俺の素晴らしい世界に祝福を!   作:蒼樹物書

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この素晴らしいぱんつに祝福を!

 この人が、サトウカズマ。

 

 ダクネスがこれから会うというので付いて行った先、ギルドのカウンターに座っている少年。

 タクヤ君から散々鬼畜だの悪魔だのといったエピソードを聞いた彼だが、初めて直接接触してみてもそういった感触は感じられない。私の友達であるダクネスのちょっと特殊な性癖にドン引きしているが、常識的な人のように思う。

 

 「はは、ダメだよダクネス。そんな強引に迫っちゃさ」

 

 はぁはぁしながらサトウカズマに迫るダクネスの肩を叩きつつ、助け舟を出す。

 

 彼女は、自身の居場所を、存在価値を求めている。

 私、女神エリスに教会を通して毎日祈った彼女。

 

 ――私を求めてくれる場所が欲しい。

 

 願い自体はよくあるもので、祈られることにも慣れている。

 この世界で、私は国教の神として讃えられている。

 

 求められ、願われる存在。

 

 女神として、信仰される数が多いということはある種のステータスである。

 しかし、言葉には絶対にしないが本音を言えば飽き飽きしていた。

 数多の人々に祈られ、請われる。強請られる。

 

 だが、ダクネス、彼女の願いはあまりにも純粋だった。だから、私は天界規定からすればぎりぎりの境界を犯してでも彼女の願いを叶えたくなってしまったのだ。

 

 彼女が求めることを、叶えたい。

 

 ダクネスの願いと、私が支えるべきタクヤ君の願い。

 天秤にかけることは、あまりにも難しいことだった。

 しかし困り果てて相談したタクヤ君は何もかも諦めたように、ダクネスの意向を汲んでそれを助けてやってくれと答えた。

 理由はわからないが、タクヤ君は今、自暴自棄に陥っている。

 何もかも諦めている。絶望に浸っている。

 

 違う。

 

 何が原因かは分からないが、彼はこの世界に転生し全力を尽くしている。

 理不尽に抗い続けている。

 まだ、終わっていない。

 まだ、始まったばかりだ。

 

 「あの、貴女は……?」

 

 サトウカズマが、割り込んだ私に困惑するよう問う。

 相談した私に、タクヤ君はもう一つ頼みごとをした。俺と違い幸運値に秀でているこの男に盗賊系スキル、スティールを教えてやってくれないかと。

 理由は教えてくれなかった。ただ、必要だからと。

 それが、彼の願いだった。ならば、私は叶えたいと思った。

 

 自己紹介と同時の薦めに、サトウカズマが困惑するが低レベル冒険者にとってスキル効率が高い盗賊系スキルがいかに役立つかを講釈する。不自然にならないよう求める代償は、しゅわしゅわ一杯だ。

 

 

 サトウカズマ、ダクネスを伴って人通りの少ない路地に場を移し、盗賊系スキルについての講釈を続ける。

 敵感知、潜伏。既にタクヤ君には教え、習得してもらっているスキルを並べるが、サトウカズマに教えてやって欲しいというスキル、スティールを推す。

 

 手本を見せる。あっさりとサトウカズマの小さな財布が自身の手に移る。

 

 スティール。幸運値、器用さによって成功率を作用されるが、それらが高ければ相手の重要と思うアイテムを自身の手に招き入れることが出来る。

 状況を選ぶが強力な割りに要するスキルポイントは少ない。幸運値の低い彼は優先度が低いと習得しなかったのだが。

 サトウカズマは食い付いたようだ。このスキルを目にし、体験して興味深そうな反応。

 本当なら私の役目はこれで終わりだ。

 

 しかし。

 

 私は、このサトウカズマという少年にあまりいい感情を持ってはいなかった。

 タクヤ君から聞いた数々の話もそうだけれど、何よりダクネスを横取りされたような気持ちになってしまっているのだ。勿論、ダクネス本人の意思が一番大切だ。

 

 けれど、何時もではないにせよ今まで彼女と一緒にいたのは私だ。

 

 そんな私が誘うパーティーを蹴ってサトウカズマを選んだのも気に食わないが、選んだ理由も気に食わない。

 たぶん私達よりクズだのカスだの言われているこの少年について行った方が、より自身の嗜好を満足させてくれるとでも思っているのだろう。

 だから、この少年にあたるのはただの八つ当たり。

 だから、自分でも珍しいと思うがちょっと意地悪してみることにした。

 

 「ねぇ。私と勝負しない?」

 

 

 俺は何をしているのだろうか。

 

 一人、宿のベッドの上で何をするでもなく呆けている。

 あれから、どうしたのかよく覚えていない。気づけば宿にいて、こうして天井を眺めている。眠ったのか眠っていないのか。

 

 途中、クリスが俺の部屋に訪ねて来て、ダクネスの件についてどうすべきかを聞いてきたのは覚えている。

 俺は考えもせず、カズマのパーティーに入りたい意向を尊重してやって欲しいと答え、そしてカズマにスティールを教えてやって欲しいと頼んだ。

 

 クリスはカズマについて、俺があれこれ吹き込んだことからあまりいい感情を持っていないはずだ。

 しかしカズマがこれから原作通りの展開を続けるには、クリスがスティールを教える必要がある。だから、何故、と困惑するクリスに無理を言って頼み込んだのだ。

 

 これで、原作通り全てが進むだろう。

 サトウカズマの『このすば』は問題なく、進むだろう。

 

 俺は結局、何だったんだ。

 主人公と同じように死に、女神を引き連れて転生して。

 しかし少しずつずれてゆき、結局は物語は本当の主人公の手の中に収まった。

 結末がどうなるかは知らない、小説で読みたかったからweb版も、そのネタバレも避けてきた。

 けれど、まぁハッピーエンドになるだろう。俺の介入は必要ない。俺は、必要ない。

 

 一時は頭に血が昇っていたが、もうカズマがどうしても主人公だったというのなら今からどうこうしようとも思わない。別に俺はカズマが憎くてやったわけじゃない。妬みは、あったのかもしれないが。

 偶々、その座が手に入るかもしれないと舞い上がって狙った。それだけだ。めぐみんがカズマの元へ行くまで踏ん切りが付かなかったが、それももう諦めがついた。

 

 「はぁ……」

 

 こんなことなら、素直に天国に行けばよかった。俺は何を浮かれていたのだろうか。

 

 ……壁に立てかけられた俺の短剣が目に入る。クリス、怒るかな。

 

 少し前、アクア様がこちらにカズマと来た後。クリスに確認したことがあった。

 魔王を討伐しなければ転生特典として連れ出された女神は天界に戻れないという話だったが、今この世界には二人の女神。どちらかの女神が倒した場合、倒していない方はどうなるのかと。

 

 ――たぶん、両方戻して貰えるんじゃないかな。

 

それに安堵してしまった直後、クリスから他力本願はダメだと窘められた。

 

 ……短剣を手に取り、抜く。周囲は珍しくやけに静かで、俺の行為を待っているかのように思えた。

 

 思えば、この世界に来てから何から何までクリスに助けられっぱなしだった。巻き込まれて転生特典として下界させられたというのに、俺に何一つ文句を言うでもなく支えてくれた。

 アニメを見て、原作の小説を読んで知る通りの彼女。

 転生する前は正直アクア様達メインヒロインが好きであり、彼女は魅力的なサブキャラクターくらいの認識だった。しかし、傍にいてその快活さ、懐の広さにどれほど助けられたか。

 

 ……短剣の柄を握る手に力が入る。喉より、胸の方が楽かな。

 

 今頃、ダクネスと共にカズマと会ってスティールを教える辺りだろうか。はは、あの下りは面白かったな。

 あそこは、実に盛り上がった。

 

 ……意を決して目を閉じ「ふざけるなよ」。

 

 「ふざけるなよ」

 

 もう一度、声に出す。ふざけるな。ふざけるな。

 俺の物語は終わっていない。本当の『このすば』ではないのかもしれないが、終わっていない。

 

 短剣を手放す。着の身着のまま、ドアを破る勢いで開けて駆け出す。

 目的地はどこだ、住宅が並ぶ路地のような所。ギルドからはそう遠くないはずだが、候補が多すぎる。

 

 「ざッけんなおらァぁぁあぁあああ!!」

 

 階段を転がる勢いで降りて、叫びながら宿を飛び出していく俺の後ろでは寛いでいた冒険者達がぎょっとしていることだろう。知ったことか。

 

 駆ける、駆ける、駆ける。

 駆けながら、必死に思い出す。あの場面、二階建てくらいの住宅が並ぶ道、通りの家々にはロープが掛けられ洗濯物が干されていた。そう広くない道幅、屋根の色は……。

 見覚えのある路地に辿り着く。俺は実際に来たことのない通り、しかし俺は知っている。

 

 ――いた。

 カズマとダクネス、そしてクリス。その両手には小石を持ったままだ。

 

 間に合った。

 

 「その勝負、待った」

 

 荒い吐息を飲み込みながら、何とか口にする。

 俺は間に合ったのだ。

 

 

 

 クリスの、ぱんつまでカズマに盗られる前に。

 

 

 

 いや俺のモンでもないけど。

 ……助けてこられた子のぱんつまで盗らせるかよと妙なテンションで走ってきたが、冷静に考えたらどうなんだこの動機。さっきまで死ぬかってくらい悩んでたのに。

 

 まぁ、いい。

 もう、悩むのは止めだ。

 原作だの主人公だのに拘るのは、もう、止めだ。

 

 カズマにスティール勝負、俺が相手になると告げる。

 突然現れて勝負を横取り、というより何故このことを知っているのかと混乱するクリスを押し止める。

 

 「なんだァ? クリスとの勝負の報酬はマジックダガーだったんだぜ、それに見合う報酬があんのかよ」

 「俺の財布には五十万エリス入ってる」

 「ほほーう」

 

 カズマの目の色が変わる。

 連日のジャイアント・トード狩りで俺はそれなりに稼いでいた。クリスへの借金完済まで後少しだったんだが……すまん、クリス。

 しかし欲望に正直な奴だ、カズマは両手をわきわきして俺の財布を引くのを狙っている。

 仕方ない、俺からすればクリスをこの勝負から降ろした時点で目的は達成している。

 例の小石を大量に持って確率を落とすという手も使う気はない。カズマの幸運なら、どちらにせよ今俺の持っている中で一番大切なモノを盗めるだろう。

 

 「さあ、どっからでも来い!」

 「やってやる! スティィィィイルッ!!」

 

 俺の挑発にカズマはすぐさま食い付いた。

 叫び声と共に突き出される腕、目当てのモノを掴まんと握られる掌。

 眩い白光が一瞬、周囲を包む。判定は成功。

 カズマの手に、俺の今一番大切なモノが握られる。

 

 「よし、とりあえず成功! ……なんだこれ」

 

 カズマが手の中に納まったモノを天に掲げ、広げて確認する。

 

 

 

 「ぎゃぁぁぁあぁあぁあぁぁぁぁぁぁぁぁッ!?」

 

 

 

 カズマが自身の手で掲げたそれを目にして、盛大に悲鳴を上げる。

 

 財布に五十万エリスが入っているとは言った。

 その財布を、今持っているとは言ってない。俺は着の身着のまま、財布すら持たずに駆けつけたのだから。

 

 カズマが手にした、俺の今一番大事なモノはぱんつ。男物である俺の。かかったなアホが。

 

 「うわぁ……」

 「な、なんという変態の所業……男色だったとは、私の見込み違いだったのか……」

 

 クリスはドン引き、ダクネスも男の下着を盗むという自身とは別方向の変態に震えている。

 

 「いや待て! 違うから! ホモみたいに言うな!!」

 「くッ、盗られてしまった物は仕方ない。家宝として奉るといい」

 「お前ーッ!!」

 

 俺は、それはもう悔しそうにカズマへ言い放つ。

 

 その後ギルドへ戻ったダクネスによりこの話が暴露され、カズマは男の下着を強奪した変態として名を馳せることになった。正直すまんかったとは思っている。




原作通りぱんつ回です。
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