パタフィニット・ストラトス(連載休止) 作:越後屋大輔
後に『ロビー騒動』と呼ばれるあの事件がきっかけであの店を知った織斑一夏、ちょうどPS学園が夏休みに入ったので日本に帰り正規の方法でねこやにやってきた。
「確か平日は普通に営業しているんだよな?」そう呟いて店内に入る、心なしか扉のカウベルの音が違う気がした。
「いらっしゃい」店内は以前見たのと同じだし店主も何も変わらない、但しそこには人外のウェイトレスも奇妙なお客もなくごく普通の洋食屋だ。この日店には店主の他、ごく普通の人間のウェートレスがいるだけである。
「いらっしゃい」店主がごく自然出迎える、昼食のピークが過ぎたせいもありお客も今は一夏の他に一人しかいない。
「いらっしゃい。アレ、織斑君こっちから来たのかい?」店主の問いに対して
「夏休みで日本に帰ってきてるんで」声を落として答えるが
「ああ、あの客なら土曜日の件を知ってるから」身構える一夏に説明する店主。一人きりのお客は警戒感のない笑顔を見せる、年は35前後くらいの穏やかな顔立ちのイケメンである。
「ああ、彼なら土曜日の件を知ってるから警戒しなくていい」こちらの世界の国家であるマリネラにもナゼか扉が現れた事をその男に説明する店主。
「へえ、あなた海外の学校に通っているの?」オネェだった、若干引いたがキチンとした態度で対応する
「あちしは藤崎忍、ここの元従業員よ。今は違う街でカフェを
「PS学園の織斑一夏です」
「アラ、PS学園って確か…」
「ご存じなんですか?」
「ええ。あちしの知ってる子が通ってるハズだけど」そんな話を交わしてる時に入り口から激しいブレーキ音が店内に響く。
「こりゃ事故ったな」呟いた店主と一緒に店を出て様子を見に行く忍と一夏、そこには奇妙な光景が広がっていた。
違法な借金の取り立てを行っていたのが隣の県警にバレて自動車で逃げる途中の青井幹人は赤信号にも関わらずアクセルを目一杯踏んで空港を目指していた、横断歩道を渡ってきた子供に気づき反射的にブレーキを踏むが間に合わそうにない。
「構やしねえ、轢いて逃げるか」常日頃から人命を軽んじる青井は再びアクセルに足をかけた、母親と思わしき女性が耳をつんざく程の金切り声を上げる。次の瞬間、急に自動車が宙に浮く。
「な、なんだ?!」
「あらよっと」さっきの子供を守るように片腕に抱えた高校生くらいの少年がもう一方の腕でバンパーを掴んでフロントを下にした形で青井の自動車を持ち上げていた。先ほど金切り声を上げた女性は腰が抜けたのかその場にへたり込んでしまった、高校生は子供を母親に引き渡すと
「光さん、お久し振りです」と挨拶する、我に返った女性は
「えっ、ひょっとして…幸太君?!」一夏と忍を除く全員がその光景に開いた口が塞がらない。
それからしばらくして警察がきて少年に簡単な事情聴取をすると、青井を連行していった。彼は野次馬の中に一夏を見つけると近づいて会話し出す。
「一夏、早かったな」
「春日部の用事は済んだのか、幸太?」
「おう、伯父貴んトコへ顔出してきた」どうも二人は友達のようだ。
「話にゃ聞いていたが神君ってホントに馬鹿力だな」最早店主には苦笑いしかできない。
「お兄ちゃん、アリガトー」助けられた子供はお礼を述べると忍に駆け寄る。
「パパァ!」今度は一夏の口が塞がらなくなった。
「一夏?お前何つー顔してんだ?忍さん、ご無沙汰してます」
「アラヤダ、何でオネェに子供がいるのかって言いたいの?幸太君も元気そうで何よりだわ」嫌みなく笑う忍は我が子を抱き上げると愛する妻の手をとり立ち上がらせる。
「とりあえず店に入りな」店主は全員をねこやに招いた。
「そうだわ、店主にもまだ会わせた事なかったわね。妻の光と娘の蛍よ」かつての雇い主と自分の妻子を引き合わせる忍。
「改めまして、幸太の友達でPS学園の織斑一夏です」自己紹介が済むと盛大に腹の虫が鳴る、勿論幸太のモノだ。店主は苦笑しながら厨房に向かう、一夏や忍達はともかく幸太は炊飯器一杯平らげてしまうので新たに炊かなくてはならない。
「お待ちどう。カツ丼に照り焼き、ローストビーフの定食だ」見渡す限り肉、肉、肉である。
「あ~食った食った」全て完食して満足気に腹をさする幸太に呆れてため息を吐く一夏と光。忍も笑いを堪えながら
「相変わらず、というより前以上に食べるわね」そしてこの日出勤していたウェートレスは本日三度目の衝撃を受けてしばし固まっていた。
「そういや明日土曜日だったな、俺達がこの扉から出ていったら直接マリネラに帰れるかな。そうすりゃ交通費も浮くな、一夏ぁどう思う」腹が満たされ動けなくなった幸太が提案するが
「おそらく無理だろう、つーかそんな事したら俺もお前も怒られるぞ」
「そういや二人共、学園教師に身内がいるそうだな」店主がさりげなくそう言う、別に解説する気はなかったのだが
「アラ、そうなの?なんかメンド臭そうね」忍には聞こえていたようだ。
結局一夏と幸太はこの世界ではごく普通の手段、飛行機でマリネラに帰っていったらしい。