IS 天災の愚弟   作:奇述師

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激動

1

 

あの日、セシリアと一夏と戦った日から煌燿に対する目は確実に変わった、それは『ただISに乗れるだけだから』と言う前提を根本から打ち崩したことによるところが大きい。

 

この時代には珍しい、珍しすぎる男性ながらISに乗れるという希少価値とそれに伴った真の実力、申し分ないルックスに加え社交的な裏の顔からその人気は一旦火がつくと止まることを知らない。

 

 アリーナには生徒が整列し、ジャージ姿の千冬の授業を受けている。流石IS学園と言うべきかインフィニット・ストラトスをもう使うのかと煌燿は感心しながら授業に参加していた。

 

 

「ではこれよりISの基本的な飛行操縦を実践してもらう。織斑、オルコット。試しに飛んで見せ…ろ、おい東雲何だその格好は?」

 

スパッツに半袖のアンダーシャツ、具体的に言うなれば練習後家でくつろぐ野球少年のような格好だ。

 

「いやISスーツなかったら下着でいいって…」

 

千冬は長い、長いため息をはいた、笑い声は聞こえないが皆下を向いたり、唇を噛んだりして笑いをこらえている。

 

まさかあの"織斑先生"が突っ込みを入れたのだから、

クラスの皆は『いい突っ込み』『それは反則ですよ!』等と各々が内心思いながら震えている。

 

 

「織斑、オルコット、試しに飛んでみせろ」

 

そこには白を基調色とした無骨なガントレット、一夏がそれを掴んでいる。数秒後、彼の体を光が包み、光が収まった後にはその純白の機体が顕現していた。

 

「ねぇねぇ、しののんはどうしてISの操縦訓練を行わないの?」

 

改造OKの制服の袖もダボダボに伸ばしている布仏 本音がふと疑問を口にする。

 

「そうですわ!何故煌燿(・・)さんは飛行操縦の実践は行わないのですか?」

 

彼女の言うとおり、煌燿はISに乗らずに待機している。しかし、先程千冬が実践をしろと言ったメンバーは一夏とセシリアのみ。そこに煌燿の名前は含まれていない。

 

専用器を持っている2人がそう言われたのならばついでに煌燿も呼ばれては可笑しくないのだが千冬は煌燿の名前を呼ばなかった。

 

「ハッハッハ、君達とはもうすでにスタート地点が違うのだよ、ごめん、織斑先生その目やめて」

 

 

「おい、東雲こっちこい」

 

「りょーかい」

 

煌燿を呼び出したあと、生徒たちに背を向け千冬と煌燿は聞こえないように話し始めた。

 

「煌燿、ISスーツは着たくても着れなかっただろう?」

 

「やっぱりお見通し?」

 

「当たり前だ、左肋骨2本ひびが入っている、それと打撲8箇所、軽く肉離れも…まったく瞬時加速(イグニッション・ブースト)の途中で無理矢理方向転換するからそういうことになるんだぞ、全治一ヶ月くらいだな…どうだ出来そうか?」

 

「何て顔して言うんだい、まぁやれるだろうけど」

 

有無を言わさない目が笑っていない笑顔に煌燿は大人しく従わざるをえなかった。

 

─思っていたよりも軽傷だったな

 

「東雲はお前ら二人の後に実践してもらう。まずはお前らからだ。さっさと飛べ」

 

セシリアはスラスターを噴かして急上昇。あっという間に地上からは殆ど見えないくらいまでたどり着いた。

 

遅れて一夏も続くが、その速度はセシリアに比べひどく鈍い。出力スペックは白式のほうが上だろうが、操縦者の技量が足りていない。

 

 

「次、東雲、やることはあいつらと同じでいい」

 

「……イェッサー」

 

 

 

一夏の速度を軽々と上回り、セシリアすらも抜いて瞬時に目標高度に到着、速さと言う一点においてアンチェインは驚異的だ。

 

 

 

「何をやっている。スペック上の出力では白式のほうが上だぞ」

 

「だそうですわ織斑 一夏さん」

 

「教えを受けたばかりの急浮上を一日で物にしろというほうが無理があるとは思うけれど、そこはちーちゃんには関係の無いだろうしね、あの人自分基準で考えるから…不器用すぎる一夏にはかなりきついだろう」

 

「とは言ってもなぁ」

 

そう言うと一夏はガリガリと頭をかいた、片や国家代表候補生の専用機持ちエリート、片や東雲 煌燿とかいて何でもできると言うような2人を相手に一夏は心がポッキリと折れそうになる。

 

 

「一夏、イメージはあくまでもイメージでしかない、自分のやりやすい方法を自分で探すべきだろうよ」

 

「織斑 一夏さんは、自分にあったイメージをまだ作れてないだけですわ。ずっと飛んでいると感覚だけでも掴めるようにはなりますわ」

 

「ちなみに2人はどういう感じで飛んでいるんだ?」

 

「説明しても構いませんが、長いですわよ? 反重力力翼と流動波干渉の話になりますもの」

 

「ったく、セシリア考えすぎは良くないよ、情報はしっかりと取捨選択するもんだ、俺はなんと言うか基本的に普通に飛んでいるだけだね、うん」

 

「確かに煌燿さんの仰る通りです…そうですわ!その、よろしかったら、今日の放課後、模擬戦を行っていただけませんか? 予定が空いていたらで結構ですので」

 

「それは遠慮しておこう、今の君じゃ暇潰しにもならないだろうから」

 

─…前から思ってたんだけど、なんかセシリア変わったよな

 

 

クラス代表決定戦以降、セシリアの性格、態度が変わっていた。初対面のときには敵愾心むき出しだったのにも関わらず、最近は何かと話しかけてくるようになっており今や特に煌燿の近くに頻繁に出没している。

 

あのときの人を見下すような態度は一変、同一人物とは思えないほどの変わり方に流石の煌燿も内心少しばかり動揺して対応していた。

 

 

「よし。次は急下降と完全停止をやって見せろ。目標は地表から十センチだ」

 

 

「了解です。ではお二人とも、お先に」

 

 そう言って、すぐさまセシリアは下降の体制に入る、そのスピードは代表候補生の名に相応しい。

 

完璧にこなしたセシリアにクラスメイトから大きな拍手が浴びせられた。

 

「煌燿、じゃあ先に行くぜ」

 

一夏が急下降の体制に入ろうとした瞬間だった、一夏を謎の衝撃が襲う、見上げると煌燿が白式をがっつり掴んでいた。

 

「どうした?そんな険しい顔して」

 

「…ねぇ一夏、10cmって何inch?」

 

「はい!?」

 

「 1インチ=1/12フィート、0.08333フィート=1/36ヤード、0.02778ヤードってのは解るんだけどさ、メートル法知らないんだよね。どうもセシリアがそのくらいでやったらしいけれど目安がないと…」

 

「えーと、このくらい?」

 

そう言って一夏は指で約10cmを示す、がしかし千冬にどやされるのが面倒くさい煌燿は聞いたのにも関わらず殆ど信用せずジト目で疑っていた。

 

「あーもーさっさと行けよ一夏(馬鹿)

 

「くっ…煌燿、馬鹿にするなよ…昔とは違うからな!」

 

一夏が急下降の体制に入る、推進器が物凄いスピードを生み出した結果

 

──ズドォォンッ!!

 

『馬鹿者。誰が地上に激突しろと言った。グラウンドに穴を開けてどうする』

 

『……すみません』

 

「成る程、成る程、あれが姉貴の言うフラグ回収というやつか…下手なことは言わない方がいいってことだね」

 

『次、東雲降りてこい』

 

「ラジャー」

 

短く呟くとぐんぐんと地面の三メートル程まで急降下、そして上下半回転、スラスターを噴かして姿勢制御。見事に一夏が指で示した約10cmとぴったりにその動きを停止させた。

 

「…8cm、まぁ良いだろう」

 

「おい一夏!嘘つき!信じた俺が馬鹿だった!」

 

沸き上がるクラスメイト達を横目に、煌燿は一夏に向かって叫んでいた。

 

2

 

 

「織斑、武装を展開しろ。それくらいは自在にできるようになっただろう」

 

「は、はあ」

 

「返事は『はい』だ」

 

「は、はいっ」

 

「よし、でははじめろ」

 

目をつぶり己の武器をイメージする、暫くすると手のひらから光が放たれ、一振りの刀として実体化した。

 

─あれがちーちゃんの武器《雪片》の改装型か、雪片の特殊能力バリア無効化攻撃『零落白夜』、白式の雪片弐型にも同じ機構が備わっているらしいけれど一夏と戦った時には面倒くさくて瞬殺したからなぁ、けど、零落白夜は自身のシールドエネルギーを攻撃に転換する諸刃の剣らしい、不器用すぎる一夏には少しばかりピーキーすぎるのではなかろうか?

 

「遅い、0,5秒で出せるようになれ」

 

 その千冬の一言に、一夏は項垂れる。

 

─まぁ何だ、頑張れ一夏

 

「オルコット、武装を展開しろ」

 

「はい」

 

左手を横へと突きだす、一瞬だけ光が溢れ、スターライトmkⅢが展開された、射撃完了まで一秒もかけることないだろう。

 

つまり、半秒未満での展開、千冬の課したノルマを難なくクリアしていたが

 

「さすがだな、代表候補生。──ただし、そのポーズはやめろ、横に向かって銃身を展開させて誰を撃つ気だ?正面に展開できるようにしろ」

 

「で、ですがこれはわたくしのイメージを纏めるために必要な──」

 

「直せ、いいな」

 

「──、……はい」

 

 千冬の前では如何なる反論も許されない、一睨みされただけで、口を噤むセシリア。織斑 千冬と言うカリスマと実力を備えた規格外である存在にしか出来ない独裁政治のような指導だ。

 

世界一の実力があるため言っていることに間違いはない。

 

「オルコット、近接用の武装を展開しろ」

 

「あ、はいっ」

 

 

一夏同様、暫くすると手のひらから光が放たれ、一振りのショートブレードとして実体化した。

 

「遅い、0,5秒で出せるようになれ」

 

そうは言うものの千冬は内心少しばかり感心していた、以前のセシリアであったら武器の名前を叫ぶことによりイメージを固め武器として構成されていただろう。

 しかし、それはイメージを纏めることの出来ない『初心者』が主に使う手段であり、代表候補生のセシリアが、それを使わねば展開できなかったというのは、かなりの屈辱、それを見越して千冬は『近接用の武装を展開しろ』と言ったのだがいい意味で期待を裏切られていた。

 

─どうやらあの一戦で一皮剥けたようだな…

 

「まぁいい、東雲、次はお前だ。武装を展開しろ」

 

しかし煌燿は一向に武装を展開しようとしない、千冬が鋭い目でにらんでもただニコニコしているだけ

 

「どうした、出来ないのか?」

 

「出来ない、じゃなくて出せないと言うことで理解して貰えないだろうか…」

 

僅かに、煌燿の雰囲気が変わったのを千冬は感じた。『出来ない、ではなく出せない』という言い回しに違和感を感じるが初めてのことではない、寧ろ多すぎる謎がひとつ増えたくらいなのでさほど気にしなかった。

 

千冬は、チラッと時計を見ると、手を叩き、注目を集める。

 

「時間だ。今日の授業はここまでとする。織斑、グラウンドを片付けておけよ」

 

一夏はチラッと箒を見るが一夏の方は見ずに考え事をしている、セシリアもその姿も見えず煌燿も見当たらない、一夏は諦めて、一人で後片付けをするのであった。

 

 

3

 

「で、何の用だい?」

 

煌燿は、授業が終わり次第箒に声をかけられ、屋上に呼び出されていた。

 今まであえて避けてきた煌燿にとって箒から声をかけられることは一番避けたい事態であり、余裕をかましてはいるものの複雑な心境で佇んでいた。

 わざわざ煌燿を呼び出すということは、ただの相談とは思えない、箒が口を開くのを待つ。

 

「東雲 煌燿、ずっと考えまい、考えまいと思っていたんだが……」

 

そこにどんな思いがあるのか、煌燿にはわからない、憎悪、嫌悪、怨み、嫉妬、軽蔑…そして怒り、突如蒸発した篠ノ之 束の弟にして篠ノ之 箒の2つ上の兄として全てを受け止めるつもりだった。

 

篠ノ之 束がインフィニット・ストラトスを世に示せば一家離散の状態になる、実際箒は小学4年生の時から政府の重要人物保護プログラムにより日本各地を転々とさせられていた。

 

箒は束が失踪してからは厳しいと言うほどでもないが監視と聴取を繰り返されており、心身共に負担を受け続けてきた、逆に煌燿は自由を手に入れ勝手気ままに何年も過ごしている。

 

姉によって自由を奪われ、人権も奪われ、理不尽すぎる社会に巻き込まれた妹に対し、リスクを犯し姉を利用し自由を手に入れ、好きなことを好きなだけやり、IS学園に入学した理由は正当なものの今まで自分のためだけに生きてきた兄、遠い異国からできる限りの支援はしたものの当然顔向け出来るはずがない。

 

「私は重要人物保護プログラムにより日本各地を転々とさせられていた、姉のせいで…全て変わってしまったんだ、でも時々宛名無しの荷物が届いた、どれも私が欲しい、欲しかったものばかり、その荷物が届いたあとから私は少しだけ自由を貰えた…最初は一夏と思ったけれどそんなはずはない…私が行き着いた先は今は亡き兄さんだった」

 

「………」

 

「クラス代表決定戦の時、その推測は確信に変わった。最初は千冬さんに挑み続けていた時と同じ面影があったから」

 

「………」

 

「兄さん、ありがとう」

 

─箒ちゃん、俺はそんなに出来た奴じゃない…本物のクズだ、そしてまだ箒ちゃんに償いのひとつもできていないのに

 

声が出なかった、感謝、感激、驚愕、後悔、罪悪感、そして愛しさ、全て混じって弾けて煌燿の目には涙が浮かんでいた。

 

「兄さん、貴方にずっと─」

 

「箒ちゃん、俺は東雲 煌燿だ、残念ながら君の兄さんではないよ、そっか…いいお兄さんだったね」

 

 

悪足掻きだ、どんなに否定しても箒に煌燿の正体は分かっているし、煌燿だって承知している。これは気持ちの問題だ、兄妹同士通じるものがある、だからこそ箒は深追いしないし、煌燿も心遣いに感謝していた。

 

─俺が堂々と君の兄だと言える日は来るのだろうか?

 

自分なりにけじめをつけなければいけないこと、それがいつの日になるのかは本人も分からない、それは明日かもしれないし100年後かも知れないのだから。

 

─兄さん、貴方にずっと私は助けられていました、ありがとう

 

心の中でさっきは言えなかった言葉を呟く、その代わりに言う言葉は決まっていた

 

 

「──────」

 

 

 

 

余鈴がなる

 

煌燿が走り出す、それを箒が追う

 

懐かしい思いでに2人とも浸っていた。

 

 

 

 

 

こうして2人は、あくまで一方的に、なし崩し的に和解(?)した。

 

 

 

 




果たしてこれで良かったのだろうか…もしかしたら書き直すかもしれません。

感想、改善点、ご指摘待ってます。
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