「あ、いたいた 西住ちゃーん」
「会長」
「ちょっといい?」
「なんだ」
「実はさー、ちょっと他校と練習試合組もうか考えてるんだよね どう思う?」
「経験を積ませるためならいいのではないか」
「そか ありがとねー」
(わざわざ聞くことなのか?)
(……なんだこれは)
「私たちも色塗り替えればよかったじゃーん!」
「あぁー! 38(t)が、Ⅲ突が! M3が八九式が! なんか別の物にー! 西住殿! これは
あんまりですよね!」
「…………」
「に、西住殿?」
「……信じられない」
「ですよねぇ!」
(練習試合もあることだし、色を塗り替えさせるべきだな)
「……ところで武部、なぜ彼女が?」
「麻子のことですか?」
「西住先輩には借りがある」
「らしいです」
「そうか」
(覚えもいいようだし、頼りになりそうだ)
「いいねぇ この勢いでやっちゃおっか」
「はい 連絡してまいります」
「会長、なぜ戦車にペイントを?」
「ん? ダメなの?」
「ダメもなにも、試合の時に目立ちすぎるだろう 八九式はまだましな方だが……」
「まあいいじゃん 試合終わってから考えようよ」
(随分と適当だな……)
「……おい、Cチーム」
「なんですか?」
「この旗はなんだ」
「かっこいいぜよ?」
「……Ⅲ突の利点を言ってみろ」
「車高が低いことだ」
「はっきり言う 意味が無い」
「……そう言われると」
「そのとおりぜよ」
「旗だけは片づけておけ」
『大洗女子学園? 戦車道を復活されたんですの? おめでとうございます ……結構ですわ
受けた勝負は逃げませんの』
「今日の訓練、ご苦労であった!」
――――お疲れ様でしたー
「えー急ではあるが、今度の日曜日、練習試合を行うことになった」
――――えー!?
「相手は、聖グロリアーナ女学院」
「セ、聖グロリアーナ女学院!?」
「どうしたの?」
「聖グロリアーナ女学院は全国大会で準優勝したこともある強豪なんです!」
「準優勝!?」
「日曜は学校へ朝6時に集合!」
「……やめる」
「はい!?」
「やっぱり戦車道やめる」
「もうですか!?」
「麻子は朝が弱いんだよ……」
「待ってくれ」
「6時は無理です」
「モーニングコールさせていただきます!」
「お迎えに行きますから」
「朝だぞ 人間が朝の6時に起きれるか!」
「6時集合ですから、起きるのは5時くらいじゃないと……」
「人にはできることとできないことがある 短い間でしたがお世話になりました」
「麻子がいなくなったら誰が操縦するのよ! それにいいの? 単位!」
「う……」
「このままじゃ進級できないよ? 私のこと先輩って呼ぶようになっちゃうから! 沙織先輩って
言ってみ?!」
「さ、お、り、せん……」
「それにちゃんと卒業できないとおばあちゃんめちゃめちゃ怒るよ?」
「おばあっ……! ……わかった やる」
「いいか? 相手の聖グロリアーナ女学院は強固な装甲と連携力を生かした、浸透強襲戦術を
得意としている 相手の戦車は硬い、主力のマチルダⅡに対して我々は100m以内でないと
通用しないと思え そこで1輌が囮となってこちらが有利になるキルゾーンへ敵を引きずりこみ
高低差を利用し残りがこれを叩く!」
「西住ちゃん、どう思う?」
「間違いなく通用しない」
(今の練度ではそのような作戦しかできないのも事実だが……)
「そっかー」
「なんだと!? 私の作戦に口をはさむな! だったら隊長はお前がやれ!」
「そのつもりだが」
「まあまあ 隊長は西住ちゃんにやってもらうから、よろしくね」
「任せろ」
「がんばってよー 勝ったら素晴らしい賞品あげるから」
「賞品?」
「干し芋3日分!」
(それは会長の好物じゃないのか?)
「あの、もし負けたら……」
「大納涼祭りであんこう踊りでもやってもらおっかな」
「え゙ぇっ!?」
「あの踊りを!?」
(……?)
「あんこう踊り……!?」
「西住殿! その条件呑んだのでありますか!?」
「ああ どんな踊りだ?」
「あんなの踊っちゃったらもうお嫁にいけないよ!」
「絶対ネットにアップされて、全国的な晒し者になってしまいます……」
「一生言われますね……」
(そこまでのものなのか?)
「勝てばいいだろう」
「そうですけど……」
「そうだよ! 勝てばいいんでしょ?!」
「もし負けたら、私もあんこう踊りやります!」
「私も!」
「それより、麻子がちゃんと来るかのほうが心配だよ……」
翌日
「もしもし」
『先輩ですか!? 今、麻子の家なんですけどやっぱ起きなくて…… どうすれば~!』
「……家はどこだ」
『え?』
「もう! 起きてよ! 試合なんだから!」
「……眠い」
「単位はいいの?!」
「よくない……」
「じゃあ起きてよ!」
「不可能なものは不可能」
「武部」
「先輩!? どうして」
「西住先輩か……」
「冷泉 お前が必要だ」
(!)
「……わかりました そこまで言われたら行くしかない」
「麻子!」
「借りがあるからだ 本当は起きたくない」
「飲め 栄養ドリンクだ」
ゴクッ
「……少しは目が覚めた気がします」
「麻子! ほら早く!」
「わかってる」
(冷泉殿を起こしに来ましたが、必要なかったですかね……)
「ん? 秋山、来てたのか」
「はっはい! 西住殿、おはようございます!」
「おはよう」
「久しぶりの陸だ~ アウトレットで買い物したいなー」
「試合が終わってからですね」
「昔は学校がみんな陸にあったんでしょ? いいなー、私その時代に生まれたかったよー」
「私は海の上がいいです 気持ちいいし、星もよく見えるし」
「西住先輩はまだ大洗の町、歩いたことないんですよね」
「ああ」
「後で案内しますね」
「……助かる」
「あの、あれは……」
「でかっ! 同じ学園艦だよね!?」
「名門だからな」
「あれが、聖グロリアーナの戦車ですか?」
「そうだ」
「チャーチルとマチルダⅡですね」
『ぴんぽんぱーん 本日、戦車道の親善試合が午後の1時より開催されます 競技が行われる
場所は立ち入り禁止となっておりますので、皆様ご協力をお願いいたします アウトレット他で
見学席を設けておりますので、応援の方はご来場ください』
「本日は急な申込みにもかかわらず試合を受けていただき、感謝する」
「構いませんことよ それにしても 『個性的な』 戦車ですわね」
「んなっ!」
「ですが、我々はどんな相手にも全力を尽くしますの サンダースやプラウダみたいに下品な
戦い方は致しませんわ 騎士道精神でお互い頑張りましょう」
「これより、聖グロリアーナ女学院 対 大洗女子学園の試合を始める 一同、礼!」
――――よろしくお願いします!
「大丈夫でしょうか……」
「やるしかないよ!」
「負けるつもりは全くない」
「はい!」
「……Cチーム 少しいいか」
「なんです?」
「チャーチルを倒せ」
「我々が?」
「作戦がある」
「どのような」
「――――――――」
「――――――! ……任せてください」
『試合開始!』
「始まりましたね!」
『あのー、どうするんでしたっけ』
「殲滅戦ルールが適用される 全車両を撃破すれば勝ちだ 我々Aチームがまず偵察に向かう
偵察終了後、他の車両は指定の場所へ」
――――了解!
「マチルダⅡ4輌、チャーチル1輌前進中」
「さすが、きれいな隊列を組んでますね」
「当然だ」
「我々の徹甲弾では正面装甲は抜けませんね」
「対戦車榴弾を使う」
「あれならⅣ号でも戦えますね!」
「行動に移るぞ」
「はい!」
「冷泉、起きろ エンジン音が響かないように注意しつつ転回」
「ん……」
「敵、前方より接近 砲撃準備」
「装填完了!」
「えっと、チャーチルの幅は……」
「3.25mだ」
「4シュトリヒだから、距離810m……」
「撃て!」
ズバンッ!
「仕掛けてきましたわね」
「こちらもお相手しますか」
「すみません 外してしまいました」
「当てることが目的ではない 麻子、なるべく蛇行して進め 当たらなければそれでいい」
「了解」
「思っていたよりやるわね 速度を上げて追うわよ」
ズバン!
「どんな走りをしようとも、我が校の戦車は一滴たりとも紅茶をこぼしたりはしないわ」
「先輩、危ないですよ! 身を乗り出して当たったらどうするんですか!?」
「心配するな これが西住流だ」
(西住流?)
「……遅い!」
「待つのも作戦のうちだよ」
「ですが」
『Aチーム、敵を引きつけながらあと3分で到着する』
「Aチームが戻って来るぞ! 全員戦車に乗り込め!」
『あと600m』
(……! 来た!)
「撃て撃て!」
『味方を撃ってどうする! しっかり確認しろ!』
「そんな安直な囮作戦、私たちには通用しないわ」
「撃て!」
「撃て撃て撃て!」
『一斉に攻撃しろ』
「全然当たらないよー!」
(いくら西住流と言えど所詮、初心者揃いではこの程度なのかしら)
「全車両前進 …………攻撃」
「すごいアタック!」
「ありえないよ!」
『落ち着け 砲撃を続けろ』
「もういやー!」
「ちょ、ちょっと! 逃げちゃダメだってば!」
ギギギギギギギ……
「あれ? あれ?」
「あー、履帯外れちゃったか 38(t)は外れやすいからね」
「武部、各車両の状況確認を」
「は、はい…… Bチームどうですか?」
『何とか大丈夫です』
「Cチーム」
『言うに及ばずッ!』
「Dチーム ……あれ? 応答ないよ? Eチーム」
『だめっぽいねー』
『無事な車両はとことん撃て! 撃ち返せ!』
『隊長、どうすれば!』
『指示を!』
『撃って撃って撃ちまくれー!』
「私たち、先輩の言うとおりにします!」
「どこへだって行く」
「西住殿! 命令してください!」
(このままでは間違いなく負ける ……地の利を生かすか)
『Bチーム、Cチーム、ついてこい 市街戦に持ち込むぞ』
『わかりました!』
『心得たッ!』
『何ッ!? 逃げるのは許さんぞ!』
「逃げ出したの? 追撃するわよ」
「これより市街地に入る 地の利を最大限に生かせ」
『Why not!』
『大洗は庭です! 任せてください!』
「Cチーム わかっているな?」
『覚悟は決めた!』
「健闘を祈る」
「……消えた?」
(自分たちの庭で優位に立つということかしら)
「散開 各個撃破を」
「どこかに隠れているはずよ!」
「見つけたらこちらのものです」
ズバァン!
(……ん? それで隠れているつもりか?)
「前に立て」
ビーッ ビーッ ビーッ
「……馬鹿め」
(キャプテン……)
(チャンスは一瞬! 行くよ!)
『ん? あっ! 後ろだ!』
「そーれっ!」
――――そーれっ!
ズドッ!
『こちらCチーム、1輌撃破!』
『Bチーム、1輌撃破!』
「やりました!」
『攻撃受け走行不能!』
『こちら被弾につき現在確認中!』
(なっ……?!)
「なかなかおやりになるわね でも、ここまでよ」
「はっはっはっはっは」
「ん もう1輌発見! 路地裏に逃げ込め!」
「ほい」
「入り組んだ道に入ればこちらのものだ Ⅲ突は車高が低いからな」
「むっ…… 停止!」
「どうしたぜよ」
「前から来るぞ」
(……! 来た!)
「撃て!」
ズドンッ!
「よしっ!」
「Bクイック大成功!」
ギィー……
「……あれ?」
「い、生きてた!」
「どうしよどうしよ!」
「それっ!」
カーン
「サーブ権取られた~」
ズドン!
『すみません! Bチーム敵撃破失敗! および走行不能!』
『Cチーム、無事か?』
『問題なし! さらにもう1輌撃破!』
(残り3輌か…… 会長たちは復帰に時間がかかりそうだな)
「来たか」
(囲まれるのはまずい)
「振り切れ」
ドガンッ!
(……!)
「…………」
「西住殿!」
『Cチーム、今どこにいる』
『そちらに向かっています! まだ少しかかりそうです!』
(追い詰められたか……)
「こんな格言を知ってる? 『イギリス人は恋愛と戦争では、手段を択ばない』 」
(何か手は……)
『さーんじょー!』
「Eチーム!」
「履帯直したんですね!」
ズバン! …………
「あっ」
「桃ちゃんここで外す?」
ズガガガンッ!
「やーらーれーたー」
(今!)
「前進 一撃で離脱!」
ドガンッ!
「回り込みなさい! 至急!」
「大通りに出て先に路地を押さえる 急げ!」
「はい」
「右折したら壁に沿って進んで急停止!」
『間もなく到着する!』
(来たか!)
『少し待て、マチルダを先に処理する』
『了解!』
ズバンッ!
(あとはチャーチルのみ……)
「撃て!」
ゴンッ!
(やはりこれでは無理か……)
「蛇行しながら後退しろ!」
ドガン!
「路地に行きます?」
「いや、ここで決着をつける」
「了解」
「敵の右側部に回り込め」
『そろそろか?』
「合図をしたら出てこい 後部を狙え」
『了解!』
(…………)
「今!」
ギャリギャリギャリギャリギャリ
(読めていましてよ)
「参上!」
「チェストオオオオオオ!」
「往生せいやああ!」
(Ⅲ突!? いや、Ⅳ号の処理が先決!)
「撃て!」 「撃て!」
ズバンッ! ガンッ! ズドンッ! ドガンッ!
「やったか!?」
「それを言う時は大抵やれてない」
『聖グロリアーナ女学院チーム、全車両走行不能 よって、大洗女子学園の勝利!』
(ふう……)
「やったぜよ隊長!」
「よくやった」
「もっと褒めてもいいのだぞ?」
(少し調子に乗っているか?)
「……チャーチル含め3輌撃破したことは褒めてやろう よくやってくれたのは事実だ」
「久しぶりね 黒森峰の時はしてやられたわ」
(黒森峰?)
「久しぶりだな ダージリン」
(さすが西住殿! 強豪校の隊長ともお知り合いとは!)
「今日のところは失礼するわ またいつか」
「いやー勝ててよかったね」
「思いのほか活躍してくれたからだ」
「そうだろうそうだろう」
「調子に乗るな」
「ぜよ」
「勝ったからあんこう踊りの件はなしですよね?」
「うん ……なに? やりたいの?」
「いやいやいやいや」
「ま、いいや 大納涼祭り楽しんでってねー ばいばーい」
「先輩! 一緒に回りませんか?」
「案内させていただきます!」
「……本当にいいのか?」
「はい!」
(この町のことはよく知らないから、付き合ってもらうのも悪くはないか)
「……よろしく頼む」
「じゃあ早速行きましょう!」
喫茶店
「先輩、大洗はどうでしたか?」
「……いい町だな」
「先輩のご出身は……」
「熊本だ」
「熊本はどんなところなのですか?」
「そうだな…… いいところだぞ」
「そ、そうですか」
(説明になっていないような)
「あの、先輩」
「なんだ?」
「グロリアーナの隊長が黒森峰がどうとか言ってましたけど、前にいた高校ですか?」
「……ああ」
「どんな学校なのか、気になります」
「一言で言えば、戦車道の強豪校だ」
「え!?」
「私はもちろん知ってましたよ」
「そうなの!?」
「はい 去年の全国大会も見ていましたから」
「でも、そんな強い学校にいたんだったらどうして……」
「……去年、黒森峰は準優勝に終わった」
「すごいじゃないですか!」
「それまで9連覇していてもか」
「……すみません」
「負けたのは事実だ 謝る必要は無い」
「で、では、西住殿は負けた責任を取って転校したとでもいうのですか!?」
「半分はそうだ」
「では、もう半分は……?」
「…………」
「……?」
(話すべきなのか? だが、このことは…… いや、会長が少し調べた程度でわかることだ
隠していてもいずれ知るだろう ならばいっそ……)
「西住殿?」
「……私は西住流を破門された」
「!?」
「当然のことだ 西住流の名に泥を塗った」
「に、西住流って?」
「西住殿の家系は西住流と言われ、由緒ある戦車道の流派なんですよ」
「だから強豪校でも隊長になれたんだ……」
「母は厳格な人だ 負けたことを許すはずも無い 破門は私自身も納得している」
「そんなことが……」
「……だが」
「?」
「私の根幹は西住流だ それを証明するためにこの学校の戦車道を復活させた」
「あれ? 元から復活する予定だったのでは?」
「実際はそうだった 復活が確定していたから安心できたが」
「そのことは生徒会には?」
「話した 話したというよりは調べられた、と言ったほうが正しいな」
「そんなことまで!?」
「だから私が破門されたことは生徒会も知っている」
「それで躊躇なく西住殿を隊長に指名したのですね」
「私が唯一の経験者だったというのもあるだろう」
「……先輩!」
「なんだ」
「私たちもっともっと頑張ります!」
(!)
「だから証明しましょう! 先輩も西住流だってこと!」
「……ついてきてくれるのか?」
「はい!」
「もちろんです」
「当然」
(なぜここまで人の為に行動できる?)
「それと、私たちのこと、武部とか秋山とかじゃなくて名前で呼んでくれませんか?」
「…………」
「ダメ、ですか?」
(名前で呼ぶ、か…… みほ以外だとエリカくらいだったか? ここは黒森峰ほど上下関係が
厳しいわけではない 彼女たちもそういう関係は望んでいないのだろう)
「……沙織」
「はい」
「優花里」
「はい!」
「華」
「はい」
「麻子」
「……はい」
「これからもよろしく頼む」
――――よろしくお願いします!
カランカラン
「……あら? また会いましたわね」
「ダージリンか」
(……そうだわ)
「あなた方の隊長さん、少しばかりお借りしてもよろしいかしら」
「何か話があるんですか?」
「ええ 少々」
「黒森峰も大変でしょうね」
「だろうな 妹が隊長を任されていると思うが」
「あら、妹さんがいらっしゃったの」
「ああ」
「それにしても驚いたわ、あなたが黒森峰を離れるだなんて」
「人には人の理由がある」
「……噂は事実だということかしら?」
「噂? なんのことだ」
「あなたならご存知でしょう? ……ところで、この新聞お読みになったかしら」
「……『西住まほが黒森峰を去った理由』?」
「マスコミの方たちは必死になって、あなたがどこへ行ったのか探していることでしょうね」
「だろうな」
「記事には破門ではないかとまで書かれてますわよ」
(それが事実だが)
「まあ、どのような理由で転校しようと私たちには関係のないことですわ ……ただ」
「ただ?」
「遅かれ早かれマスコミたちに囲まれることになると思うわ 何を言うか考えておいた方が
よろしいのではなくて?」
「そんなことを言うために、わざわざ話がしたいと言ったのか」
「マスコミの力は時に真実をも捻じ曲げる 頭の片隅くらいには置いておいた方がいいわ」
「……そうだな 全国大会の抽選会で人前に立つわけだ 考えておいた方がいいだろう」
「全国大会に出場なさるおつもりで?」
「当然だ」
「そうでしたの 次は私たちが勝たせてもらうわ」
「次も我々が勝つ ……失礼する」
「西住殿、お話は終わりましたか?」
「ああ、帰るぞ」
「自由時間は19時までですけど、どうします?」
「買い物行こう! ……麻子? どこ行くの?」
「おばぁに顔見せないと殺される」
「あ、そっか じゃあ私たちだけで行きましょっか」
「かわいいお店いっぱいあるね!」
「後で戦車ショップも行きましょう!」
「……ん? あっ、目が合っちゃった」
「! 新三郎!」
「え、知り合い!?」
「お嬢、元気そうで……」
「誰?」
「うちに奉公に来ている、新三郎」
「お嬢がいつもお世話になってます」
(お嬢ということは、華の生まれも由緒ある家なのか?)
「華さん」
「お母様」
「よかったわ、元気そう そちらの皆様は?」
「同じクラスの武部さんと、先輩の西住さん」
「こんにちは」
「私はクラスは違いますが、戦車道の授業で」
「……戦車道?」
「はい、今日試合だったんです」
「華さん、どういうこと?」
「……お母様」
(あっ!)
「鉄と油の臭い…… あなた、もしや戦車道を?!」
「……はい」
「花を生ける繊細な手で、戦車に触れるなんて……! あぁ……」
「奥様!」
「お母様!」
「すみません、私が口を滑らせたばっかりに……」
「わたくしが母にちゃんと話していなかったのがいけなかったんです」
「お嬢、奥様が目を覚まされました お話があるそうです」
「わたくし、もう戻らないと……」
「お嬢!」
「お母様には、申し訳ないけれど……」
「華」
「はっ、はい」
「自分の気持ちはしっかり伝えたほうがいい」
「ご友人さんのおっしゃる通りです お嬢のお気持ち、ちゃんとお伝えしたほうがよろしいと
思います!」
「申し訳ありません……」
「どうしたの? 華道が嫌になったの?」
「そんなことは……」
「じゃあ、何か不満でも?」
「そうじゃないんです」
「だったらどうして!」
「……わたくし、生けても生けても、何かが足りない気がするのです」
「そんなことないわ あなたの生ける花は華麗で清楚、五十鈴流そのものよ」
「でも、わたくしは…… もっと力強い花を生けたいんです!」
「! ぁ……!」
「お母様!」
「素直で優しいあなたはどこへ行ってしまったの? これも戦車道のせいなの? 戦車なんて
野蛮で不恰好でうるさいだけじゃない! みんな鉄屑になってしまえばいいんだわ!」
(鉄屑!?)
(……少し頭に来たが、どう思おうと人の自由だ)
「ごめんなさいお母様 でも、わたくし…… 戦車道は、やめません」
「……わかりました だったらもう、うちの敷居は跨がないでちょうだい」
「奥様、それは!」
「新三郎はお黙り!」
「……失礼します」
(あ、こっちにくるよ!)
「帰りましょう」
「華 いいのか」
「いつか、お母様を納得させられるような花を生けられれば、きっとわかってもらえます」
「お嬢!」
「笑いなさい新三郎 これは、新しい門出なんだから ……わたくし、頑張るわ」
「……はい!」
「遅い」
「夜は元気なんだからー!」
「あなたたち! 出港ギリギリよ!」
「すまない」
「すみません」
「すみませーん」
「すみません」
「すまんなそど子」
「その名前で呼ばないで!」
「西住隊長!」
「……Dチーム」
「戦車を放り出して逃げたりして、すみませんでした!」
――――すみませんでした!
「先輩たち、すごかったです!」
「すぐ負けちゃうと思ってました……」
「私たちも、次は頑張ります!」
「絶対、頑張ります!」
「…………」
(あんなことしたんだから、怒られるよね……)
「誰よりも成功するものは誰よりも失敗を経験している 次に活かせ」
「! はい!」
「これからは作戦は西住ちゃんに任せるよ」
「えっ! どうしてですか会長!」
「だって西住ちゃんの言った通り通用しなかったじゃん」
「……はい」
「あ、そうだ 西住ちゃん、これ」
『今日はありがとう 公式戦で会えるのを楽しみにしておきますわ』
「すごいです! 聖グロリアーナは好敵手と認めた相手にしか紅茶を送らないとか」
「そうなんだ でも、これ9個あるよ?」
「おそらくCチームの分だろう」
「撃破したのはCチームでしたからね」
「昨日の敵は今日の友、ですね!」
「公式戦は勝たないとね」
「公式戦?」
「戦車道の全国大会ですよ!」
「出るんですか?」
「うん、そのつもり」
(全国大会か ……みほは元気にしているだろうか)
「大丈夫かな、私が隊長で……」
「あなたも西住流でしょ、もうちょっと自信持ちなさいよ」
「でも、私じゃお姉ちゃんみたいには……」
「じゃあ一歩でも近づけるように努力しなさい」
「……うん」
「ったく、先が思いやられるわ」
(私も、お姉ちゃんみたいになれたら……)
(もっと、がんばらないと……)
「しっかし、不安よねー」
「何がよ」
「何って隊長よ隊長 なんというか、西住流っぽくなくない?」
「確かに隊長より前隊長のほうが強いのは事実だけどさ、1年分の経験差もあるんだし仕方ないんじゃないの?」
「そんなこと言ったって、私らは今年が最後の大会なんだよ? 勝ちたいでしょ」
「それは、そうだけど……」
「あの人が隊長のままだったらなぁ」
「……ん?」
「どうした?」
「いや、誰か居たような気がしたんだけど」
「気のせいじゃない?」
(つい昔みたいに戦車の中に隠れちゃった…… あの頃はいつも、お姉ちゃんが私の手を取って
くれたから、外に出てこれてたっけ……)
『あなたも西住流でしょ、もうちょっと自信持ちなさいよ!』
(…………)
『なんというか、西住流っぽくなくない?』
『確かに今の隊長より前隊長のほうが強いのは事実だけど』
『あの人が隊長のままだったらなぁ』
(エリカさん、やっぱり私なんかじゃダメだよ…… 私なんかの指揮じゃ……
お姉ちゃんの指揮じゃないと…… お姉ちゃんじゃないと……)
(こんな時間になっても隊長が戻ってないなんて、どうしたんだろ 何かあったのかな?)
「隊長ー、どこですかー? 隊長ー?」
カッ
(? 足音?)
カッ
(……もしかして、幽霊? いや、いやいやいや 幽霊だったら足音するわけないでしょ
隊長だよね、きっと)
カッ
(あ、やっぱり隊長だ よかった)
「隊長ー こんな時間まで何してたんですか?」
「…………」
「隊長?」
「丁度いい 練習に付き合え」
(何?! この感じ、まるで……)
「……え、ちょ、ちょっと、隊長? もう夜ですよ? 隊長? 怒られますって 隊長!」
「なんか最近、隊長の感じ変わった気がしない?」
「うん、前と違うよね」
「前隊長みたいな感じ?」
「最近変じゃない? あなた」
「そうか?」
「そういうところよ まるで……」
「まるで?」
「……いや、なんでもないわ」
(そう簡単に変われるものなの? 何かきっかけがありそうだけど……)