インフェクションIF   作:フリードg

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音を立てて崩れだした。


5話 序章

 

 

 

――何かが変わる。何かが、始まる。

 

 

 理由は判らない。だけど 昨日からずっと妙な気分に苛まれていた。

 だからなのだろうか、何時も以上に神経が過敏になっている。僅かな物音でさえ耳に届く。 そして、これは以前にも確かに感じた事だった。

 

 

 それは 忘れもしない――全てが変わったあの日。

 

 

 ()が大地を震えさせ、そして 全てを呑み込み連れ去ったあの日に。

 

 

 

 

「おーい、龍せんせー? どーしたの??」

「…………」

「龍せんせーーっ 訊いてるのーーー!」

「っ、あ ああ。悪い」

 

 何人かの生徒たちが龍の服を引っ張り 漸く気付く。

 過敏になったかの様に思えたのに 生徒たちの声は中々届かないとでも言うのだろうか? と龍は何処か自虐的に笑ってしまっていた。

 

「おおー、漸く今日笑顔見せてくれましたねー? 今日の龍せんせー、ずーっと眉間に皺寄せてましたよー? そんなんじゃモテないですよー」

 

 あはは、と笑ってみているのは香里。

 生徒たちも香里と一緒に笑っている。

 

 それを見た龍は にやっ と笑った。にこっ(・・・) ではなく にやっ(・・・) っと。

 

「ああ そうだな。それは反省する。今後は なるべく、モテる様に振る舞うとしようか。モテないのとモテるのであれば、前者の方が良いからな」

「……………へ?」

 

 香里はきょとん、としたが 更に龍は畳みかける様に言う。

 

「ん。まずは手始めに 消防署の連中と慰安旅行の時にでも――」

 

 そう、素敵な笑顔でそう言う。

 

 見ていて とても心が和んでしまうそんな表情。それは生まれて初めて 家族以外の異性を本当に好きになってしまったからかもしれない相手。

 

 その笑顔が、ここから先も大安売りのバーゲンセール? 

 ここに来た最初こそは 笑顔なんて稀にしか見れなかったと言うのに それが更に更に周囲に??

 

 街中でそういう事をしたら……、消防署の皆さんは背も高くて 格好良くて、更に渋い所もあるメンバーが揃ってて。

 

 街に出れば女の子達が黙ってなくて

 

 

『ねーねー、かっこいい おにいさんたち~ 私達と遊んでかなーい?』

 

 

 の様な展開が何度も、何度も。

 そして、最初こそは断ってたんだけど。

 

 

『たまには良いか。ああ、付き合おう』

 

 

 とか何とか言っちゃって、そのまま夜の街に手を繋いだり、腕を組んだりして とある建物の中へと消えて行って―――。

 

 

 

「わ、わぁぁぁぁ!! そ、そんなのダメだよーー! しょ、しょーぼーしさんが そ、そんなえ、えっち、えっちな事しするなんてっっ!」

 

 

 

 さんざん妄想を膨らませた後、その妄想をかき消す様に両手をぶんぶんと頭上で振って拒否する香里。

 

 それを見た龍は、手に持ったボールペンで香里の頭をぺちんっ と叩いた。

 

「あうっ!」

「マセるのは結構。何を考えてたかは追及はせん。……その代わり勉強の方もそれくらい集中しろよ?」

「ぶーぶー、せんせーが女の子をからかうーーっ」

 

「「「あははははっっ!!」」」

 

 2人のやり取りに、笑顔に包まれるこの場。

 心地よさを覚えるこの教室。

 

 なのに心は一向に晴れない。……笑っているのに 本当に 心からの笑みじゃない。

 一粒の不安が、一粒の闇が心の中に燻っていて、それが邪魔をする。

 

 その闇の正体が判ったのは、直ぐ後だった。

 

 

『せんせー!! た、大変なのっ! み、みんなが……!!』

 

 

 教室に飛び込んでくる生徒。

 それは 悲鳴に近い叫びで 事の重大さを判らせるのには十分過ぎるものだった。

 

 慌てて駆けつけた先は、体育館。

 体育館の中心部に生徒、先生が集まっていた。

 

 足早に駆け寄ると その集まっている中心には倒れている生徒が、先生がいた。

 それも1人や2人じゃない。大勢の人が倒れていたのだ。

 

「っ! 大丈夫か!?」

 

 慌てて駆け寄る龍。

 直ぐに状態を確認するが……、駄目だと判断するのに時間は掛からなかった。意識が無いだけじゃなく、呼吸も心拍音も全く無かった。何人か心肺蘇生を試みようとするが、それでも無駄だった。

 

「いったい、何があった!?」

 

 最早目の前に倒れている人数全てが死体にしか見えなかった。

 見た事が無い、とは言わないがこれ程までの規模ともなると、大規模火事や自然災害クラスだと言えるだろう。

 だが、火事にしろ災害にしろ、理由があって その命が失われてしまうのだ。

 この場で起こっているのは異常としか言いようがない。自然に倒れて意識を失い、心臓が止まる、と言うのは存在しない訳ではないが ここまでの人数が同時にと言うのはありえない。人間はそう簡単に死ぬ様には出来ていないからだ。

 何でこうなったのか、推察する事さえできない。つまり原因が全く判らないのだ。だから、怯える生徒達、混乱する先生たちに聞くしかない。 

 

「そ、それが判らないの! 突然みんな、みんなが倒れて、動かなくなって……! そ、それで……っ」

 

 発狂、とまではいかないが、震えながらそういうのは 以前色々と話をした事のある新人女教師だった。ある意味お互い新人教師? の様なものだから 少しばかり話が盛り上がったり、香里が盛大にヤキモチを妬いたりとしていたが、それがもう遠い過去の話に思えてくる。

 

「一先ずは落ち着くんだ。……警察や救急車の連絡は?」

「え、えと 教頭先生が……、10分くらい前に……っ」

 

 とりあえず 連絡は出来ている様なので 安心……は、まだ出来ない。

 

 生徒達は友達が、先生が倒れてしまった事に、……恐らく死んでしまった事に 泣き叫んだり、蹲ったりしている。正確には判らないが、それでも10分間も心肺停止をしているのであれば、もう蘇生は無理だ。

 

「……一先ず生徒達を外に誘導、避難させてくれ。外で救急隊や警察の到着を待つ方が良い」

「は、はい!」

 

 そう言って先生にここの生徒達を誘導させた。

 

「りゅ、りゅう、せんせ……」

「……天宮。大丈夫だ。皆と離れず一緒に行動をしろ」

 

 香里も動揺を隠す事が出来ず、涙目で龍を見ていた。

 そんな香里の頭を軽く撫でた後、皆と合流をさせた。

 

 ここから離した理由は、もしも この場に倒れている原因が感染症の類であるとするなら? 集団感染し命を落としたのだとすれば?

 

 ここに長く留まってる時点で もう今更後の祭りかもしれないが、それでも中にいるよりは良い。ここにいる生徒達の為にも。

 感染の類の話は口に出さない様にした。更に怖がらせ、パニックを引き起こせば二次災害になってしまうから。如何に先生とはいえ こんな場面で冷静に対処出来るのも難しいと思えるから。

 

 その後は中々動く事が出来ない生徒達はいたが 何とか移動を開始する事が出来た。

 

 だが、異常事態はまだ序の口。

 後ろで、気配がした。何かが動いた様な音と共に。それは移動をしている生徒達のものじゃない。背後から聞こえてくるのだから。

 

 

 後ろには もう物言わぬ亡骸しかいない筈なのに。

 

 

 出来る範囲で確認をし、救命活動もしたが 助ける事は出来なかった。こんな状況で あの状態から再び息を吹き返す事など不可能だ。

 

 

 不可能の筈、なんだ。

 

 

 

『あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ァァァァァァァァ!!!』

 

 

 

 人の物とは思えない様な叫びが体育館中に響き渡ると同時に、龍は振り返った。

 安置させられていた人達が、次々と起きだしたのだ。目を見開き こちら側へと近づいてくる。それは一目で異常だと判った。

 見開いた目には、いる筈の無いモノで覆い尽されており、眼球が全く見えない。口からも得体のしれない何かが沸いて出てきているかの様に、ぼとぼと と吐き出てきた。

 

 

「なん、だ……? これは………」

 

 

 それは連続の想定外の事態。

 現実とは思えない場面が眼前に繰り広げられている。手をこちら側に伸ばし、ゆっくりと迫ってくる姿はまるでゾンビのそれだった。映画の中の話ではなく 現実に起こっている。

 

 そして それらが友好的な存在ではない、と言う事は直ぐに判明する事になった。

 

 龍よりも後ろにいて、最後に生徒達が残っていない事を確認していた高齢の先生が……。

 

 

「ぎゃ、ぎゃああああ! い、痛い!! 痛いいいぃぃぃい!!!!」

 

 

 その人間だった(・・・)者達に捕まり、噛みつかれていたから。いや、噛みつくなんて生易しいものじゃない。完全に捕食をしようと喰いちぎっている。

 

 初めは脚を、バランスを崩し倒れた所で一気に群がりその全身に喰いついていた。

 

 

 犠牲となった先生の悲鳴、そして異形な者達の叫び。

 

 それらがトリガーとなり この場が大混乱に陥ったのだった。 

 

 

  

 

 

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