1
「というわけで! 織斑一夏くんクラス代表就任おめでとー!」
「「「「おめでとー!」」」」
軽い炸裂音が連続して鳴り響き、色とりどりのテープと紙吹雪が空を舞う。
重力に引かれてひらひらと落ちていき、一夏の頭へと降り注いだ。
うわ片付けめんどくさ…等と余計な言葉を空気を読んで煌燿は言わない、輪を作る一夏と違い輪の外で監視する、あくまで
そしてこの場すらも該当しているため渋々と言った感じで参加していた。
しかし、このパーティーの中心である一夏の顔は浮かない。
会場になっている食堂の壁をちらりと見ると、そこには『織斑一夏クラス代表就任パーティー』と大々的に書かれた紙がかけられているからだ。
一夏は張り紙を一瞥しちらりと視線を別の場所に向ける。
そこには、のんびりとコーヒーを飲んでいる2人の姿。セシリアがのんびり、煌燿は全く読むことのできない微笑を浮かべて佇んでいる。
何やらISについて話しているようだがセシリアが一方的に話しかけているといった形が正しい。
煌燿はこの手のイベントには興味がなくはないので、若干そわそわしているもののそれを表に出さない。
「いやー、これでクラス対抗戦も盛り上がるねえ」
「ほんとほんと」
「ラッキーだったよね!同じクラスになれて」
「ほんとほんと!」
はっきり言って、一夏はあまり乗り気ではない。
同じく煌燿も乗り気ではない、部屋で籠城を決め込んでいたのだが女子たちに『来ないと始まらないな~』や『来てくれると嬉しいな』とドア越しに大声で言われ、しぶしぶといったかたちで参加していた。
一夏は自分の実力など下から数えたほうが早いことなどは重々承知している、しかしセシリアは『クラスの男子を立てる』という大義名分を得て辞退、数の暴力により一夏の懇願は取り消された、そこで何故煌燿は抗議しないのか?と疑問も束の間、理由は知らされないまま千冬からクラス代表は自分だと無情にも告げられた。
それでも『戦闘力』だけで見るのならば、一夏はかなりの上位に位置する。しかしそれはほぼほぼ白式の性能のおかげであり、一夏の実力など微々たるものだ。
世界初の男性IS操縦者などと呼ばれてはいるが、その仰々しい肩書きだけで強さの証ではない。
こうしてクラス代表なんていう役職に就いてしまったことが納得できなかった。実力ならば比べるべくもない2人がいる、わざわざ一夏をクラス代表に据える意味がわからなかった。
実践経験を積ませるため、たったそれだけの理由で初心者に毛が生えた程度の自分がクラス代表の座に居座るとは何とも居心地が悪い。
─相変わらず、わからない…
純粋に、そう思う。
圧倒的な力を持ちながらも、それを誇示するでもなく無闇に振るうでもない。昔からその姿に、憧れを抱きその背中をいつも追い続けていた。
いつかは追い付いてやる、と固く心に誓って
しかし、数年ぶりに見たその背中はあまりにも遠かった
白式の力だけではなく、他人におんぶにだっこではなく、自分の力で大切な人を守るべく強くならなければならない。
そのためには、体裁などを気にしている場合ではないだろう、少しでも強くなるために努力しなければ。
そう思うのも馬鹿らしくなるくらいの圧倒的な差、クラス代表決定戦のとき目の当たりにした現実。
人知れず、一夏は拳を握りしめた。
─理想だけを口にしているだけじゃねーか…もっと、もっと強くなりたい、いや強くなる!
「はいはーい、新聞部でーす。話題の新入生くんたちに特別インタビューをしに来ましたー!」
ふと、眼鏡をかけた一人の女子生徒がそう切り出す、
「ではまず織斑くん! クラス代表になった感想を、どうぞ!」
ボイスレコーダーと思われる機械を一夏に向け、ずいっと身を乗り出す、その瞳には好奇心しか移っていない、一夏は数秒考えると、つい先程の心中を話し始めた。
「……クラス代表らしく、その名前に恥じないように強くなりたいと思います」
意思確認も含めてそう言う一夏。
その顔を見て、大勢の生徒が息を飲んだ。一夏は『男』の顔をしていたからだ、そういったことに耐性の無い、この時代なのだから当たり前のことだが、女子たちの心を大きく揺さぶった。
薫子も予想外の真面目な答えに若干呆けており、隣に座っていた箒はうんうんと満足げに頷いている。
その周囲の反応に気付いた一夏が首を傾げていると、いち早く復活した薫子がその好奇心の矛先を変えた。ターゲットは勿論───
「それじゃあ次は東雲くん! 何かコメントちょうだいなっと」
「ノーコメントで」
「そんなことで引き下がるわけにもいかないのよ。一言でいいから、ね?」
出来れば煌燿はなるべくいい意味で目立つのを避けたかった、先日のクラス代表決定戦では中々多いエキストラに囲まれるのもなるべく回避したい事態。一夏の容認を大々的には扱われはしていないものの、ちらほらと聞こえてくる僅か声が自分に向けているものだと知って内心焦りを感じていた。
適度に嫌われる、避けられることに関してのメリットは、自由行動がしやすく情報収集などもしやすい、デメリット…あまりしたくないことは馴れ合いだ、温い雰囲気ということは初日に学園の生徒とある程度話をしたのでわかっていた、そんな雰囲気に染まりたくないし居るべきではない。
「……ま、折角クラス代表になったんだ。更にレベルの差を知ってくることだね」
「それ、織斑くんへのコメントだよね?」
「何か?」
「いやいや別に~、『別に負けてほしい訳じゃないんだからね』と」
「おい」
面倒くさそうに睨み付けるが既に背中を見せていたため小さく舌打ちをして大きく息を吐いて、借りを作ってしまうけれど千冬にどうにかしてくれと頼もうと思う煌燿であった。
2
「待ってたわよ、東雲 煌燿くん♪」
─ルームメイトいたか?
その声に聞き覚えはない。そもそも、2人部屋を1人で使っていたためルームメイトなどいないはずだがあまりにも不自然過ぎるほど自然に居たため煌燿はそう思ってしまった。
部屋の構造上、入って少し奥まで行かないと全体を見渡すことはできない。仕方なく、数歩進んで声の主を確かめることにした。
可憐な少女、整った顔に浮かぶ悪戯っぽい微笑、外側に跳ねた、肩まで伸びる美しい水色の髪、そして赤い瞳。
電気をつけるとその姿が顕になる、ベットに腰かけ、首を傾け此方を見上げる様は宛ら絵画のワンシーンのようで、煌燿は少し見とれていた、いくら『天災の愚弟』と言えど『例外中の例外の1人』だとしても煌燿は年頃の男なのだ、それに『可愛い』もの、可愛い人は姉同様(束は守備範囲が狭すぎるが)嫌いでないし、むしろ結構好きだったりする。
しかし煌燿の雰囲気がすぐに変わる、それを見た青髪の少女はつまらなそうに口を尖らせた。
「もうちょっとこう、唖然としたり呆然としたりしてくれてもよかったんだけどな。おねーさんちょっとがっかりよ」
何処からともなく取り出した扇子をパッと開く。そこには達筆な文字で『残念』と書いてあった。
「相変わらず達筆な字に、気にくわない程の容姿だな、
「お久しぶり、ご機嫌麗しゅう。私は二年生で、この学園の生徒会長を務めているわ、改めてよろしくね後輩君」
差し出された手を握ろうとはしない、楯無 楯無は再び扇子を開く。今度は『相変わらず』の文字。一体どういう仕組みなのか気になったが、今はそれどころではない。
「で、更識いったい何のつもりだ?」
「あん、もう。折角同室になったんだから、本名呼んでくれてもいいのよ? というより、貴方と私の仲じゃない?」
「……余計面倒くせぇ、今はどっちでここにいるんだって聞いてんだよ、立場上の話だぞ」
「全くつれないなぁ煌燿君は、今は楯無のほうよ」
唇を尖らせてそう言う楯無
─いつかは来ると思っていたが想像以上に遅かったな…
扇子で口元を隠し目を細めて薄く笑う楯無、心中は穏やかであるが警戒は怠らない、こういったタイプは珍しく煌燿も慣れてはいない。
─裏で俺は篠ノ之 束の抑止力としては有名だ、今はアメリカと同盟という形をとってはいるが…ロシアは何が目的なんだ?
「ロシアの国家代表としてではなくIS学園の生徒会長として来ているから安心して」
「お前俺の心の声読むんじゃねえよ 。それはまぁ置いといて、何だこの荷物の山は?」
「あ、私がこれからルームメイト」
ティッシュとってというノリでそう言った。
若干頬をひくつかせながら会話を続ける。
「成る程ねぇ、監視ってことか」
「…私もこんなことしたくないの」
「下向いたからってしおらしく見えるわけじゃねぇよ、しかも笑ってることがバレバレだっつーの、肩震わすな」
煌燿は頭を抱えた。
というよりも、こんなのが会長でこの学園は大丈夫なのだろうか。ロシアへ在籍していた一時期であったが煌燿は楯無のことを、刀奈のことをある程度知っている。刀奈も東雲 煌燿のことを、篠ノ之 洸陽のことを知っている。
「まぁそこは置いといて」
「勝手におくな」
「私だって好き好んでルームメイトになったわけではないのよ、だって貴方といたら……ねぇ?」
「お前本当に●すぞ」
「いや~ん♪こわ~い」
再び扇子を開くそこには『失敬』と書いてある
「毎度毎度のことながらよく準備してるな、そんなくだらねぇもの、本題にさっさと入れ」
「も~つれないなぁ、…わかったからお姉さんをそんなに睨まないで…興奮するじゃない♪」
「黙れ変態、お前とはタメだろ。同じ事を2度も言わせるな」
「はいはい、まず一番の原因、事の発端は国家代表として、更識としての貴方との関係作り…主に身体のつきあいよ、まできちゃったら最高ね。私も私情と事情を兼ねて嫌ではないのよ?」
「冗談を言うな─と言いたいが、確かに無くはない話だし致し方ないことだな、けれどできたからといっても俺がお前に肩入れするつもりはねぇし得策とは言えないぞ」
「貴方はそうでも『天災』篠ノ之博士は違うでしょ?もう少し自分の価値、ブランドを考えた方がいいんじゃない?」
「成る程な、確かにいい策だ。が、1つ大きな欠点がある」
「欠点?」
「俺はお前を抱いたりなんてするわけがないという大前提があるからな」
「あら、それは残念…でも方法はいくらでもあるのよ?」
「知っているさ、けれどお前はしないしやらない、そうだろ?刀奈」
「刀奈なんて誰のことかしらね?お姉さんにはわからないわ…でもまぁ貴方が言いたいことは解る」
「そうだろうな、さて俺はもう休むとしようと言いたいが2つ質問していいか?」
「何か可笑しい?」
「何でベッドが1つしかない上にでかいんだ?その格好はなんなんだ?」
「あぁそうだったわね、私としたことが言い忘れていたわ…わたしにします?わたしにします?それともわ・た・し?」
「………………」
煌燿は呆れすぎて言葉を出せなかった。
時計を見やると、4時を過ぎたところだった。隣では楯無がすやすやと寝息を立てている。
幼少期、人生の3分の1を睡眠時間へ要することに疑問を持った煌燿の睡眠時間は短い、こういう場合2度寝、3度寝、4度寝を繰り返しIS学園では朝を迎えている。
─そう言えば言い忘れていたな…
裏工作を実行する暗部に対する対暗部用暗部「更識家」に無茶を言い、無理をさせたことがある。
その事に対しては何の悪気も感じなかったが刀奈は煌燿にとって少し特別だった、なぜなら箒を必死になって守ろうとしてくれたから、兄として出来ることは限られていたが楯無(当時は刀奈)により箒が少しでも楽になったのは言うまでもない。
─ロシアでのサバイバル訓練でも同じような状況になったことがあったな
煌燿は苦笑して楯無の頭をなでる
「ありがとう」
心からの感謝の言葉を小さく聞こえないように呟いた
─こういう時に限って…本当に変わったのね
「───────」
その言葉は煌燿へは届くことのないであろう更識 楯無としてではなく更識 刀奈の思いだった。
ストーリーは原作をあまり知らないのでめちゃくちゃですがご了承ください。
次は鈴の話になるかと…
感想、改善点、ご指摘待ってます。