俺の素晴らしい世界に祝福を!   作:蒼樹物書

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この素晴らしい世界に祝福を!

 「……あ」

 「――タクヤ君っ!」

 

 目を、覚ます。覚まして、しまった。

 見慣れた天井、どうやら宿に運び込まれていたようだ。手間を、かけさせてしまった。

 ベッドの脇にはクリスが座っている。どれほど気を失っていたのだろうか。

 

 「あぁ……良かった、急に倒れるからびっくりしたよ」

 「……すまない、クリス」

 

 上体を起こす。

 

 「大丈夫? 一時間くらい気を失ってたから……」

 

 大丈夫だ、と返すが実際の所吐き気を押さえるのに必死だ。

 この世界は、『このすば』は狂ってしまった。俺の、せいで。

 本来ならばカズマ達が倒すはずの魔王軍幹部、ベルディア。奴は、俺が連れてきてしまったクリスが倒してしまったのだ。

 何が改変の原因を排除する、だ。もう手遅れだ。

 カズマから、本当の『このすば』を奪ってしまった。

 

 一度は本来の主人公の不在、置かれた状況から自分が主人公になったのだと浮かれた上にカズマがこの世界に来ても嫉妬で奪おうとまで考えていた。

 しかし変えられない流れ、原作通りカズマの元に集まるヒロイン達。

 ようやく、主人公の座を諦められた。悔いることが、出来た。なんて馬鹿なことをやっていたのだろうと。

 

 これは俺の罪。その罰だ。

 なのに止められなかった。改変は大きく、とても俺の手で修正が効く範囲ではない。俺ごときに、世界は手に余る。

 

 だが、もしかしたら。

 最後の希望。

 

 ――俺がいなくなれば。

 

 もしかしたら、修正が効くかもしれない。

 

 「……クリス、悪いんだけど」

 

 何でもないように。

 少し、席を外してくれないかと頼む。こうなれば一秒でも早く済まさなければならない。

 

 「ダメ」

 「……え?」

 「今の君、酷い顔してる……話して。何を隠してるの?」

 

 真剣に、俺を見つめるクリス。

 女神様には隠し事は通用しない、か。

 そうだな、俺は彼女に責任がある。既に魔王討伐という本来の目的は達成できないが、せめて事実を全て話すべきだろう。

 ……信じてもらえるかは、わからないが。

 

 この世界は、『このすば』という世界であるということ。

 クリスやカズマ達はその登場人物であるということ。

 俺は、そのイレギュラーだ。

 

 やろうとしたこと、その罪も打ち明ける。

 一笑に付されるかもな、と思っていたがクリスは最後まで真剣に聞いてくれた。

 

 「……それで、君はどうしたいの?」

 「責任を、取りたいと思う」

 

 一生一度の、一つしかないモノを差し出す。一度失ってはいるのだが。

 それで償えるかは分からない。カズマに、『このすば』を返せるかは分からない。

 だが、俺に出来る最大限は――。

 

 「……ッ!!?」

 

 衝撃。

 え、殴られた?

 女性とは思えない……いやステータス高いんだから当然か、拳で頬を殴られベッドの上で倒れる。

 

 「君。馬鹿でしょ」

 

 頬に手を当てて呆然としていると、立ち上がったクリスがこちらを見下ろして酷いことを言う。事実だが。

 

 「私はそんなこと知らない。『このすば』とかいうお話なんて知らない」

 

 先輩も、ダクネスも、サトウカズマだって。

 

 「そんなこと知らない! そんな脚本通りの世界なんて知らない!!」

 「……待ってくれ、そのままなんだ、クリスも、他の冒険者達だって!」

 「待たない! そのお話と同じだから何だって言うの!?」

 

 クリスは混乱している。ぼろぼろと涙を零しながら、声を荒げている。

 当然だ。あなたはある小説の登場人物ですだなんて話をして、まともに受け止められる奴なんていない。

 

 「……信じてくれないなら、それでいい。ただ、俺はもう」

 「信じる! 君の話は信じてるけど、そんなもの私は否定するの!!」

 

 え?

 

 「私も君も、今こうして生きてる!」

 

 ――誰かが書いた脚本だなんて冗談じゃない。自分で決めて、自分で行動して。

 それが、生きるということ。

 決まった結末なんてない。筋書き通りの生き方なんてできやしない。失敗して、それでも諦めずに続けて。

 ダメな時もある。それでも続ける。

 

 「なのに、それがもう決まっちゃってる? 冗談じゃない!!」

 

 だから、否定する。

 この世界がもう確定していたなんて、否定する。

 

 「世界が壊れる? ……私の世界を、勝手に決めないでよ」

 

 女神エリスの管理する、この世界。彼女が見守るこの世界。

 死んでしまい、再度この世界で生まれ変わることを拒絶し去っていく者を彼女は見送り続けた。

 厳しい世界ではある。魔王軍が跋扈し、既に王都にも迫っている。少し気を抜けば命を落とすような魔物があちこちにいる。

 人口は減り続け、先輩であるアクア様から状況打開の為に転生者を送ってもらう程。

 

 それでも、彼女はこの世界を愛している。その世界を、勝手に決められることに憤っている。

 

 「勘違いしないで。君の、世界でもあるんだよ?」

 

 俺の?

 

 「君もこうして生きている。なら、ここは君の世界なんだ。だから」

 

 どうするかは、自分で決めて。自分の世界をどうしたいか。

 

 「そんな……」

 

 そんな。

 あるべき指標を自らのせいで失った俺に、何が出来るというんだ。

 

 「――だから、そんなもの最初からないって言ってるのッ……っ!?」

 

 叫ぶクリスの声に、警報の鐘の音が重なる。

 一体、何が……?

 

 『デストロイヤー警報! デストロイヤー警報!』

 

 馬鹿な。

 なんでこのタイミングなんだ。ベルディア襲来からもっと間が空いていたはずだ。

 機動要塞、デストロイヤー。アニメ終盤でこのアクセルの街へ襲い掛かる災害。

 これも、改変の影響……?

 

 「ねぇ。これも、君の言う筋書きにあったのかな?」

 「……いや、こんなにも早く来るはずが……」

 「そう」

 

 クリスは俺の返答ににこり、と笑いながら傍らにあったダガーを手にして背を向ける。

 

 「お、おい! どこに……」

 「決まってる。冒険者は装備を整えて冒険者ギルドへ、だよ?」

 「……勝てるわけがない! 逃げるべきだ!!」

 

 いくらクリスが反則的なステータスを持つとはいえ、あんな災害をどうこう出来る筈がない。

 街の総力と、カズマ達の活躍があってようやく倒せたんだ。

 しかし、今回はそれも難しい。ベルディア襲来から間もない為、カズマは最後の攻略の鍵となるドレインタッチを習得していないはずだ。

 カズマ参戦の動機、苦労して手に入れた家を壊されない為という点もだ。そもそもカズマはまだ屋敷を手に入れていない。

 

 デストロイヤー攻略にカズマの参戦は必須だ。

 カズマがいたからこそアクア様は逃げずにいたし、めぐみんもヘタれずに爆裂魔法を放てた。突っ立ってただけのダクネスはともかく。いや、最後の自爆から逃げずに皆が対応したのはダクネスのおかげか。

 とにかく、必要な要素が絶望的に足りていない。あの災害は魔王軍ですら手をこまねくような相手なのだ。

 

 「筋書きとは違うから? そんなのやってみなくちゃわからない。私は、行くよ」

 「……なんでだ。勝ち目なんて、あるのか」

 「わからないってば。でも、今の私は冒険者だもん」

 

 ――君は?

 

 無謀を笑い飛ばすように、クリスは言い切る。そして、問われる。

 俺は。

 俺がしたいこと。俺ができること。

 このまま黙って街が破壊されることを見過ごす?

 一縷の望みをかけて自決し、勝手に世界が修復されることを祈る?

 

 「俺は――」 




次回、最終話。
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