もしも大洗に来たのがまほだったら   作:イティ

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第8話「戦車道」

 

 

「次はいよいよ決勝戦だ 相手は黒森峰女学園」

「全校の期待がかかってるから、頑張ってよ~!」

「本日は全員、戦車の整備にかかれ!」

――――はい!

 

 

 

「決勝戦は20輌まで出せる 出てくるであろう戦車は……」

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

ティーガーⅠ

ティーガーⅡ

パンター

ヤークトパンター

ヤークトティーガー

エレファント

Ⅳ号駆逐

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「こんなところか」

(どうする? フラッグ車は確実にみほのティーガーⅠだろうが……)

「20輌か かなり戦力差があるな」

「フラッグ車さえ倒せばいい」

「確かにそうだが……」

「どこかで戦車たたき売りしてませんかね……」

「いろんなクラブが義援金出してくれたんだけど、戦車は無理かもねー」

「その分は今ある戦車の補強に回しますか」

「そうだな ……ポルシェティーガーは間に合うだろうか」

「自動車部が修理している 間に合わせてもらわねば困る」

ピリリリリ

「はい ……わかりました   レストア終了です!」

「よし!」

(王からもらった映像を見たがプラウダ戦の時のように、まるで私の指揮のようだった もし

 みほが私のようになろうとしているのなら……)

 

 

 

翌日

「とりあえず義援金でヘッツァー改造キット買ったから、これを38(t)に取り付けよう!」

「結構無理やりですよね……」

「あとはⅣ号にシュルツェンを取り付けますか」

「いいね!」

 

「……丹」

「なんですか?」

「その筋肉、つけすぎではないか?」

「そうですか?」

「まあ、丹は装填手だから止めはしないが……」

 

「自動車部 ポルシェティーガーを頼む」

「任せて!」

「ドリフトドリフトォ!」

「戦車じゃ無理でしょ」

「してみたいんだけどなぁ」

 

「Ⅳ号にシュルツェンを付けたんですね!」

「G型仕様だな」

「かっこいいですね!」

「……あ、麻子 どこ行ってたのよ」

「これ おばぁから差し入れのおはぎ」

「退院されたんですか?」

「うん みんなによろしくって」

「よかったな、麻子」

「決勝戦は見に来るって」

「……あの、先輩 今日はこれで失礼させて頂いていいですか?」

「どうした?」

「実は土曜日から、生け花の展示会が」

「……見に行くか」

「そうしましょう!」

「本当ですか? ぜひ、いらしてください!」

「西住、作戦会議をするぞ」

「今行く」

 

「これより作戦会議を行う! 西住、作戦を」

「作戦は――――」

 

 

「……まあ、確かに20対8だからねぇ」

「自動車部、頼んだぞ」

「もちろんですよ」

「それまでに倒してしまっても構わないのだろう?」

「いや、そんな隙は絶対にない」

「……そうか」

「あの」

「澤、どうした?」

「なんだか、隊長らしくない作戦のような気がして」

「今の大洗の戦力では黒森峰に正攻法で勝つことは不可能だ 相手の予想できない戦術ならば

 可能性はある」

「隊長は、それでいいんですか?」

「勝つ為だ」

「……わかりました」

「必ず勝つぞ」

――――はい!

 

 

 

 

黒森峰女学園

(なぜかここのところ記憶がある どういうことなんだろう……)

「……とにかく、作戦を考えなきゃ」

(でも、相手はお姉ちゃん 私なんかじゃ…… ……お姉ちゃんの様な指揮をすれば、きっと皆は

 ついてきてくれる お姉ちゃんの様な指揮なら、勝てるかもしれない)

 

 

 

 

土曜日

「お花の香り~」

「いつも鉄と油の臭いばかり嗅いでますからね、私たち」

(……綺麗だな)

「あ、先輩! あれ!」

「花器が戦車の形をしているな」

「来てくれてありがとうございます」

「……この作品」

「はい」

「華らしくていいと思うぞ」

「ありがとうございます ……この花は、皆さんが生けさせてくれたんです」

(私たちが?)

「そうなんですよ」

(華の母親か)

「この子の生ける花は纏まってはいるけれど個性と新しさに欠ける花でした こんなに大胆で

 力強い作品ができたのは、戦車道のおかげかもしれないわね」

「お母様……」

「……私とは違う あなたの新境地ね」

「! はい!」

「それにしても、あの戦車型の花器には驚いたわ」

「特別に頼んで作ってもらったんです」

(和解できたようだな   私も、できるならば……)

 

 

 

翌日

「さー、いよいよ決勝戦だよー! 目標は優勝だからね!」

「大それた目標なのはわかっている だが、ここまで来たからには、優勝するぞ!」

「西住ちゃんからも何か一言」

「……明日対戦する黒森峰女学園は、私のいた学校だ だが、今の私は大洗の生徒だ 明日の

 試合、私は勝ちたい 皆の力を貸してくれ」

――――はい!

「それでは練習を始める! しっかり連携を取れるようにしておくぞ」

――――よろしくお願いします!

 

 

「今日の練習は以上!」

――――お疲れ様でした!

「やるべきことはすべてやった! あとは各自、明日の試合に備えるように!」

「解散!」

(いよいよ明日、か)

「あの、先輩」

「なんだ?」

「先輩の家でご飯会しませんか? ゲン担ぎに」

「カツ、か」

「はい!」

「なら、カツカレーでも作るか」

「そうしましょう」

「私、沙織さんの作るご飯、大好きです」

「もう、華ったら……  ? 先輩、あれ……」

「どうした?」

(……ヘリ?)

「黒森峰のヘリですよね?」

「あ、降りてきますよ」

 

「……エリカ?」

「お久しぶりです」

(沙織さん、2人きりで話をしていただいた方が……)

(そうだね)

「先輩」

「なんだ」

「私たち、教室に取りにいかなければならないものがあるので校門前で待っててください」

「わかった」

「それでは、失礼します」

(……気を遣わせてしまったか)

「エリカ」

「はい」

「偵察か?」

「……いえ」

「なら、なぜここに来た」

「先日の私たちの試合をご覧になりましたか」

「ああ 準決勝は会場まで観戦しに行った」

「隊長の、みほの指揮を見てどう思いましたか」

「……まるで、黒森峰にいたころの私のようだった」

(やっぱり、そう思ってくれていた  よかった……)

「それがどうかしたか」

「……今から話すことは、すべて事実です」

(?)

「あの指揮は西住みほではない、別の人格によるものです」

(別の人格?)

「エリカ 悪い冗談はよせ」

「冗談ではありません」

「みほの中に別の人格があり、その人格が指揮している とでも言うのか」

「はい」

「……俄かには信じられないな」

「そう言われることは承知で来ました」

(だが、エリカが嘘をつくとは思えない)

「……話を聞かせてくれ」

「ありがとうございます」

(しかし、二重人格だと?)

「あなたが去った後、みほは隊長になりました  でも、黒森峰の生徒が望んでいたのはあなたの

 ような指揮 それをどこかで知ったのでしょう 彼女はひどく傷ついたと思います

 そして……」

「……もう一つの人格が生まれた」

「はい」

(みほ……)

「正直、見ていられません」

「…………」

「彼女は、みほはあなたではありません みほにあなたのような指揮を求めることそのものが

 間違っています」

「確かに、みほは私ではない  だが、私のようになろうとしているのではないのか?」

「二重人格について詳しく調べました  1つの人格が表に出ている間、もう1つの人格には

 その間の記憶がないそうです」

「記憶がない?」

「はい みほは言っていました、戦車に乗っている間の記憶がないと」

(…………)

「そして、最近はどんどん記憶がない時間が増えてきているようです」

「……悪化しているのか」

「はい もう1つの人格のみほと話をしました その時の音声です」

 

 ―――隊長、単刀直入に申し上げます 隊長は二重人格です

 ―――何を言っている? エリカ 私は西住みほだぞ

 ―――私は黒森峰に入ってからずっとあなたと いえ、西住みほとともに戦車道をして来ました

 あなたはそのころの西住みほとは違う あなたは西住みほのもう一つの人格です

 ―――根拠は?

 ―――記憶がないときがあるでしょう  あなたにはその自覚はないかもしれません

 でも、事実なんです

 ―――いつから気づいていた?

 ―――気づいていたか、と聞くということは、自覚しているんですか?

 ―――ああ  私は西住みほを守る為に生まれた人格だ 自覚はある

                                          」

 

「……確かにみほの声だな」

「信じて頂けますか」

「だが、私に何ができる」

「……もう、前隊長しか、頼れる人がいないんです」

「エリカ?」

「お願い、します  みほを、すっ、救って、ください……っ!」

「泣くな、エリカ お前らしくもない」

「……すみません 明日の試合、本来の西住みほの人格に指揮を任せてほしいと頼みました

 後は、お願いします」

「……ああ」

(私に何ができるかはわからない だが……)

『わたしからも、お願いします』

(ん?)

「エリカ?」

『あなたに話しておくべきことがあります』

「……?」

『わたし……  いえ、逸見エリカも、二重人格になっています』

(!?)

「どういう、ことだ」

『みほを救えないことにエリカは苦しんでいた だから、わたしが生まれた』

(エリカまで……)

『でも、心配する必要はないわ』

「どういう意味だ」

『あなたがみほを救ってくれれば、わたしは必要なくなる』

(!)

『あなたの妹の為だけでなく、エリカの為にも、救ってほしい』

「自分が本来の人格ではないと自覚しているのか?」

『ええ  むしろ、エリカとは協力していたわ』

「協力?」

『1人でできることには限りがある でも、2人いればどう?』

「……そのために生まれた、と」

『ええ  だから、みほがいつものみほに戻れば、わたしがいる必要もない』

「なるほどな」

『本当は、みほの様子がおかしいと思っている者はいるのだけれど、ね』

「こんなことを話すわけにはいかないだろうからな」

『……これを』

「これは?」

『エリカとわたしが見てきたもの、考えたことのすべてが書いてあるわ』

「わかった 見させてもらおう」

『お願いします』

(エリカにまで苦労をかけてしまっていた  私が、あのような指揮をしなければ……)

「!  前隊長、もしかして……」

「エリカ、お前のことも聞いた  ……本当にすまなかった」

「……前隊長 決して、自身を責めないでください 私たちは、あなたを信じて戦っていたんです

 あなたの判断を信じて戦っていたんです」

「エリカ……」

「だから、あのときの指揮が間違っていたなどと思わないでください」

「……ありがとう エリカ」

「……はい」

「もう一人のみほが、私の様な指揮をしているのはそういうことなのか?」

「はい おそらく、いえ確実に、あなたを基とした人格です」

「わかった  早く黒森峰に戻れ 明日は試合だ」

「……はい」

「じゃあな」

「……前隊長」

「何だ?」

「いい仲間が、いるんですね」

「頼れる仲間だ」

「よかったです 隊長が元気そうで」

「……エリカ」

「はい」

「手は抜くな 試合は試合、この件はこの件だ」

「はい 失礼します」

(……みほ)

 

「すまない 待たせた」

「いえ、そんなに待っていませんから」

「それにしても試合前日に来るなんて、何かあったのですか?」

「……気にすることではない」

「じゃあ、みんなでカツカレー作りましょう!」

 

 

 

――――いただきます!

「ん~、おいし~」

「カラッと揚がってますね」

「……実は、重大な発表があります」

「婚約したんですか!?」

「彼氏もいないのに?」

「違うわよ!」

「で、一体なんだ」

「……じゃん! アマチュア無線2級に合格しました!」

「まあ!」

「すごい! 4級どころか2級なんて!」

「やるじゃないか」

「いや~、大変だったよ 麻子に勉強付き合ってもらって」

「教えるほうが大変だった」

「通信手の鑑ですね!」

「明日の連絡支持は任せて!」

「まさかそんな免許を取ってたなんて  重大発表がこんなことだとは思いませんでした」

「婚約発表ではないと思ってたがな」

「先輩ひどい~ ……じゃあ明日勝ったら私、婚約してみせる!」

「どういう理屈だ」

「とにかく、早く食べましょう 冷めてしまいますよ」

「西住殿はもう食べちゃってますよ」

「嘘!? 早!」

「もう1杯」

「……あの、西住殿」

「なんだ」

「カレー、お好きなんですか?」

「そういえば初めて会ったときもカレー食べてたような」

「よく覚えてるな」

「えへへ」

「……確かにカレーは好きだ」

「おいしいですものね」

「一度、母が自ら作ってくれたことがあってな その時のカレーは今でも一番だ」

「そうなんですか」

「…………」

「! 麻子、すまない 無神経なことを……」

「……いいや、気にしてない それに、私には皆がいる 寂しくない」

「冷泉殿……」

「……おかわり」

「はいはい」

 

 

――――お邪魔しました

「明日は頼むぞ」

「はい!」

「明日もがんばりましょう!」

「おー」

「気を付けて帰れ」

――――はーい

(……さて、エリカから渡された書類を読んでおくか)

 

「……よくここまで調べたものだ」

(私がみほを追い詰めてしまったのだな……  だが、私に何ができる?)

「…………」

(そういえば昔、みほがお母様に口を出したことがあったな  確か、あの時……)

 

―――みほは自分の道を進んだらいい 戦車が嫌いになったらやめてもいい  ……だが、もし

 戦車を続けるのであれば、『自分だけの戦車道を見つけなさい』

 

(みほがあの時のことを覚えてくれているなら……)

 

 

 

 

 

東富士演習場

「ここで試合ができるなんて……!」

「そんなにすごいことなんですか?」

「だって、戦車道の聖地ですよ!」

「……最後の調整にかかろう」

「はい!」

 

 

「どうだ?」

「問題なしです! 最高の状態で戦えますよ」

「そうか 今日は頼むぞ」

「はい!」

――――ごきげんよう

「ダージリンか  応援に来たのか?」

「ええ 私たちに勝利したのですから、優勝してもらわないと」

「当然だ」

「あなた方は毎試合、予想を覆す戦いをしてきた 今度は何を見せてくれるか楽しみにしてるわ」

――――Hey!

「ケイ、久しぶりだな」

「どっちも応援してるから、頑張ってね! Good luck!」

――――西住さん!

「……? 誰だ?」

「知波単学園次期隊長、西絹代と言います!」

「現隊長はどうした?」

「『自分は潔く去る』とおっしゃって……  代わりに私が応援に参りました! 奮戦を期待して

 おります!」

「……突撃はしないからな」

「はい!」

――――あのー……

「確か、ミカと一緒にいた……」

「はい アキといいます 応援していますので、頑張ってください」

「ありがとう」

「すみません、ミカは『行っても変わらないよ』と言って……」

「ミカらしいな」

「ほんとですよ ……あっ」

(やばっ、プラウダの…… 逃げよ)

――――久しぶりね

「カチューシャ」

「あんたたちが勝ち残るとは思わなかったわ」

「そうか」

「……煽りがいがないわね」

「そう思うのも当然だからな」

「今までの黒森峰の指揮、あんたそのものだったわ 抽選会の時『私とは違う』とか言ってたけど

 あれ本当?」

「……私も驚いている」

「ま、そんなことはいいわ  西住流の対決だけど、私は別にどっちが勝ってもいいから」

「カチューシャ、さっきは大洗が勝つ方が面白いとか言ってたじゃないですか」

「ノ、ノンナ!」

「……必ず勝つ 楽しみにしておけ」

「そ、そう? じゃあね~、ピロシキ~」

「До свидания」

「色々な学校に応援されているのね」

「番狂わせを期待しているのだろう」

「カチューシャはそうでしょうけど、他の方はどうかしらね」

「どういう意味だ?」

「それでは、私たちはこれで」

 

 

 

『両チーム 隊長、副隊長 前へ!』

(いつものみほだ、今までの試合の時とは違う)

『本日の審判長を務めます、蝶野亜美です よろしくお願いします ……両校、挨拶!』

――――よろしくお願いします!

『では、試合開始地点に移動を お互いの健闘を祈るわ』

「行きましょう エリカさん」

「ええ」

(エリカさん、か)

「……お願いします」

「……必ず」

 

(しかし、みほの戦車道か…… どう来るだろうか)

「西住ちゃん」

「なんだ?」

「どうしたー? そんなに難しい顔して」

「……そうか?」

「うん」

(……定石通り、火力を用いてくるか?)

「西住 纏めろ」

「……ああ」

(考えていても仕方がない)

「黒森峰は持ち前の火力でこちらを攻撃してくるだろう その前に有利な場所に持ち込み長期戦に

 持ち込む  試合が開始後、予定の地点へ向かう いいな!」

――――はい!

 

「西住殿! 絶対勝ちましょうね!」

「……共に頑張ろう」

「はい!」

 

 

 

「まもなく試合が開始します 相手は初めて戦う学校ですが、気を抜かずに行きましょう」

『隊長』

「はい」

『なんか、いつもと様子ちがいませんか?』

「!」

(そうだ、今まで記憶がなかったけどお姉ちゃんみたいなしゃべり方でお姉ちゃんみたいに指揮を

 してきてたんだった  えっと、お姉ちゃんなら……)

「……そ、そうか?  いつも通りだと思うが」

『そうですか?  まあ、いいですけど……』

「では、行くぞ!」

 

 

 

『試合開始!』

「戦車前進」                 「……戦車前進」

 

 

 

『隊長!』

「どうした」

『私たち、今まで以上に頑張ります!』

『我々もだ!』

『私たちも!』

『頑張らせてもらいます!』

「……頼むぞ」

――――はい!

 

「こちらⅣ号 予定の地点まであと2㎞です 今の所、黒森峰の姿は見えません ですがみなさん

 油断せず気を引き締めていきましょう 交信終わります!」

「あれ、話し方変わりました?」

「余裕を感じますね」

「ほんと!? プロっぽい?」

「ぜんぜんプロっぽくない」

「ひどい! なんでそんなこというの?」

「だってアマチュア無線だし」

「……その通りだな」

「もー、先輩まで……」

ズドン!

(! 森を抜けてきたのか! これではまるで……  待て、もし今のみほが私のように

 指揮しようとしているなら……  そういうことか?  ならば!)

『すごい砲撃です!』

『前が見えません!』

『森の中をショートカットしてきたのか!』

「いきなり猛烈ですね……!」

「すごすぎる!」

「これが黒森峰……!」

「各車両、蛇行して狙いを定めさせるな! 前の森に逃げ込むぞ!」

 

 

 

「全車両、一斉攻撃!」

「……前方、2時方向に敵フラッグ車を確認」

「照準を合わせろ」

(前隊長……)

「……照準よし」

 

 

 

「ギアを入れて……」

バキッ

「えっ」

「…………」

 

 

「装填完了」

「……撃て」

 ズバンッ!   

 

 

 

『大洗女子学園三式、走行不能!』

 

 

 

『……ごめんなさい、西住先輩 やられちゃいました』

「……いや お前たちが盾にならなければ私たちがやられていた  怪我はないか」

『大丈夫です』

『大丈夫だっちゃ』

『大丈夫なり』

「そうか」

ズバンッ!

(追ってくるか……)

「……全車両煙幕用意!」

『用意!』

『煙幕用意!』

『用意』

『用意!』

『煙幕準備完了しました!』

「……煙幕開始!」

――――煙幕開始!

 

 

 

(煙幕? お姉ちゃんらしくない……  何が狙いなの?)

「……下手に向こうの作戦に乗るな いいわね」

『はい!』

『……! 敵、11時方向に確認!』

「あの先は坂道だ 相手にはポルシェティーガーがいる 時間は十分にある」

 

 

 

「M3、Ⅲ突、作業に入るぞ」

『了解!』

 

 

 

『……煙幕晴れてきました!』

「……! もうあんなところに!?」

 

 

 

「さすがに重い……」

 

「どっしりしているところがポルシェティーガーのいいところだが、今ばかりはなぁ……」

 

「八九式、B1bis 再度煙幕を張れ」

『了解です!』

 

 

 

(広範囲に煙が広がると正確には狙えない…… ……そうだ)

「全車、榴弾装填!」

 

「……撃て!」

 

 

 

「河嶋、ここが活躍時だよ」

「はい!」

(……今!)

ズバン!

「もいっぱーつ!」

「はい!」

ズバン!

「やるじゃん河嶋」

「2輌の履帯破壊だよ!」

「まだまだやります!」

 

 

 

『すいません! 履帯やられました!』

『こちらも履帯やられました!』

『ヘッツァーを追います!』

「深追いはし、……するな」

 

 

 

「全車両、陣地構築完了したみたいです」

「……全車両、照準をフラッグ車の前の車両へ向けろ」

 

 

 

「……全車停止」

(なんだろう、お姉ちゃんらしくないような……)

 

 

 

「撃て!」

 

ドガンッ!

    

「やった!」

「次、7時方向のラングだ!」

「ラングってどれぜよ!」

「ヘッツァーのお兄ちゃんみたいなやつ!」

 

 

 

「大洗フラッグ車! 砲塔こちらへ指向中!  あ、来たー!」

 

 

 

 

(だったら……)

「……ヤークトティーガー、正面へ」

 

 

 

(来たか このあたりが限界だな)

「全車両へ 撤退するぞ」

「でも、退路は塞がれてますよ?」

『西住ちゃん! 例のアレ、やる?』

「頼む」

 

「準備いい?」

「はい!」

 

 

 

「ふぅー…… 間に合った」

(……ん? あ、また!)

「7時の方向! 例のヘッツァーよ!」

ズバンッ!

「あー! 直したばっかりなのに! うちの履帯重いんだぞ!」

 

 

 

「突撃!」

「こんなすごい戦車の中につっこんでいくなんて…… 生きた心地がしません!」

「あえて突っ込んだ方が安全なんだって  河嶋 お前ならできる 頼むよ」

「任せてください会長!」

 

 

 

(……! ヘッツァー!?)

「11号車! 15号車! 脇にヘッツァーがいるぞ!」

 

「くそっ! 相討ちになるから撃てない!」

 

(さっきのヘッツァーが後ろから……  いったいどうすれば……)

『隊長、しっかりしなさい!』

「!」

『あなたが隊長なのよ!』

「……はい!」

 

「こちら17号車! こちらがやります!」

ズバンッ!  

「申し訳ありません! やられました!」

『じゃあ私が!』

『待て! Ⅲ突が向かってくるぞ!』

 

 

 

「撃て!」

ズババババババン!

 

「ほれほれー!」

ズバンッ!

「もいっちょ!」

ズバンッ!

「もいっちょー!」

ズバンッ!

「桃ちゃんすごい!」

「会長の装填速度が速いおかげです」

「どーも」

 

「先輩! 右側が空きました!」

「右方向へ抜けるぞ!」

――――はい!

『こちらポルシェティーガー 先頭に入りますね』

「頼む」

『こちらB1bis 抜けた後に煙幕張ります』

 

 

 

「撃て!」

 

 

 

「さすがポルシェティーガー びくともしないね」

「いやっほーぅ!」

 

 

 

『すみません、逃げられました!』

「……態勢を立て直して追う」

『私が追うわ』

 

 

(ん、エンジンがちょっとやばいかな?)

「ちょっとなだめてくる ……よっと」

「気をつけろよー」

「……はいはーい 大丈夫でちゅよー」

 

(走りながら直している……)

「さすが自動車部ですね!」

 

 

 

『目標、1時方向フラッグ車!』

(……!)

「撃t」

ガラガラガラン!

「ちょっと、どこ行ってるの!」

「左動力系に異常! すみません、走行できません!」

「早く直すわよ!」

 

 

 

「だいぶ離せましたね」

「どのルートを行くんですか?」

「川を渡る」

「川を渡るんですか!?」

「全車両に告ぐ 上流からポルシェティーガー Ⅳ号 B1bis Ⅲ突 M3 八九式の順に並べ

 ヘッツァーは後から追いつく」

――――はい!

 

(無事に渡れたか……)

「市街地へ向かう」

 

『おまたせー』

「この橋を渡るぞ」

 

 

 

『こちらⅢ号 敵戦車、橋を渡っています』

(橋を? 市街戦に持ち込む気かな)

「……わかった 全車両へ この川を渡って相手戦車を追うぞ」

――――了解!

 

(……ん? あれ?)

ガッ    ガッ

(嘘!? エンジンがかからない!)

『こちら8号車! エンジンが停止しました!』

(助けたいけど今助けてたら追いつけなくなる…… どうすれば……)

『私たちのことは構わずに先に行ってください! お願いします!』

「……すまない  全車両、このまま前進!」

 

 

 

「ここが腕の見せ所……っ!」

       ガシャンッ!

「いやっほぉーう!」

(橋を崩すとはな……)

 

 

 

『橋が崩されました!』

(橋が!? なんだか想像もつかないことばかり起こる お姉ちゃん、一体どうしたの?)

「……橋は迂回して追う  先回りを」

『はい!』

 

 

 

(時間は稼げたな)

「市街戦に持ち込むぞ!」

――――はい!

(……! Ⅲ号か 偵察か? 先に片づけておこう)

「後続が来る前に撃破するぞ」

 

「撃て!」

ズドンッ!

(……当たらないか)

 

「よーし! 観念しなさい!」

「……ん? なにあれ、壁? …………戦車!?」

 

(マウスだと!? まさか市街地に置くとは……!)

「マウスです……!  すごい! 動いてるところ初めて見ました……!」

「全車両後退! 急げ!」

ズドンッ!

 

「やーらーれーたー!」

「やられてません!」

「近くに着弾しただけです!」

「どっちにしろすごいパワーだね……」

 

『…………! でっかいからっていい気にならないでよ! こうしてやる!』

「待て! 園! 勝ち目がない!」

     カンッ       ドガンッ!

 

「風紀委員さん! ケガはないですか!?」

『そど子無事です!』

『ゴモヨ元気です!』

『パゾ美大丈夫です!』

 

「Ⅲ突! おそらく次にお前たちを狙ってくる! 逃げろ!」

『御意!』

ズドンッ!

 

「……危なかったぜよ」

「戦略的撤退!」

 

『冷泉さん! 後は頼んだわよ! 約束は守るから!』

「……おう」

 

「撃て!」

(…………やはり無理か)

『隊長、どうするんだ!』

「今考えている!」

(今思えば、マウスを倒そうなどと考えたことはなかった 一体どうすれば……)

「とにかく今は逃げるぞ!」

 

 

 

「お前たちの火力で装甲が抜けるものか! アッハッハ」

ズバンッ      

(……え?)

 

 

 

(なんとしても倒しておかなければ  だが、どうすれば……?)

「マウスすごいですね! 前も後ろもどこも抜けません!」

「いくらなんでも大きすぎ…… これじゃ戦車が乗っかりそうな戦車だよ!」

 

(戦車が乗っかりそうな戦車?  ……!)

「隊長! 考えがあります!」

『なんだ!』

「マウスの砲を横に向かせてください! 説明してる暇はありません!」

 

(……今の私に手はない バレー部の案にかけるしかないか?)

「……任せたぞ!」

『はい!』

「全車両に通達! バレー部に考えがあるそうだ! マウスの砲を横に向かせろ!」

――――了解!

(一体、何をするつもりだ?)

 

「撃てるもんなら」

「撃ってみやがれー!」

 

 

 

「横にM3とポルシェティーガーがいます」

「ポルシェティーガーを狙え!」

「了解!」

 

 

 

「逃げろー!」

 

「本当に大丈夫ですかね、キャプテン……」

「やるしかない!」

「……そうですね」

「いくよ! そーっれ!」

「「「そーっれ!」」」

 

ガシャン!

 

 

 

「!? 何の揺れだ!?」

(……八九式!? どうやってマウスの上に!?)

「おい軽戦車! そこをどけ!」

「嫌です それに八九式は軽戦車じゃないし」

「中戦車だし」

「この……! 振り落せ!」

「はい!」

 

 

(高さを利用してマウスの上に飛び乗った!? なんてことを考えつくんだ……)

『隊長! 今のうちに!』

「……よくやった!」

 

(……! そうだ!)

「Ⅲ突ー 聞こえる?」

『はい』

「こっち右の履帯狙うからさ 左の履帯狙って」

『了解!』

 

 

 

「動いて八九式を振り落せ!」

「はい!」

バキン!    バキン!

(!?  履帯が!)

 

 

 

『……よくよく考えれば車高の低いⅢ突なら履帯を狙えたな』

「そだねー   河嶋 ナイス」

「ここでやられてはたまりませんからね」

 

「華 後ろのスリットの部分を狙え!」

「はい!」

「……撃て!」

 

ズバンッ!

(やった……!)

 

 

 

『こちらマウス! Ⅳ号にやられました申し訳ありません!』

(マウスが!?   一体何をやったの!?)

 

 

 

『黒森峰、あと4,5分ほどで到着すると思います』

「……そうか」

(少し時間があるな)

「……全車両へ通達 敵の狙いはフラッグ車であるⅣ号だ できるかぎり敵戦力を分散する

 敵フラッグ車と1対1の状態を作るために、自動車部 お前たちの力が必要だ」

『任せてください!』

『燃えるねぇ~』

『どこで1対1しますか?』

「……高校があったはずだ そこを使う」

『了解!』

「後続のヤークトティーガーやエレファントにも注意しろ!」

『……あの、隊長!』

「どうした」

『後ろの方、私たちに任せてもらっていいですか?』

「……任せる」

『ありがとうございます!』

『こちらⅢ突』

「どうした」

『先に待ち伏せを張りたい』

「確かに、この作戦だと砲の回らないⅢ突は何もできないな」

『はい』

(いい場所は……)

「……次の左の路地で待ち伏せろ」

『了解!』

 

「どれを狙う?」

「フラッグ車は無理だろうから…… ティーガーⅡだな」

「了解!」

 

 

 

「敵フラッグ車発見! 追うぞ!」

『はい!』

 ズドンッ!

(! ティーガーⅡが! 多分撃ったのはⅢ突だから……)

「……後続のパンター3輌は撃ってきたⅢ突を撃破しろ!」

 

 

 

「どうする 多分2,3輌は来るから不利だぞ」

「たとえやられても時間を稼ぐ それが今の我々にできることだ」

「撃破できればいうことないんだがなぁ」

「多分それは無理だ とにかく逃げ回るぞ」

 

「ヘッツァーは次を直進 他はついてこい」

『りょうかーい!』

 

「麻子、次を右折ののち左折」

「わかった」

「ポルシェティーガーは直進後、十字路左折 八九式は直進後、十字路右折」

『了解!』

 

「次、3つ直進ね」

「はい」

 

「最後尾発見 あや、準備いい?」

「オッケー」

「……今!」

「とりゃ!」

   カンッ

「それ!」

  カンッ

ズバンッ!

「怒ってる怒ってる!」

「桂利奈ちゃん、次右折ね!」

「あいー!」

「その次も次も次も右折!」

「あいあいあーーい!」

「昨日徹夜で考えた作戦を実行するときが来たよ! 名付けて! 『戦略大作戦』!」

 

 

 

「……! 回り込まれた! 信地旋回! ……あ」

ズババン!

 

 

「堅すぎる~」

「この距離でも倒せないなんて……!」

「…………」

「?」

「……薬莢、捨てるとこ」

「すごい! 沙希ちゃん天才!」

「よーし! せーのでで撃とう!」

「行くよ!」

「「せーのーでっ!」」

ズドドンッ!

 

 

 

『こちらエレファント!M3にやられました!』

(嘘……! どうしてここまでできるの……?)

「……フラッグ車だけを狙え!」

 

 

 

(うまくやってくれているようだな……)

 

「……! いた! ヤークトティーガー! 桂利奈ちゃん、追って!」

「あいーー!」

「撃て!」

(……やっぱりだめか)

「曲がったよ!」

「追って……

(……!)

「停止!」

「んうっ……!」

ズバンッ!

「後退!」

「ちょっと、128㎜超怖いんだけど!」

「桂利奈ちゃん、そのまま後退!」

「ねえ、ちょっとどうすんのこれ!」

「……あ、そうだ! くっつけばいいんだ!」

「すごい桂利奈ちゃん あったまいいー」

「あ、離れる!」

「そうはさせるかー!」

「今度は押されてる!」

「1年なめんな!」

「なめんな!」

「……この後ろの方、ちょっとやばいかも」

「何が!」

「ヤークトティーガー、絶対に西住隊長の所に向かわせちゃいけない ここでやっつけよう」

「うっちゃるの?」

「どうやって!」

「合図ですぐ左に曲がって!」

(お願い、うまくいって……!)

「今!」

ズバンッ!       

 

 

 

「……! ブレーキ! ブレーキ! 落ちる!」

「間に合いません!」

 

 

            バキッ!

 

 

 

『すみません こちらM3やられました! あとはお願いします!』

――――お願いしまーす!

「みんな、ケガしてない?」

『梓、大丈夫です!』

『あや元気です!』

『優季、無事です』

『桂利奈絶好調!』

『あゆみ、平気です! 沙希も大丈夫って言ってます!』

「こちらⅣ号 間もなく到着する 自動車部、今どこに居る」

『まもなく高校グラウンドに入ります』

「……指定の場所へ」

『了解です!』

(先頭はフラッグ車…… ついてこい!)

 

 

 

「……!」

(ポルシェティーガー……)

「全車両! ポルシェティーガーを倒して応援に向かうわよ!」

 

 

 

「ここから先へは行かせないよー」

 

 

 

「相手は失敗兵器よ! 隊長、我々が行くまで待っててください!」

(……隊長)

 

 

 

「追いついちゃったね」

「ですね」

「どうする? パンター倒す?」

「今ここに居ても、できることはそれしかないですよ」

「……だね 小山、河嶋  行くぞ!」

 

 

 

『! 副隊長! 後ろからヘッツァーが!』

「!? 追った戦車はなにやってんの!」

 

 

 

「……! 動け!」

「言われなくても」

「次を左に」

「わかった」

「その次も左だ」

(もし、みほが私のように考えているなら次は……)

ズバン!

(……榴弾 やはりそうくるか)

「……………………全速後退!」

ズバンッ!

 

「うーん、会長たちが何輌か倒してくれたけど、さすがに持ちそうにないね」

 

 

 

「……撃て!」

ズバンッ!

(お姉ちゃん、ごめんなさい……)

「……撃て!」

ズバンッ!

 

 

 

「一斉砲撃!」

 

 

 

「こりゃもう持たないね」

「すみませーん あとお願いしまーす」

『……必ず勝つ』

ドガンッ!

 

『言ってる間にやられましたー あとヘッツァーもやられてまーす』

『こちら八九式、やられました!』

『こちらⅢ突! 時間を稼ぐだけ稼いだがやられた! 後は頼む!』

(あとは我々だけ……)

「……撃て!」

(反対側の道に入ったか)

「相手も同じタイミングで撃ってくる 避けつつ撃て!」

「ちゃんと避けるから、よろしく」

「はい!」

(……やはり手ごわいな)

「すれ違うぞ!」

ズドンッ!

「優花里! 辛いとは思うが装填速度を上げろ!」

「お任せください!」

『こちらポルシェティーガーだけど、なんか黒森峰が無理やり乗り越えて行こうとしてるから

 急いで決着つけてー』

「先輩! 黒森峰がポルシェティーガーの上を通ってこちらに来るそうです!」

(…………)

「ここで決めるぞ 1発避けた後に距離を詰めて撃つ 麻子、全速力で一気に回り込め」

「履帯切れるぞ」

「構わない ここで決めなければ負ける」

「行進間射撃でも可能ですが、0.5秒でもいいので停止射撃の時間を下さい 必ず仕留めます」

「頼むぞ」

「……この一撃は、皆の思いを込めた一撃」

「……前進!」

 

 

 

「! 来る!」

 

 

 

「撃て!」               「撃て!」

 

「思いっきり行くぞ 頼む」

「任せてください」

ギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギバギバギバギバギバギ

 

 

 

ズドンッ!

 

ズバンッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『黒森峰女学園フラッグ車走行不能 よって、大洗女子学園の勝利!』

 

 

 

(負け、ちゃった…… やっぱり、お姉ちゃんには……)

 

 

 

「勝った、のか……?」

「そうだよ桃ちゃん!」

「優勝だ!」

「あ…… あ……!」

 

(みほ……)

「やりましたよ先輩!」

「勝ちましたね!」

「西住殿! 私たち勝ったんですよ!」

「……ああ」

 

 

 

「……あ! 先輩!」

「やりましたね!」

「すごいです!」

「かっこよかったです!」

「Excellent!」

「ヴィットマン級だった!」

「お見事!」

「やったぜよ!」

「やりましたね!」

「ワールドカップクラスでした!」

「すごいアタックです!」

「いい走りだねー!」

「痺れました!」

(皆……)

「先輩、降りましょう」

「……すまないが、肩を貸してくれないか」

「え?」

「力が抜けた」

(私自身、驚いているのだろうな……)

「しっかり、隊長」

「……西住」

「河嶋」

「此度の活躍、感謝の念に堪えない 本当に、本当に…… ありっ、がっ……」

「思う存分泣け 勝ったのだからな」

「うっ……」

「桃ちゃん……」

「西住ちゃん」

「会長」

(……これで、廃校にならずに済むよ)

(思えば、知っているのは生徒会と私だけだったな)

「ありがとね! 西住ちゃん!」

「……スキンシップが激しいぞ」

「そう?」

「それと、礼を言いたいのはこちらの方だ」

「え?」

「去年、黒森峰が負けた理由に改めて気付かされた ありがとう」

「……そっか」

 

「…………」

(? そど子? ……!)

「あなたの遅刻データ、全部消したわよ」

「お、おおお……  ありがとうそど子ーーーー!」

「ちょ、ちょっと離れなさいよ!」

 

「よーし、来年も戦車道やるぞ!」

――――おー!

(……あれ? 何かおかしいような)

 

「次も頑張ろう!」

「頑張るずら」

「頑張るぞな!」

 

「私たちも頑張ります!」

「よくやった、澤」

「……! ありがとうございます!」

 

「今夜は徹夜で、自走できるくらいには直すよ」

「おっけい!」

「任せろ!」

「そうこなくっちゃ!」

 

「勝鬨でござる!」

――――えい、えい、おぅ!

 

「じゃあ、行こうか」

「……少し待っていてくれ」

「ん?  ああ、そういうこと」

「すまないな」

「行ってきなよ ね?」

「……ありがとう」

 

 

 

(負けたんだ……  やっぱり、私なんかの指揮じゃ…… ワタシナンカジャ……)

「隊長! しっかりしてください! 隊長!」

「エ、エリカさ……」

(っ! あ、頭が……っ!)

「みほ」

「! お姉、ちゃん……!」

「大丈夫か」

「うん、大丈夫……!」

「……みほ、なぜ負けたかわかるか」

「……私が、弱かったから」

「違う」

「え……?」

「みほが、みほの戦車道をしなかったからだ」

「私の、戦車道……?」

(……あ)

「思い出したか」

「うん」

「……みほ」

「お姉ちゃん……」

「もしかすると、黒森峰の仲間たちは私のような指揮を望んでいるのかもしれない」

「…………」

「だが、みほは私ではない みほに私を求めるのは間違っている」

「でも……」

「ならば、変えてしまえ」

「変え、る?」

「そうだ 自分の戦車道を示し、私を超えろ そうすれば、皆の考えも変わるはずだ」

「でも、私じゃ、お姉ちゃんを超えるなんて……」

「私にはできないが、みほにはできることがある」

「え……?」

「小学生の時、みほは戦車に興味のある友達ができた  戦車に興味を持った友達と戦車の経験の

 あった子同士も友達となった」

(お姉ちゃん、覚えてたんだ……)

「みほには、人と人とを繋ぐ力がある」

「……!」

「私にはできないことだ  それは去年、私が黒森峰を負けに導いた原因でもある」

「どういう、こと?」

「あの時は皆、私についてきていたが仲間同士のつながりが薄かった だから負けた」

「…………」

「みほには力がある 私のようになるな」

(お姉ちゃんにできなくて、私にできること……)

「……みほに重荷を全て背負わせてしまったことは謝らなければならない すまなかった」

(私に、できること…… 私になら、できること ……あの頃の私ができたこと)

「……みほ?」

「……私、頑張る」

(!)

「もっともっと頑張って、黒森峰を優勝させてみせる!」

「……西住流としてなら勝つことが大事だが、戦車道は勝つことだけが目的ではない それは

 わかっているな  戦車道はずっと続いていくものだ」

「うん ……!  うっ!」

「みほ? ……みほ!」

(痛みが強くなった……!)

「頭が、割れそう……っ!」

(頭が痛い? まさか!)

「隊長! 隊……!」

「み……! ……!」

 

 

 

(あれ……? 何、ここ……  壁、とドアがたくさん)

(聞こえる?)

(誰? 誰なの?)

(……私はもう1人の西住みほ)

(もう1人の私……?)

(そうだ)

(どういうこと……?)

(みほは偶然、仲間の立ち話を聞いて、ひどく傷ついた 覚えているか)

(……あ)

(その時のことが原因で、二重人格になった)

(二重人格? ……もしかして)

(そうだ 戦車道をしていたのはもう1つの人格である私だ)

(じゃあ、記憶がなかったのは)

(私が表に出ている時だ)

(……そうだったんだ)

(……エリカは気づいていた)

(え? エリカさんが?)

(ずっと、みほのことを心配していた)

(そうだったんだ……   迷惑かけちゃったな)

(なぜ決勝戦だけ記憶があるか、わかるか?)

(……ううん)

(エリカに言われたんだ 決勝戦をみほに任せてほしいと)

(どうして?)

(みほが勝てば自分に自信を持ち、私は必要なくなる  みほが負けても、西住まほならば

 みほのことを理解し、みほを救ってくれる そう考えたのだろう)

(…………)

(実際、負けはしたものの、まほの言葉で自分ならばできることに気付いた そうだろう?)

(……うん)

(その道は、茨の道かもしれない それでも行くのか?)

(……私にならできることがあるなら、その道を進みたい!)

(そうか  なら、私が表に出る必要はないな)

(私が強くなったから?)

(そうだ)

(……あの)

(何?)

(今までごめんなさい)

(え?)

(あなたに全部押しつけて、私は逃げた あなたに迷惑をかけた)

(迷惑ではない 私の為すべきことだったからな)

(私、これから頑張る  あなたが守らなくていいくらいに)

(……ならばもっと強くなれ 心も、戦車道も)

(だから……)

(いずれ私は消える)

(え?)

(当然だ 元の人格が強くなれば、もう1つの人格は消える)

(……それは違うよ)

(ん?)

(一つになるんだよ)

(一つになる?)

(うん  だって、あなたも私でしょ?)

(……そうだな)

(なんだか、お姉ちゃんみたいだね)

(当然だ みほが『お姉ちゃんじゃないとダメだ』と思ったから私が生まれた)

(……そうだったんだ)

(エリカと姉が呼んでいるぞ)

(うん!  ところで、私の前にあるこのドアはなに?)

(それはみほと私の人格の境目 それぞれの記憶が分かれている そのうち、扉が開く

 そのとき私が表に出ていた時の記憶を取り戻すだろう)

(……一つになるんだね)

(そういうことだな    ……行ってこい)

(うん!  ありがとう!)

(……強くなったな)

 

 

「……ほ! みほ! みほ!」

「……長! 隊長!」

「ん……」

「! 気がついた!」

「大丈夫か! みほ!」

「……うん、大丈夫」

(今のは夢?  ……いや、違う)

「エリカさん」

「何?」

「今までありがとう」

(……気づいたのかしら)

「どういたしまして」

「みほ」

「! お母さん……!」

(この人が……)

「情けない」

「……ごめんなさい」

「みほ、あなたは自身が西住流そのものだと言った」

(言ったのはもう一人の人格の方か?)

「でも、あなたのした戦車道は『西住流の西住まほ』の戦車道 あなたは西住まほではない

 それは分かっているわね」

「!」

「去年の黒森峰はまほの指揮によって負けた だからあなたも負けた 意味は分かるわね?」

「……はい」

「……まほ」

「お久しぶりです」

「随分と変わったわね」

「……はい」

「どうしてかしら?」

「西住流として戦うだけでは、どうにもならないこともあると思い知りました」

「…………」

「私が破門されたことを知らない者たちに西住流とはこの程度なのかという誤解を与え、西住流の

 名を貶めた事は事実です いかなる処分も覚悟しています」

「! お姉ちゃん!」

「まさか、あなたの口からそんな言葉が出るとはね」

「…………」

「……ただ、今までの試合の勝利に向かって突き進む姿勢 それだけは評価します」

(え?)

「卒業したら覚悟しておきなさい 西住流として一から叩き直します」

(お母様?)

「それと、偶には顔を見せに来なさい  ……菊代が会いたがっている」

「……はい! お母様!」

「…………」

(お母様、ね)

「ねえお姉ちゃん、今のって……」

「認めてもらえたわけではない」

「でも」

「これからだ」

「……そうだね」

「みほ」

「なに?」

「頑張るんだぞ」

「……うん!」

「来年、大洗には負けませんよ」

「その意気だ、エリカ」

「隊長、行きましょう」

「はい!」

「……じゃあな」

「お姉ちゃん!」

「!」

「私、絶対見つけるよ! 私の戦車道!」

「……頑張るんだぞ」

 

 

 

『優勝! 大洗女子学園!』

 

 

 

 

「よろしかったのですか?」

「菊代  なにがかしら」

「……いえ、なんでもありません」

「そう」

「戻りましょう 夕食を作らせています」

「……そうね」

「夕食はカレーです」

「この前も食べたわよ ……もしかして、あてつけじゃないでしょうね」

「まさか  カレー、お嫌いでしたか?」

「……いいえ、嫌いじゃないわ」

 

 

 

 

 

 

「……帰ってきたんだな」

「隊長、なんか言って」

(なんか、と言われてもな……)

「……全員、礼!」

――――お疲れ様でした!

 

 

 

「帰ったらどうする?」

「お風呂に入って……」

「アイス食べて」

「それから、戦車乗りましょう!」

「……そうだな」

 

 






(お疲れ様 上手くいったようね)
(ええ、あなたが思いついたおかげよ ……ありがとう あなたのおかげで彼女を救えた)
(本当によかった ……もう、わたしがいる必要もないわね)
(本当に、ありがとう  ……それにしても、こんなことできるのね)
(やろうと思ったらできた それだけよ)
(そう)
(それじゃあ もう会うこともないでしょう)
(短い間だったけど、世話になったわね)
(……彼女を、お願いね)
(任せておきなさい 私が支えるから)
(……よろしくね)



―――あれから、彼女は変わった
昔のような彼女に戻った
最初は皆、不思議に思っていた
だが、彼女が『私はお姉ちゃんじゃない そのことをあの試合で知った』というと皆納得した
きっと、来年は強くなった黒森峰として戦えることだろう
私は黒森峰に入ってから、ずっと彼女を見てきた
あの人と違って、頼りないと思っていた
でも、違う 彼女はあの人とは違うのだ
そのことに気付くのが遅かった
もし気づくのがもう少し早ければ、ああならずに済んだのかもしれない
その件はもう解決したが、それでも悔いは残る
でも今そんなことを言っていても仕方がない
大事なのはこれからどうするかということだ


―――あの人も変わったように見えた
もしかすると、大洗で過ごしていく内に少し丸くなったのかもしれない
おそらく戦車道では厳しいままとは思うが
大洗は仲が良く、纏まっているように思えた
あの人があのようなことを言ったのも、大洗で過ごしたからだろう
戦車道は文字通り、道 1人で歩くこともできる
でも、それでは寂しい
一緒に歩く仲間がいるほうがいい
そういうことなのだろう
西住流として復活した後も、そのことを忘れないでいてほしい
いや、忘れないだろう  あの人なら




(…………)
――――隊長
「? エリカさん」
「こんなところで何やってるのよ」
「少し考え事してて」
「それは分かったけど、なんで戦車の中なのよ しかもティーガーじゃなくてⅣ号なんて」
「ちょっと、ね……」
「……みほ」
「なに?」
「ごめんなさい」
「え?」
「あなたに『西住流なんだからちゃんとしなさい』とか、『一歩でもあの人に近づきなさい』とか
 あなたを傷つけるようなことを言った」
「…………」
「許してもらえるなんて思ってない ……でも、謝りたいの」
「いいよ」
「え?」
「『自信を持ちなさい』、『お姉ちゃんに近づけるように努力しなさい』…… エリカさんが
 そう言ってくれたから、もう少し頑張ろうって思えたの  結果的にエリカさんには心配を
 かけちゃったけど……」
「……違う」
「え?」
「違う! 私はそんなつもりで言ったんじゃない! あなたを、あの人と同じだと決めつけて
 いた……  だから……」
「でも、エリカさんのあの言葉がなかったらもっと早くに心が折れてたと思う むしろお礼を
 言いたいくらいだよ」
「みほ……」
「だから、もう自分を責めないで」
「許して、くれるの? あんなことを言ったのに」
「うん!」
(みほ、やっぱりあなたは……)
「エリカさん!」
「……何よ」
「これからもよろしくね!」
「……ええ  よろしく、みほ   いえ、隊長」
「みほでいいよ」
「私もけじめはしっかりつけるわ」
「……そっか」
「あ、もう練習始まるわよ ほら」
「……うん!」


「エリカさん」
「何?」
「さっきのエリカさん、なんだかお姉ちゃんみたいだった」
「? どこがよ」
「……私は小さいとき、嫌なことがあったら戦車の中に閉じこもって泣いてたの そんな時、
 いつもお姉ちゃんが私の手を取ってくれて、中から出てこれた 戦車から出る時、私の手を
 取ろうとしてくれたから……」
「そんなこと言って、自力で出てきてたじゃない」
「……そうだったね」
(そういえば、昔の私が自力で出てこれたのってあの時だけだったよね ……皆、元気に
 してるのかな)




―――私も変わることができた
あの人がいたころは、彼女があまりにもあの人と違いすぎるのでよく小言を言っていた
彼女がああなってしまったのは私にも責任があるのは明らかだ
そのことを彼女に謝った
だが、彼女は笑顔で許してくれた
これからは彼女をきちんと支えて行こうと思う
……いや、共に歩んで行こうと思う
きっと、彼女となら、いい戦車道を歩めるから


ありがとう みほ

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