「サトウカズマ、話がある」
「あ? 今忙しいんだよ、後にしてくれ後に」
デストロイヤーの襲来に逃げ惑う人々、立ち向かわんとする冒険者達。引っくり返したように慌しいアクセルの街。俺は一人、カズマを探しようやく見つけて声をかけていた。
カズマとアクア様、めぐみんは逃げる準備万端といった様子。ダクネスだけが迎撃に向かうべきだと反対していたようだ。
「……頼む、お前さんにしかできないことがあるんだ」
◇
「頭イカれてるのか、あんた」
「……まぁそうだよな」
路地の間、カズマと二人。何とか頼み込んで話を聞いてもらったが、訝しげな目で見られる。当然か。
「……原作知識持ち転生者、ねぇ。本当だってんなら、お前が何とかできるんじゃねぇか?」
それが無理だから、頼み込んでいる。カズマに原作の作戦を説明する。
デストロイヤー攻略についてだが、まずその結界の排除が不可欠だ。
それには、アクア様の強力な解呪スキルであるセイクリッドブレイクスペルがなくてはならない。
アクア様が参戦するのに、カズマの参戦が必要。
そして二発の爆裂魔法によるデストロイヤーへの攻撃。
ウィズはともかく、めぐみんの参戦とその精神的支えとなるのもカズマだ。
何より、最後の自壊。
デストロイヤーの動力源であるコロナタイトをテレポートさせた後、内部の熱が暴走し火の海となるのを防ぐための最後の一撃。めぐみんの二回目の爆裂魔法。
それを放つにはドレインタッチによる魔力補給が必要となる。
組み合わせはめぐみん、ドレインタッチの使用はカズマ、魔力供給元のアクア様。
これでなくてはならない。
まずウィズはこの段で既に魔力を使い切り、必要となる膨大な魔力の供給は出来ない。賄える程の魔力を持つのはアクア様と、もしかしたらクリス。それでも両方とも女神だ、組み合わせにウィズを入れれば自滅を招くだけとなる。
そして、ドレインタッチ。これは今からカズマがウィズから習得して使ってもらう。ドレインタッチは肌、それも心臓に近い部分に触れていなければ効率的な使用ができない。自壊までどれほど持つかはわからないが、間に合わせるには確実な方法を取るべきだ。
少なくとも、俺がやるんじゃ嫌がられるだろう。
だから。
「だから、カズマ。お前に頼みたい」
「……確かに、勝ち目はありそうだ。けどな」
虫がいいんじゃねぇのか?
続く言葉が、突き刺さる。カズマの言うとおりだ。
あまりにも身勝手が過ぎる。一度は奪おうとしたその座を、今度は押し付けようとしている。
「……すまない。謝って済むとも思っていない」
俺の、罪滅ぼし。
カズマのあるべき先を奪った罪。出来る限りの贖罪。
この『後』について話す。
「――足りないな。デメリットは『それ』で潰されるんだろうが」
「もう一声、こいつでどうだ?」
クリスから預かった、最後の弾丸。最後の交渉材料を提示する。
全く、最後の最後までクリスには世話になりっぱなしだ。
「……交渉成立だ」
「頼んだ、主人公」
◇
……機動要塞、デストロイヤーとの戦いは終わった。
全て、終わったんだ。
街の外壁、その上に立って平原に空いた特大のクレーターを眺める。
最後の最後で原作通りだ。
アクア様のセイクリッドブレイクスペル、めぐみんとウィズの爆裂魔法。突入するダクネス達。
俺はただここで見ていた為、内部でのやりとりは確認していない。だが終わった後、ウィズに確認してある。テレポートの指示、その責任を『発案者』である俺が負うと言っていることを。
この後、テレポートさせたコロナタイトで大領主アルダープ邸を吹き飛ばした容疑で『俺は』帝都から来る検察官に逮捕される。
原作ではカズマが問われるはずの無実の罪。それを負うことが、俺の交渉材料の一つ。
「……こんな所にいたんだ」
ああ、見つかったか。
クリスがやってくる。合わす顔がなくとも、謝罪と感謝は告げるべきだな。
「すまない……助かったよ」
そして、もう一つの交渉材料。
最も単純な代償、金。
魔王軍幹部ベルディアの莫大な討伐報酬。それをクリスに預けてもらった。
「……本当だよ、遊んで暮らせるくらいの金額だよ?」
なのに惜し気を全く感じさせず答えるクリス。まさしく、女神だ。
「本当に、すまない。もう魔王討伐には挑めない」
俺はこれから逮捕されて、国家転覆罪で裁判にかけられ死刑となるだろう。
既に捨てるつもりだった命、惜しくはないが彼女には本当に申し訳ないことになってしまった。
アクア様に身代わりにされたとはいえ、転生特典として連れてきてしまったクリス。彼女が天界へ帰るには魔王を討伐しなければならない。だが、俺はここで終わりだ。
「サトウカズマから聞いたよ。罪を、被るの?」
「ああ。俺は分かっててやってもらったんだ、当然だ」
そう、コロナタイトをテレポートさせればアルダープの屋敷へと転送され吹き飛ばすということを俺は知っている。原作のように偶然の出来事ではない。確か人的被害はなかった筈だが、許されることじゃない。
それに、もう。
ここまで無茶苦茶になったこの世界、デストロイヤーこそ撃破してくれたがこの先がもう読めない。原作の世界とは大きくかけ離れてしまった。この世界で俺が出来ることは、もうない。
「本当に?」
「……」
頼むよ。
もう、終わらせさせてくれ。
馬鹿なことをした俺の償い。
これが、俺の物語のエンディングだ。
「嘘だよ。死にたくないって、顔に書いてある」
やめてくれ。
俺は、俺はもう……。
「……さっきね、大領主の屋敷を見てきたんだ」
――傷一つなかったよ。
「は?」
「だーかーらー、コロナタイトは屋敷に転送されてなかったんだってば」
「そんな……! じゃ、じゃあ一体どこに……!?」
馬鹿な。これも、改変の影響?
確かにテレポートは魔力量が足りない為のランダムテレポート。どこに転送されてもおかしくはない。
だが、もし人口密集地にでも飛んでいたら? いや、一人でも被害者がいるのなら。
「これもさっき聞いたんだけどね」
……吹っ飛んだのは、山中の古城、らしい。既に討伐された魔王幹部、ベルディアの居城だ。
旅の商人が偶然それを目にしていたとのこと。主を失い結界がなくなった為一発で吹き飛んだようだ。目印となる建物がなくなってしまったことを嘆いていた商人の話を耳にしたらしい。
「それ、じゃあ……」
「魔王軍幹部が拠点にしてた城を吹き飛ばしたんだから、少なくとも罪にはならないね」
俺は。
俺は、どうすればいい?
テレポートのことだけじゃない、俺は、この世界に対して責任が――。
「ねぇ。君、忘れてないかな」
君は、この世界を救うために転生してきたんだよ。
「……あ、ぁ……」
「その為にこの私という転生特典を道連れにして。別の目的があったのかもしれないけれど、本当に責任があるというのなら」
『この』世界を。
「ぶっとばそうよ、魔王」
「……俺は、最弱職だぞ」
とんでもなく硬いクルセイダーも。
人類最強火力のアークウィザードも。
女神のアークプリーストも。
誰一人としていない。あいつのように、運もないし機転も利かない。
「私がいるよ」
「……ああ、そう、だったな……」
俺は、『このすば』の主人公にはなれなかった。
『この素晴らしい世界』は、ここにはなかった。
「ぶっとばそうか、魔王」
だが、確かに素晴らしい世界がここにはある。
俺が大好きな、『このすば』とは少し違っているが、確かに。
『俺の』素晴らしい世界。
「よし、それじゃあ改めてパーティーメンバー募集するか!」
世界を救う。最弱職で、運も低い俺が簡単に言えることじゃない。
けれど、そんな俺にもクリスがついていてくれる。他にも仲間がいれば、何とかなるかもしれない。
ダクネスじゃなくってもいい。
めぐみんじゃなくってもいい。
アクア様じゃなくってもいい。
俺は、サトウカズマじゃないのだから。
『このすば』じゃないのだから。
これは俺の物語。
主人公は、俺だ。
これにて、『俺の素晴らしい世界に祝福を!』完結となります。
お付き合いいただきました皆様に感謝を。
例によってあとがきは活動報告にてさせていただきます。
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