俺の素晴らしい世界に祝福を!   作:蒼樹物書

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この素晴らしい葉物野菜に祝福を!

 おかえり俺のぱんつ。

 ギルドのトイレでカズマに返してもらった、というかぶん投げられたぱんつを穿きなおしてギルドの一角に戻る。既にカズマとダクネス、そしてクリスはアクア様とめぐみんの二人と合流しているようだった。

 

 「ただいま、ぱんつ泥棒」

 「お前黙れ」

 

 うむ原作通り冷たい突っ込み。ドMには堪らんだろう。俺はドMじゃないが。

 

 「うわ、もしかしてあの人が被害者……」

 「本当なんだダクネスの話……」

 「……ある!」

 

 以上、ギルドの方々。男性冒険者も女性冒険者も……いや一部の女性冒険者がカズマと俺を見て親指を立てている。腐っていやがる。

 

 「――あ、あんた……!」

 

 そんな中、アクア様が俺を指差して大声を上げる。あ、しまった。

 

 「この偉大な女神である私を転生特典として連れ去ろうとした男じゃない!」

 「女神?」

 「てんせい?」

 

 あちゃー。

 俺を見て突然弾劾するように叫ぶアクア様、その言葉にダクネスとめぐみんが「?」と鸚鵡返しする。女神もそうだが転生とか言われてもそりゃ訳が分からないだろう。クリスも困ったように頬の傷跡を掻いている。

 

 「……おいアクア、もしかしてこいつも」

 「そうよ! こともあろうにアンタと同じように女神を」

 「ちょっと黙ろうか駄女神。おい、お前も来い」

 

 話がややこしくなりそうな前にカズマがアクア様の口を塞いで、俺を手招きする。

 カズマはダクネス達三人に少し待つよう告げると、俺とアクア様を引き連れてギルドの裏手まで移動。アクア様がずっとこちらを睨んでいる。ゴッドブローはやめて下さいね?

 

 

 「……で、あんたも転生してきたのか」

 「ああ。スズキタクヤだ。事故で死んでこっちへの転生を選んだ」

 「こいつ! こいつも特典に女神選びやがったのよ! おかげで後輩のエリスが!」

 

 親にチクるようにカズマに言うアクア様。いやあんたが身代わりにしたんじゃないか。まぁ女神を選択したのは俺が悪いので黙っている。

 

 「エリスって国教にもなっているエリス教の女神か」

 「そーよ! そういえばあの子は?」

 「あー……一緒にいるんだが……」

 

 どうしよ。

 あれ、アクア様はクリスの正体知らないんだっけ? やばいうろ覚えだ。少なくともアニメ版で対面した時そういう描写はなかったと思うけど、バレている、もしくはクリス自身バレて問題ないと思っているかどうかだ。

 カズマの方はまだこの世界で死んでいないはずなので、そもそもエリスとは面識がない。

 困った。とりあえず今は伏せておいて後でクリスに確認した方が良さそうだ。

 

 「ちょっと遠い所に」

 「どこ!? あの子をどこにやったのよー!?」

 

 アクア様に胸倉を捕まれてぶんぶん揺すられる。ちょ、やばい力強いアークプリーストやばい女神やばい。

 

 「やめろ駄女神。ふーん、俺と同じこと考える奴がいたとはねぇ」

 「……」

 

 そりゃカズマさん、あなたの真似した訳ですからね。

 

 「女神なら、やっぱアクアと同じくらい強いのか?」

 「強いな。攻防スピード、知能も幸運も高いマジチートですわ」

 「交換して下さい!」

 「お断りします」

 

 既に駄女神……アクア様のぽんこつっぷりに辟易してるカズマ。その交換希望に即お断りする。

 

 ――もう、決めたからな。

 

 俺は『このすば』の主人公じゃない。なることはできない。カズマがこちらに着てしまった時点で、本当ならすぐ諦めるべきだったんだ。もしかしたら、アクア様じゃなくクリスが特典となった時点で、かもしれないが。

 最初は降って湧いた『このすば』主人公の座、ヒロイン達の中心。そこに執着したのとカズマがやってきた混乱で、我ながら愚かなことをしようとした。

 

 カズマは知らない。これからダクネスやめぐみんを加えたパーティー、とんでもなく厄介で愉快な三人との冒険で苦労をするが、素晴らしい世界が待っていることを。

 その素晴らしい世界を、俺が奪おうとしたことを。

 

 実際には全て、失敗した。だが失敗しただけで、奪おうとしたことは事実だ。これは、俺の罪。

 

 「いいじゃねーかむしろタダでいいからこいつとついでにダクネスとめぐみんも引き取ってくれ!!」

 「ちょ、カズマさん!? 私嫌なんですけど! 捨てないでよカズマさーん!?」

 「お断りします」

 

 だから。

 もう差し出されようと辞退する。

 

 「……ねぇ、あれ」

 「修羅場? 修羅場なの?」

 「捨てないでって……」

 

 アクア様が騒ぎ出した為、道行く奥様方の興味を引いてしまったようだ。カズマの悪評がプラスされるのは心苦しいのだが……そろそろ、アレ来てくれないかな。

 

 『緊急クエスト! 緊急クエスト!』

 

 あ。

 来た来た。町全体に響くルナさんの声。冒険者各員へ至急正門に集まるよう告げられる。

 それを受けて町全体が騒ぎ始める。あちこちで戸締りを始める人、屋内への避難、店仕舞いを始める人。

 その合間を縫って大勢の冒険者達がその流れに逆らうように正門へ向かって駆けて行く。

 

 「な、なんだぁ!?」

 

 カズマが困惑する。確かに初見だとまるでパニック映画の一面のようだ。台風とかが襲い掛かってくる直前みたいな。そんなカズマをアクア様が促し、とにかく正門へと共に向かわせる。俺も冒険者、何よりこれから始まる美味しいイベントに参加しない理由はないので後を追う。

 

 

 

 そして。

 町の正門に冒険者達が集う。これから来る、『奴ら』を迎撃する為に。

 曇天の、何か不吉さを感じる空。地平の向こうから、緑色の『奴ら』がその一部を侵食し始める。

 

 「な、なんだ!? 何が来るんだ……!!」

 

 既にダクネスとめぐみんも着ており、困惑するカズマと合流したようだ。原作通りのやりとり。ダクネスが皆を守ると宣言し、離れないよう忠告する。緊急クエストについて問い質すカズマ。アクア様がでかい籠を抱えながら説明……。

 

 「言ってなかったけ? レタスよレタス!」

 

 は?

 カズマの声と俺の心中がハモる。ちょっと待て。

 いや待て。

 地平線の向こう、緑色が津波のようにこちらへ迫ってくる。いや待てって!

 

 「今年は荒れるぞぉ」

 「――嵐が、来る」

 

 そして、一斉に沸き上がる「収穫だぁ!」の声。えっ、ちょ、待って、アクア様マヨネーズはいいから! 盛り上がってるとこ悪いけど流石にそこは覚えてるから!

 

 ……キャベツじゃ、ない?

 

 雲霞の如く押し寄せる緑色の『奴ら』。空飛ぶ野菜って実際見るとシュールだなー……と停止しかけた思考を何とか動かす。鳴き声レタレタレタスなんだー……いや現実逃避はよせ。

 確かに空飛ぶレタスは原作に存在する。キャベツと比べ換金率の低い、いわゆるハズレとして言及されていたはず。運の低いアクア様がこのイベントでそのハズレを引きまくって儲けられなかった……確かそんな存在のはずだ。

 混じっていて気づかない程度の数。そのはず、なのに。

 

 襲い掛かるレタスの群れ。

 冒険者達がそれに向かって駆け出し、剣を、弓を向ける。

 俺を、そして野菜が飛んでくること自体に困惑しているカズマを除いて誰一人としてこのことに違和感を感じていないようだ。

 倒れる冒険者、それを庇うダクネス……原作、通り。

 鎧が壊されながらも人を守り、賞賛を以って見守られる彼女……はぁはぁしてるのも原作通り、なのだが。

 

 ええい、ここで困惑してても仕方ない。どちらにせよ一玉一万エリスだ、狩るぞ!

 ……とりあえず次に来るめぐみんの爆裂魔法を、身を屈めてやり過ごしてから。

 

 

 疲れた。宿の部屋で一人、ベッドに寝転んで自分のギルドカードをぼんやり眺める。

 

 しかし、とりあえず稼ぐだけは稼いだかな。短剣での近接、弓での遠距離という戦闘スタイルは低級の数を狩るという点では有利に働いたようだ。結果七十万ちょっと稼いだ。

 ある理由で高レベルの冒険者が多いアクセルの町だが、俺も既に十レベルを超えて、今回のイベントで二十に届こうかという所。駆け出しとしてはそこそこのレベルになっている。

 

 レベルは上げておいて損はないはずだ。

 クリスには内緒だが、正直魔王討伐は既に諦めている。カズマがいる以上、『このすば』はあいつが完結してくれるはずだ。連れてきてしまった以上責任がある、だから何時かクリスには話さなければならないのだが……クリス、そして他の誰もが俺が原作を知っていることを知らない。

 

 カズマが、この物語の主人公でありこれから多くの魔王軍幹部をヒロイン達と撃破していくことを知らない。

 

 だから俺達が魔王討伐する必要がない、むしろ邪魔になる可能性があるから諦める……それを説明して説得するのはかなりの困難があるだろう。やる気満々のクリスをどう説得したものか。妙案が浮かぶまで、引き伸ばすしかないのだろうか。

 

 どうしよう、と言えばもう一つ、これからカズマ達のパーティーとどう接するか。勢いでカズマやアクア様と接触してしまったが、俺はこの世界、『このすば』のイレギュラーだ。キャベツが、レタスに成り代わっていた。この改変は、異物である俺の影響と考えるのは過ぎるのだろうか。

 

 『このすば』。

 俺の大好きな『このすば』。それが俺のせいで変わってしまう。

 カズマが得るはずだった素晴らしい世界が、変わってしまう。また、壁に立て掛けられた短剣に目が行く。

 

 「……ダメだ」

 

 その結論は、まだだ。少なくとももう少し、経過を見るべきだ。何が原因なのか、何が対策となるのか。

 ただ、死を恐れているだけなのかもしれない。だが、俺は罪を背負わなければならない。その罪を贖わなければならない。原因を突き止め、排除することは俺がしなければならない。

 

 ――もし、その為にもう一度、死ななければならないのならば。

 

 どうせ、拾った命だ。

 その覚悟だけは胸に、しまっておこう。

 

 そう結論するととりあえずの行動方針を決める。

 まずはカズマ達との直接の接触は可能な限り避ける。様子を伺い、改変に注意する。これ以上の改変が起こらなければいいが、起こった場合は介入して原作の結果を目指す。そしてまた観察する。改変が更に多く、大きくなった場合は……。

 

 よし。そうとなったら介入可能な力が必要となる。

 前々から自身の戦力強化については考えていたのだが、まずは……鍛冶スキルかな。

 可能かどうか分からない目標の為に貴重なスキルポイントを使うのは戸惑うが、貧弱な冒険者職、それを補う為にこの可能性は賭けてみてもいいだろう……幸運低い俺が賭けるというのは不穏な気もするが。




クリスの正体をアクア様が知っているかどうか、の点ですがアクア様は気づいていないという設定にしています。小説版、web版で齟齬があるかもですがアニメのみ見ているとこちらが自然かなと。
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