◯月K日
はぁ、まさか士道に風邪が移るとは思ってなかった。いや、もちろん看病するわよ。‥‥‥士道が嫌じゃないのならだけど。あんな事まで言っちゃったし。我ながらバカだと思う。私みたいなブスで根暗で幼児体形で気持ち悪い奴を看病して士道も疲れてるのに、好きな人に看病されたからって調子に乗って舞い上がってフラグ立てて士道に風邪移して‥‥‥‥ごめんなさい、責任取って死にます。
ふぇっ?私に看病されたかった?私に看病されるとこを想像して興奮した?‥‥‥っっ!へ、変態!士道のロリコン!歩く天然ジゴロ!女誑し!このドM!最後のは関係ない?うるさいわよバカ!
つい嬉しくなって照れ隠しで士道に罵詈雑言を浴びせてしまった。顔が熱く、士道の顔を直視出来ない。俯いたまま深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。
あははと苦笑しながら落ち着いたか?と士道が聞いてくる。その一言で理解した。私のネガティブ思考を断ち切るために態とあの様な発言をしたのだと。私が風邪を移したっていうだけでも申し訳ないのに、病人に気を遣わせるなんて‥‥‥‥罪悪感で押し潰されそうになる。でも、士道も物好きよね。よりによって精霊達の中で一番面倒くさい私に看病して欲しいなんて。でも嬉しい。少しは士道に頼られてると思うと胸が暖かくなる。‥‥‥‥本当に士道は底抜けに格好よくて、優しくて、そんな士道が大好き!
この想いを士道に伝えようと顔を上げると、士道はすぅすぅと寝息を立てていた。起きている時とは違う可愛いらしい寝顔に思わず頬が緩む。こんな、他人を信じる事を恐れている精霊を信頼して寝ている。そう思うと幸福感と、ほんの少しのいたずら心が芽生えた。士道が悪いのよ、私みたいな面倒くさい精霊を信じるから。士道が寝ているベッドの上にそおっと上がって‥‥‥‥
――――んっ、ちゅっ。
キスをする。唇と唇を触れ合わせるだけの子供のキス。それでも私の心には幸福感が満ちていく。好きな人が寝ている時に、いけない事をしていると考えると少しの羞恥心と背徳感に思わず心が踊る。
ふふっ士道、おやすみ。誰かを信じる事は素晴らしい事だって教えてくれてありがとう。どうか、士道の風邪が早く治りますように。
◯月L日
――――しまった。昨日、士道にキスした後そのまま眠っちゃったんだった。寝顔、見られてたわよね。‥‥‥っっ!恥ずかしすぎて死にそう。そんな顔を士道に見られたくなくて慌ててベッドから飛び降りる。えぇと、まずは体温を計らないと。あ、あれ?―――体温計がないっ!?ど、どうしよう‥‥‥買いに行く?むっ、無理!一人で買い物に行くとか、どんな詐欺師とか通り魔とか変質者に遭うか分からないわ。言葉巧みに騙して見た目はゴミだが臓器は高く売れそうだなぁ、とか。背後から走って来た奴に刺されたりとか、そんな展開になるに決まってるわ。嫌よそんなの。だってまだ士道に、この想いを伝えてないんだから。
ふと、名前を呼ばれ我に返る。振り返ると心配そうな顔の士道がいた。あぁもうっ!なに士道を心配させてんのよ私のバカ!体温計が無いくらい何よ!他にも体温を測る方法なんてあるじゃない!たとえば‥‥‥‥お、おでこをくっ付けるとか。――――っ!!は、恥ずかしいけど。そ、そうよね。体温計がないんだからしょうがないわよね。そう自分に言い聞かせて、未だ心配そうな顔の士道のおでこと私のおでこをくっ付ける。う、うるるるささいいわね!体温計がないんだから仕方ないじゃない!それより、大人しくしてなさいよ!上手く測れないじゃない!ってあれ、士道の体温が高いのか低いのか分かんない。士道の方が高い?それとも私の方が高い?‥‥‥‥こんなので分かる訳ないじゃない!ちょっと待ってなさい、四糸乃と体温計買ってくるから!
◯月M日
はぁ、昨日の買い物は疲れた。やっぱり外出なんてするものじゃないわ。四糸乃を誘ったのに、何故か二亜まで着いてくるし。街中で<ラジエル>出して士道の行動を観察?してるし。それにしても、さすが全知の<ラジエル>ね。便利すぎでしょあれ。私も今度、<ハニエル>で模倣してみようかしら。話が逸れたけど、昨日の買い物は主に二亜の所為で疲れた。<ラジエル>を使って士道をおもちゃにするし、少年に食べさせてあげたい物があるとか言って、精力剤とか買おうとするし、折紙がよく行くっていう怪しい店に寄りだすし。ほんと、体温計を買うだけでとんだ苦労だったわ。まぁでも最後に、精がつくお粥の作り方っていう本をくれたのは嬉しかった。はぁ、最初からそうしてくれれば良かったのに。あと、四糸乃も士道のために花をくれてありがと。昨日は二亜に貰った本のお粥を食べさせてあげた。
日記を書くことに集中しすぎていたらしい。気が付くと、もう今朝の朝食の時間だった。今日も二亜に貰った本を片手に、風邪を引いた時に食べやすいお粥っていう項目のお粥を作っていく。昨日作ったお粥と一緒のものだけど、美味しく出来ているかは分からない。昨日は美味しいって言ってくれたけど、今日も美味しく出来上がってるとは限らない。もし不味いって言われたら‥‥‥病人にゲテモノを食べさせた責任として――――死のう。
良い奥さんになれるなって、何言ってるのよ!そ、そんな‥‥‥‥まだ早いわよ。な、なんでもないわよ!さっさと口開けなさい!はい、あ〜ん。どう‥‥‥美味しい?‥‥‥なら良かった。士道、ありがと。
◯月N日
どうやら、本当に風邪が治ったみたいね。って、なんで急に人の頭撫でるのよ!‥‥‥嫌なわけ、ないじゃない。こっちこそ、看病してくれてありがと。それと、風邪移しちゃって‥‥‥ごめん。うん、また明日。
士道が五河家に帰って行った。はぁ、もう少し居て欲しかったなぁ。――――きゃあ!って何よ士道!帰ったんじゃなかったの!?え、忘れ物?まったく、士道もうっかりして――――っ!?ちょ、ちょっと士道!なんで頬っぺたにキスするのよ!?忘れ物はどうしたのよ!!はぁっ!?忘れ物は‥‥‥感謝のキス!?バカじゃないの!?元気になったのなら早く出て行きなさいよ!!――――はぁっ、はぁっ、はぁっ、まだ顔が熱くて心臓がバクバク言ってる。とりあえず、深呼吸をして心臓の鼓動を落ち着ける。顔の熱も引いて、なんだか眠たくなってきた。はぁ、今日はもう寝よ。そういえば私、いたずらのキスはしたけど感謝のキスしてないじゃない!?
◯月O日
今日は暇だから、久々に『ポラリス・オンライン』という自由度の高いゲームをやろうと思う。このゲームでの私のアバターは、理想の自分である大人の私をイメージして作ってある。名前はクライム。レベルは45で職業は上位魔法職のハイアルケミスト。ダンジョンとかには興味ないしレベルとかどうでも良いし、NPCなら別だけど他のプレイヤーとコミュニケーションなんて無理だから45レベで止まっている。暇な日は、たいてい部屋に篭って『ポラリス・オンライン』をしている。最初は、ただのダンジョンゲーかと思っていたけど自由度が高いというのは本当で、かなり細かい所まで設定できる。そして最近嵌っているのが、家の建築である。嵌まり過ぎて、屋敷レベルの家を造ってしまった‥‥‥‥‥森の中に。しょうがないじゃない!どこか人の来ない所に小さな家でも建てようかなと思ったら予想以上の物が出来ちゃったんだから!あと、畑耕すのとかも楽しすぎるのよ!あ、素材無くなった。街に行って買ってこなきゃ。どうか、誰も絡んで来ませんように!
久々に街にやって来て、他のプレイヤーの会話文を読んでいく。どうやら最近、森に豪華な屋敷を持つ強力な魔女が出現するらしい。なんでも、その魔女の敷地内に足を踏み入れたプレイヤーのキャラが一瞬にして死んだらしい。しかも、その屋敷からは夜な夜な呪いの旋律が聴こえてプレイヤーのキャラにステータス異常を与えるらしい。森のボス強過ぎでしょ!?と思ったけど運営のお知らせには、そのような告知はないので恐らくプレイヤーだろう。はぁ、私の拠点も森にあるんだけど‥‥‥最悪。まぁ、いいわよ。そいつの敷地内に踏み入れなきゃ良いだけだし。森に家を建てるなんて、もしかして私みたいにコミュニケーション力に自身が無いのかしら。でも、呪いの旋律とか怖いし探索とかはやめておこう。さて、素材も買い直したし拠点に戻りましょうか。えぇと、今って拠点のレベルどのくらいだっけ?‥‥‥‥まだ、55か。はぁ、100レベまで遠いわね。ん?屋敷の地面の中に何か埋まってる。あぁ、そういえば露店のNPCから購入した意味不明なゴミアイテムだったわね。なんか、死の髑髏とかいう厨二病っぽい名前だし、効果:???だし、露店にも出せないし売店にも売れないから地面に埋めたんだったわね。はぁ、さて今夜もピアノを弾きましょうか。私自身はピアノとか弾けないから、自分のキャラだけでも演奏して欲しい。そう思い、毎夜恒例の自分のキャラによる演奏を聴く。ピアノの下までキャラを進めると、自動で演奏を始めるのだ。なかなか、素敵なメロディーだと思う。自分的には、このメロディーは気に入っている。さて夜も遅いし、もう寝ようかしら。‥‥‥‥おやすみ、士道。
『ポラリス・オンライン』に出てくるオリアイテム、死の髑髏。効果:??? このアイテムは露店でも売店にも売る事が出来ない。おまけに名前が厨二くさいという理由で七罪は地面に埋めた。