俺の素晴らしい世界に祝福を!   作:蒼樹物書

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この素晴らしい盗賊に祝福を!

 マンティコアとグリフォンを討伐した、その帰り。

 ギルドに討伐の報告と死体の確認、回収の依頼を済ませてクリスと二人宿に向かっていると通りが騒がしい。

 既に夕暮れ時、あの辺りは普段そう騒がしい場所ではないはずだが。

 男女の言い争う声。それも複数だ。

 

 娯楽の少ない世界、野次馬根性が働くのは人の性。

 クリスも気になるようなので揃って声の発生源へ向かう。

 

 「ちょ、ちょっと! 待ちなさいよぉ!!」

 「こんな勝ち方、私達は認めない!!」

 

 ありゃ、あの二人は。

 薄緑のポニーテールに赤色おさげ。揃って露出過多だ。

 クリスに睨まれつつその周囲を確認。カズマ達のパーティー、その傍では蒼い鎧に身を包んだ青年――ミツルギが倒れ伏している。アクア様は馬車の上、ボロボロの檻の中。

 

 あー、湖浄化クエストの帰りか。

 アクア様の体質と浄化魔法を用いた湖の浄化クエスト。檻を本来の閉じ込める用途ではなく外敵から守る防御として利用するという、カズマの柔軟な発想力が活きるイベントだ。

 ……美少女を檻に入れて魔物が大量にいる湖に浸け放置するという、鬼畜のクズマさんとしてのエピソードでもある。

 

 このイベントが起こっている、ということは首無し野朗襲撃後も問題なく原作の展開がなぞられている、ということだろう。実際、様子を見守っていると見覚え、聞き覚えのあるやりとり。真の男女平等主義、妖しい手の動き。スティール予告。

 アニメ見てた時に疑問だったんだが、あの二人穿いてるのだろうか?

 二人は鼠径部までが見えている。お、カズマの言動に動揺して腰が揺れ短いスカートからその中が見えそ……すみませんクリスさん睨むのやめて。

 

 

 

 それからの流れも特に違和感は感じない。

 翌日、ギルドに張ってこっそりカズマ達の様子も確認したが檻の修理費に文句をつけるアクア様に、魔剣を取り戻しにきたミツルギ。彼が既に売り払われていた魔剣を買い戻しに走るのと、夢オチ扱いされるアクア様。

 

 そこで。

 

 「緊急! 緊急!!」

 

 ギルド内に響く、ルナさんの緊急事態を告げる声。

 おいでませ首無し野朗。

 

 

 

 ――この時点で、俺はあまりにも油断していた。

 これまで原作通りの展開が続き、何の改変も起きていなかったこと。

 原作との乖離など、キャベツがレタスだった程度のことだったこと。

 

 もしかしたら、これ以上の改変など起きず。

 俺もただのアクセルの住民Aとして暮らせるかも、という期待を持ってしまった。

 

 しかしこの世界は確かに、狂っていた。

 

 

 「何故城に来ないのだァ! このヒトデナシどもがァァア!!」

 

 お前が言うな。

 正真正銘人外である首無し騎士ベルディアの絶叫を街の外壁前、集う冒険者達の隅っこで内心こっそり突っ込む。まぁ、あの首無し野朗からすれば全くの正論ではあるのだが……死の宣告というチート級の呪いが即解呪されるなんて想定してないだろうし。この一週間の彼の気持ちを考えると涙を禁じえない。

 

 その後の流れも特に問題は見られない。

 毎日爆裂してためぐみんとその共犯者アクア様。死んだと思ったら生きてたダクネス。

 

 そして、アクア様のターンアンデッドで戦端が開かれる。

 傍観しつつ、流れを思い出す。アンデッドナイトの召喚、追われるアクア様……カズマの指揮によるめぐみんの爆裂魔法だっけか。その後ベルディアの俯瞰戦法……このまま話が進めば俺の出る幕はない。

 あ、クリエイトウォーターの流れ参加しちゃおうかなー。

 せっかく初級魔法を習得したのだ、脇役その一として参加してもバチは当たるまい。

 

 そんな風に、気楽に考えていると。

 

 

 

 「――魔王軍幹部、ベルディア」

 

 

 

 え?

 俺の後方から、その名を呟く声。

 普段の彼女では考えられないくらい、冷たく絶対的な拒絶を示す声色に誰から発せられたのか気づきもせず。

 前へと進む、彼女を視認する。

 

 「悪魔倒すべし、魔王しばくべし……」

 

 それは。

 アクシズ教の教義。しかし、そのご本尊、アクア様の後輩である彼女にも共通する。

 

 「――待てッ!」

 

 必死に、前へ進む彼女を制止する。

 この戦いに彼女は参戦してはいけない。

 して、いなかったのだから。

 

 「クリス――!!」

 

 

 魔王幹部。

 その力で以って魔王城への結界を維持する役目を持つ魔王軍、その幹部。

 緊急の冒険者呼び出しを聞いて馳せ参じてみれば、願ってもない『獲物』だ。

 

 彼に転生特典として無理矢理下界に降ろされる前の、貧弱な力のままでは対抗し得なかっただろう。

 他の用で、今この街にいなければ合い間見えることはなかっただろう。

 

 その幸運に感謝する。

 

 迷える魂を導くは女神の役目。

 魔王の手の者を滅するも今の私の役目。

 

 奴と対しているのは例のサトウカズマのパーティー、先輩もいるようだ。

 そちらに構うことなく、前へ出てアンデッドの前に立つ。

 

 「……何だ、貴様?」

 「名乗るほどの者でもないかな」

 

 今の私は、ただの冒険者だ。

 

 「ふん、その姿を見るに盗賊か? コソ泥ごときにこの俺が――」

 

 忌々しい。それ以上喋らせるつもりもなく、スキルを発動、縄を奴に投げつける。

 

 ――バインド。

 私の、今のレベルとステータスならばただの縄であってもミスリル製のそれに匹敵する強度と拘束力を持つ。例え優れた力のステータスを持っていても容易く破れるモノではない。

 突然飛び出した拘束スキルで雁字搦めになるアンデッドが慌てる。

 

 「こんなモノでッ」

 

 ――スキルバインド。

 抵抗される前に重ねて拘束。

 

 「く、魔法耐性を――ッ!?」

 

 どうやら魔法耐性を持っていたようだ。鎧にでも仕込んでいたのかもしれない。

 だが、これでバインドの拘束をそう簡単には破れはしない。耐性もスキルバインドにより低下。

 徹底した準備。私の性根には、あまり合っていないようにも思うが悪魔や魔王配下相手であれば遠慮はいらない。潰す、それだけだ。

 

 右手をかざし、膨大な魔力を集中。

 盗賊職にある私に、先輩のような対魔魔法は扱えない。力などのステータスはあっても所詮盗賊、そのまま切り刻んでも拘束している間に撃破可能か怪しい。

 

 ならば、もう一手。

 

 ――スティール。スティール。スティール。

 三度、唱える。暴力的なステータスで奴の大切なモノが一番上から順番に私の手へと堕ちる。

 一度目で、奴の首がその手に。二度目で、その大剣がその手に。三度目で、鎧がその手に。後者二つはそのまま打ち捨てる。残ったのは、奴の首ただ一つ。

 

 「……貴様、こんな――」

 

 マジックダガーを引き抜いて、後は。

 

 

 「あ、ぁ……」

 

 足に力が入らず、膝を突く。

 呆然とその光景を眺める。周囲の冒険者達……カズマ達も一方的な展開に開いた口が塞がらず、声を発することがない。

 

 違う、こんなはずじゃ。

 

 女神エリスが女神アクアと同じく、悪魔やアンデッドに対して容赦がないということは知っている。そんな彼女が、それに出会いかつ対抗し得る力を持っていたのならば。

 本気で、魔王軍と直に戦おうとしたならば。

 

 クリスはその手に引き寄せたベルディアの頭に何度もダガーを突き立てている。

 突き立てられる度に上がっていた悲鳴は段々と弱々しく、やがて聞こえなくなっても繰り返している。

 

 違う、こんな、こんな……。

 

 原作なら、こんな。

 強大な魔王幹部、恐ろしい能力を持つベルディアとの戦いは激しいながらも冗談みたいな面白おかしい戦いだったはずだ。

 カズマ達が先頭に立ち、その尖った能力と機転で撃破していたはずだ。

 

 クリスは、この戦いに参戦していなかったはずだ。

 

 浮かれていた。油断していた。

 これまで大きな改変もなく続いていた『このすば』。

 それが、どうしようもない狂いを発生させた。

 

 もう、これは『このすば』ではない。

 ベルディアがクリスによって撃破されたということは、街の洪水被害は発生しない。カズマ達に借金は発生しない。借金から無理に冬にクエストを受けて冬将軍とのエンカウントも発生しない。

 その後の流れは直接的には関係ないかもしれないが、影響は避けられない。

 

 「――やったよ、タクヤ君! これで魔王討伐に一歩……」

 

 近づいたよ、と続く嬉しそうなクリスの声が急激に遠くなっていく。

 腹の底がみしり、と重くなり視界が狭まる。

 

 密かに決めた覚悟、だが情けないことに今すぐには決行できなさそうだ。

 遠のく意識の中、目覚めたならば、と考える。

 

 最後に見たのは、クリスが慌てて俺に手を伸ばす姿だった。




>原作キャラが酷い扱いにはならないと思います。
ごめん首無し野郎。
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