遠い。小細工なしで正々堂々と確実に制圧できなければ意味がない」
「命に変えても守りたいものがあった、だから死に物狂いで努力して強さを勝ち取ったつもりでいた、だからこそ掴み取れたと思っていた。だが自分のためだけに手に入れたお前の強さは私の積み重ねなんて簡単に越えてしまっている、強すぎたが故の戦闘経験の差があるだけで正直私はお前と戦いたくはないとすら思っている」
窓ガラスなんて割れそうなほどに闘気が激しくぶつかり合う、シャルロット・デュノアが飾っておいた花はストレスを受けて花弁が半分以上も散っている。
力量はほぼ互角押しても引いても形勢は動かず両者は張り詰めた雰囲気を和らげた。
「はぁ……この話は多分俺たちが潰し合うまで答えはでないな」
「馬鹿が、お前と戦う理由なんてないのに戦うわけがないだろう?それこそ世界中大混乱だ、どちらかが勝つにしろな」
「だけど千冬もオルコットも箒だってお前達は何故こうも誰かのために戦うんだろうな」
「今は違うかもしれないがお前にも似た時期があったはずだ」
「黒歴史は作りたくないもんだな、あ~虫酸が走る」
「私はどっちのお前も嫌いじゃなかったけどな」
「ん?何か言った?」
「いいや、何も……兎に角私たち女は貪欲なんだ、泥水をすすろうが地面に這いつくばろうが欲しいものは手に入れる、例えどんな禁じ手を使おうがなそれが私の強さだと考えている」
「成る程ね、参考意見として覚えておくよ。濁りに濁った不純物は純粋なものに及ぶかもしれないと」
「さて私も業務に戻らないといかん、お前の遊びにももうそろそろついていけなくなるかもしれない……その時は覚悟しとけよ」
「デートの予告?」
「さぁ、な」
二人ともわかっていた、いつか自分達はぶつかり合う。
それが命賭けてか、誇りを賭けてかどうなるかは定かではないがそれは避けられない運命だと感じていた。
それはきっと自分の中の不純物を、純物質を受け入れるときだと、どことなく感じながら。
「もし……例えばの話だが、私をブリュンヒルデから織斑 千冬にした暁には責任くらいとってくれよ」
「もし……仮にだが、俺が腑抜けに戻ってしまったら面倒くらい見てくれよ、千冬」
「ふん、その時は別のやつにお前を任せるさ。私は手のかかる弟だけで精一杯だからな」
「そっか」
それ以上は二人とも多くを語らない、散った花びらだけが二人を静かに、哀しく見守っていた。
どうもお久しぶりです、色々別作品にも手を出したりしていてこの話を投稿が遅くなりました。
久々にかいて色々なズレとかあるかもしれませんもし気にかかる点があれば遠慮せずにご指摘してくださると嬉しいです。
その他にも感想、リクエスト等ご指摘やご意見がありましたら遠慮せずに言ってください。
P.S.もし興味があれば『仮想の城のアリス』『THE・HERO!!!』に是非とも目を通してみてください。
ソードアートオンラインと僕のヒーローアカデミアにオリジナルキャラクターを入れたこの作品と似たような形式になっております。
近いうちにまた投稿しますのでこの作品を今後ともよろしくお願いしますm(__)m