もしも大洗に来たのがまほだったら   作:イティ

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「先日、戦車道全国大会優勝候補と言われた聖グロリアーナ女学院と戦い、見事勝利したわけ
 ですが……」
「ぶっちゃけ、西住ちゃんとⅢ突の性能頼りだったからね」
「はい……  ただ、初めての対外試合ということもありますし、今までの練習量を考えれば
 大健闘といったところです」
「しかし、大会本番では一度でも負けてしまえばそこで終わりです」
「だねー」
「そこで大会までにもう1戦、練習試合を設けようと考えております」
「当てはあるの?」
「全力で手配中ですが、その……」
「まあ、大会近づいてるしわざわざ手の内をさらすようなことしたくないんでしょ」
「なんとか見つけ出します!」
「さすがにこのまま1回戦に臨むのは不安ですし、なんとかあと1戦……」
「だな 何とかいい相手見つけてよー」



第4話 「弱小の名門校」

「西住ちゃーん」

「なんだ」

「全国大会に向けての会議をする 生徒会室に来てくれ」

「わかった」

「華、本気だと思う?」

「生徒会の方々の言うことですから……」

「楽しみじゃないですか、全国大会!」

「いいか貴様ら! 我々の戦車道全国大会出場は決定事項だ!」

「目指すは優勝だからねー」

「今後はさらに練習を厳しくする! 聖グロ戦の時よりもさらに強くならなければならん!」

「前の練習試合は初試合なのによく勝ったよ、ほんと  みんな次も頑張ってねー」

「西住、行くぞ」

「みなさんはこのメニューに従って練習を進めてください」

 

 

「西住ちゃんさー 今の大洗ってどう思う?」

「今の大洗?」

「そうだ 先日の聖グロ戦以降、練習に励んでいるが実力についてはどう思っている?」

(…………)

「何でも言っていいよ」

「確かに聖グロリアーナ戦以降、皆努力している 操縦や射撃は練習すれば上達するだろう

 だが、試合の中での瞬時の判断力や精神的な強さは練習だけでは身につかない」

「実戦経験が足りないってこと?」

「試合を経験することで今の実力や今後の課題が見えてくるはずだ」

「やはり試合か……」

「それと」

「?」

「練習試合に勝ったことで一部の生徒に、地に足がつかないような雰囲気を感じる」

「浮かれているということか」

「そうだ」

「確かに強豪相手に勝ったからねぇ」

「……もし場所が大洗でなければ、相手に油断がなければ、間違いなく負けていた」

「そりゃそうだよ 一度そう言っておいた方がいいんじゃない?」

「そうだな」

「でも、もし次の練習試合でひどい負け方をしてしまったら……」

「負けて学ぶものもある」

「……そうですね」

「会長、西住も同じ意見のようですし」

「そうだね よろしくー」

(しかし、時期も時期だ 練習試合を受けるような学校があるのだろうか?)

 

 

「隊長から話がある」

「なんだろー」

「この前の練習試合のことじゃない?」

「いいか、よく聞け 大会まで時間があるからといって気の抜けた練習をするな」

(!)

「練習試合に勝利し浮かれる気持ちはわかる だが、戦車道強豪の実力はあの程度ではない」

(…………)

「優勝を目指す以上、大会での負けは許されない いいな!」

(確かに浮かれてたかも……)

(実力はあの程度ではない、か)

――――はい!

「一週間後にもう一戦、練習試合を予定している!」

――――えっ!?

「次も勝ってねー」

「今日は解散ッ!」

――――おつかれさまでしたー!

 

「あの、先輩! 会議どうでしたか?」

「意見は一致していた」

「そうだったんですか」

「西住殿も、もう一度練習試合をするべきだと思っていたんですか?」

「ああ」

 

「とりあえず、今はこんなものでしょうか」

「だね みんなもやる気出てきたみたいだし」

「次の練習試合の相手、早く見つけないといけませんね」

「どこか受けてくれるといいんですが……」

「ま、どうにかなるんじゃない?」

 

 

 

 

「会長っ! やりました! マジノ女学院が練習試合を受けてくれました!」

「やりましたね会長!」

「だなっ!」

(マジノ女学院か…… さーて、どうなるか楽しみだね)

 

「みんなー、報告があるよー」

「なんですかー?」

「次の練習試合の相手が決まった 相手はマジノ女学院だ」

――――マジノ女学院?

「マジノ女学院って、どんな学校なんですか?」

「西住ちゃん、簡単に説明よろしくー」

「マジノ女学院は防御主体の戦車道をする学校だ」

「聖グロリアーナとはまた違ったドクトリンの学校ですね!」

「守りが堅いということですか?」

「そうだ」

「どんな学校かはわかっただろうし、練習はじめよっか」

――――よろしくお願いします!

 

「M3接近中! 距離900 よく狙え!」

「承知ッ!」

「撃て!」

ガァン!

「やったぜよ!」

「Ⅲ突は待ち伏せに向いた車両だ 敵と相対するときは物陰に隠れるか窪地に身を隠せ」 

「了解!」

「M3は不用意に平地に出るな 特に敵の居場所が分からないときは気をつけろ」

「はいっ!」

 

「さすがですね先輩!」

「かっこいいです!」

「当然だ  それよりも、皆が上達してきている」

「本当ですか?!」

「西住さんにそう言われると、とても嬉しいです」

「聖グロリアーナとの練習試合が終わって間もないのに、よく次の相手が見つかったな」

「また負けたらなにかさせようとしてるんじゃ……」

「だろうな」

「私は戦車に乗って戦えればそれでいいです!」

「ゆかりん……」

 

「次の試合、何としても強くならなければ……」

「簡単にはいかないだろうけどね」

「西住が言った通り、我々には経験が足りません 前回の聖グロリアーナ戦も、西住とⅢ突に

 頼りきりで、満足に戦えたとは言えません」

「誰かは至近距離で外すし」

「す、すいません……」

「ま、こんなところで考えてても仕方ないって」

「……そうですね」

「みんな勝つために練習やってることだし」

「よく頑張ってくれてますよね」

「全国で負けるわけにはいきません」

「……そうだな」

「そう言えばマジノで最近いろいろあって、隊長が変わったと聞きました」

「そうなの?」

「えっと、たしか……  エクレールさん、だったと思います」

「ふーん  健康上の理由かそれとも下克上か不信任か」

「会長……」

「冗談よ冗談」

 

 

 

マジノ女学院

「エクレール様」

「フォンデュ、なにかしら?」

「大洗の情報がまとまったのでお持ちしました」

「ありがとう  つい最近、聖グロリアーナと練習試合をしたしたそうね」

「そのようですね  調べてみてなかなか面白いことがわかりました」

「面白いこと?」

「エクレール様の驚く顔を拝見できそうです」

「なかなか底意地のいい言い方を……」

(……!)

「に、西住!?  なぜ西住流の名前がこんな学校に!?」

「私も驚きました 黒森峰で隊長をされていた『西住まほ』さんです 誰かさんが憧れている

 流派のようですが」

「……誰の話をされているのかはわかりませんが、戦車道を嗜む乙女で西住流の名を知らない

 方がいらっしゃるなら、ぜひお会いしたいものですわ」

「島田流と双璧をなす存在ですからね」

「それにしても、あの黒森峰の西住まほさんが……」

「はい」

「い、今のマジノであの西住流と……」

「エクレール様」

「なにかしら」

「確かに西住流ではありますが、あの黒森峰ではありません 西住流といえどもつい先日まで

 戦車道がなかった学校です  残念ながら、エクレール様の考えておられるような西住流は

 見ることができないとお見受けします」

「でも、練習試合で聖グロリアーナに勝利したのでしょう? 十分強いではありませんの」

「そうですね」

「……次の戦車道の時間、作戦会議といきましょう」

 

 

 

練習試合前日

「いいか貴様ら! 明日はいよいよマジノ女学院との練習試合だ!」

「今回は聖グロリアーナの時と違い、マジノ女学院の演習場での試合となります」

「アウェーってことだね」

「とにかく前回の試合よりも一層の、諸君の奮闘に期待する!」

 

「明日は前回のようにはいかないぞ!」

「はい!」

 

「今度こそ頑張ろう!」

「おーっ!」

 

「我々も前回同様活躍するぞ!」

「鬨の声を上げよ!」

「Montjoie!」

「それだ!」

「それを言うのはフランス側だろ」

 

(皆、やる気十分だな)

「みんな、明日はその調子で頑張ってねー」

「では後の整備は自動車部に任せて解散!」

――――お疲れ様でした!

 

「隊長!」

「なんだ」

「あの、もう少し練習してもいいですか?」

(!)

「いい心がけだな」

「我々も!」

「もう少し練習していいですか?」

「自動車部」

「はい」

「今から練習しても整備は間に合うか?」

「もちろん、間に合わせますよ」

「……助かる」

「いえいえ」

「私たちもやりましょう!」

「そのつもりだ」

 

「いよいよ明日ですね」

「だねー」

「前回の試合から今日までの練習で多少なりとも成長できていればいいのですが……」

「そんなに心配?」

「……はい」

「ま、西住ちゃんの指揮なら大丈夫でしょ」

「確かに西住が指揮をした聖グロ戦は勝利を収めましたが……」

「だから明日、練習試合するんでしょ?」

「……そうですね」

「聖グロ戦思い出してみなよ 1年生チームが逃げ出して、バレー部が撃破されて、私たちも

 撃破されて…… それでも西住ちゃんの指揮で勝てたんだし」

「はい」

「個々が成長すれば西住ちゃんの指揮なら優勝できるでしょ」

「……そうですね!」

「はいっ!」

ズドンッ

「ん?」

 

「あいつら、明日は試合なのにどういうつもりだ!」

「明日の試合の前にもう少しだけ練習させてほしいって言われまして」

「自動車部……  し、しかし整備は大丈夫なのか?」

「まー問題ないですよ 明日の朝までには何とかします」

「本気か!?」

「明日の試合、おもしろくなりそうだね~」

 

 

[newpage]

 

 

練習試合当日  マジノ女学院演習場

「なんかだだっ広い原野だねー……」

「さすが、マジノ女学院の演習場です フランスっぽいですね」

「みんなー、今回も負けたら素敵な罰ゲームをプレゼントするよー」

「今頃言うんですか……」

「も~やだ~」

(いよいよ2回目の練習試合か……)

「かーしまー 表情硬いぞー」

「す、すいません……」

「おっ、対戦相手のお出ましだな」

「あれがマジノ女学院の隊長?」

「お、おそらく」

「おそらく?」

「なんでも隊長が代わったとの噂で」

「なにそれ、なんか怖そう……」

 

「Enchante マジノ女学院隊長のエクレールと申します」

「大洗女子生徒会長の角谷だ」

「広報の河嶋だ 今回は練習試合を受けていただき感謝する」

「こちらこそ」

 

「なんか普通そうだね」

「そうですね」

 

「ところでひとつお伺いしたいのですが、隊長の西住さんはいらっしゃる?」

「私が隊長の西住だ」

(……!)

「……あ、失礼しました マジノ女学院、隊長のエクレールと申します 西住流の方と戦える

 なんて光栄ですわ」

「よろしく」

「今日は全力でやらせていただきますわ  それでは、ごきげんよう」

 

「とても堂々とした方ですね」

「2年生の隊長と聞いていたが……」

(2年生、か  ……みほはどうしているだろうか)

「相手にとって不足なし、だね」

 

 

「エクレール様 どうでしたか、あこがれの西住流との対面は?」

「フォンデュ そういう言い方はおやめなさい? 士気にかかわりますわ」

「……今だけです」

(西住流そのものというような質実剛健さを感じました でも、何か少し……)

「……侮っていいはずがない 相手にとって不足なし!ですわ!」

 

 

「なんか相手の人、強くなさそうでしたね」

「いや、油断はできない」

「でも、なんかオーラがないっていうか……」

「とりあえず、西住から作戦説明だ」

「今回は聖グロリアーナ戦の時と違い、戦場がマジノ女学院の演習場、要するにアウェーだ

 地の利はマジノ女学院側にある 過去の戦い方を見ると、重戦車を中心とし周囲を軽戦車で

 固める陣地防衛戦術を基本としている 戦車については聖グロリアーナほどではないものの

 装甲は厚い だが、側面やエンジンブロックを狙えば撃破できる」

「基本は回り込んで側背を撃つ感じだね」

「その通りだ 互いに連携を取り相手の弱点を突く」

「決まったな! いいかお前たち! 今回も前回同様5対5の殲滅戦だ!  1輌撃破しても

 気を抜くんじゃないぞ!」

「乗り込め!」

――――はい!

 

(この練習試合で何を掴むかによって、公式戦で大洗がどう戦っていくかが決まると言っても

 過言ではない その為の練習台になってもらうぞ、マジノ女学院!)

「さて、うまくいくかなー?」

 

(……今度は絶対に逃げない!)

 

 

 

『これより マジノ女学院 対 大洗女子学園の練習試合を始めます  試合開始!』

 

 

「戦車前進」   「En avant!」

 

 

「西住殿」

「なんだ」

「今日の大洗とマジノの戦力、かなり拮抗してると思うのですが」

「どういう意味だ?」

「実は、試合開始前にマジノの編成をこっそり見てきまして」

「ゆかりんなにやってるの……」

「偵察がてらR35を一目見ておこう…… いえ、確認しておこうと思いまして そうしたら、

 マジノのR35が2輌ともSA38の長砲身に換装されていました!」

(長砲身だと?)

「……つまり、どーゆーこと?」

「主砲の威力が上がっている 短い砲身ならば500mで12ミリの装甲を貫く程度だが、長砲身

 ならば43ミリの装甲を貫くことができる」

「えっと……」

「敵はどの戦車でも500mの距離でⅣ号や38(t)、八九式を撃破できるということです!」

「……え!? それってまずくないですか!?」

(それでも聖グロリアーナのマチルダのほうが強いんですが……)

「過去の記録に長砲身はなかったから今回が初投入、か」

「油断できませんね……」

「でもこちらにはⅢ突があります!」

「それはマジノもわかっているはずだ それを踏まえたうえで防御陣地を構築している」

「はい」

「沙織、十分に警戒するよう伝えてくれ」

「はい!」

 

 

 

「……大洗の5輌、来ましたわね」

「報告の通りですね」

「クラブ・ブランに連絡! 『アラス作戦』開始ですわ!」

『Compris!』

『エクレール様 全車射撃準備、完了しています いつでも!』

「まず探りを入れますわ スペード・ブル、クラブ・ブル、射撃用意!」

 

 

 

「撃ってきた!」

『やりかえしちゃえ~!』

「落ち着け、ただの威嚇だ このまま直進」

「でも、敵に狙われているのでは?」

「……次の発砲と同時に散開 敵を包囲する」

「今のをそのまま伝えておきますね」

 

 

 

(あれくらいの砲撃で撃ち返してくるとは…… 統率がとれていないと言っているようなもの

 ……とはいえ、こちらも似たようなものですが)

「大洗、こちらの射程に入ります!」

「各車照準合わせ! Feu!」

 

 

 

「散開!」

(しかし、今までのマジノと何かが違う……  隊長が変わったからか?)

 

 

 

「各個に迎撃!」

(大洗はセオリー通り、包囲戦を仕掛けている…… マジノがこれまで散々やられてきた戦法

 ですわね)

「後衛! 背後だけは絶対に取られないでくださいまし!」

ドガァン!

 

(!?)

「何事!」

「エクレール様! 前方10時です!」

「……! Ⅲ突があんな後方に!」

(射程を生かすように後方にⅢ突を配置…… この距離ではⅢ突の装甲は貫けませんわ)

「……いいことっ! 我々のエスプリ、大洗の方々に見せつけて差し上げなさい!」

(とは言いつつもわかってますの? このままではジリ貧ですわよ?)

 

 

 

「な、なんかいけそう?」

「強くないかも……?」

 

「アターック!」

「命中です!」

「敵、こちらを指向中!」

「急速前進ー!」

 

「全体的にこちら側が押していますね」

「おーいいねー」

「これは行けるぞ!」

 

(……ん?)

「……」

パタ

「せ、先輩! 危ないですよ!」

「わかっている」

(シャールB1bis、ソミュア、ソミュア、ルノーR35……  4輌?)

「まさか……」

(いや、あのマジノだ さすがに……)

「先輩?」

(だが1輌いないのは事実だ ……警戒はしておくか)

「Ⅲ突 聞こえるか」

『こちらⅢ突 どうぞ』

「R35が1輌、そちらに向かっている可能性がある 周囲を警戒しろ」

『? どういうことだ?』

「防御陣地に4輌しかいない」

『……了解!』

 

「なんだったんだ、エルヴィン」

「どうやらR35が1輌、こちらに向かっているかもしれないらしい」

「? 防御陣地を敷いているんじゃないのか?」

「4輌しかいないそうだ」

「つまり我々Ⅲ突を狙っている と」

「おそらくな」

パタ

(……! いた!)

「10時方向にR35発見!」

「どうするぜよ」

「……隊長 どうする?」

『停車しているか?』

「いや、まだ走行中だ」

(まだこちらが気づいたことには気づいていないはず ならば……)

『……狙え  絶対に当てろ』

「Einverstanden!」

「砲を向けるぜよ」

「もんざ 外すなよ」

「なんだその呼び方は」

 

 

 

『まもなく到着します 到着次第、Ⅲ突に砲撃します』

「当ててくださいまし!」

『Compris!』

(これでⅢ突を撃破できれば……)

「……え? なぜⅢ突の砲がこちらを」

 

 

 

「R35が止まったぞ」

「今だ、撃て!」

 

 

 

「後退! 後退!」

ドガンッ!

  

「! クラブ・ブランが!?」

『すみません! 気づかれていたようです!』

(なんてこと……!)

 

 

 

『Ⅲ突 よくやった』

「ふぅ…… 外したらどうしようかと思ったぞ」

「よくやった左衛門佐!」

「やったぜよ!」

 

 

 

(……気づかれていた以上、もう防御戦術のふりをする必要はありませんわね)

「全車両! 動きますわよ!」

 

 

 

「先輩! マジノの戦車が!」

(……!)

「マジノが動いた!」

(やはり陣地防御戦術ではない、間違いなくマジノは変わっている!)

 

「マジノが機動戦だと!?」

 

「嘘!? どうしよう!」

「ひいぃぃぃぃ!」

 

「我々も逃げるか?」

「念のためそうするか 合流できそうもないし」

 

「キャプテン!」

「撤退撤退ー!」

 

「に、逃げろ! ってどっちに!?」

 

『合流します!』

『助けてくれー!』

 

「こうなったら他のチームと合流しよう!」

「そそそそうしようよ!」

 

(まずい…… 勝手に合流しようとしている)

「……うろたえるな、落ち着け!」

(!)

『隊長!』

「地の利はマジノにある 合流すれば包囲されて相手の思うつぼだ 合流せずに動き回れ」

 

『りょ、了解です!』

 

「河西! ここは踏ん張りどころだ!」

 

「的確な指示! さすが西住殿です!」

「包囲されれば我々の負けだ 麻子、隙を作らないように動き回れ」

「了解」

(さて、次をどうするか……)

「……沙織 今から言う作戦を通達してくれ」

「はい!」

 

 

 

(こちらの誘いに乗って固まろうとしない…… 統率を取り戻している?)

「……でも、追っているのはマジノですわ!」

 

 

 

「先輩、BチームとEチームががそろそろ交差地点に入ります」

「Ⅲ突は今どこにいる」

「……後方5時、300mを走っているそうです!」

「わかった」

 

 

 

(反対の戦車群がこちらへきている?)

「……そうですわ!」

(立ち直ったと見せかけて合流するつもりですわね!)

「クラブ・ブル! 前方を警戒!」

『はっ、はい!』

(装填、まだなのですが……)

「前方M3を確認!」

 

「敵は目の前に来て…… ん?」

(M3は味方と交戦中……)

「各砲手撃ち方用意!」

(えっ、まだ装填できてない!)

(……!? 合流しない!?)

 

 

 

「今! 撃って!」

ズバンッ!  

 

 

 

(くっ…… ぬかりましたわ!)

「エクレール様!」

 

 

 

「華、前方ソミュア!」

「はい!」

ズドンッ! 

 

 

 

「い、一体何が……?!?」

(……! M3とすれ違った2輌がこちらへ向かっている!?)

 

 

 

「お前の相手は!」

「私たちだーーーー!」

 

「戦車停止!」

 

 

 

(もうなにがなんだか……!)

「クラブ・ブル! いったん離脱しますわ!」

『Compris!』

(……Ⅲ突!? 停車してこちらを)

「エクレール様っ!」

ズドォン!    

「クラブ・ブル! 大丈夫ですの!?」

「は、はい ケガはありません!」

(クラブ・ブルが庇わなければやられていましたわ……)

 

 

 

「やったぞ! 2輌目だ!」

 

「まだ浮かれるな あと3輌!」

『了解です!』

 

「八九式、38(t)はⅢ突の援護に向かえ 1輌ずつ撃破するぞ」

 

 

 

(ぐ、うっ……)

『エクレール様! このままでは!』

「……っ! マジノ全車煙幕展開!」

 

 

 

「先輩! マジノの戦車が!」

「……深追いはするな」

 

「くそっ! ここまで来ていながら……」

「まー、しょうがないねー」

 

「……完全に見失ったか」

「これからどうしますか?」

「森の中にいるはずだ 偵察を出す」

 

 

 

 

 

「M3、様子はどうだ?」

『敵影、いまだ発見できません』

「森の中に必ずいるはずだ 引き続き偵察を続けてくれ」

『了解です!』

 

 

 

『敵の攻撃を受けました! ソミュア発見! ……ソミュア、反転して逃げ出します!』

「距離を取りつつ追撃しろ」

『了解です!』

「全車、周囲を警戒!」

『隊長! 10時の方向にソミュアです! あっ、逃げました!』

『隊長、どっちを追うんだ!』

「M3に仕掛けてきたソミュアを追う 周囲を警戒しながらM3と合流せよ」

 

 

 

『エクレール様、大洗の本隊がそちらへ向かいました!』

「確認しましたわ! そちら配置よろしく!」

(まったく好き放題撃って下さって……)

「この戦車は人気者ですわね とにかくお行儀悪く逃げてくださいまし!」

(防御戦術、機動戦術とどちらもうまくいかなかった…… でも、だからこそ挑戦し甲斐が

 ありますわ  この作戦で!)

 

 

 

(シャールB1bisの所在がわからない…… Ⅲ突は守らなければならないな)

「陣形を変えるぞ M3は後方へ 38(t)は左へ Ⅲ突は中央へ移動しろ」

――――了解!

「M3 副砲を後方へ向けておけ」

『了解です!』

「……森を抜けるぞ」

『隊長! 後方6時にシャールです!』

『前方のソミュアがターンしています!』

「M3! Ⅲ突を護れ!」

『は、はい!』

 

 

 

「M3覚悟!」

「八九式、もらいましたわ!」

 

 

 

「あゆみ! 撃って!」

「うん!」

 

 

 

「ダイヤ・ブル、ハート・ブル! Feu!」

ズドンッ! ドンッ!    ドガンッ!

 

 

 

『すいません、やられましたーー!』

「先輩! Bチームが!」

「大丈夫か」

『ケガはありません!』

「北に方向転換、このまま離脱するぞ!」

――――了解!

 

 

 

『エクレール様、大洗が北へ逃げます!』

「逃がすものですか! 追撃ですわ!」

 

 

 

 

「マジノが撃ってきました!」

「次の丘を登ったところ、ポイントK9で二手に分かれる」

『何!? 戦力を分散することになるぞ!」

「再度地形を利用されるかもしれない そうなる前に勝負を決める」

――――りょ、了解!

「……武運を祈る」

 

 

 

(戦力を分散させた? 攪乱を狙っているんですの?  いや、そんなことをしている余裕は

 ないはず……  これは挑戦状!)

『エクレール様』

「わたくしはⅣ号のご招待を受けます ハート・ブル、ダイヤ・ブル両車輌はⅢ突と38(t)の

 お誘いを!」

 

 

 

「こっちに2輌来たか」

 

「かーしま、マジノ牽制ー」

「はい!」

『どうする、Eチーム』

「んー……」

 

「撃て!」

ズドン!

 

 

 

ガイン!

(走行射撃で当てるだなんて!)

「みなさん! 私たちも負けていられませんわ!」

 

 

 

(火力はソミュアのほうが上  装甲もソミュアが上、か)

「隊長、ほかの車両の状況は私が把握しますから集中してください」

「……助かる」

「聖グロ戦の時より余裕を感じる 操縦は任せてくれ」

(皆、聖グロ戦の時より頼もしいな……)

「右手の斜面を全力で駆け上がれ」

 

 

 

「何か仕掛けてくるつもりですわね……  進路このまま、受けて立ちますわよ!」

 

 

 

「敵は38(t)とⅢ突!」

「後ろを取っている分、攻守ともにこちらが有利!」

 

 

 

「2輌引きつけたんだけど…… どうしよっかこれ」

『Eチーム! 考えがある!』

「お、どんなどんなー?」

 

『しかし一歩間違えれば大変なことになるぞ!』

「Ⅲ突を最優先で狙ってくるはずだ! やるしかない!」

 

「……賭けてみるしかないかねー」

「……よし!その賭け乗るぞ!」

『了解!』

 

 

 

(38(t)が斜面を下った!)

「38(t)は私が引き受けます! ハート・ブルはⅢ突を!」

『りょ、了解しましたわ!』

(それにしても、この期に及んでさらに戦力を分ける……?)

 

 

 

「作戦通りシャールがかかったぞ! このまま……」

ズバン!

「ひぃっ!」

「桃ちゃんしっかり牽制してよ!」

 

「おりょう! やるぞ!」

 

 

 

(Ⅲ突が斜面を下った? 合流するつもりかしら)

「そんなこと許しませんわ!」

 

 

 

「ソミュアが追ってきたぞ!」

「斜面に向けて最大戦速!」

 

「シャールが斜面を上った! いくぞ!」

「まかせるぜよ!」

 

 

(しまった、このままではダイヤ・ブルが!)

「Ⅲ突を追撃!」

 

(何としても撃破しなければ……!)

「Feuer!」

 

 

 

「急停止のち全速後退だ!」

ギギギギギギギ

 

「小山、今!」

「はい!」

 

 

(んなっ!?)

「なぜ急停止を!? でも好機です!  撃て!」

「はい!」

ズドンッ!  

「38(t)を追いますわよ!」

(……! 38(t)が真横に……!)

 

 

 

「桃ちゃん! 今だよ!」

「いけーーーー!」

ドガンッ!

 

 

 

「坂を上がりきったところでターン! ソミュアとの距離を詰めるぞ!」

 

 

(来る! 望むところですわ!)

 

 

「突撃!」       「Charge――――!」

 

 

(……今!)

「斜面を撃て!」

「は、はい!」

 

 

 

「外した? ……!」

(違う! 煙と破片で前が!)

 

 

「横へ回れ!」

 

 

「Feu!」

(……Ⅳ号がいない!)

 

 

「撃て!」

 ドガンッ!

 

 

 

 

『マジノ女学院全車両走行不能! 大洗女子学園の勝利!』

 

 

 

 

(…………)

「エクレール様」

(?)

「新しいお召し物です 挨拶に行かれると思いまして」

(助けられっぱなしですわね)

「……ありがとう」

 

「やりましたね先輩!」

「皆が頑張ったからだ 私1人の力ではない」

「まさか、こんな試合になるとは思いもしませんでしたわ」

「マジノの」

チュッ

(……!)

「……フランス式か」

「ええ 久しぶりに楽しい試合でしたわ」

「いい試合だった 戦術を変えたのには驚いたよ」

「ありがとうございます  偶然があったとしても、戦車道はチームワーク 個人がどれほど

 頑張っても勝つことはできませんわ 今回の勝利は大洗女子の皆さんの勝利ですわね」

「チームワークで言えばそちらの方が上だ」

「ふふっ、ありがとうございます  次に会えるのを楽しみにしてますわね」

「……大会で会おう」

「フォンデュ 帰りますわよ」

「はい」

 

(………………)

「Merde!  もう少しで勝てたかもしれませんのにーーー!」

「エ、エクレール様……」

「ものすっごく、くやしいですわ!」

(エクレール様……)

「フォンデュ! 帰ったらもっともっと練習しますわよ! 今度こそ絶対勝ちますわ!」

「頑張ってくださいね」

(他人事みたいに……)

 

「どうでしたか? エクレール様の指揮は」

「カリソン…… 別にいつもの話し方でいいよ」

「そりゃどーも   で、どうやった?」

「……私も試合中、乗り気になった」

「そらよかった」

「悪くないわね こういう戦い方も」

「やっと正直になったなぁ」

「何を言っている」

「なんかおかしいか?」

「……いや」

 

 

「やったねー、西住ちゃん さすがだよ」

「機動戦だと気づいていなければ、勝てていたかどうかわからない」

「またまたー、謙遜しちゃって」

「事実だ」

「どう? みんなの腕は」

「……頼りになる」

「そっか  練習試合やった甲斐あったね」

「ああ」

「じゃ、帰ろっか」

「そうだな」

「あの、隊長!」

「澤か どうした?」

「力になれずすみませんでした! 次に活かせと励ましてもらったのに……」

「……撃破することだけが戦い方ではない 八九式を見ればわかるだろう」

(……!)

「お前たちがⅢ突を守ってくれたおかげで勝てたようなものだ 自信を持て」

「……はい!」

 

 

 

 




(大会も近づいてきたわね  ……前隊長、今、どこでなにをしているんですか?)
「そこの生徒さん よろしいかしら」
「ん? ……あなた、聖グロリアーナの」
「あら、ご存知で?」
「戦車道の生徒だもの 当然よ」
「それは丁度よかったわ 西住みほさんはいらっしゃるかしら? 大事な話があるの」
「隊長に用?」
「隊長さんだったの 彼女の言っていたとおりね」
(彼女……?)
「エリカさーん ……あれ? そちらの方は」
「あなたに用があるらしいわよ」
「私に?」
「あなたが、西住みほさん?」
「は、はい そうです」
「……実は、あなたのお姉さんと戦車道の練習試合をしましたの」
(!?)
「あ、あの、お姉ちゃんがどこの学校にいるのか知ってるんですか?!」
「ええ」
「お、教えてください! お願いします!」
「……『大洗女子学園』ですわ」
「『大洗女子学園』?」
「まあ、ご存じないでしょうね なんでも戦車道を復活させたとか」
「戦車道を復活……」
「お姉ちゃんが、戦車道を……」
「……彼女がなぜ転校したかは聞きませんわ この情報、どうするかはあなたたちに任せます
 それでは」
(前隊長……!)
「お姉ちゃんが戦車道を……! みんなに伝えないと!」
「待って!」
「ど、どうして?」
「今言うべきじゃないわ 抽選会で皆にわかることだし」
「でも、みんなに言ったほうが……」
「それに、今言えば『あなたが隠していた』って思われるわよ」
「あっ……」
「そういうことよ」
「……そうします」



「よろしかったのですか? 話してしまって」
「こんな言葉を知っている? 『成長は、自分の弱さを受け入れ始めたときに始まる』」
「ジャン・ヴァニエですね」
「西住まほさんは『妹は自分とは違う』と言っていました それはきっと『西住流』として、
 ということなのでしょう もし、彼女が姉に対してコンプレックスを抱いているのだったら
 『姉と戦わないといけない』と思うでしょうね それを受け入れた時、彼女の力につながる」
「だからわざわざ言いに行ったわけですか」
「ええ、そうよ」

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