「奉納戦車試合?」
「そ、大洗八朔祭りでイベントの1つとしてやることになってね」
「どこと試合をするんだ」
「それがね、タンカスロンの試合なんだよ」
「タンカスロン…… 確か、『10t以下の戦車』で行われる試合の事だったか?」
「大体その通りだね で、タンカスロンで活躍してるチームを呼ぶから試合をしてほしいん
だってさ」
「今の大洗には10t以下の戦車はないぞ」
「そこで、八九式を軽量化しようと思う」
「確かにそれならばなんとかなるかもしれない だが、チームを呼ぶのにこちらは1輌
だけなのか?」
「なんでも1輌だけで活躍してるらしいよ」
「そうか」
「うん 確か名前は……」
大洗八朔祭り当日
「すまない、遅れた」
「私たちも今来たところですよ」
「そうか」
「……先輩」
「なんだ」
「先輩の私服って似たようなのばかりじゃないですか?」
「そうか?」
「! そうだ! 私たちで先輩の私服選ぼうよ!」
「大賛成です!」
「いいですね 楽しそうです」
「おい待て 麻子、助けろ」
「……賛成」
「じゃあ先に服屋さんにゴー!」
「お、おい!」
「すっごく似合ってますよ!」
「そ、そうか……?」
「選んだ甲斐がありましたね」
(みほならともかく、私にこういう服は……)
「このまま一緒にまわりましょうよ」
「……明日の試合の相手の顔を見ておきたい あとで合流する」
「はーい」
「どんな方だったか後で教えてください」
「わかった」
(九七式軽装甲車…… あれか)
――なんだ まだ食べるのか?
――だっておいしそーなんだもん でも戦車駐められるかな……
「戦車スペースならそこにある」
「あ、ありがとうございます」
「はい! 串カツおまちどう!」
「んんー! おいしい!」
「この揚げたてのホクホク感がたまんない!」
「明日の奉納戦車試合の出場者か」
「はい ご存じだったんですか?」
「ああ どんな試合になるのか楽しみだ ところで、九七式軽装甲車はどこで手に入れた?」
「叔母様の私物だ」
「個人で戦車を所有しているとは珍しい」
「そう思いますよね」
「……九七式軽装甲車は2人乗りではなかったか?」
「あ、私はただの付き添いなんで」
「そうか ということはそちらの2人が」
「はい 操縦手の松風鈴です」
「車長、鶴姫しずか」
「明日はよろしく頼む 今日は祭りを楽しんで行ってくれ では、私はこれで」
「ありがとうございましたー」
(…………)
「? どうしたの?」
「あの御仁、まさか…… ……いや、人違いだろう」
「?」
「せんぱーい!」
「ここにいたか」
「明日の試合の方、どんな方でしたか?」
「そうだな…… 操縦手は普通の女子高生といったところだが車長は少しクセのありそうな
人物だった」
「クセ、ですか?」
「……少し説明しづらいな」
「それよりお祭りまわりましょうよ!」
「そうだな 案内してくれ」
「もちろんです!」
翌日
「そろそろ始まりますね」
「先輩、大洗の代表として行かなくてよかったんですか?」
「実はバレー部が……」
「ふははは ようこそ大洗へ!」
「まずは我らバレーボール部が相手だ!」
「西住隊長に会いたければまず我らを倒すことね!」
「そうです、全国大会優勝校の隊長と相見えるにはそれなりの手順が必要です!」
「……なるほど」
(既に会話は交わしているのだがな)
「そういえば他の学校の方々も観戦にいらっしゃってるんですよね」
「ああ サンダースと聖グロリアーナが見に来ている」
「でも、サンダースや聖グロからしたらあまり面白味のない試合だと思うのですが……」
「会長から聞いたのだが、サンダースとタンカスロンで戦ったらしい」
「え!? サンダースとですか!?」
「そうだ」
「ということはスチュアートと…… いや、10t以下ですからM22ローカストですか?」
「そう聞いている ローカスト3輌を相手に負けはしたものの、2輌撃破したらしい」
「すごいですね……」
「ただ、試合形式はフラッグ戦だったそうだ」
「ということはフラッグ車以外を倒したんですね」
「そうなるな」
「普通ならフラッグ車を狙いますよね 数的に不利ですし」
「私もそう思う」
(何か意図があったのだろうか)
「隊長もここで観戦ですか」
「エルヴィン ここは見晴らしがいい、よく見える」
「我々もここで」
「観戦するぜよ」
「八九式が押していますね」
「我々の仲間だ 押されるようでは困る」
「相手さんが頑張るところも見てみたいですね」
「そういえば、相手の方々はどこの学校なのですか?」
「確か『楯無高校』だと聞いた」
「聞いたことないですね」
「普通の高校なのだろう」
「楯無、ということは楯無鎧!」
「武田氏だな!」
「それだ!」
「チーム名は確か…… 『百足組』だったか」
「百足組…… 百足衆だな!」
「やはり武田勢か」
「お、こっちに来るみたいぜよ」
(しかし、なぜ水着で戦っているんだ? ……ん? 今こちらを見たような)
「境内の方へ行ったようだな」
(タンカスロンか 大洗にもっと軽戦車があれば、経験を積ませるのにもいいかもしれないが
何か方法はないだろうか)
「……ん!?」
「石段を……」
「飛び降りた!?」
(どこへ向かおうとしている?)
「あの先は確か……」
「神磯の鳥居!」
「神磯の鳥居?」
「隊長はご存じないぜよ?」
「左衛門佐、解説を」
「うむ 神社には必ず神様が祀られている 御祭神と呼ばれているが、ここ大洗磯前神社に
祀られている御祭神が御降臨なさった場所があの、神磯の鳥居というわけです」
「……つまり、あそこに御祭神がいると考えていいのか?」
「そういうことです」
「さすが左衛門佐」
「見ろ、百足組が止まったぞ」
(何が狙いだ?)
――遠からん者は音にも聞け、近からん者は目にも見よ! 我等こそは百足組也 此度
故あって大洗磯前神社祭神に射撃奉納する也
互いを的にいざ一射、とくとご覧じよ!
「なるほど 『奉納戦車試合』だから神様の目の前で、ということか……」
「那須与一の扇の的だな」
「屋島の戦いか」
『ただいまの奉納戦車試合、両者引き分け 繰り返します、両者引き分けー』
(普通ならば試合のことだけを考えるだろう だが、彼女たちは奉納することを選んだ
……興味が湧いてきた)
「西住殿?」
「……こういう戦いもあるのだと思ってな」
「はい! 私も驚きました!」
(ぜひ戦ってみたいものだが、戦車がないからな……)
「行こうか」
「テケ車のお2人に会いに行かれるんですか?」
「いや、バレー部がああ言っていたし行くのはやめておこう」
「でもムカデさん、八九式倒しましたよ? 相討ちですけど」
「……それもそうだな」
「もう帰っちゃうの?」
「ゆっくりしたいのだが、帰りの列車が早くてな……」
「それは残念! 大洗の他の子たちや西住隊長にも紹介したかったのに」
「忝い! しかし次は―――― 戦場にてお会いしたく 次こそは大洗女子に勝つ所存」
「おっけー! 伝えとくよ」
「それでは、失礼する」
「今日はありがとうございましたー!」
「また来てねー」
「……なんか少し変わった人でしたね 車長さん」
「うん まさか奉納するために鳥居の目の前に行くなんてね」
「それより早くペイント弾落とさなきゃ エキシビジョンマッチもあるし」
「あ、そうだそうだ 急ごう!」
「はぁ、はぁ……」
「あれ、西住隊長?」
「どうしたんですか?」
「2人は、もう帰ったのか?」
「はい ついさっき」
「そうか……」
「隊長、もしかしてあの2人に会いに?」
「少しばかり話をしたかったのだが……」
「帰りの電車が早いらしいので」
「……2人は何か言っていたか?」
「はい いくさば? でお会いしたいって」
「キャプテン、いくさばは戦場って意味ですよ」
「あっそうか 次は戦いたいって言ってました」
「そうか」
(覚えておこう 百足組、鶴姫しずか、松風鈴……)
「……待て」
「なんですか?」
「『お会いしたい』と言っていたのだな?」
「はい そうですけど」
(……もしかして私だと気づいていなかったのか?)