俺の素晴らしい世界に祝福を!   作:蒼樹物書

5 / 11
この素晴らしい主人公(偽)に祝福を!

 ダクネスとの面接から数日。

 ギルドへ上級職の後衛募集の張り紙は出しているのだが、一向に反応がない。

 めぐみんは今何をしているのだろうか。パーティー加入の返答を保留にしているダクネスからも一向に返事がない。噂の鬼畜なカズマについて調べているのかもしれない。クソ、脳筋のはずが妙に慎重じゃないか。

 

 待ちの状態に入ってしまった為、俺はジャイアント・トードをクリスに協力してもらって狩り続ける日々を過ごしている。レベルは上がるし報酬と肉の買い取りによって資金は順調に溜まっていくが、焦れる。

 ダクネスがカズマに惹かれてしまった以上、めぐみんだけでもこちらに引き入れたいのだが……出会えない以上どうしようもない。

 

 「ちょっとタクヤ君!? さっさと数減らしひぃやぁ!?」

 

 やべ。

 考え事をしている内に殲滅力が上がった俺に合わせて次々とジャイアント・トードを掻き集めたクリスがその数で揉みくちゃにされてエロ……えらいことになってしまっている。防御のステータスが盗賊としてありえないレベルの高さな為、ダメージは心配ないだろうけど。

 

 「りょ、了解ッ!」

 

 とはいえうら若い乙女のぬるぬる、しばらく鑑賞したい嘘早く助けなければ。

 弓矢を放ち、まず一匹、二匹。弓の基本スキルを弓手の冒険者に教えてもらったおかげもあるのか、ジャイアント・トードくらいなら一撃で倒せるようになっていた。

 

 「おらぁ!」

 

 残り一匹、短剣で一閃、返す刀でもう一撃。

 どさり、とジャイアント・トードの四肢から力が抜けて倒れ伏す。うん、剣の方も威力が上がってるな。こちらはレベルアップによるものだろうか。

 

 「はぁ、はぁ……ちょっとぉー!」

 

 集中力を欠いた俺にお冠のクリス。ごめんなさい。

 ジャイアント・トードの舌が身体を這いまわったせいか、ぬるぬるしている。エロ……痛ましい姿だ。

 

 「最近集中できないよ、タクヤ君?」

 「あ、あぁ、本当すまん……パーティーメンバー集めが上手くいってないからさ……」

 「はぁ……目的が目的なんだし、気長にやろ、ね?」

 

 うぐッ。クリスの優しい言葉が、好みのダクネスとめぐみんを傍に置きたいという下心に突き刺さる。既に一回死んでいるがもう一回死にたくなる。

 

 「とりあえず! 今日はこれで終わり、お風呂入ってご飯にしよう!」

 

 集中力を欠いた俺を思ってか、励ますような声が更に追い込む。も、もうやめてくれ……所詮小心で善良な小市民の俺は、嘘は言っていないとはいえクリスに対し隠し事をしていることにダメージを受けていた。

 

 目的は、一緒だ。魔王を討伐する。そこは確かだが、俺が目指す方法は間違いなく下心が挟まっている。確かにダクネスは強靭な防御力を持っているし、めぐみんの火力は人類最高であることは違いない。原作知識を持つ俺は魔王幹部攻略に、彼女たちの尽力が必要であることも知っている。

 

 だがあまりにも扱いにくい戦力であることは事実だ。その二人と懇意になりたいが為、積極的にパーティーに採ろうとしている。それは本気で魔王討伐を目指すクリスへの背信ではないか、と思い始めていたのだ。

 原作のパーティーでなくてもいいのではないだろうか。幹部達の性能や行動を把握しているのであれば、他の方法で撃破することが出来るのではないだろうか。

 

 そして、もう一つ。考えることを避けていたこと。

 

 ――何も、俺じゃなくても。

 

 カズマはこの世界に転生した、転生してしまった。

 ダクネスの心変わりの件を考えるに、原作通りの経過と結末を勝ち取るかもしれない。

 俺はweb版を読んでいない。俺のまだ見ぬ『このすば』の結末、あるべき結末を勝ち取れるのは、カズマだ。

 俺というイレギュラーがこのまま介入して、本当の結末を得られないことになるとしたら。

 俺は。俺は――。

 

 「ほーら! 帰ろう、タクヤ君っ」

 

 結論は、何時まで経っても出なかった。

 

 

 次の日。

 昨夜もギルドに確認したが、メンバー募集には誰も応募していなかったようだ。上級の後衛職に限るという、駆け出しの町に相応しくない内容なので応募があればめぐみんなのだが……あの子の場合もあるか。まぁあの性格から考えるに募集はしてこないだろう。隅っこに慎ましく張られている、残念な感じの募集文を横目にその可能性は切り捨てておく。

 ……あの子がアクセルにいるということは、めぐみんもいる可能性が高いんだけどなぁ。

 

 昨日考えていたことから、めぐみん加入に積極的になれない俺は惰性のように昨日と同じ今日を過ごしている。募集をしつつ、アクセル郊外で夕方までジャイアント・トード狩り。ギルドでの募集を確認してから宿に帰る。

 クリスに先日怒られたばかりということもあるので、集中して剣を振って弓矢を放つ。

 

 「うん、いいね。もう一対一なら楽勝なんじゃない?」

 

 壁狩り、ネトゲー用語でいう今の狩りの体制のことなのだが、回避力や耐久力がある前衛がモンスターの攻撃対象となりその間に他の者が攻撃するという今の狩り。

 ネトゲーでは低レベルの者が安全にレベルを上げる手法としてメジャーであり、俺が提案、クリス同意の下で続けていたのだがもう俺のレベルは十を超えていた。

 確かに身体はより動くようになっているし、ジャイアント・トードの攻撃はしっかり目で追えるようになった。レベルアップのペースも少しずつだが落ちている。レベルが上がるにつれて必要経験値が増えている為だろう。

 

 効率的なレベルアップを目指すなら狩場を変える必要があるだろう。その前に、初のタイマンで自信をつけるとしよう。

 

 「よし、あいつだ! クリス、見ててくれ!」

 

 手近なところにいたピンク色のジャイアント・トードに狙いを定める。

 弓は当然、ある程度以上距離が離れれば威力が減衰する。弓の基本スキルのおかげで、自分の力量ではどれくらい矢が飛びどれくらいの距離が最大威力となるかを把握出来ている。この距離なら弓で二発ってところか。せっかくだ、弓は一発、後は短剣で仕掛けよう。

 

 思えば今まで壁狩りだったので、これが自力で狩る初めてのモンスターとなる。いくらレベルを上げ、スキルを覚えたとはいえ未だ駆け出しの範囲、相手は山羊どころか人も食う化け物だ。

 

 だが、勝てる。相手を屠るまでの、明確な手順がイメージできている。反撃があっても避けられる、捌ける。

 緊張を解す意味でも自己暗示するように念じる。向こうもこちらに気付いた、接近してくる。

 慌てず、ゆっくり、弓を番えた。

 

 「――ふッ」

 

 弓を放つ瞬間、短く息を吐く。命中。額に当たったが構わず飛び跳ねながらこちらへ迫ってくる。弓は左手に持ったまま、右手で腰の短剣を抜く。間合いだ。

 

 「おっみごとー!」

 

 クリスが歓声を上げてくれる。

 ジャイアント・トードが着地した瞬間を狙い、駆け寄ってすれ違いざまの一閃。

 カエルの急所がどこになるのかはこれまで狩っていてもさっぱりだったが、どうもこの世界のモンスターはそういうものらしい。首付近に深く斬撃を受けたジャイアント・トードはダメージの許容量を超えて倒れ伏した。

 

 「はぁ……」

 

 脱力する。イメージ通りの動き。相手が初心者向けモンスターにも関わらず、自分が一端の戦士になった気になる。狩りは、上手くいくのになぁ……。

 

 「――ッ、――君ッ、うしろーっ!?」

 「えっ」

 

 突如視界が真っ暗になる。そして世界が反転……いや俺の身体が頭を地に、両足を天に向け反転している。

 確かに、原作エピソードを体験したいとは思ったけど。

 あったけー。そして生臭ぇ。横沸きとかそんなネトゲ要素いらないから。

 俺の背後の地中から突如現れたジャイアント・トードの口の中は、原作通りでした。油断大敵。

 

 

 「……」

 「そ、そんなに落ち込まないで、一匹はちゃんと倒せたんだから、ねっ?」

 「……ありがとな、クリス」

 

 アクセルの町に戻ったのは夕方。ぬるぬるの足跡を残しながら、帰路を進む。隣のクリスさん、仕方ないとはいえ何時もよりちょっと距離が遠くない?

 これは気分下がるわぁ……この間クリスを俺の注意散漫からぬるぬるにしたことに、今更ながら罪悪感を感じる。

 

 しかし当のクリスは宿から俺の着替えを取ってくるので、大衆浴場にそのまま向かってくれていいと言ってくれる。決してぬるぬるの男と一緒に歩いている変態女だと思われたくないからではない、いい人だからだ。女神だからだ。欺瞞はない。

 礼を言って着替えは番頭さんに渡しておいてもらうように頼む。クリスなら男性用の更衣室に入っても咎められないだろうという言葉は呑み込んだ。俺は二回も死にたくない。

 

 クリスと別れ、一人で大衆浴場を目指す。道中、井戸端会議をする奥様方の視線が痛い。ちゃうねん、趣味ちゃうねん。

 道行く人々の声に神経質になっている。はしゃいだ声の子供たち、呑みに行こうと仲間に声をかける冒険者、ぬるぬるプレイにドン引きする人の声……違うっつってるだろうがー!

 思わず抗議しようとして声の元、前方に目を向ける。

 

 「……マジかよ」

 

 いた。アクア様と、サトウカズマ。その背には、黒い帽子とローブの、小柄な姿。

 そうか。今は、もう二話か。

 諦観が心を支配する。どうあっても、原作は変わらないのか。

 

 しかし、思考は諦め悪く原因を考え始める。

 上級職の募集は原作通り出した、それも後衛という更なる縛りで。

 所属するパーティーに飢えていた正に上級の後衛職であるめぐみんからすれば、渡りに船。

 カズマ達が同じく募集を何時の間にかかけていたのせよ、後衛限定であり文面もアクア様のそれよりまともな書き方をしている。

 どちらも応募可能ならこちらに来ても……いや、待て。

 飢えている。そう、めぐみんは飢えていた。食欲的な意味で。

 

 「また、俺のミスか」

 

 一人、呟く。

 どうして俺はこう抜けているんだ。

 

 めぐみんはアクセルに到着してからパーティーに所属しても長く続かず、その上一人で狩りが出来ない為に金欠状態だった。

 そんなめぐみんが原作でアクア様とカズマの募集に対し声を上げた時、どうだったか。

 そう、腹を空かせていたのだ。

 募集に応募すると言った後、空腹で倒れて飯を奢ってもらう。ギルドで募集への応募を待つカズマ達に。

 

 何が原作ファンだ、こんな当然の帰結に至れないだなんて。

 俺はレベル上げに精を出すなんてせず、ギルドでだらだらと待っていれば良かったのだ。

 空腹を抱えるめぐみんは募集文の優劣なんかよりも、まずは飯を奢ってくれそうなアクア様とカズマに声をかける。そして『このすば』二話の流れというわけだ。

 

 俺は結局、サトウカズマじゃない。

 『このすば』の、主人公じゃない。

 

 ぎゃあぎゃあと喚きながら、原作通りパーティー加入の流れへ至る三人に待ったをかけることはできなかった。

 それからしばらくして、クリスからダクネスがこちらへの加入を断ったことを伝えられた。

 ダクネスは友達からの誘いを断ることを随分気に病んでいたらしい。俺は、仕方ないと大人の対応に努めた。

 

 俺の『このすば』は、始まらなかった。




まだ原作二話終わったところ……だと……。

この物語としては漸くプロローグ終わった感じです。
カズマを踏み台にしての主人公入れ替わりをご期待頂いた方には大変申し訳ありませんが、こういう残念な主人公ですのでごめんなさいごめんなさい。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。