某日…とある秘密基地にて
「束様…これは」
「ん?これはね、こーくんを戻す…変える?うーん醒まさせる?ための物になるのかな」
「煌耀様を?でもこれはさすがに」
「そうだねくーちゃん、やり過ぎかもしれないね…だって今のままのこーくんだったら確実に死んでしまうからね、でもあの時のこーくんだったらどうなると思う?」
「それは…厄災と呼ばれていたときの煌耀様のことでしょうか?」
「ご名答、クーちゃん、ついでだから良いことを教えてあげるよ…こーくんはね、私と箒ちゃんの間に生まれたんだよ、天才の私と超絶プリティーな箒ちゃんとの間に…どういうわけか箒ちゃんに対する罪悪感を経て今のこーくんが出来上がったわけだけれど、好き勝手やってきたときのこーくんとはまるで別人、気持ちが悪いほど、不自然過ぎるくらいに義理人情に溢れた真人間になった、そのせいかな?どうしてもこーくんとの間に壁が出来てしまった…必死に善人であろうとしていた、私はとてつもなくそれが嫌だった」
ぐしゃりとスパナがねじ曲がる
「今のこーくんはいないも同然、あれは私の弟を乗っ取った善意という化け物…だけどそれが剥がれかけてる今、最大の好機が巡ってきた」
そして自分の娘として扱っているクロエ・クロニクルには目を向けず、もくもくと作業を続ける、これは束としても苦渋の決断だ、自分の可愛い弟を、愚弟を自らの手で殺めてしまうのかも知れないのだから。
僅かに、ほんの一瞬だけ作業の手を緩めるが、また作業に没頭し始める。
「こっちに来て生きるか、あっちにいたままで死ぬか…こればかりは本当にこーくん次第だ、姉としてこれ以上府抜けていくこーくんを見ていられない、生きたかったら…変われ」
その静かな叫びは真っ暗闇なラボへ響きわたった。
1
クラス対抗戦、第二アリーナ第一試合、織斑一夏VS凰鈴音、どちらも専用機持ちの新入生(転入生)であり、しかも一人は世界初の男性IS操縦者、もう一方は中国国家代表候補生、アリーナの観客席は文字通り人で溢れかえっており、椅子に座れない者は立ってまで見ている有り様だった。それでも学園の全生徒を収容するには足りず、残った生徒は別室にてリアルタイムモニターでの観賞となっている。
そんな状態にもかかわらず、『生徒会長権限』を濫用し席を大幅に確保した楯無の横に煌耀は座っていた。
「いよいよね~煌耀くんはどっちが勝つと思う?」
口元を扇子で隠しつつも、楽しそうに目元を細めながら宙に浮かぶ二機のISを見つめる楯無、それを横目でちらりと一瞥してから、彼女と同様にアリーナへと視線を向け。
ハイパーセンサーだけを起動し、視線を鈴音が操る赤黒のISにフォーカスする
─
中国の第三世代機である。そして、その機体の何よりの特徴は、衝撃砲……
─はぁ、変なものに金使っちゃって。しかし、成る程大金を叩くだけはある、中々めんどくさい
衝撃砲。中国が開発した、重力操作装置を応用した空間圧作用兵器、大気に圧力をかけ砲身を生成、圧縮された砲身内部のエネルギーそのものを砲弾として撃ち出す第三世代兵装。
この武装の厄介な点は、撃ち出された砲弾は元より生成された砲身すらも透明であることから、弾道や弾角が非常に予測し辛い、よって、撃ち出された弾丸をハイパーセンサーが捉えるのを確認してからでは回避が間に合わないのだ
空間自体に圧力をかけ砲身を作り、左右の翼から衝撃を砲弾として打ち出す衝撃砲、肩部と腕部に装備されている。
拡散衝撃砲や貫通衝撃砲などの種類があり砲弾だけではなく、砲身すら目に見えないのが特徴だ。
「……まず普通に考えて貧にゅ…凰 鈴音が勝つだろう、なんだかんだ言ってもたった一年で代表候補生まで上り詰めるセンスは本物、
「ほほう、詰まるところどっちも勝たないってこと? じゃ、おねーさんは…一夏君に入れちゃおうかな♪負けたら罰ゲームね」
「お前、罰ゲーム好きだよな…」
楽しそうに笑う楯無の言葉が終わると同時に、アリーナ上空で戦いの火蓋が切って落とされた──
鳴り響く鈍い金属音。
試合開始の合図と同時に飛び出した一夏と鈴は、其々の得物を手に真っ正面から鍔競り合う、鈴の鋭い眼光がすぐ近くで一夏を捉えているのを煌耀はとらえていた。
─断崖絶壁と一夏は一悶着あったらしいな…
鈴が振り回す異形の青竜刀から放たれるのは、縦横斜めと変幻自在に角度を変える斬撃の嵐。しかもそれをバトンのように回転させながら斬り込んでくるために、遠心力もプラスされて一撃一撃が重い。
中国武術特有の動の動き、日本の剣道にはない独特の動きが一夏を苦しめる、剣道には静の動きがあるが中国武術にその概念はない、いわば異種格闘技の戦いだ。
「甘いッ!」
瞬間、鈴の肩部分にある非固定浮遊部位の装甲ががぱっと開いた。内部が光り輝くのを見たのと同時に、そこから衝撃の弾丸が射出されるのをセンサーが捉えていた。
「危ねぇ……!」
もはや勘、回避行動を取ったお陰で、鈴の一撃は一夏の装甲を捉えることなくアリーナの地面を抉った、驚愕のあまりに目を見開いく鈴。
─そうだ…お前には姉譲りの才能があるだろう
「……よくあんな至近距離で回避できたわね、一夏くんは一体どんな訓練したというの?」
「あれが才能って奴さ…やはり、素材は最高級品だな」
楯無は『驚愕』の扇子を広げて戦闘を注視しているが、その視線は熱を帯びている、強者だからこそ興味が湧く戦闘風景、異種格闘技だからこそ成り立つ2人の戦いはその域にまで達していた。
「くっ、このっ! ちょこまかちょこまか……! いい加減当たんなさいよ一夏ぁ!!」
「悪いけどその頼みは聞けないね!」
鈴が衝撃砲を乱射するも、未だに一発も被弾していない、…だが急に脳に負荷をかけるため直撃はしなくとも徐々に、でも確実に一夏の動きは悪くなる。
それでもまだ、まともにやりあっているように見えるのはセシリアに叩き込まれたISが動く理論と理屈による基礎固めのお陰だろう。
鈴が撃って一夏が避ける、とどのつまりは千日手。均衡を崩す一手を打たなければ、鈴を取ることは出来ない、敗北は一夏の背中へ常について回る
実力では完全にあちらが上なのだから、こちらから攻めに転じなければならない、鈴の戦闘能力を10だとすると一夏の戦闘能力は7がいいとこだろう、鈴はその戦闘能力を攻めと防御に5づつ振り分けていて一夏はそのほとんど…6を防御に、1を攻めとまわしているのでなんとか耐えしのいでいるが
「鈴」
一夏も今のままで勝てないことなど充分に知っている、だからこそ、賭けにでる
「なによ?」
「本気でいくからな」
雪片を正眼に構え直し、真剣に見つめる、防御は完全に捨てた玉砕覚悟の特攻。
「ふん、格の違いってのを見せてあげるわよ!」
鈴が両刃青竜刀を一回転させて構え直す、そして、両肩の衝撃砲が火を噴くだろうと予測した時──
─ここだ!
衝撃砲が発射される瞬間、スラスターを軽く噴かして射線から外れ、次弾が発射される前に最大出力で瞬時加速を敢行、一瞬で距離を詰める一夏のすぐ真横を衝撃の弾丸が通過するが、意に介さずに肉薄する、一夏には一撃を最短最速で叩き込むことしか頭にない、そして、振りかぶり零落白夜を発動させようとした刹那
煌耀のIS、アンチェインが警報を鳴らす
─上空に未確認コア確認、所属不明のISと断定。ロックされています
絶望が、空から堕ちてきた。
アリーナの遮断シールドはISのシールドバリアーと同じ素材で作られている、つまり、今堕ちてきた機体はISのシールドを貫通するレベルの攻撃力を持っているということだ。
「一夏、早く!」
「お前はどうするんだよ!?」
「あたしが時間を稼ぐから、その間に逃げなさいよ!」
「逃げるって……女を置いてそんなことできるか!」
「アンタはただのIS操縦者! 軍属のあたしとは違ってこういうときには避難が最優先なのよ!……それに、あたしも最後までやり合うつもりはないわよ。こんな非常事態、すぐに先生たちが出撃──」
「あぶねぇっ!」
ギリギリのタイミングで、鈴の体を抱きかかえて回避することに成功、直後、光線が地面を抉る、土を這う一本の熱線は接したところを赤く染め上げた
「ビーム兵器かよ……しかも出力が明らかにおかしい!」
煌耀が戦力解析した結果を見て戦慄、あんなものまともに食らえばただではすまない、死の光線…
「ちょっ、ちょっと、馬鹿! 離しなさいよ!」
「お、おい、暴れるな。―――つか殴るな!」
「うるさいうるさいうるさいっ!」
一方、観客席は混乱の渦に飲み込まれていた。
「なに、あれ……?」
楯無がそうぽつりと呟く。
全身をくまなく分厚い装甲で覆った異形のISが浮かんでいた、あれが乱入者の正体であり、アリーナの遮断シールドを破壊した機体だ。
本来スマートな形状をしている一般的なISとは異なり、腕は太く長く、頭と胴体が繋がっている。さらに、顔までも装甲で覆われており、本来目がある場所にはセンサーレンズが不規則に並んでいるだけだった。
「とにかく、生徒たちの避難を誘導しましょう。煌耀君も手伝ってちょうだい!」
「……っ!」
いつもの飄々とした態度は全く消え失せ、凛とした立ち振舞いで生徒を誘導していく楯無、いつもの飄々としたその姿からはかけ離れその怒りを露にする煌耀。
─確か控え室には箒ちゃんがいる…!何やってんだ!?姉貴!流石にこのレベルの兵器は笑えねぇぞ!!
「ちょっと……なんで!? なんで開かないの!?」
「開けて! ここから出してよ!」
「嘘でしょ……逃げられないの!?」
人だかりの所々で悲鳴が上がる。
「嫌! 早く出して!」
「痛っ……ちょっと、押さないでよ!」
「もっと奥まで詰めれるでしょ!? 邪魔なの!」
しかし、恐怖と焦りはどんどんと高まっていく、行き場を無くしたその感情は膨らみ続け…いずれ爆発しするだろう。
─マズいわね…
内心で舌を打つも、楯無には良い打開策が見つからない。何か、全員の注意を引き付ける方法があればいいが、この状況下で生半可なことじゃ注目は集まらない。
やがて膨らんだ民意という虚悪は牙を剥く
「ねぇあんた!男なんだから、私たちの為に働きなさいよ!」
「専用機持ちなんでしょ!?」
「どうせ今戦ってる男だってすぐに負けるわ! 早く私たちを逃がしなさい!」
一ヶ所で上がった感情の破裂、やりようのない苛立ちも、不安、不満、恐怖が一斉に煌耀へ向かうしかなかったのだ、自分自身の心の崩壊を守るために…
手のつけられない状況になろうかというとき──
煌耀は人混みに向かい歩き始めた、最初は威嚇していた群衆がやがて静まり、煌耀のために道を開ける。
その表情は…悪鬼羅刹
化けの皮が…被っていた猫の皮が剥がれ落ち、厄災へと戻った一匹の獣がいた。
目映い光と共に轟音砂煙が上がる、煌耀がISを展開しアリーナの閉まったドアを粉砕したのだ。
「…煌耀、くん、なの?」
楯無の問いに煌耀は応じない、ギロリと集団を一瞥すると立っていた場所を砕き目にも止まらぬ速さで跳んでいく、楯無はその姿がどこに行くのかを確認したい気持ちを抑え自らの務めに専念する、悪いことがおきないように祈って。
2
「くそっ…鈴、あとエネルギーはどのくらい残ってる?」
「60ってところね。アンタは?」
「80くらいかな」
「ちょっと不味いわ…逃げ回っているというのにこれだけガンガン減らされちゃ…覚悟するしかないわね」
「ところで鈴。さっきから思ってることなんだが……あのIS、何か探してないか?」
「知らないわよ!」
「でも…何秒かごとにああしているだろ?」
その言葉は鈴の耳に届かない、今は死の恐怖が体を蝕み、正常な判断を奪っていた。一夏も色々考えては見るが見えるビジョンは敗北とその先に待つ終わり。
気付けば一夏も死の恐怖に巻き付かれていた。
乱入したISが止まること10秒ほど経過した、ピクリと機体が動きレーザーを出す予備動作を始める。、ゆっくりになっていく視界の中、鈴の悲鳴じみた声が回線を通じて聞こえ、一夏は走馬灯を思い浮かべていた、そんな時に思い出す、幼馴染み、姉。
「ぉぉぉおおおおおおああああああああ!!」
最早咆哮なのか絶叫なのかわからない声を張り上げて、雪片弐型を振り切った、が、何の意味をも持たない、爆音が鼓膜をつんざく勢いで刺激し、さらに翔んできた細かな粒が僅かながらにシールドエネルギーを減らす。
地面が揺れ巻き起こる土煙
「俺をがっかりさせてくれるなよ?」
死線を軽々乗り越えて煌耀は不敵に笑う。
厄災の復活に、天災は満円の笑みを浮かべた。
おかしな点、前回までの話との矛盾点、ご指摘やご意見がありましたら遠慮せずに言ってください。