「助かった助かった!」
まだ火煙の匂いが立ち込める店内で、日原大成は軽快に笑う。
その様は先程、自宅が火災に遭っていた人にはとても見えない。
笑顔をひきつらせた万事屋はそんな思いを抱きつつ、カウンター越しに彼を傍観していた。
「
「いや……正直僕たち何もしてないんですけど……」
消火作業を思い返す。
それはもう力技に頼った、強引な鎮火活動であった。
「まさか、燃えている二階部分を解体するとは……」
新八の言うことに偽りは無い。
どこからともなく刀を持ち出してきた大成は、火が回った建材を次々と斬り離して燃え広がるのを防いだ。
分断した木材等は道に投げ捨て、万事屋がその火を鎮める。
幸い、隣家に燃え移る前に消火は完了し、事なきを得たのであった。
「第一、なんでお前ん家は燃えてたアルか」
手始めに切り込んだのは神楽だった。
これに関しては銀時、新八も同様に疑問に感じていた。
「うん、まァ……大した理由じゃねェや」
後ろめたさがあるのか、少々言い淀む大成。
「なんだヨ~言えヨ~。お前が言ったら私も言うアルから~」
「俺が言ったら神楽ちゃんも絶対言えよ!絶対だぞ!?約束だかんな!?」
「なんで修学旅行で好きな子言い合うノリ!?日原さん別に乗らなくていいから!」
「いや、実はね」
うなじを掻き、やはり少しばかり恥じらいながらも大成は答えた。
「俺が起こすトラブルに乗っかって、一緒にバカやってくれる様な人がタイプです。願わくばナイスバディ求む」
「日原さんその話じゃない!その話もう終わりました!」
「えぇマジか!?」
ボケてるのか、素なのか。
せっかくカミングアウトしたのに――――といった面持ちで続ける。
「ま、とりあえず神楽ちゃんみたいなまだ幼い子は、対象外だから安心し」
「ほあたァァァァ!!」
大成の言った『幼い』とは、胸か歳か。
どちらを意味したのかは分からないが、兎も角気に障った神楽は大成の顔面に拳を放った。
その衝撃で、損壊した家が更に揺れる。
「日原さんんんん!!」
「流石、幾松んとこで手解きを受けただけあるな。客の神経を逆撫でんのが上手ェや」
厨房に大の字で伸びる大成を眺め、銀時は納得する。
しかし夜兎の鉄拳を食らったにもかかわらず、意外にも大成はすぐ復活した。
「か、辛うじて致命傷で済んだ」
「なんで無事なんですか!?今の絶対アウトでしょ!」
「これが俗に言う顔面セーフというヤツか……」
「アウトだよ!!」
「脳が揺さぶられて変な光景が見えてきた……。タコさんウインナーが高速でモヒカン貫通したり、グローブに弾かれたり、ロッカーにぶち当たったり……。そんなハチャメチャな、女子高生の日常が見え……」
「アウトだよ!!!」
だがその割には平然としている。
確かに手応えはあったのに、と言わんばかりに神楽は首を傾げていた。
気付けば火事の話題からは逸れてしまった。
いや、上手く逸らされたというべきか。
言い辛い事でもあるのか――――
引っ掛かる点はあれど、それを伏せようとした大成の心情を汲んで、銀時はそれ以上言及しようとはしなかった。
「次は俺が訊いていいか?ええと、坂田銀時さんだっけ」
「銀時でいいぞ」
「なんで銀さん達は俺を追って来たんだ?」
銀時は本題を切り出すタイミングを伺っていた。
よって、向こうから訊ねて来たのは好都合であった。
「質問に質問で返すようで悪ィが……大成、お前はこの廃刀令のご時世に、何で刀を持ってやがる」
「これか?」
壁に掛けられている刀剣に視線を向ける。
頭から
さらに柄巻は所々解れ、使い古されているのが見て取れた。
「もしかしてそれは、攘夷戦争の零物なんじゃないのか?」
「……何が言いたいん?」
「お前は元攘夷志士かって訊いてるんだよ」
一瞬で場が緊張感に囚われる。
心倣しか……
『攘夷』という単語に反応した大成の口調と眼は、別人の様に感じられた。
置いてけぼりを食らった新八と神楽に、もう入り込む余地は無い。
もはやただ二人のやり取りを見守るしかなかった。
「俺達ァ依頼で、ある人物を探してんだ」
「誰を?」
「『赤獅子』っていう攘夷志士」
銀時はただ、大成が赤髪赤眼という点だけで赤獅子と確信したのではない。
万事屋で目を合わせた時、理解したのだ。
澄んだように見えたその目は――――
狂乱の貴公子、鬼兵隊総督、そして
数多の屍が転がる、そんな死地に生きた者の眼だと。
察したのだ。
微笑みの裏に伸びた陰は――――
桂小太郎、高杉晋助、そして
大切な何者かを失った者の闇だと。
「隠す必要は無ェよ。俺も過去に、『白夜叉』っつー攘夷志士やってた」
「銀さん!」
新八達にすらあまり語ることのない、攘夷戦争時代の異名を晒す。
これは紛れもなく、腹を割って話そうという合図だった。
「……!」
この発言を聴いた途端、大成は行動に出た。
即座に戸棚から"何か"を取り出し、厨房側から客席側へ跳ぶ。
今までのくだらぬやり取りが嘘のような、俊敏な身のこなしで。
「なっ……!?」
突然の行動に、銀時は反射的に木刀へ手を伸ばした。
――――が、それを掴むより先に、大成の手が銀時の腕を捕らえた。
逃れようとしても、想像以上の豪腕がそれを許さない。
そしてもう一方の手に握る"何か"が、怪しく鈍い銀色に光った。
「お前、何を……ッ!」
「銀さんんん!!」
「銀ちゃんんん!!」
一歩遅れて新八、神楽が駆け寄る。
しかし振り降ろされた"何か"は、もう止まることはなかった。
「はい、確保」
「へ?」
間抜けた声がおのずと洩れる。
大成の取り出した"何か"。
光を反射する金属質の物体は――手錠だった。
ここは定食屋であるため、包丁の類いだと勘違いしていた三人は完全に虚を突かれてしまった。
「は……?」
銀時を拘束したのち、大成は懐からスマホを取り出し、慣れた手つきで画面を操作する。
「あーもしもし、俺です俺。炎亭の日原大成。真選組の屯所で合ってます?」
「ちょ……ちょっと……」
「なに?消防なら110番じゃなくて119番だって?いやだなァもう、いくら俺でも何度も火事起こさないよ。冗談キツイぜ」
「起こしてただろ!」
「いやー実は、伝説の攘夷志士の白夜叉だと名乗る男がウチに来ましてね。あっはい。捕まえたんで、引き取りに来てもらえます?」
「おい、大せ……」
「あ、すぐ来てくださる?ていうかもう既に二人向かっていると。あ、はい。了解しました。はい。では失礼しますね。はい、お待ちしておりまーす。はーい」
「はーい……じゃねェよォォォ!どういう事だ大成、説明しろ!」
手錠の鎖を揺さぶり、やかましく音を鳴らしてもの申した。
「そーいう流れじゃなかったじゃん!ここからシリアスに展開してく感じだったじゃん!」
「悪ィな銀さん」
通話を終えた端末を仕舞うと、自らも座席に腰を降ろす。
「残念ながら、多分俺はアンタの探してる『赤獅子』じゃないよ。戦争経験者ってのはアタリだけどな」
語る大成の顔には、もとの柔らかな笑みが張り付いていた。
「けどそれはもう昔の話。今の俺は副業の繋がりで――――」
万事屋での時の様に悪戯っぽく、こう告げた。
「警察関係者なんだ」
『質問を質問で返すなあーっ!
疑問文には疑問文で答えろと寺子屋で教えているのか?
わたしが「追ってきた理由」はと聞いているんだッ!』
というパロディを大成の台詞に入れようかと思ったけど話の流れが明後日の方向に行って収拾がつかなくなりそうだったので自粛しましたハイ。