俺の素晴らしい世界に祝福を!   作:蒼樹物書

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この素晴らしい主人公(真)に祝福を!

 どうしてこうなった。

 俺は今、ギルドの片隅、テーブルの席について頭を抱えていた。

 正面にはエリス様……の下界での仮の姿である盗賊クリス。

 

 エリス様はこの事態を招いた駄女神と違い国教として多くの国で信仰され、通貨の単位にもなるほどの女神様だ。その姿は目立ちすぎ、さらに厄介な状況を招きかねないためとりあえず物陰で変装した。一瞬ぴかっと光って変装完了。あれこんな魔法少女みたいなノリだったんだ……いや、それはいい。

 

 「……それで、『女神』を指定していたのでアクア先輩は私を持っていく物にさせた、と」

 「すみませんごめんなさい」

 

 テーブルを挟んで座るクリスに平伏する。クリスにしたら完全にとばっちりだ。

 元々この世界を管理していたのは彼女ではある。ダクネスの冒険者仲間が欲しいという願いを叶える為に下界したり、アクア様が転生者に渡した結果ばら撒く形となった転生者特典、通称神器の回収をしたりとこの世界には来ていた事は確かだ。

 

 しかし、現状は今までのように天界と下界を行き来出来る状態ではないらしい。

 俺が女神……アクア様に身代わりにされたエリス様を指定してしまった為に、もう魔王を倒すまで天界に戻ることができなくなったのだ。

 本来の『このすば』であれば主人公、サトウカズマを煽りに煽ったアクア様が連れて行かれるという展開のはずが、俺の台詞間違いでとんでもないことをしてしまった。あそこは『女神』ではなく『あんた』と指差してアクア様を指定する場面だったと今更ながら思い出す。本当に今更だ、クソ。

 

 さてどうしよう。アニメ版ならまだ第一話の十分も経っていない時点で原作崩壊だ。

 

 「はぁ……全く、アクア先輩ってば……」

 「ほんとすみません!」

 「いや……確かに女神を持っていく物に指定するのはどうかと思うけど、原因はアクア先輩だしね」

 

 なんて懐の広い……アクア様派から鞍替えしようかな。

 

 「本来なら、天界の者が下界へ過剰に影響を及ぼすのは好ましくないんだけど」

 

 クリスの愚痴のような言葉と何かを諦めたかのような表情。そして。

 

 「こうなったらぶっ殺そうか、魔王」

 「えっ」

 

 わー、凄い笑顔。

 もう完全に割り切ったのか、クリスは握り拳に親指を立ててやる気満々のご様子。奇人変人ばかりのこの世界で数少ない常識人枠だと思っていたが、そういえばこの人アクア様の後輩だった。悪魔死すべしの人だった。

 

 「幸い能力の方は女神の力そのままになってるようだしね」

 「マジっすか!」

 

 原作では下界する際クリスの身体であった為、詳細な能力については不明だがアクア様のような出鱈目な女神の能力は持たなかったエリス様。

 しかし今回、アクア様のように無理矢理天界から下界に下ろされた為か能力はそのままらしい。

 あの残念なアクア様ですら、この世界においてチート級の能力だ。レベル1でも即上級職になれる程ステータスも高く、スキルポイントは振り放題。そりゃ神様だもんな。

 

 「ほら、冒険者カード。ステータスも上昇してスキルポイントも一気に増えてる」

 

 クリスが自身の冒険者カードを見せてくれる。盗賊職といえば素早さと器用さが高くその他のステータスは低いイメージだが、全ステータスの数値がバランスよく高い数値を示している。この数値がどれ程高いのか、他の冒険者と比べてみなければ分からないが……まぁ俺も後で冒険者カード作れば分かるだろう。

 そして保留状態のスキルポイントが百を超えている。マジかよ。確か無駄に多くのスキルポイントを消費する宴会芸スキル、花鳥風月が五ポイントだったか。これなら盗賊のスキルを網羅しても余るくらいだろう。

 

 「この状態なら盗賊の上位職にもなれるね。流石に私一人だと分が悪いけど、仲間を集めれば魔王討伐は充分可能だと思うよ」

 

 女神すげー。一人でも分が悪いで済むのか。

 知能と運が低すぎたアクア様と違い幸運の女神であるクリスは運も非常に高い数値。知能も他のステータスと遜色ない、隙のないステータスだ。万能な活躍ができることだろう。

 

 光明が見えてきた。

 

 アクア様と一緒に冒険できないのはとても残念だが、このクリスと一緒なら非常に楽が出来るはず。正直好みで言えばアクア様派なのだが、自身の命がかかっている状況だ、贅沢と言うべきだろう。実際アクア様と一緒の場合、結構な回数死ぬ羽目になる。蘇生してくれるけど。膝枕してくれるけど。

 

 「あ、そういえばいきなり後ろ向きな話なんですけど……」

 「なにかな?」

 「俺が死んだ場合、蘇生は……」

 「君は転生者だから天界規定で復活できないよ。せめて日本の裕福な家に生まれ変わるくらいかな」

 

 そもそも盗賊職に蘇生魔法は使えないしね、と付け加えられる。自由というか、色々融通の利くアクア様と違いクリスはこの辺厳しい。

 

 「大丈夫、しっかり守ってあげるから! 大船に乗ったつもりでいてよ!」

 「……おなしゃす」

 

 チートキャラ加入の代償は残機0、死んだら即冒険終了状態でのスタートということか。

 クソゲーなのはあまり変わっていない気がする。

 

 

 そして俺の冒険者カード作成。

 ギルド加入の受付窓口の場所はクリスが知っているはずだが、あえてあの人に聞く。

 

 「……見かけねぇ顔だな」

 

 出た、CV稲田徹。

 ジョッキ片手に座っているあの人。モヒカンに髭、半裸で肩当て、サスペンダーというあまりにも特徴的な人物、荒くれ者。アニメオリジナルキャラであるこの人がいるということはアニメ版準拠か。

 

 「それになんだその妙な格好は?」

 

 うひょー、ハリー・オードだ、レーツェル・ファインシュメッカーだ。声超渋い。

 

 「実は遠くから着たばかりで、今この町に着いた所なんだ」

 

 ここで俺、渾身の決め顔。

 

 「――俺も、魔王軍と戦う冒険者になりたいんだ」

 「あぁそうかい命知らずめ。よォこそ地獄の入り口へ! ギルド加入の受付ならあそこだ」

 

 荒くれ者がにやり、と笑いギルド加入の受付窓口を指してくれる。やはり原作のやりとりをなぞるのは楽しい。主人公になったのだと改めて認識できる。最初から味噌がついてしまったが、今後もチャンスがあればやっていこう。

 

 「受付の場所くらい、私が教えてあげたのに」

 「お約束って奴ですよお約束」

 

 不思議そうな顔をしているクリスに応え受付を目指す。

 白い壁に囲まれた受付窓口。そこにいたのは金髪のギルド職員、ルナさんだ。すげぇおっぱい……!

 こんなおっぱい美人、モテないなんてどうかしている。あ、サキュバスサービスのせいだったか。ならば俺にもワンチャン……?

 俺はおっぱいとロリが大好きだ。だからメインヒロインでも特にダクネスとめぐみん推し、次いでアクア様。しかし前の世界で異性と交遊する機会のなかった俺は貪欲に生きたい。おっぱい揉みたい。

 出来る限りイケメンっぽさを意識して冒険者になりたい旨を告げる。胸だけに。

 

 「そーですかぁ。では最初に登録手数料がかかりますが?」

 

 にこり、と笑顔。事務的なやつ。ですよねー。

 

 「……クリスさん」

 「わ、わかってるって。だからそんな情けない顔しなくていいよ!?」

 

 俺はジャージ姿で手ぶら、当然この国の通貨なんて持ってはいない。無一文だ。

 原作ではアクア様もお金を持っていない為、もっと情けないひと悶着があるのだが……クリスは以前にも下界しているので当然いくらかの貯えがあった。女性にお金を借りるというのは少し情けない気がするのだが仕方ない。

 

 そしてクリスに借りたお金で登録手数料を支払い、ルナさんから冒険者についての説明がされるが本編通りの内容。各職業があり、冒険者カードには討伐数が記録されること、レベルアップによってスキルポイントが貯まること。この辺りは頭の中に入っている。

 

 説明を終えたルナさんに促されて冒険者カードを作成する。水晶を中央に据えた魔道具に手をかざす。

 すると水晶が青い光を放ち始め、各部が稼動し始める。光の粒子が砂時計のように魔道具の下部へ落ちてゆき、レーザーに変質、土台部分に置かれたまっさらな俺の冒険者カードに文字を刻み始めた。

 

 これで、俺のステータスが分かりその数値に応じた職業を選択するというわけだ。

 

 胸が高鳴る。この感覚はあれだ、高校の合否発表を確認した時のあれに近い。結構頑張って勉強したので、合格を確認した時は喜んだものだ。不登校になったが。

 初っ端から原作と違った展開なのだ、サトウカズマの場合と違って凄まじい潜在能力が明らかになったりするのかもしれない。そしてギルド内で騒ぎになってちやほやされるかもしれない!

 文字を刻み終えたレーザーが止まり、ルナさんが俺の冒険者カードを手にとって確認する。どきどき。

 

 「はい、ありがとうございます……スズキタクヤさんですね……ええと」

 

 どれも普通ですねー。

 

 しかし現実は非常だった。続くルナさんの言葉、俺のステータスを見た初見の印象は普通という他ないらしい。

 そこは原作なぞるんですね、わかってましたよはい。

 

 「知力がそこそこ、器用さもそこそこ高い以外は……あれ、幸運が非常に低いですね……」

 

 とても気の毒そうに話すルナさん。え、そんなに低いの? 俺の幸運低すぎ?

 哀れみすら感じる視線、慰めるように冒険者に幸運ってあんまり必要ない数値ですからと付け加えられる。

 けど俺は知っている、スティールや狙撃の成功率に幸運が大きく関わっているのだ。

 

 そして『このすば』の展開には主人公の幸運が重要となる場面がいくつもある。

 

 あれ、やばくねぇ?

 

 アクア様じゃなくクリスが特典となっている今、原作とは大きく今後の流れは変わるだろうが主人公と大きくステータスが違う場合、いわゆる原作知識が役に立たない可能性が高い。

 例えばデュラハンのベルディア戦、俺が奴の頭をスティールで奪うことは難しくなる。サトウカズマが使った、有効であることが確定している戦術はそのまま使えなくなる。

 残機0の俺は出来る限り安全策を取る為に貴重な原作知識を有効に使いたいのだが、この低い幸運という足枷を常に意識しなくてはならない。

 ベルディア戦の場合はクリスにスティールを頼むなど、対策を考えておこう。そもそも戦わないという選択肢もあるのだし。

 

 ルナさんは控えめに、このステータスなら鍛冶師か薬師になることを薦めてくる。

 結局、俺は選び得る唯一の戦闘職、基本職であり最弱職の冒険者に就くこととなった。原作通りだ、畜生。しかしレベルアップによって転職が可能であることは救いだ。

 

 さて。このあと本来であればアクア様の冒険者カード作成、その高性能さにギルド内が沸くのだがクリスは既に冒険者カードを持っているので当然そのイベントはなし。

 冒険者カードを受け取って受付窓口を後にする。またテーブルに戻り、クリスと今後の方針について話し合うとしよう。ん?

 

 

 

 「……見かけねぇ顔だな。それにお前『も』妙な格好だが、流行ってんのか?」

 「ん? いや、実は遠くから着たばかりで、今この町に着いた所なんだ」

 

 え?

 この声は、先ほどの荒くれ者。それに応えている、この声は。

 

 「ちょ、ちょっと!?」

 「いいから!」

 

 クリスの手を引いて慌てて柱の影に走る。荒くれ者と話している男、そしてその後ろで怯えるようにしている彼女に見つからないように。嘘、だろ……?

 

 「――俺も、魔王軍と戦う冒険者になりたいんだ」

 

 本当なら、主人公がやるはずのやりとり。

 つい先ほど、俺がやったやりとり。

 

 主人公の座は、あっさりと取り返される。

 

 「あぁそうかい、お前『も』か命知らずめ。よォこそ地獄の入り口へ!」

 

 今、荒くれ者と話している男の名はサトウカズマ。

 その後ろにいるのは、女神アクア様だった。




来ちゃった。
アクア様も二度目の身代わりはいなかったらしい。
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