IS 天災の愚弟   作:奇述師

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篠ノ之 煌燿
Re:start


 

 

 1

 

 

 

 弓の弦のように細く欠けた月が夜空に妖しく灯る、しかしその妖しさの後ろで必死に輝く星たちが月に変わり必死になって輝こうとしていた。

 

 だが、闇に月が覆われた瞬間いくら星たちが輝こうと地上は闇に染まる。

 

 その闇の中、ギラリと燃える二つの星が闇の中で爛々と輝いていた、怒りでも憎しみでも喜びでもなく楽しみだと言わんばかりに燃えている。

 

 煌耀の夜は短い、それは幼少期に持った疑問と机上の理論すらも難なく実現してしまう特異な体質ゆえの結果ではあるが形式的に言うとするならば東雲 煌耀から篠ノ之 煌耀に戻った時からその睡眠時間はさらに短くなった。

 

 質は良くなったのだがその分注意力不足にかけてしまうという欠点もある、前よりもより深く、より早く眠りにつくことによって時間の短縮は図れたものの完璧に無防備になってしまうという点を危惧してか煌耀は寝る場所を非常によく選んでいた。

 

 例えば授業中、そして昼食後や放課後直ぐだったりとある程度周りに信頼できる人を置いての睡眠でありその期間は基本的に更識 刀奈に任せている、そして完全に煌耀からは隙がなくなっていた(とはいってもここ最近に始まったことに過ぎないが)。

 

 しかしながら夜は特に行ってすることがない、寝ることも出来るがそれでも常人よりはるかに短い時間で済むため時間は余る、今までとりあえず厄介ごとを抱え込んであの手この手で時間をつぶしてはいたのだが煌耀も心のどこかで、片隅で、それは逃げているだけだと、見ないふりをしているだけだと気付いていた。

 

 だからこそ直視する、詰まるところそれは自分の恥で見たくもないものではあったがそれでもさらに前に進むためにはそう言ったこともしなければならないと苦虫を嚙み潰したように本気で嫌な表情を浮かべて心の隅にしまっていたパーツをひとつひとつ拾い集める。

 

 しかし隣でシャルロット・デュノアが呻きながらごそごそと立てる物音をうっとおしいと思い指2本で的確に頸動脈を押さえつけ完全にシャルロット・デュノアの意識を落とす、まるで精妙に作られた人形のようになったのを確認すると再び記憶を拾い集め始めた。

 

 しかし予想以上に抜けた部分が多いのを確認し、無いものは仕方がないと割り切ってその上で仮説を組み立てる、慎重に僅かな可能性と憶測すらも全部かき集めてより明確に形を作り上げてゆく、時折頭の中で架空の格闘家などとイメージで戦いながら様々な視点からあるべき形を作り上げる、それはまるで薄氷の上を全力疾走するような可能性はほとんどゼロの行為であり普通ではそんなことできるわけがないが煌耀は難なくそれをやってのける。

 

 大胆かつ慎重に、巧妙に思考を取捨選択し数多そそり立つ針の穴から憶測と読みと直感だけで正解を導き出し正確に糸の矢を通しその先の的を射抜くがごとく。

 

 その作業は難事ではあるが、煌耀には時間が掛かるが出来なくもない。

 

 抜け落ちた記憶はその時にあった世界事情を調べて(基本興味がないがやらざるを得ないときにはやる)ネットに上がる主観に満ちた情報の真偽を確かめ客観的に判断し,時に

 

 苦手ながらも国家の機密情報を盗み出してある一つの仮説を創り出した。

 

「そんなこと、あってたまるか」

 

 そう、あくまで仮説にすぎないのだ、しかし「ありえねぇ」と小さくぼやく、自ら立てた仮説は正しいはずなのに受け入れることが出来なかった、けれどもそれでしか説明がつけられなかったのだ、おかしくなった理由も自分が自分で無くなってしまった理由もそうとしか考えられない。

 

 だがしかし、そんなことは煌耀に対して喧嘩を売っているのようなものだ、乃ち宣戦布告と何ら変わりのない行いである、あまりにも愚かすぎて普通なら思いついても実行するような馬鹿はいないと思い込んでいたからこその盲点の所業だったりする。

 

─牙を抜かれ爪を綺麗に手入れされ飼いならしたと思い込んでいたんだろうが……お前らのやったことは俺の逆鱗に触れる結果になったなぁ、どこの国かは知らねぇが喧嘩売っているんだったら買ってやるのが礼儀ってもんだろう。が、しかしここ数年俺を騙したことは評価に値する。ハハハ、いい気になりあがって、さぁてあいつらにどう目にものを見せてやろうか。

 

 虚仮にされて、飼いならされていいように押さえつけられたこともまた事実、だがしかしそれでも煌耀はどこかうれしそうだった。

 

 記憶が知りうる限り退屈していた、機嫌取りと媚売りと畏怖を毎日毎日浴び続け繰り返しのような毎日に飽き飽きしていた、だからどこかにちょっかいもかけに行ったし自分の力を見せつけてかつての大国を従えたつもりでいた。

 

 けれど、怯えながらずっと煌耀を飼いならす手段と機会を虎視眈々と待っていたのだ、その執念と判断の思いきりに煌耀は賞賛の言葉さえついうっかり口走る、心理学的分野や脳科学的なことは詳しく知らない煌耀だが篠ノ之 束にもばれない様に篠ノ之 煌耀をのこしつつ残虐性と本能をギリギリまで抑え僅かながらに存在していた優しさと思いやりの心を表に出すようにしたのだろう。

 

 断崖絶壁の間に張られたロープの上を吹雪の中渡るのにも等しい危険行為なのは分かっていたはず、もし煌耀に何かあれば天災に何をされるか分からない、だが目の前にいる厄災に気儘勝手に傍若無人にされることも避けたい、その上で御したい。

 

 そんなことをやってのけたどこの国の誰かもわからない人物に素直にすごいなと思っていた、下手をすれば世界が火の海になっても(多分姉貴ならするだろうという憶測にすぎないが)おかしくは無い賭けなのに踏み切ったのはすごい決断だと思った。

 

 しかしこればかりは仮説に過ぎなく真実は自分の目で見なければわからない。

 

 実際のところ煌耀の考えは9割は当たっている、しかし一番重要な大前提が間違っていた、しかし煌耀が正解を知るのはもう少し後になる、何故ならアンチェインが関わっているからだ、篠ノ之 束ですら解析できなかった唯一無二のオリジナル。

 

 アンチェインは、縛られない。

 

 常識からもこの世の柵からもかけ離れているのだから。

 

 そんな勘違いに思考を張り巡らせる煌耀を慈しむように首にかかった逆十字の首飾りは妖しく光った。

 

 

 

 2

 

 IS学園内の構内には様々な施設がある、野球場だったりサッカー場だったり広大なスポーツ施設もあれば茶道や華道を行うための和室もある、もともと廃れ始めた日本の文化をISの登場において日本の地位が上がったことから復興させていこう!との考えかもしれない。

 

 もちろん相撲はきれいさっぱり無くなってしまい、国技というよりかはある特定の人にしかうけない夜の方の競技になってしまったり、と女尊男卑の世界になってからこれでもかというくらいの理不尽な仕打ちを受けていた、もともと国際的に男女平等が行われていなかった日本では関係が逆転すると女性の方が男性のマウントをとりこれでもかというくらいに殴りつけている。

 

 その構内の中ひときわ異彩を放つ場所があった、小さな林の中に小さいながらに質実剛健とした木造の武道場に煌耀は足を運んでいた、時刻はAM5:00、まだ暗く霧の濃い林の中を悠々自適と歩みを進めている。

 

 丁度その時、更識 楯無は広い館内の床をきれいに磨いていた。

 

 小気味のいいリズミカルな床を蹴る音は閑散としている空間にはよく響く。

 

 そういえば千冬も一夏も箒も道場を使う前にそんなことをしていたなと感傷に浸りながら閉められていた扉を勢いよく開けた。

 

 まだ暗く照明もついていない道場内はひんやりとしていて楯無のペタペタと可愛い足音が聞き取れた。

 

「話を持ち掛けたのは俺だが……わざわざこんなとこに呼びつけるだなんていい度胸しているな」

 

「お早う、煌耀くん。ご機嫌麗しゅう、だいぶ早いわね……少し待っていてくれる?」

 

「……ああ、お好きにどうぞ」

 

 袴に身を包んでいる姿は容姿からすると一見アンバランスだが容姿と相まってミステリアスな雰囲気を醸し出していた、妖艶でありながら清廉さを持ち合わせているのは装束の影響か本人の心構えかは定かではないが煌耀は満足げに道場内に足を踏み入れる、つまらなかったら土足で上がり出方を伺おうと思っていたがきちんと履いていた靴は脱ぎ、裸足になって更識 楯無の前に座った。

 

 床を拭き終えた雑巾のようなものを道場の外側に置いてあるゴミ箱へ投げ入れるのを確認すると煌耀は形式的に頷くぐらいに小さく頭を傾ける。

 

 それを見ると更識 楯無は正座のまま両手で小さな三角をつくり頭を下げた。

 

「服従って訳でもないか、まぁお前なら気付いているだろうが。で、どうした?」

 

 煌耀はと言うと片膝を立てて肘を置き顎を上げたまま見下すように尋ねた。

 

 その様子を見てカチンときたのか鋭い目で睨みつける、それでも不敵に笑い余裕を見せる、殺気とも言っていい敵意をガンガンぶつけているのにもかかわらず、終いに煌耀は欠伸をして更識 楯無の神経を逆撫でした。

 

 いや、逆撫でされたことにしなければならなかった。

 

「……煌耀くん、喧嘩を売っているのかしら?」

 

 目の前に座る煌耀があまりにも隙だらけだった、隙を見せていたりするわけではなく本当に隙しかない、完全リラックスモードに入っているともいえるその所作に更識 楯無は奥歯を思い切り噛みしめた。

 

 覚悟を決めなければならなかった、更識 楯無として。

 

「話が見えない、あまりにも無理やりで唐突だな。お前、そんなにピリピリしてどうしたんだ?」

 

「質問を質問で返さないで頂戴、こっちは喧嘩売ってんのかって聞いているの?」

 

「……はぁ、何をそんなに焦っているのか知ったこっちゃねぇけど。仕方ない、ちょっと遊んでやるよ。それで気が済むんだったらな」

 

「そこまで落ち潰れたつもりはないんだけれど?」

 

「いいや、落ち潰れてなんていないさ。ただお前がそれほどの相手だってことだ」

 

「そこまで言うんだったら勝負をしましょう」

 

「実力差を見間違っているんじゃねぇよ、まぁいい。体で解らせてやる、お前がとっくにリングを用意してくれているからな、まるでボコされたいとでも言わんばかりに」

 

 実際に煌耀と楯無との間には16畳の畳が敷き詰められていた。

 

「一度でも俺を床に倒せたらお前の勝ち、逆に一時的……そうだな、10秒ほどでもお前が戦闘不能になれば俺の勝ちだ。ああ、その間に止めは刺さないようにするからその前にせいぜい死なないでくれ」

 

「あら、随分と舐められたものね」

 

「結果はお前もわかっているんだろ?壊わさないように気を付けるが今の俺は手加減なんてしねぇぞ」

 

「……それじゃあ本気で行くわよ」

 

 楯無自身もわかっている、意味の解らぬまま激怒し会話を屈折させて意味の解らぬ会話の流れに持ち込んだのも、喧嘩を売っていい相手ではないのも。

 

「ご自由に」

 

 瞬間、畳を蹴って一瞬で煌耀に肉薄する、勢いのままに繰り出した前蹴りは少しのバックステップでかわされる。

 

 流石の煌耀も金的を潰されては敵わないと判断して矢のように早く槍のような鋭い一撃を平然と躱した。

 

 だが、楯無は止まらない、止まれない。

 

 濃い霧の中で十分に水分を含んだ煌耀の髪から水滴が飛び散る。

 

 前蹴りを煌耀が少しのバックステップでかわすのは想定内の事、すぐさまかがみ煌耀の視界から消えるように低い姿勢のまま鋭い蹴りを煌耀の軸足へと繰り出した。

 

 容赦のない常人であれば足が粉々に砕けてもおかしくは無い威力のものであるが、苦痛に顔を歪めたのは煌耀ではなく楯無の方だった。

 

 足に残る感触は特殊な合金を蹴ったかのような痛みで綺麗な足は不自然に腫れ上がっていた。

 

 大して避ける素振りを見せない煌耀に対し楯無は手を緩めない、実践ではほとんど使われない胴回し回転蹴りで首を捉えた、煌耀が僅かに傾き間髪入れずに顎に膝を入れる。

 

 手ごたえは十分で顎が跳ね上がった。

 

 今現在煌耀は袴は着ていないが寝間着として愛用している浴衣を着ていた、顎は跳ね上がり重心は後ろ、今すぐには立て直せないと瞬時に判断しタックルに近い勢いで大外刈りを仕掛けた。

 

 だが、楯無にとってビクともしないというのは流石に予想外の事であった、つまりそれは人を殺してもおかしくは無い大技を2発も入れ手ごたえも確かであり、既に死に体であるはずの相手を用心深く本気で崩そうとしてビクともしないことなんてこれまで一度もなかった。

 

 煌耀が相手でもあれだけのダメージを受けてなんともない筈はない、舐められているとわかっていたからそこそこのダメージを与えられると思っていたのに全く意味がなかったとは俄かに信じがたかった、僅かな隙から活路を見出せると瞬間的に判断したがその遥か上を目の前にいる男は行く。

 

 だから、当然の如くその眼を見開くような僅かな隙を見逃さなかった。

 

 即座に襟を左手で左右共に掴むと超人的な握力でガッチリと捕まえ更に捻りを入れて楯無を30㎝ほど吊るしあげた。

 

 バタバタともがくがあろうことか煌耀はまるで野球ボールを投げるかのように楯無を頭から畳に投げつけようとする。

 

 後頭部から叩きつけられれば流石の楯無と言えども無傷は避けられない、しかも相手は篠ノ之 煌耀。

 

 片方の腕を犠牲にしてでも受け身を取らざるを得なかった。

 

 しかし、床に後頭部が激突する刹那楯無は一瞬だけ上に引っ張られた、煌耀は投げつけることはせずに握ったままで止めたからだ、予想していなかった衝撃で顔が歪む。

 

 遠心力に逆らうすべはなかったが何とか足から着地し腰を強打するのだけは避けた、頭部にもダメージはない、しかし体勢が悪すぎて為す術がない。

 

 そして空いた脇腹に冷酷な一閃が繰り出される、骨も何もなく筋肉だけで覆われている左上腹部、胃の辺りに無慈悲な蹴りが突き刺さる。

 

 楯無は体の中で何かが潰れる音を聞きながら意識を手放さざるを得なかった。

 

「手加減なんて出来ねぇって言っただろ、馬鹿野郎」

 

 あまりにも無慈悲で残虐で容赦のない攻撃、けれども楯無は苦痛に顔を歪めていてもそう言う煌耀の表情だけはしっかりと目に焼き付けていた。

 

 憐れむように冷たい目。

 

 もう、認めざるを得ない。

 

 更識 楯無が確かめ無ければいけないことはこんなことをしなくてもすでに分かっていた、けれども信じたくなくて無謀にも噛みついた。

 

─やっぱり戻ってしまったんだ。

 

 前までの煌耀は、東雲 煌耀は必要以上に争いを好まなかった、目立たぬように極力避けている傾向にあると楯無は分かっていた。

 

 時折昔のように戻ることもあったが言わばそれは片鱗を見せているだけで煌耀の本質は表立って現れるようなことはほとんどなかった。

 

 セシリア・オルコットの時が特に顕著で、あえてルールの上で戦っていた、化けの皮が剥がれたけれども楯無の評価としてはそこまで危険視する程度のものではないと評価した。

 

 しかしゴーレム襲撃時、セシリア・オルコットと戦った時と違い厄災だったころのISを発現させてから明らかに変化していた。

 

 まずシャルロット・デュノアの件では単身でフランスのデュノア社に乗り込み施設を半壊させていた、篠ノ之 煌耀にしては珍しく死者は出なかったが大胆で気儘勝手な行動は数年前の厄災と似通るところがありすぎた。

 

 そして最近もラウラ・ボーデヴィッヒと他の代表候補生を戦わせるという事も仕組んでいた、学園としてもこれ以上は隠しきれないと判断し最終判断を楯無に委ねたのだ。

 

 厄災の再来となると世界の方もそれ相応の対応が必要になる、ロシアの国家代表として米国と友好条約を結び篠ノ之 束の弟であり厄災でもある篠ノ之 煌耀には立場的に気楽に接することが出来ない、今までのようにしてはいけない。

 

 少し……ほんの少しの期間しか過ごしていないが危険を冒してまで認めたくないほどに、自分のことをきちんと見てくれていた東雲 煌耀との時間が愛おしかったのである。

 

 煌耀に蹴飛ばされゴロゴロと畳ではなく床の上を転がった、煌耀の霧で濡れていた髪は激しい動きによって水滴を周りに飛ばしていた。

 

 煌耀の周りを囲むように飛び散る朝焼けに照らされて赤い水滴は、血のように飛び散っていて、まるで返り血を浴びたように佇む姿、赤く染まる背景に影で隠れて読み取れない瞳。

 

 それでも、その立ち振る舞いは力強く、自然で、美しかった。




久方ぶりです、基本方針はだいたい決まったのでしばらく書いていこうと思います。

ヒロインを果たして作った方がいいのかそれともこのままやり過ごすのか考え中。

セシリア・オルコット、更識 楯無、シャルル・デュノア、ラウラ・ボーデヴィッヒ、織斑 千冬。

それともその他か。

というアンケートのようなものを活動報告で出したいと思っているので良ければ答えてもらえると嬉しいです。


またご指摘、アドバイス、要望等ありましたらお願いいたします
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