「全国大会の抽選会 そろそろだね」
「そうだな」
「どこと当たりたくない?」
「どこが相手だろうが優勝するために絶対に勝つ いや、勝たねばならない」
「……そうだね 西住ちゃんがいてくれて本当によかったよ」
「それに、私自身も負けるつもりは全くない」
「黒森峰が相手でも?」
「絶対に勝つ」
「ほんと、頼もしいよ きっと、みんな驚くだろうね」
「……ああ」
「記者とか報道陣に囲まれたりして」
「ダージリンから聞いた いろいろ書きたてているらしいからな」
「そうなの? じゃあ大変だね」
「そちらも気をつけてくれ」
「ん? なんで?」
「『引き抜き』とまで噂されているからな」
「へー」
「……学校側が何か言われるとか考えないのか?」
「考えすぎでしょ それは違うって西住ちゃんが言ってくれればいいだけだし」
「当然そのつもりだ 事情を話す気は無いが」
「それに」
「それに?」
「そういうの広報の河嶋の仕事だし」
「…………」
(大変だな、この会長についていると)
「失礼する」
「ばいばーい」
(釈明か…… とりあえず質問の内容を予想して書き出そう)
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
・何故黒森峰を去ったか →
・何故大洗を選んだのか →
・何故大会に出るのか →
・引き抜きについて →
・何故今まで姿を現さなかったのか →
・これからどうするつもりなのか →
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
(黒森峰を去った理由を話さないと大洗を選んだ理由の説明ができないな だが……
……破門されたことだけは隠すとするか)
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
・何故黒森峰を去ったのか →私は黒森峰に必要のない人材
・何故大洗を選んだのか →強豪校には断られた
・何故大会に出るのか →出場は私が大洗に来る前から決まっていた
・引き抜きについて →事実無根
・何故今まで姿を現さなかったのか →現す必要があるのか
・これからどうするつもりなのか →戦車道を続ける
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「……こんなところか」
(うまくいくだろうか……)
抽選会当日
「ついに来たか……」
「だねー」
「ところで西住、なぜ帽子をかぶっている?」
「私が言った」
「会長がですか?」
「ほら、他の高校に対してのサプライズ、みたいな?」
「……正直、意味があるとは思わない」
「ま、いいじゃん」
『黒森峰女学園 お願いします』
(やはりみほが…… ?)
「西住さんに似てますね」
「そら妹なんだし似てるでしょ」
(あれは、みほなのか……?)
『黒森峰女学園 8番!』
「黒森峰とサンダース 強豪同士の対決だな」
「だねー ……ん? 西住ちゃん、どったの」
「……ん ああ、なんでもない 大丈夫だ」
「そろそろだぞ 行って来い」
「西住ちゃん 頼んだよー」
「任せておけ」
(そろそろ帽子を取るか)
「あんたが初参加の大洗ってとこ?」
(プラウダの……)
「プラウダ高隊長のカチューシャよ 参加するとかなかなか度胸あるじゃない」
「……どうも」
「せいぜい調子に乗らないことね あんたたちみたいな無名校なんてすぐ負けるのがオチよ
私たちは去年優勝したから余裕だけど…… ちょっとあんた」
(さすがに気づいたか?)
「なんでまだ帽子かぶってるのよ 取りなさいよ 礼儀ってものがあるでしょ」
(……意外と鈍いな)
「……久しぶりだな カチューシャ」
「久しぶり? 大洗に知り合いなんて…… ああああああああ!」
「声が大きい」
「あ、あんたなんで 黒森峰の隊長じゃ」
「カチューシャ」
「あ、ノンナ! これどういうことよ!」
「どういうこともなにも、去年の黒森峰の隊長である西住まほさんが行方不明だということは
随分と話題になっていましたよ 私もカチューシャに申し上げたはずですが」
「聞いてないわよ! ……まあいいわ それよりアレ、あんたじゃなかったの?」
「アレ? ……みほのことか?」
「みほ? もしかしてあんたの妹?」
「そうだ」
「さっきすれ違ったとき声かけてきたけど、あんたそのものだったわよ」
「私そのもの?」
「『去年は世話になったな』とか、『今年は負けるつもりはない』とか あんたに妹がいる
ことは知ってたけど、あんなにそっくりなわけ?」
「……いや 私とは違う」
「見た目までそっくりじゃない」
「私も驚いた」
「ふーん ま、去年は世話になったわ あんたのおかげで優勝できたし」
「そうか」
「……煽りがいがないわね」
「事実だからな」
「西住流が2人いるんだったら黒森峰とあんたたち、両方ボコボコに叩きのめしてあげるわ
せいぜい頑張」
『大洗女子学園さん 準備をお願いします』
「はい」
「……せいぜい頑張ることね じゃあね~ ピロシキ~」
「До свидания」
(相変わらずだったな しかし、『私そのもの』か……)
『大洗女子学園 お願いします』
(空いているのは4,12,13,15か…… 4は避けたいところだな 12,13,15……
……できれば13!)
『大洗女子学園 13番!』
(一番いいところを引けたか これで少しは経験を積ませて強豪と戦えそうだ)
「『ちはたん』と読むんですか?」
「はい、九七式中戦車の愛称ですね 読み方が同じなだけですが『知波単』という字に意味が
あるそうですよ」
「へー 強いの?」
「ベスト4になったことはあるらしいですが、ここ最近は苦戦が続いてますね」
「じゃあ勝てるかな?」
「ただ、戦車の保有数はそれなりにあるのでこちらが不利になると思いますよ」
「えー…… うちも戦車欲しい~」
「こればっかりはどうにもなりませんよ」
「知波単学園か……」
「まー、いいとこ引いてくれたよ」
「ですね」
「戻ったぞ」
「おかえりー くじ運いいね」
「初戦がプラウダだったら目も当てられなかったからな よくやったぞ西住」
(河嶋の言う通りだな)
「西住ちゃん 作戦よろしくねー」
「任せておけ」
「大洗女子学園ですか」
「初めて聞く名前であります」
「どこだろうと我々の戦い方を通すまで!」
「ですね! 隊長!」
「その通り 突撃あるのみだ」
「先輩、どうしました?」
「先に出ていてくれ 後で行く」
「なぜ、今出ないのですか?」
「私は記者に囲まれるだろう 一緒に出れば迷惑をかける」
「あ、そういうことでしたか…… 私たちのことを思ってのことなのですね」
「そういうことだ」
「では、我々は先に行きましょう」
「失礼します」
(対策は立てた 大丈夫だろう)
『西住選手! 一言お願いします!』
『西住選手!』
(雑誌記者だけでなくテレビ局まで来ているとは…… 抽選会は中継されていたから当然か)
『西住選手!』
「落ち着いてください 質問にはここで答えます」
『西住選手、なぜ黒森峰を去ったのですか?』
「黒森峰を勝利に導くことができない隊長は、黒森峰には必要ない 私はそう考えています
だから黒森峰を去りました」
『隊長を降りるだけでは駄目だったのですか?』
「負けの責任は私にあります 居続けるわけにはいきません」
『次の質問です なぜ転校先として、大洗を選んだのですか?』
「強豪校にも転校を申し出ましたが、断られました」
『それはなぜですか?』
「私の知るところではありません」
『では転校について、破門や引き抜きという一部報道は事実なのですか?』
「大洗を選んだのは私です」
『つまり事実とは異なる、と』
「そのような記事が書かれるということは、書いた方からすれば何かしらの根拠があるのだと
思います 私が事実かどうかを答えようが、その報道を信じる方もいるでしょう」
『なぜ、今まで公の場に姿を現さなかったのですか?』
「ここで姿を現す予定でした 今ここで質問に答えているので何の問題もないかと思います」
『……確かにその通りです』
『ということは、大洗が大会に出ることは前々から決まっていたということですか?』
「元から戦車道を復活させて大会に出るつもりだったそうです 私は復活には直接関与して
いません」
『大洗から声がかかってきたというわけではないんですね?』
「はい」
『今も戦車道を続けていますが、戦車道をやめようとは考えなかったのですか?』
「考えたこともありません 戦車道は私の内で一番大きなものです」
『…………』
「……もうよろしいですか?」
『あ、待ってください西住選手! 最後にもう一つ!』
「はい」
『黒森峰の隊長である妹さんに何か一言!』
「……決勝で会おう」
『ということは決勝まで勝ち進むつもりなのですね?』
「当然です」
(……何とかなったか)
「せーんぱい お疲れ様です」
「わざわざ待っていたのか」
「はい! これから戦車喫茶に行こうという話になりまして 一緒に行きましょう!」
「戦車喫茶…… ルクレールか?」
「はい!」
「西住先輩は行ったことあるんですか?」
「ああ」
「では、早速行きましょう!」
戦車喫茶ルクレール
「へ~ こんな風になってるんだ」
「いらっしゃいませ 何名様ですか?」
「5人だ」
「5名様ですね 少々お待ちください」
「先輩はいつ、ここに来たことあるんですか?」
「去年だ」
「黒森峰の方とですね」
「そうだ」
「お席へご案内します」
「呼び出しのボタンが戦車になってるんだ」
「本当ですね」
「こういうところがいいんですよ」
「確かに戦車喫茶らしいからな」
(みほとエリカと来た時が懐かしいな……)
「注文は決まりましたか?」
「ああ」
「はい」
「うん」
「では押しますね」
ズドンッ!
「うわっ!」
「ご注文はお決まりですか?」
「ケーキセットでチョコレートケーキ2つといちごタルト、レモンパイ、ニューヨークチーズ
ケーキを1つずつお願いします」
「承りました! 少々お待ちください」
「このボタン、主砲の音になってるんだ」
「この音は90式ですね」
「さすが戦車喫茶ですね」
ズドンッ!
「ん~、この音を聞くとちょっと快感な自分が怖い~」
「わ! なにこれ!」
「これはドラゴンワゴンですね」
「ケーキもかわいいです」
「知波単高校ってどんな学校か先輩は知ってますか?」
「……いつも突撃しているイメージだな」
「そういえば、大会の規定で1回戦は10輌まで出場できるんでしたっけ」
「そうだ」
「10輌ってうちの倍じゃん!」
「フラッグ車は1輌だ それさえ倒せばいい」
「確かにその通りですけど……」
「全国大会ってテレビ中継されるんでしょ? ファンレターとか来ちゃったらどうしよ~」
「生中継は決勝だけですよ」
「じゃあ、決勝行けるようにがんばろー!」
(理由はどうあれ優勝を目指すのはいいこと…… ……!? なんだ? 急に寒気が……)
「……沙織 なんか寒くないか」
「そう? あったかいくらいだけど」
(麻子も感じ取っているのか?)
「ほら、先輩も 食べて食べて」
「そ、そうだな」
「……前隊長?」
(この声……!)
「やっぱり! お久しぶりです、お元気そうで……」
「エリカ…… 元気そうだな みほも元気か?」
「私は元気だ」
(……変だ)
「……『前隊長』、か」
「す、すみません!」
「いや、事実だ」
「エリカ、行くぞ 邪魔になる」
「は、はい 隊長」
(『エリカ』? 呼び捨てだと?)
「待て」
「…………」
「本当に、みほなのか?」
「……私は、『西住みほ』だ」
(……やはりおかしい)
「先輩、どうしました?」
「……いや、なんでもない」
(まるで、自分を見ているような……)
「寒くないですか?」
「大丈夫だ」
「全国大会に出場できるだけで私は嬉しいです 他の学校の試合も見られますし、大切なのは
ベストを尽くすことだと思います たとえ負けたとしても」
「それじゃ困るんだよねー」
「絶対に勝て 我々は何があっても勝たなければならないんだ」
「どうしてですか?」
(どうせうまく誤魔化すだろうが、助け舟を出しておくか)
「私もそう思っている」
(え?)
「私は西住流だ 西住流は勝つことを重んじる流派 だから何があっても勝つ」
「そ、それはそうですが……」
「まあとにかく すべては西住ちゃんの肩にかかってるから 負けたら何やってもらおうかな
考えとくね」
(西住殿がそう考えるのは分かりますが、なぜ生徒会の方々がそう考えるのでしょうか……)
「優花里 どうした」
「は、はい! なんでもありません!」
(何か西住殿に対して協力できることは……)
(協力できること……)
「ただいまー」
(戦車乗りとしての腕前はまだまだな私にいったい何ができるのでしょうか……)
「優花里ー ご飯出来てるわよー」
「はーい」
「おかえり、優花里」
「これ何の映画?」
「スパイ映画らしいよ 特に見るものないから見てるけど 何か見るのか?」
「うん ニュースを……」
(……ん? スパイ映画……)
「優花里ー お皿運んでちょうだい」
「あ、はーい」
(確かスパイ行為はルール上問題なかったはず…… でも、こんな手を使って勝つことは西住殿は
許さないのでは? 情報を取ってきた後で見るかどうかを聞けばいい、かな?)
翌日
「秋山さん、練習に来ませんでしたね」
「メールを送ったのだろう どうだった?」
「全然です 電話かけても圏外ですし」
「どうしたんでしょう……」
「……家に行ってみるか」
「先輩、秋山さんの家知ってるんですか?」
「いや、知らない」
「え?」
「……生徒会に聞いてみるか」
「さすがに知らないと思いますよ?」
「知ってるよー」
「そうなんですか!?」
「戦車道履修生徒の情報くらいは把握してるから」
「も、もしかして私たちのことも……」
「知ってるよ? ンフフ」
「こわ……」
「はい、住所」
「助かる」
「あれ、ゆかりんち床屋さんだったんだ」
カランカラン
「いらっしゃいませ」
「あの、優花里さんはいらっしゃいますか?」
「あなたたちは……」
「友達です」
「ともだち…… 友達!? ああ、えっと」
「お父さん落ち着いて!」
「だって! 優花里の友達だぞ!?」
「わかってます いつも優花里がお世話になってます」
「お、お世話になっております」
「あの……」
「優花里、朝早くに家を出てまだ帰ってないんですよ どうぞ、2階へ」
(……優花里らしい部屋だな)
「どうぞ、食べてちょうだい」
「よかったら待ってる間に散髪、しましょうか?」
「お父さんはいいから!」
「……はい」
「すみません 優花里の友達が家に来るなんて初めてなもので……」
(そうだったのか)
「何しろ今までずっと戦車戦車で、気の合うお友達がなかなかできなかったみたいなんです
戦車道のお友達ができて、喜んでいたんですよ」
(私と初めて会った時、1人でいたのはそういうことか……)
「じゃあ、ごゆっくり」
「良いご両親ですね」
――――ふんっ! んっ
(!?)
「ゆかりん!?」
「あれ、皆さんどうされたんですか?」
「優花里 帰ってきたか」
「連絡がないので心配して……」
「すみません 電源を切ってました」
「つか、なんで玄関から入ってこないのよ」
「こんな格好だと、父が心配すると思って」
「どこに行っていた?」
「……西住殿」
(?)
「実は今日、知波単学園に潜入してきました」
「潜入って?」
「要するにスパイです」
「スパイ!? そういうことしていいの!?」
「試合前の偵察行為は承認されていますから大丈夫ですよ ただ……」
「ただ?」
「見るかどうかは西住殿にお任せします」
「……どういう意味だ」
「私は西住殿に何としても勝っていただきたいのです でも偵察という行為が西住流の流儀に
反するのであれば、このデータは処分します」
「……確かに、西住流としてはふさわしくない行動だな」
(そうですよね……)
「では、データは処分しておきます」
「ただ、前もって連絡しておいてほしかった 心配したぞ」
「申し訳ありません……」
「バレなかったのか?」
「はい まったく」
「……そうか 何にせよ、1回戦を突破せねば」
「頑張りましょう」
「一番頑張んなきゃいけないのは麻子でしょ?」
「なんで」
「明日から、朝練始まるよ」
「……え?」
翌日
「2年B組、放送部の王大河です! 西住先輩でしょうか」
「そうだが」
「少しお話を伺いたいのですが、放課後、時間は取れるでしょうか」
「戦車道の練習が終わった後なら構わないぞ」
「ありがとうございます! あ、これ生徒会からの取材許可証です」
「そうか」
「では練習が終わった後、戦車道倉庫へ向かいますのでよろしくお願いします!」
「何を聞くか、考えておいてくれ」
「はい! それでは!」
「では、今日の練習は以上とする 解散!」
――――お疲れ様でしたー
「あー、甘いもの食べたーい」
「食べ過ぎるなよ」
「はーい」
「私は用事がある じゃあな」
「お疲れ様です」
「……お待ちしてました 放送部まで来ていただけますか?」
「どうぞどうぞ」
「失礼する」
「実は私、新聞部の方にも協力してまして こちらはちゃんとした新聞部の方です」
「よろしくお願いします」
「よろしく」
「新聞というと、校内新聞か何かか?」
「はい 戦車道の全国大会に参加するとのことで」
「ああ」
「そのことでいろいろお話を伺いたいのです」
「そういうことか」
「はい では、始めさせていただきます」
ピッ
「以上です ありがとうございました」
「ありがとうございました」
「意外と多かったな」
「はい、私たちは戦車道チームに注目してますので」
「そうか それはありがたいな ……取材を受けた代わりと言ってはなんだが、頼みを聞いて
もらえないか?」
「頼み、ですか?」
「黒森峰の試合を全て録画してきてほしい」
「決勝で当たる相手を見据えてですね」
「そうだ」
「私も興味はありますし、いいですよ」
「助かる」
「あ、最後に一つ 新聞には載せないのでお聞きしてもいいでしょうか」
「なんだ?」
「テレビの取材で黒森峰から転校した理由を話されていましたが、あれ以外に何かあるのでは
ないですか?」
「……何もないぞ」
「そうですか ありがとうございました」
「失礼する」
バタン
「……どうして最後にあんなことを?」
「うーん 勘なんだけど、なんかありそうなんだよね」
「でも無いって言ってましたよ」
「嘘かどうか見分けられなかったら取材なんてできないわよ」
「……奥が深いですね、新聞部というのも」
「そりゃそうよ 人と人との対話なんだから、相手の真意を読み取らないと ……まあ下手な
ことは書けないけど」
「それはそうですね」
(やはり勘づく者はいるか…… 高校生程度に勘づかれているようでは、本職ならばもっといる
だろうな 私もまだまだということか)
「……帰るか」
(……ん? ノートがない 倉庫に置き忘れたか?)
「9秒! さっきよりちょっと速くなったかも!」
「やった!」
(練習していたのか……)
「まだ居たのか?」
「あ、せ、先輩!」
「いい心がけだな」
「その、先輩の足を引っ張らないようにしないとと思って……」
「…………」
「……先輩?」
「……ありがとう、皆」
(西住殿の笑顔…… なんて素敵な……!)
「私は帰る ほどほどにしてゆっくり休め」
「はい!」
三日後
「どうも! 王大河です!」
「この前の」
「先日のインタビューの記事が掲載された新聞が掲示板に張り出されていますので、その事を
伝えに来ました!」
「そうか」
「はい、それでは!」
(後で確認しておくか)
(新聞見たけど、戦車道か…… いいなあ…… やってみたいけど誰か一緒にやってくれる人
いないかなぁ……)
「これより作戦会議を始める! 西住、作戦を言え」
「知波単学園は突撃を主体とした戦法をとる ……というよりは、ほぼ突撃しかしない」
「隊長、突撃とは具体的にどういうことをしてるんですか?」
「敵のいる場所へ前進し続ける たとえ味方が撃破されようとも構わずにな」
「フラッグ車1輌だけになってもですか?」
「その例は聞いたことがないが、おそらくそうだろう」
「作戦はどうするんだ?」
「会場は山が多めの場所だ 崖のある場所に構え、向かって来る知波単学園を上から撃つ
当然、我々のいる所に山道を通って登ろうとするだろう それまでにフラッグ車を撃破する
もしくは数を減らし、登ってきたところを畳み掛ける」
「しかし、相手は走り回っているぞ そう簡単に当てられるのか?」
「そこは皆の腕だ それともう一つ、山道を登ってきたら突撃してくる車両のうち前方の
車両を狙え」
「どうしてですか?」
「前のほうの車両を撃破すれば少しではあるが、後続車両の前進の障害になる そこで速度が
落ちるタイミングを狙え ただし、撃破された車両に対する攻撃は禁止されている
注意するように」
「撃破した車両を障害物として前進を妨げる、か」
「それで問題なさそうだね しいて言えばそこを通るかってくらいかな」
「必ず通るであろう場所を選んだ 問題はない」
「そっか じゃあなんか意見ある人ー」
「……いないようだな」
「では、これにて作戦会議は終了!」
数日後
「いよいよ明日は全国大会1回戦だ! 気を引き締めておけ!」
――――はい!
「では、今ここで完成したパンツァージャケットを配りますね」
「皆さんとってもお似合いです」
「気に入っちゃった」
(……黒森峰のパンツァージャケットはもう処分されてしまっただろうな)
「先輩も似合ってますよ」
「そ、そうか?」
「はい! とっても!」
「それでは、今日は解散!」
――――お疲れ様でしたー!
「いよいよ全国大会ですね!」
「そうだな」
「西住殿! 一緒にがんばりましょう!」
「……よろしく頼む」
全国大会1回戦 会場
「整備終わったかー?」
――――はーい!
「準備完了」
「私たちもです!」
「Ⅳ号も準備は完了している」
「じゃあ、試合開始まで待機!」
「あ! 砲弾忘れてた!」
「それ一番大切じゃん!」
「ごめ~ん」
(……緊張していないと取るか)
「西住、ちょっといいか」
「なんだ」
「作戦の変更点はないか」
「ない」
「そうか わかった」
「……河嶋」
「なんだ?」
「2輌目、撃破できるといいな」
「……ああ 必ず撃破してやる!」
『それでは、大洗女子学園 対 知波単学園の試合を開始する!』
「知波単学園隊長の辻だ よろしく」
「西住だ いい試合にしよう」
(西住流か…… 我が知波単学園の伝統を見せてやる)
「作戦は通達した通り、上を取って叩く フラッグ車である38(t)は崖の前に出ず、後ろへ
下がって撃て」
『りょうかーい!』
「あの西住流が相手だが、そんなことは関係ない! 我が知波単学園の伝統ある戦い方を
見せつけてやれ!」
――――はい! 隊長!
(これで本当に大丈夫なのだろうか…… いや、大丈夫なはずだ、きっと)
『試合開始!』
「戦車前進」 「突撃!」
「全車両、続け 作戦地点へ向かうぞ」
(開始すぐに突撃を始めるはず…… 私の予想が間違ってなければ勝てるはずだ)
「着いた」
「秋山、双眼鏡を貸してくれ」
「はい!」
(1,2,3,4,5,6………… 10輌いるな)
「知波単学園全車両、こちらへ向かって突撃 準備をしろ」
「準備はできたな? ……Ⅲ突、先に一発撃て」
『了解!』
ズバン!
ズバン!
『どこからでありますか!?』
「……発見 このまま突撃するぞ! 続け!」
『はい!』
『今こそ知波単魂を見せつける時だ!』
『やらいでか!』
(……来たな)
「全車両、砲撃用意 …………撃て!」
『ハ号が撃破されました!』
「構うな 突撃を続けろ! 後退は許さん! 撃ち返せ!」
(この状況でも突撃…… やはりこのままでは……)
ズバンッ!
「撃ち続けろ 1輌でも多く倒せ」
『はい!』
「崖か…… ひよどり越えの逆落とし!」
「絶対にするなよ」
「それに戦車の脚は2つだ 無理だろ」
「ダイレクトアタックだ!」
「キャプテン、それ違います」
「桃ちゃん、どこ狙ってるの……?」
「遠いから当たらないんだ! あと桃ちゃん言うな!」
「がんばれー」
「M3は砲が2つあるのがいいよねー」
「沙希、腕大丈夫?」
「…………」
「大丈夫そうだね」
「頑張って~」
『こちら玉田! 撃破されました!』
『こちら池田! 同じく!』
「このまま突き進むぞ」
『隊長! 左側から突撃するのでありますよね!』
「その通りだ」
(3輌か……)
「ここからだ 全車旋回 作戦通りに行くぞ Ⅲ突、フラッグ車を護る位置に入れ」
『了解!』
「桃ちゃん当ててよ~?」
「だから桃ちゃん言うな!」
「行くぞ、突撃!」
――――突撃ー!
「車体の上面を狙え!」
『はい!』
「あや!行くよ!」
「うん!」
ズドドン!
「やった!」
「……いきます!」
ズバンッ!
「やるじゃん華!」
「なんだか、射撃のコツがわかってきたような気がします」
「フラッグ車の動きが遅くなったぞ 狙え!」
「そーれっ!」
――――そーれっ!
ズバン!
「外した!」
「もう一発!」
「突き進め! それが知波単の戦い方だ!」
『如何にも!』
『その通りであります!』
(本当にこれでいいのかなぁ……)
「登りきったぞ! こちらを向く瞬間を狙え!」
「……いきます!」
「撃てぇ!」
「南無三!」
ズバンッ!
「……外したか」
(フラッグ車が見えた!)
「あゆみ、あや、撃って!」
「あや、もう一回行くよ!」
「決めよう!」
「撃て!」
ズババンッ!
『知波単学園フラッグ車行動不能 よって、大洗女子学園の勝利!』
「やった! 勝ったよ!」
「やりましたね西住殿!」
(今撃ったのはM3か……)
「隊長! 大丈夫でありますか!?」
「……ああ 怪我はない」
(…………)
『両校、礼!』
――――ありがとうございました!
「知波単の伝統ある戦いだったな」
「ありがとう 次の試合も頑張ってくれ 期待している」
「突撃はしないがな」
「……そうか」
「いやーおつかれ」
「言うほど何もしていない」
「それもそっか」
「……一つ聞くが」
「なに?」
「河嶋は視力が悪いのか?」
「? いんや? 普通のはずだけど」
「……そうか」
「どったの」
「いや、なんでもない 失礼する」
「おつかれー」
「澤」
「隊長!」
「よくやった」
「い、いえ やってくれたのはあゆみとあやですから……」
「次も期待している そう伝えておいてくれ」
「……はい!」
「負けはしたが、知波単の伝統ある戦い方をすることができた これは」
「隊長!」
「なんだ 西」
「知波単は、このままでは駄目だと思います」
「……どういう意味だ」
「無駄に突撃して玉砕し、負ける…… これでは勝つことなどできません!」
「突撃が無駄、だと……? 貴様ッ! それでも伝統ある知波単の生徒かッ!」
(うっ……)
「突撃は知波単の伝統だ! それを否定するということは知波単魂そのものを否定することと
同じだぞ!」
「玉砕するところも知波単の伝統とでもおっしゃるのでありますか!?」
「玉砕は突撃と常に隣りあわせだ 玉砕なくして突撃はありえん!」
「ではなぜ過去に準決勝まで到達できたのでありますか? 突撃し玉砕していては準決勝出場
などできるはずがありません!」
「……何が言いたい」
「当時の知波単は突撃すべき時を見極め突撃し、無闇に突撃していたわけではないと私は
考えます!」
「……ほう、そうか ならば貴様が実践してみろ」
「……えっ わ、私がでありますか!?」
「そうだ そこまで言うならそれが正しいかどうか、見せてみろ」
「つまり、私が隊長に!?」
「元よりそのつもりだ 何か問題があるか?」
「い、いえ!」
「学園艦に戻り次第、引き継ぎを済ませる ……覚悟しておけ」
「は、はい!」
「皆、帰るぞ」
(しかし、突撃すべき時を見極める、か…… 考えたことも無かったな ……楽しみに
しているぞ、西)
「さーこっちも引き揚げよう お祝いに特大パフェでも食べに行く?」
「行く」
ニャー ニャー ニャー
「あ、携帯鳴ってるよ」
ニャー ニャー ニャー
「誰?」
「知らない番号 ……はい ………………え? …………はい」
「どうしたの?」
「いや、なんでもない……」
「なんでもないわけないでしょ!」
「……おばぁが倒れて、病院に」
「ま、麻子! 大丈夫!?」
「早く病院に!」
「でも、大洗までどうやって……!」
「学園艦に寄港してもらうしかないだろう」
「でも、撤収には時間がかかりますよ」
「…………!」
「おい、麻子! 何をするつもりだ!」
「泳いでいく」
「待ってください冷泉さん!」
――――私たちが乗ってきたヘリを使って
(この声……)
「急いで」
「隊長! いいんですか!?」
「これも戦車道よ」
(みほ……)
「エリカ 操縦を頼む」
「はい」
「早く乗って」
「……私も行く!」
「み……」
「…………」
(……ありがとう、みほ)
「次は継続高校かー」
「強敵ですね」
「……だな ところで河嶋、なんで片眼鏡してんの?」
「え? と、突然何ですか会長」
「いや、西住ちゃんが河嶋の眼のこと心配してたから」
「あ、は、はい! 実は片目だけ悪くなって……」
「そっか」
(桃ちゃん確か、参謀ぽいって言って片眼鏡かけたよね……? しかも度が入ってるやつ……
黙っておいた方がいいかな? 桃ちゃんの為に)
抽選会当日 会場座席 黒森峰
『大洗女子学園 お願いします』
「……え?」
「嘘……」
「ねえ、あれって」
「どういうこと?」
「…………」
(聖グロの隊長の言ってたとおりね)
「た、隊長!」
「どういうことですか!? 隊長!」
「…………」
「ちょ、ちょっと、落ち着きなさいよ!」
「でも!」
「落ち着けませんよこんなの!」
「……隊長だって動揺してるのよ だからひとまず落ち着きなさい」
「……はい 副隊長」
(やっぱり皆、動揺するわよね……)
「隊長 抽選会も終わったことですし、ルクレールに行きませんか?」
「ルクレールか ……行こう」
戦車喫茶ルクレール
「一杯みたいですね 少し待ちましょう」
「そうだな」
『2名様ですね こちらのお席へどうぞ』
「はい」
「…………」
「エリカ?」
「…………」
「エリカ」
「……あ、すみません」
「疲れているのか 休むのも大事なことだ」
「はい」
(……ん? あれって……)
「前隊長? やっぱり! お久しぶりです、お元気そうで……」
「エリカ…… 元気そうだな みほも元気か?」
「私は元気だ」
「……『前隊長』、か」
「す、すみません!」
「いや、事実だ」
「エリカ、行くぞ 邪魔になる」
「は、はい 隊長」
「待て」
「…………」
「本当に、みほなのか?」
(やっぱりそう思うわよね……)
「……私は、『西住みほ』だ」
数日後 黒森峰女学園
「隊長、話とは?」
「明日、大洗の試合を見に行く 一緒に来るか」
「大洗の、ですか?」
「ああ」
「……はい 私も行きます」
翌日 全国大会1回戦 会場
「始まったか」
「はい」
「エリカ どう予想する」
「……高台に陣取って上から砲撃すると思います」
「私ならばそうする」
「エリカの予想通りだな」
(前隊長と同じ作戦を考えていた…… いくらなんでもそこまで似るものかしら)
「……勝負は決まったな」
『知波単学園フラッグ車行動不能 よって、大洗女子学園の勝利!』
「終わったな エリカ、帰るぞ」
「はい 隊長」
(やはり西住流、考える作戦は同じということかしら……)
『なんでもないわけないでしょ!』
(ん? 大洗の…… どうしたのかしら)
『……おばぁが倒れて、病院に』
『ま、麻子! しっかりして!』
『早く病院に!』
『でも、大洗までどうやって……!』
『学園艦に寄港してもらうしかないだろう』
『でも、撤収には時間がかかりますよ』
『…………!』
『おい、麻子!何をするつもりだ!』
『泳いでいく』
『待ってください冷泉さん!』
(…………)
「私たちが乗ってきたヘリを使って」
(え? 隊長?)
「急いで」
「隊長! いいんですか!?」
「これも戦車道よ」
「エリカ 操縦頼むわよ」
「はい」
「早く乗って」
「……私も行く!」
「み……」
「…………」
西住流本家
『次のニュースです、第63回戦車道全国高校生大会の抽選が行われました 国際強化選手に指名
されていた元・黒森峰女学園隊長の西住まほ選手が、20年ぶりの大会参加となる大洗女子学園の
隊長として現れ、会場は一時騒然としました』
(…………)
『西住まほ選手に対するインタビューの一部です』
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「西住選手、なぜ黒森峰を去ったのですか?」
『黒森峰を勝利に導くことができない隊長は、黒森峰には必要ない 私はそう考えています
だから、黒森峰を去りました』
「では転校について、『破門』や『引き抜き』という一部報道は事実なのですか?」
『大洗を選んだのは私です』
「つまり、事実とは異なると」
『そのような記事が書かれるということは、書いた方からすれば何かしらの根拠があるのだと
思います 私が事実かどうかを答えようが、その報道を信じる方もいるでしょう』
「何故今まで公の場に姿を現さなかったのですか?」
『ここで姿を現す予定でした 今ここで質問に答えているので何の問題もないかと思います』
「今も戦車道を続けていますが、戦車道をやめようとは考えなかったのですか?」
『考えたこともありません 戦車道は私の内で一番大きなものです』
「黒森峰の隊長である妹さんに何か一言!」
『……決勝で会おう』
「ということは決勝まで勝ち進むつもりなのですね?」
『当然です』
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『これは黒森峰、ひいては西住流に対する挑戦なのでしょうか これからが気になるところです
次のニュースです』
(……大洗女子学園 まさかその名前をまた耳にするとはね)
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『落ち着いて行動しなさい! こちらが有利な事には変わりありません!』
『隊長!9時方向よりⅢ突 来ます!』
『くっ……!』
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(でも、まさか大洗を選ぶとはね)
「……もしもし ええ、調べてもらいたいことがあるのだけれど ……頼むわよ」