俺の素晴らしい世界に祝福を!   作:蒼樹物書

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この素晴らしい野望に祝福を!

 どうしてこうなった。二回目。

 俺は今、ギルドを出てクリスと共に路地裏に身を潜めている。

 クリスは突然な俺の行動に困惑している。まずは状況を整理しなければ。

 

 俺は『このすば』の展開通りに行動しようとして僅かに台詞を間違い、結果、駄女神の奇跡に等しい機転により女神エリス……今はクリスという仮の姿を取っている彼女を特典として転生、駆け出し冒険者の町アクセルへと舞い降りた。

 確かに、原作ならば女神アクア様を伴って転生するのが『このすば』の本来の流れだ。

 そしてそれをするのは本来の主人公、サトウカズマ。

 

 俺と同じように死んで、同じように女神と出会い転生特典として連れて行く勇者候補。

 今、原作通りアクア様を連れてギルドの受付窓口へ歩いていく男だ。

 

 「は、はははっ」

 「えっ、ど、どうしたのタクヤ君……?」

 

 突如笑い出してしまった俺に不審そうな目を向けるクリス。

 ごめん、あまりにも自身が滑稽過ぎて笑ってしまった。

 

 「そうだよな。俺は、サトウカズマじゃない」

 

 そうだ。本当なら、俺は『このすば』の主人公じゃない。

 状況から考えれば恐らく俺の後にサトウカズマは死んでアクア様に出会ったのだろう。

 そして原作通り、女神アクアを指して転生特典として指定したのだ。だからアクア様がこちらにいた。

 俺というイレギュラーを物ともせず、あいつ、サトウカズマは原作の第一話を始めて見せたのだ。

 

 「ふざけるなよ」

 「あの……?」

 

 ふざけるな。これはもう、俺の『このすば』だ。

 

 「俺のモノだ」

 

 奪う。

 サトウカズマの物語を、本当の『このすば』を俺が、スズキタクヤが略奪する。

 ヒロイン達を、エピソードを、まだ見ぬ結末を。

 知略に長けて悪辣なようで小心、ヘタレという名の良心を持つサトウカズマという主人公を、俺は嫌いじゃない。むしろ好ましく思っていた。

 

 だが、既に俺も舞台に上がっている。

 カズマと、同じ舞台に。ただの読者、傍観者でしかなかった俺が。

 

 ならば、俺の男の部分が奴から奪えと叫ぶ。俺の悪魔の部分が原作知識を武器に奴を踏み台にしてしまえと叫ぶ。

 ギルドの建物、そこから歓声が上がる。アクア様の高ステータス、アークプリーストとなることを周囲の冒険者達が持て囃す際のものだろう。俺は、知っている。

 

 「俺の、『このすば』だ」

 

 

 それから。

 魔王討伐をするならアクア様達と合流、ついでに身代わりにされた怒りをぶつけたいクリスを口八丁で説得、今俺は宿の一室にいる。無一文の為、クリスのお金だ。地味に借金が増えていく。

 

 俺は一人、今後について考えていた。

 ここからの展開、サトウカズマとアクア様は日銭を稼ぐ為に町の外壁補修の工事に就くはずだ。

 

 まず、アニメオリジナルの荒くれ者がギルドにいた時点でこの世界はアニメ版準拠と考えるべきだろう。しかし小説版の知識も捨て置くべきではない。

 既に完結しているweb版には目を通していなかったのは痛手だが、アニメ版をまず第一、そして小説版を補強として今後の展開を予想、行動していくか。

 

 俺の目標はサトウカズマを原作知識で以って出し抜き、めぐみんやダクネスといったヒロイン達と懇意になること。その上で魔王討伐を成し遂げることだ。アクア様の攻略がすぐには難しい点は残念だが、既にサトウカズマと共にいる以上仕方ない。

 

 爆裂魔法という人類最高火力の魔法を使えるが一日一発、使えば倒れてしまうめぐみんと、全スキルを防御に全振りしており攻撃の当たらないダクネス。この二人は扱い難さから他のパーティからは避けられ、仲間を欲している状況。そこに何も知らないサトウカズマが仲間に加えてしまい、という展開だ。

 

 サトウカズマとアクア様は工事に就いている為、この二人に出会うまで時間的な余裕は僅かながらあるはず。

 二人の所在についてだが、特にダクネスは既にクリスと面識がある。固定のパーティは組んでいないが、俺の動き次第で先んじて仲間に加えることは可能。

 めぐみんも小説版なら既にアクセルにいる。アニメ版でも既に来ていてもおかしくないはず。探すか上位職の後衛募集をすれば簡単に捕まえることができるはずだ。

 

 「……いける」

 

 本来の主人公に先んじて、彼女達を俺の手元に置くことができる。

 ピーキー過ぎて他のパーティーなら避けられる彼女達を、原作知識を持つ俺は効果的に運用することができるはずだ。そのツボを知っている俺は彼女達を惹くことができるはずだ。

 

 よし、まずは目的が同じアクア様と合流すべきというクリスを完全に説得し、二人との接触を回避する。原作ではめぐみんとダクネスを使えないと言うサトウカズマだが、万全を期すならばそもそも影響を与えずに原作通りの動きをして貰うほうが好都合だ。

 

 そして上級職、アークウィザードの後衛……めぐみんの募集をしつつ、クリスを伝いダクネスを仲間に加える。

 最終的には魔王討伐が目標となるのだが、現状チートではあるが盗賊職のクリスと駆け出し冒険者の俺。基本職が全くいないという状況だ、前衛のダクネス、後衛のめぐみんがいればパーティーとして固まってくる。

 レベルアップにより転職する猶予がある俺は回復やサポートが出来る職になるのもいいだろう。

 

 いいぞ、いいぞ。勝ち筋が見えてきた。

 サトウカズマには悪いが、これは俺の『このすば』だ。

 めぐみんもダクネスも俺の手元に置いて、魔王討伐を目指す。

 原作知識という無敵の武器を手に俺はサトウカズマから『このすば』の物語を奪う。

 

 クリスを説得する為の理由を考えながら、俺は眠りに落ちる。サトウカズマ達が工事に従事して、カエル討伐クエスト、めぐみん加入へ至る流れに何日を要するかは分からないが数日はかかるはずだ。

 その間、俺はスケジュールに合わせて準備することが許される。原作知識最高。

 原作通りなら、転生してすぐサトウカズマは金欠から馬馬車での寝泊りを強いられる。今俺が宿泊する寝床はベッドの上だ。恨みはないがざまーみろ。これもクリスの金だけど。必ず返します、はい。

 

 

 おはようございます。

 様々なことがあり疲れたのか、久々に夜眠って朝起きた気がする。ジャージのまま、宿共用の洗面台で顔を洗ってから一階の食堂に降りる。クリスの利用している宿は一階が食堂兼居酒屋、二階が宿というこの町ではよくある形式らしい。お値段も手頃で俺達の他にも駆け出しの冒険者が多く利用しているようだ。

 とはいえ現状ここの支払いもクリスに借りてしまっているわけで。小心な俺は一刻も早く借金を返し経済的に独り立ち出来る状態にしたい。引き籠りオタニートからヒモってランクアップなのかダウンなのかは分からないが。

 

 「おはよう、タクヤ君」

 「お、おはようございます、クリスさん」

 「あはは、そんな畏まらなくたっていいよ」

 

 一階の食堂では既にクリスさんがテーブルについていた。

 今は女神エリスではなく、ただの盗賊クリスなのだから敬語も不要、呼び捨てでいいとのことだ。敬って! が基本姿勢のアクア様と違い何て心の広い。いやあんなところも可愛いとは思うんだけど。

 

 「じゃ、食べながら話しましょ……話そうか、クリス」

 「りょーかい。いただきます」

 

 祈りを捧げるように両手を組むクリス。俺は迷ったが掌を合わせていただきます。朝食は野菜のごろごろ入ったスープとバゲットだ。スープにバゲットを浸しながら頂く……うん、美味い。

 

 さて。話す内容は主に今後の方針についてだ。当然、先日遭遇したサトウカズマとアクア様のことも。

 俺の密かな目標、めぐみんとダクネスをカズマに先んじてパーティーに加えるということは伏せつつ方針を決めなければならない。

 

 「まずは……昨日はあまり詳しく教えてくれなかったけど、アクア先輩と合流するのは不味いの?」

 「ああ。アクア様はともかく、あの男と合流するのは危険だ」

 

 どうせカズマからヒロイン横取りする形になるのだ、悪いがとことん利用させてもらう。

 まずはあの男、サトウカズマがアクア様を連れているのは俺と同じく転生特典に女神、アクア様を指定したからだろうという考えを話す。ここは同じく被害者であるクリスも同じ考えのようだ。

 

 「実は、俺はあの男を知っているんだ」

 

 嘘は言っていない。面識は当然ないが、俺は『このすば』の主人公であるカズマを知っている。

 

 「あの男はな、こう言うのは何だけど最低のクズだ」

 「えっ、そ、そんなに酷いの?」

 

 そうだ、とカズマの酷いエピソードを並べ始める。女の子にカエルを使ってぬるぬるにしたり、女の子の下着を盗んだり。倒れて動けない女の子を介抱する振りをして、胸やお尻の感触を楽しんでいたことも。

 嘘は言っていない。正確にはこれからやるはずだったエピソードの数々だが……そういう人物であることは事実だ。

 クリスは俺の話を聞くにつれてドン引きしていた。確かにクズだもんなぁ、これだけ聞けば。自分でやっておいてなんだが、俺はカズマという主人公を嫌いではない、嫌いではないのだが、今回は踏み台にさせてもらう。

 

 「そ、それってアクア先輩も危ないんじゃ……!」

 「あの男の趣味からは外れているし、アクア様も女神だ。しばらくは大丈夫だと思うけど……」

 

 今、下手に手を出してもあの悪辣な男に何か無茶な要求をされる危険がある為、十分に用意してからアクア様とのみ合流しよう。そう提案する。

 

 「確かにアクア先輩なら大丈夫だろうけど……そんなに注意しないといけないの?」

 「頭がよく回る上にどんな常識、人道にも縛られない奴だ。最悪、アクア様と引き換えにクリスを寄越せと言ってくる可能性もある」

 

 嘘は言っていない。

 

 「うぅ……そんな人が勇者候補の一人だなんて……」

 「同じ国の人間として非常に恥ずかしいことだけど……一日も早くアクア様と合流できるよう頑張ろう、クリス」

 「そうだね! 頑張ろう、タクヤ君!」

 

 よし、なんとか丸め込めた。すまんカズマ。嘘は言ってないけど。

 それから。

 今後の行動について詰めていく。まずはパーティーをある程度固めたい、前衛と後衛が必要であるということはクリスも考えていたらしい。

 

 「知り合いの冒険者は何人かいるけど、ガチで魔王を倒しにいこうってなると……ううん」

 「クリスもそれなりに火力出るだろうし前衛は盾職が欲しいな」

 「盾職……ううん、あの子は確かに……でもなぁ」

 「お、知り合いいるの!?」

 

 なんてな。俺はクリスが上位の盾職、クルセイダーのダクネスと友人であることを知っている。

 そして難のある性癖が災いして、攻撃スキルを一切取っていない極端なスキル振りであることも。だからここは押し込む。

 

 「とりあえず紹介してくれないか? 能力よりもまずは魔王討伐に参加してくれる人であることが重要だしさ」

 「そ、そうだね……うん、午後に会えないか聞いてみるよ」

 

 誘導成功。イレギュラーこそあったものの、うまく行き過ぎて不安になるくらいだ。

 朝食を済まし、クリスはダクネスへのアポイント取り、俺はギルドへ後衛募集の張り紙を出すことにする。当然上位職に限定してめぐみんを狙い打つのだ。

 その後は合流して、俺の装備を見繕ってくれるとのことだ。ありがた過ぎて泣けてくる。

 気にしなくてもいい、ゆっくり返してくれればいいからというクリス。

 マジ女神っすわ……エリス教徒になろうかな。




嘘は言っていない。
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