もしも大洗に来たのがまほだったら   作:イティ

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第7話「あの人の為に」

 

「予想通り、聖グロが勝ったな」

「そだね  もちろん勝つつもりだよね?」

「当然だ」

「練習試合では勝てたし、西住ちゃんの指揮ならいけるでしょ」

「……あの時の聖グロリアーナは本気では無い」

「練習試合の時とは違うってこと?」

「そうだ 聖グロリアーナの戦車はマチルダとチャーチルだけではない ブラックプリンス、

 巡航戦車クルセイダー、他にもイギリス戦車を揃えているだろう 練習試合の時と比べ物に

 ならない強さだ」

「戦車の数の差もあるからねぇ」

「試合会場が決まり次第、作戦を立てる」

「よろしくねー じゃ、練習行こっか」

「あの、西住さん 相談が……」

「なんだ、副会長」

「……桃ちゃんの事で」

「河嶋の?」

「どうした? 小山」

「桃ちゃんって、片眼鏡つけてますよね」

「そうだな」

「……実は目が悪くてつけているわけではないんです」

「え? そうなの?」

「はい…… 桃ちゃんの名誉のために黙っていようかと思ったんですが、さすがに言わないと

 いけないと思って……」

「なぜ眼鏡をかけているんだ?」

「桃ちゃんが言うには『参謀っぽいから』と……」

「………………」

(まさか命中率が悪いのは……)

「あの……」

「河嶋らしいと言えば河嶋らしいな」

「会長、笑ってませんか?」

「いや?」

「……河嶋を呼んで来い」

 

「西住 話とはなんだ」

「……河嶋」

「?」

「副会長から聞いた 眼が悪いわけでもないのに度の入っている眼鏡をかけているようだな」

「えっ ……ゆ、柚子ちゃん?」

「ごめんね桃ちゃん……  でも、言わないといけないと思って」

「河嶋、お前が試合だけでなく練習でさえ砲撃を悉く外しているのはそのせいだろう」

「えっ」

「……気づいてなかったのか」

「……」

「眼鏡を外せ」

「し、しかし」

「『参謀っぽいから』、だったか? ……はっきり言うが、河嶋に参謀としての素質は無い」

「うっ……  か、会長」

「河嶋には悪いけど西住ちゃんの言う通りなんだよね  作戦立ててるの西住ちゃんだし」

「ゆ、ゆずちゃ……」

「西住さんの言うとおりだよ 度の入った眼鏡をずっとかけてたら眼にも悪いし……」

「…………うん」

「河嶋 おそらくすでに片目だけ視力が下がっているだろう 今日は眼科に行って自分に合う

 眼鏡を作ってこい」

「……わかった」

「それと」

「?」

「……参謀としての素質がないと言ったのは言い過ぎた すまない」

「いや、いいさ 私は何もできていない」

「何もできていないなら、何かを為せるようになればいい」

「……ああ」

 

 

 

翌日

「会長」

「河嶋か おはよー 眼鏡かえた?」

「はい 自分の眼に合うものにかえてきました」

「そっか 頑張ってねー期待してるよ」

「……はい」

 

 

「西住さーん」

「自動車部の どうした?」

「Ⅳ号戦車、長砲身に換装しておきました 確認しますか?」

「! 終わったのか」

「はい」

 

「長砲身つけたついでに、外観も変えておきました」

「F2っぽく見えますね」

「でしょ?」

「本当に助かっている ありがとう」

「いえいえ まあ大変でしたけど、すごくやり甲斐がありました」

「砲身が変わって新しい戦車が1輌……」

「そこそこ戦力の補強はできたな」

「ところで 風紀委員達はまだか?」

「ん、そろそろ来るはずだよ  あと西住ちゃんが言ってた生徒たちも」

「そうか ……戦車はないが、練習できることはあるからな」

「だね」

 

「今日から参加することになりました 園みどり子と風紀委員です よろしくお願いします」

(!)

「略してそど子だ いろいろ教えてやってねー」

「会長! 名前を略さないでください!」

「よろしく そど…… 園」

「……今、そど子って言いかけましたよね?」

「戦車の操縦は、冷泉さん 指導してあげてね」

「私が冷泉さんに!?」

「わかった」

「成績がいいからっていい気にならないでよね」

「じゃあ自分で教本見て練習するんだな」

「何無責任なこと言ってんの!? ちゃんとわかりやすく懇切丁寧に教えなさいよ」

「はいはい」

「はいは一回でいいのよ!」

「はーーーーい」

 

「……ん? 希美じゃないか?」

「あ、野上さん お久しぶりです」

「知り合いなのか? おりょう」

「まあ、な 祖母同士が懇意にしてて」

「はい その関係で知り合いまして」

「ほー」

「ちなみに同じつくば市出身ぜよ 同じ小学校とかではないが」

「そうでしたね」

「祖母同士が懇意という理由で知り合うとはまた変わった関係だな」

 

「えー、私たちも今回から参加させていただくことになりました」

「あれ? まだ戦車あったっけ」

「ほら、ポルシェティーガーが」

「ポルシェティーガーは自動車部が乗る予定だ」

「え? じゃあ……」

「今は予備人員のような扱いだな」

『よろしくお願いします』

「3人とも 少しいいか」

「はい  ひゅわっ!? ど、どこを触って」

「……筋肉と体力をつけておけ 装填手をするつもりの者は特に  いいな!」

「は、はい!」

 

 

「次はいよいよ準決勝!相手はあの聖グロリアーナだ! 絶対に勝つぞ!」

「おーっ!」

「西住」

「これより練習を開始する」

――――はい!

「河嶋 射撃訓練をしろ」

「わかった」

 

「…………」

「あ、当たった…… 当たったよ柚子ちゃん!」

「やったね桃ちゃん!」

「おー やるじゃん」

(確か河嶋が砲撃当てたのってマジノとの練習試合くらいだったかな)

「次! さらに距離をとれ!」

 

「……信じられないな」

(華と同レベルの腕じゃないか?)

「……できる 私にもできる!」

「桃ちゃん! 頑張ろう!」

「もちろん!」

(河嶋覚醒、みたいな感じかねぇ)

「河嶋」

「! 西住!」

「……期待しているぞ」

「任せておけ!」

(ま、河嶋が調子に乗りさえしなければ大丈夫かな)

 

「各自休憩をとれ 休むべき時は休むのも練習の内だ」

――――はい!

「西住ちゃん、柴山先生が呼んでるから職員室まで」

「わかった 行ってくる」

「いってらっしゃーい」

(…………聞くなら、今かな)

「……あの、会長 ちょっといいですか?」

「どしたの?」

「……どうして勝つことにこだわるんですか?」

(!)

「そんなにいけないこと? 勝ったら勝ったで楽しいでしょ 違う?」

「そういうことを聞きたいんじゃないんです!」

「梓 どうしたの?」

「大丈夫?」

「……会長、私が言いたいのは どうして勝つことだけにこだわるのか ということです」

「…………」

「戦車道は勝つことだけが全てだと、私は思っていません」

「……で?」

「で? って…… どうしてそこまでこだわるのか聞いているんですよ?!」

「勝つことにこだわるのってそんなに悪いこと?」

「悪いことだとは言いません! ……でも、他に大事なことだってあると思うんです!」

(……まあ そう思うのも無理ないよね)

「我々は何としても勝たねばならん 何としてもだ」

「どうしてですか!?」

「そうですよ」

「梓の言ってるとおりです!」

(うっ……)

「そんなことは関係ない! 何としても勝たなければならないんだ!」

「河嶋 落ち着け」

「西住……!」

「どったの?」

「忘れ物を取りに来たら言い合っているのが聞こえた」

「……隊長」

「なんだ」

「隊長は、どう考えているんですか」

「……勝つことが全てだ」

「……どうして」

(…………)

「どうしてですか? 先輩が西住流だからですか? 勝たなければ意味がないんですか!?」

「……澤がどのように思おうが、それは澤の自由だ  だが、私たちにも私たちの思いという

 ものがある」

「…………隊長がそんな人だとは思いませんでした」

「待て」

「……冷泉先輩」

「西住先輩 理由を言わずに、勝つことだけが全てだと主張するのは誤解を生む 理由を話す

 べきだと思います」

「………理由?」

「…………」

「どういう、ことですか?」

「……麻子の言うとおりだな 澤、理由を聞いても納得できないのなら私についてこなくても

 構わない 皆も聞いてくれ」

「先輩! 話すんですか!?」

「私が決めたことだ」

(先輩……)

「……私は、西住流から破門された」

(え?)

「去年の全国大会、私は黒森峰の隊長として大会に出た  その決勝戦、無様な負け方をした

 西住流の名に泥を塗るような負け方を」

「…………」

「母はそのようなことを決して許さなかった そして、私は破門され、黒森峰を去った」

(そんなことが……)

「だが、戦車道は私を形成している一番大きなものだ  当然、戦車道を続けようとした

 しかし……」

「しかし?」

「強豪校には悉く断られた」

「……どうしてですか?」

「黒森峰が準優勝に終わり、西住流の跡継ぎである私が黒森峰を去った 追い出されたのだと

 考えてもおかしくはない もし私が自ら黒森峰を去ったのだとしても、私がいれば黒森峰に

 目をつけられる そう考えたのだろう」

「なら、どうして大洗に来たんですか?」

「……かつて戦車道があった学校に行き、戦車道を復活させようと考えた」

「え!? そのために大洗に!?」

「調べているうちに、大洗が20年前まで戦車道の活動をしていたことを知った」

(普通、そこまでする……?)

「じゃあ、戦車道を復活させたのは……」

「……私だ」

(会長、違いますよね?)

(復活させようとして来たわけだから別に間違いではないでしょ 実際、私たちの所に言いに

 来たわけだし)

「私は、何としても勝ちたい  そして証明したい 私が西住流であることを」

(…………)

「だから、勝つことを一番に考えている」

「…………」

「納得してくれなくても構わない 私の自分勝手なことに、皆を巻き込んでいるのは事実だ」

「…………そんな話聞いて、文句を言えるわけないじゃないですか」

「澤……」

「すみません 何も知らずにあんなことを……」

「戦車道は人それぞれだ あのように思うのも無理はない」 

「……私、隊長のために頑張ります 絶対、勝ちましょう!」

「私たちも!」

「私たちも!」

「我らも!」

「我々も」

「共に戦う!」

「ぜよ」

「鬼日向 だな」

――――それだ!

(自分の為、信念の為に戦うのではなく、誰かの為に戦う…… これも戦車道の形の一つ

 なのだろうか ……まだまだ私も未熟だな)

「……こんな私に、ついてきてくれるのか?」

――――はい!

「……ありがとう 皆」

「あの……」

「なんだ」

「さっき冷泉先輩が『理由を話すべきだ』って言ってましたけど…… 冷泉先輩はご存じ

 だったんですか?」

「Ⅳ号の乗員には話していた」

「そうだったんですか……」

「今思えば、もっと早く話すべきだった  すまない」

「いえ、話しづらいことって誰にでもあると思います」

「……ありがとう  皆、これからもよろしく頼む」

――――はい!

「さて、西住ちゃん 何か忘れてない?」

「そうだったな 急いで行ってくる」

「いってらっしゃい」

(しかし、破門されたことを告白するとはねぇ)

 

 

「失礼します 柴山先生、遅くなりました」

「西住か 頑張っているようだな」

「ありがとうございます」

「用件だが、留学生を受け入れるつもりはないか?」

「留学生、ですか?」

「ああ ベスト4ですら快挙だ 決勝進出、もしかしたら優勝ということもあり得るだろう

 無名校とはいえ、結果を残している学校ならば留学生の募集をかけても来る可能性はある

 西住は今年で卒業だ 経験のある者を入れておきたいとは思わないか?」

「確かに私が卒業した後経験のある者がいれば、ある程度は楽になるかもしれません ただ、

 少し考えさせてください」

「……わかった まだ日はある、ゆっくり考えてくれ」

「ありがとうございます」

「準決勝 頑張れよ」

「はい」

「……転校してすぐのころから変わったな、西住」

「? そうですか?」

「ああ 少し表情が柔らかくなっている気がする」

(表情が柔らかい? 自分では変わっているとは思わないが……)

「褒め言葉として受け取っておきます ……先生、お伺いしたいことがあります」

「なんだ?」

「筋力トレーニング用の道具のような物は学校の備品にありませんか?」

「あるにはある ……練習に使うのか?」

「はい 戦車道に新しく生徒が加わったのですが、その生徒たちに筋肉をつけさせようと

 思いまして」

「そうか ついてこい」

 

「ここが備品庫だ この中にある」

「ありがとうございます」

「使用する際は使用する本人が私に許可を取りに来ること 用紙は職員室にある」

「はい 期間の上限はありますか」

「1週間だ それ以上の期間使いたい場合は一度返却してから再度許可を取ること」

「わかりました」

「あと、校外に持ち出すのは禁止  まあ筋トレといっても道具がなくてもできることは

 あるから、工夫すればいい」

「はい では、失礼します」

「練習、頑張れよ」

 

 

「おかえりー 西住ちゃんも帰ってきたし練習再開しよっか」

「丹、それに2人とも 話がある」

「はい なんですか?」

「筋トレについてだが、学校の備品を使わせてもらえることになった ついてこい」

「ん? まだ用事?」

「ああ もう少しだけ休んでおけ」

「おっけーい」

「学校の備品を使わせてもらえるんですか?」

「許可は使用する本人がとる必要がある 用紙を取りに職員室に行こう」

 

「柴山先生」

「西住か 今度はどうした」

「先程の件です 話に出ていた生徒を連れてきました」

「新しく戦車道を始めた生徒がその3人か」

「はい 顔を覚えて頂いた方が都合がいいので」

「なるほどな 3人とも話は聞いているか?」

「はい 許可を取れば備品を使わせていただけると」

「先生、後はお願いします」

「任せておけ」

「よろしくお願いします」

 

「おかえりー 3人はどうしたの?」

「筋トレの道具を取りに行かせた」

「なるほどねー じゃ、練習の再開しよっか」

「練習を始めるぞ!」

――――はい!

 

 

――――お疲れ様でした!

「園 初めての練習はどうだった」

「……大変ね 戦車に乗るのも」

「最初は誰でもそうだ 分からないことがあれば聞けばいい」

「わかりました これからもよろしくお願いします」

「よろしく頼む」

(さて、丹たちは……)

「調子はどうだ」

「全然です、ダンベルでさえ重くて……」

「3人とも家でも筋トレをしておけ トレーニングは量も大事だが継続することも大事だ

 いいな」

―――はい!

 

 

 

翌日

「相変わらず戦車は見つからず、か」

「うん 風紀委員に手伝ってもらったけど全然だよ  新しく戦車買おうにも今ある資金じゃ

 足りないしね」

「どこかにあればいいのだが……」

「当時の卒業生とかで知ってる人がいればねぇ」

(卒業生……  !)

「継続高校戦の前に資料を受け取ったのは誰だ?」

「確かかーしまだったでしょ ね?」

「はい 柴山先生から受け取りました」

「ということは、柴山先生ならばその卒業生の顔を見ているかもしれないな」

「だが、郵便で送られて来ているのではないか?」

「確か消印がないただの封筒だった 直接手渡しているはずだ」

「……なるほど」

「その卒業生を探してみるってこと?」

「何かしら知っているはずだ」

「……まあ、戦車道がなくなった当時の生徒かもしれないしね」

「職員室へ行ってくる 先に練習を始めておいてくれ」

「ん、わかった」

 

「柴山先生 少しよろしいでしょうか」

「なんだ? 西住」

「2回戦が始まる前、生徒会の河嶋に封筒を渡しましたよね」

「……卒業生からのあれか」

「はい それを渡した卒業生が誰かわかりませんか?」

「うむ…… 名を名乗らずに、この封筒を渡してほしいと言われてな」

「どこで受け取りましたか?」

「ここだよ」

「……校門の監視カメラの映像、見せて頂けませんか?」

「さすがにそれはなあ」

(それもそうか ……いや、諦めるわけにはいかない)

「礼を、言いたいんです」

「礼?」

「はい、あの中に入っていたもののおかげで助かったところもあるので」

「……内緒だぞ」

「ありがとうございます」

 

「できるだけ早く済ませろ」

「その卒業生が来たのは何時ごろですか?」

「確か…… 11時から12時の間だ」

「ありがとうございます」

「封筒をバッグの中に入れていたはずだ」

「はい」

「本当なら絶対にできないことだ 西住を信用してのことだからな」

(見つかればただでは済まないだろうな…… 私が)

「……まだか」

「今探しています」

 

「…………! 先生、この人ですか?」

「……そうだな 髪型と服装はこんな感じだったから間違いないだろう」

(……あれ?  この人……)

「それで、いつの卒業生か調べるのか?」

「……いえ」

「? それじゃ誰だかわからないだろう」

「わかるので大丈夫です」

「? そうか まあいい、早く戻るぞ」

「はい 本当にありがとうございました」

「全く……」

 

 

「あ、西住さん 今来たんですね」

「少し用事があってな」

「みなさん、すごいですね…… あんなすごい操縦して」

「……そうだな」

「早く、戦車乗りたいな……」

(…………)

「……丹」

「はい なんですか?」

「会長に、用事があるから今日は参加できないと伝えておいてくれ」

「あ、はい わかりました」

「よろしく頼む」

 

 

 

「…………」

カランカラン

「すみません、今日は……  あら? 確か優花里の……」

「お久しぶりです」

「何か御用ですか? そもそも今日は戦車道の練習があるのでは」

「……秋山さん」

「はい」

「話があります 今、よろしいですか?」

「ええ どうぞ、上がってください」

「失礼します」

 

「それで、話とは?」

「……秋山さんですね  継続高校の使う戦車の詳しいデータを渡してくださったのは」

(!)

「…………はい  どうして私だと?」

「校門の監視カメラで確認しました」

「そこまで……」

「はい ……あの」

「?」

「ありがとうございました」

「どういたしまして」

「秋山さんは戦車道をされていたんですか?」

「……ええ」

「優花里…… 娘さんはそのことは」

「話していないので知らないはずです」

「そうですか……」

「……私、嬉しかったんです 優花里が戦車道を始めてくれたことが」

「それであのデータを?」

「はい」

「あのデータはどこから?」

「実は学生時代、当時の継続高校の隊長と親しくなったんです」

「その人からデータをもらったのですか」

「はい ご迷惑でしたか?」 

「……いえ、本当に有難かったです」

「それは良かったです」

「あの、秋山さんは当時の戦車がどこに在るか、ご存じないですか?」

「私が卒業したのは戦車道が廃止される前だったので……」

「……そうですか」

「力になれずすみません」

「いえ  それにしても驚きました まさか戦車道の経験があったなんて……」

「実は主人にも言ってなかったんですよ この前の試合の日、とても驚いていました」

「なぜ戦車道を?」

「実は、その…… えっと……」

(……?)

「……わ、笑わないでくださいね?」

「はい」

「実は昔、ヤンチャというか…… 血気盛んだったんです」

「……今からはとても想像できません」

「ですよね 卒業してから丸くなったので……」

「だから戦車道を?」

「はい 相当血気盛んだったので戦車道で少しでも発散したくて……」

「担当は何を?」

「装填手でした なのであまり発散できず……」

「娘さんとは大違いですね」

「そんなストレートに言われると……」

「すみません  優花……、娘さんの戦車趣味はあなたの影響ですか?」

「いいえ  でも、私の遺伝かもしれませんね」

「時間を取ってしまい申し訳ありませんでした」

「気にしないでください 今日はこのために?」

「はい 本当にありがとうございました」

「戦車、見つかるといいですね」

「……はい」

「あ、そうだ 見つからないなら普通に考えてありえない場所も探してみてはどうですか?」

「ありえない場所、ですか」

「はい」

(普通ならありえない場所、か)

「今日はありがとうございました 失礼します」

「また遊びに来てくださいね 優花里も喜ぶと思います」

「はい それでは」

(しかし、まさかデータを渡してきた卒業生が優花里の母親だったとは……)

 

 

 

翌日

「やぁ西住ちゃん」

「会長か」

「昨日はどうしたの?用事って」

「……あのデータを渡した卒業生と話をしてきた」

「うっそ!? 見つかったの!?」

「ああ」

「で、どうだった?」

「戦車道が廃止された時の生徒ではなかったから、何もわからなかった」

「そっか」

「ただ、普通ならありえない場所を探してみるのもいいというアドバイスはもらった」

「普通ならありえない場所、ねぇ」

「……私も昼休みにでも探してみる 協力してくれている風紀委員にも、先程のことを伝えて

 おいてくれ」

「おっけー」

 

 

(探しに行くか…… しかし、普通ならありえない場所か 隠しやすい場所ではない場所……

 どこだ?)

「……とりあえず探すか」

「あ、西住さん 一緒にお昼でもどうですか?」

「丹か 悪いが戦車を探そうと思っている」

「昼休みにですか?」

「そうだ」

「……私も一緒にいいですか?」

「昼食はいいのか?」

「パンなのですぐに食べられますし」

「そうか なら一緒に行こう」

「はい」

 

「お待たせしました」

「行こうか」

「どこを探すんですか?」

「……丹 普通ならありえない戦車の置き場所はどこだと思う?」

「普通ならありえない場所、ですか  ……駐車場、とか?」

「なるほど 車を駐める場所に戦車を置こうとは思わないということか」

(最初に戦車を探すときに行ったような気もするが)

「まあ戦車も車みたいなものですけどね  でも、突然どうしたんですか?」

「いや、普通に思いつくような場所は協力してくれている風紀委員たちも探しているだろうと

 思ってな 普通は探さないであろう場所を探そうと思う」

「なるほど そういうことですか」

「……行こうか」

「はい」

 

「筋トレのほうはどうだ?」

「少しは進歩してます 筋肉痛ですけど」

「いくらなんでも運動のしなさすぎだろう それは」

「そうですね  ……私、西住さんのこと、寡黙でもっと怖い方だと思ってました」

「…………」

「西住流の長女で、後継ぎで、自分にも他人にも厳しい人だとばかり……」

「今は長女でも跡継ぎでもないがな」

「そういうところですよ」

「?」

「もし怖い人なら『それはどういう意味だ』とか、言うと思いますし」

(…………)

「何度か話しましたけど意外と話しやすいですし、西住さんが優しい人でよかったです」

「……そうか」

(私も丸くなったのだろうか)

「ん? 西住さん、あれ」

「…………!」

(これは…… 三式中戦車か)

「本当にありましたね」

「……会長に伝えてくる」

「私も行きます」

 

「会長はいるか」

「お、西住ちゃんじゃん どったの」

「戦車が見つかった」

「……マジで? どこに?」

「駐車場だ」

「ほー  よく今まで誰にも見つからなかったね」

「飾り物か何かだと思っていたのではないか?」

「なるほど  で、なんて戦車?」

「三式中戦車だ」

「ふーん」

「あの、会長さん」

「お、予備人員」

「……その言い方はやめてください」

「ごめんごめん」

「三式中戦車、私たちに使わせてもらえないですか?」

「いいよ 新しい戦車見つかったら載ってもらうっていう約束だったし」

「ありがとうございます!」

「放課後、自動車部に回収してもらうね 整備のこともあるし多分今日は乗れないと思うよ」

「……そうですよね」

「ま、お疲れ様」

 

 

「三式中戦車じゃないですか どうしたんですかこれ」

「駐車場で見つけた」

「……駐車場で?」

「駐車場で」

「誰ですかね 駐車場に駐めるなんてこと思いついたのは」

「さあな」

「それじゃあ、今日中には整備終わらせますね」

「別に2日かかってもいいぞ ポルシェティーガーもあるだろう」

「いえ、早く終わるならそっちを優先しようかと」

「そうか よろしく頼む」

「はい!」

「西住、次の試合会場が決まったぞ」

「どこになった?」

「英国風市街地だ」

「市街地だけか?」

「地図を見る限りはそうだな これが地図だ」

「……確かに」

「来週頭に会議を開く 作戦を立てろ」

「任せておけ」

(市街地ならば少しは勝機があるか? しかし、聖グロリアーナもそれは予測しているはずだ

 しっかり作戦を立てておかねば……)

 

 

 

翌日

「自動車部 三式中戦車はどうだ」

「整備は完了していますよ」

「そうか お疲れ」

「やり甲斐がありましたから」

 

「3人とも、三式の整備が完了したぞ」

「本当ですか!?」

「これでやっと戦車に乗れるっちゃ!」

「待ち遠しかったなり~」

「ただ、筋トレと体力作りは引き続き行うように」

「はい!」

「それと、次の試合から出てもらう」

「え、さ、さっそく試合ですか!?」

「この数日で徹底的に基礎だけを叩き込む 覚悟しておけ」

「は、はい!」

 

 

 

 

 

「これより作戦会議を始める! 西住、当然作戦は考えてあるな」

「継続高校の時よりは悩まずに済んだ」

「説明しろ」

「作戦は――――」

 

 

「……なるほど」

「確かに、クルセイダーは出てくるかもしれないな」

「どれだけ攻撃を凌ぎ切れるかだね」

「その通りだ」

「任せてください!」

「もうちょっと攻撃のほうに戦車を割ければいいんだけどねぇ」

「その点は仕方ない だがダージリンはⅣ号の砲身が長砲身になったことを知らない それを利用するぞ」

「それもそうだね」

「ただ、ダージリンはそう簡単には油断しない奴だ 気を引き締めてかかれ」

――――はい!

 

 

 

 

 

聖グロリアーナ女学院

(遅くなってしまいました ダージリン様達もお待ちでしょうし、急ぎましょう ……!)

「だ、大丈夫ですか!?」

「……少し、眩暈がしただけですわ」

「立てますか?」

「……ええ」

「この学校の方ではないようですが、どちら様ですか?」

「この学校の卒業生ですわ ……これを、隊長さんに渡してくださるかしら」

「……手紙ですか」

「ええ」

「はい、承りました」

「それでは、よろしくお願いしますわ」

「お一人で大丈夫ですか?」

「ええ、大丈夫です それでは」

(……あ、お名前をお伺いするのを忘れていました)

 

「ペコ、遅かったわね」

「申し訳ありませんダージリン様、アッサム様、ローズヒップさん すぐ紅茶をお淹れします

 どの茶葉にしましょう」

「そうね…… 今日はダージリンにしてくれるかしら」

「かしこまりました  あ、そういえばダージリン様にお手紙を預かっています」

「手紙? どなたから?」

「卒業生だということは伺ったのですが、名前を聞くのを忘れてしまって……」

「ペコったら……  まあ、見ればわかるでしょう」

「では、私は紅茶を淹れてきます」

「それにしても一体どなたからかしら」

「もしかして "ダージリン様ファンクラブ" からとか!」

「あー…… そういえばそんなものもありましたわね 非公認ですけれど」

「では、開けますね」

「……!」

「これはっ……!」

「まさか、あの方が…… まだ間に合うかもしれないわ! 探しに行くわよ!」

「? ダージリン様?」

「ダージリン、落ち着いてください  おそらくもう、お帰りになられています」

「でも……!」

「気持ちは分かります 私もあの方にはお会いしたいですし」

「……そうね 落ち着くことにするわ」

「あれ、行きませんの?」

「先に内容を見るべきだわ」

「では、読みますね」

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

ダージリンへ

 

息災な様でなによりです。私のほうは元気にしているから心配なく。

あなたの試合、全部見ていたわ。

BC自由学園との1回戦も、ワッフル学園との2回戦も、いい指揮でした。

実は、大洗女子学園との練習試合も見ていたの。

練習試合とはいえ負けるとは私も全く思っていなかったわ。

きっと雪辱を果たす為に本気を出すつもりでしょう。

でも、決して自分の戦車道を忘れる事の無い様に、気を付けなさい。

そうすれば、あなたなら勝てるはずです。

次の試合も見に行きます。応援しているわ。

 

                                  アールグレイより

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「…………」

「紅茶が入りました」

「……アッサム」

「はい」

「絶対に勝ちますわよ」

「? どうされました?」

「この手紙、前の隊長からの手紙なのよ」

「そうだったんですか」

(ということは、あの方が前の隊長さん?)

「なんという方なんですか?」

「……アールグレイ様、よ ペコは1年生だからあの方の指揮を受けたことは無いものね」

「どんな方だったんですか?」

「品行方正、才色兼備、聖グロリアーナ女学院の模範のような方でしたわ」

「ローズヒップとは大違いね」

「あんまりですわアッサム様!」

「……なんだか凄そうです アールグレイ様はどんな指揮をされていたんですか?」

「機動力を用いた戦術を得意としていましたね ダージリン」

「ええ、"ブランデー入りの紅茶" という戦術名よ」

「機動力、ですか」

「わたくし、あの方に憧れてこの学校に入りましたのよ」

「ローズヒップさんらしいですね」

「……そうですわ! ダージリン様!」

「何かしら? ローズヒップ」

「アレを次の試合に出しましょう!」

「アレ……?」

「ほら! アールグレイ様が使われていたアレですよ!」

「……ああ!」

「ローズヒップも偶にはいいこと言いますわね」

「お褒めの言葉、光栄ですわ!」

(今の、褒めてるんですかね?)

「あの…… アレ、とは?」

「ペコが知らないのも無理はないですね」

「そうね アレ、とはアールグレイ様が使われていた―――――」

 

「でも、どうしてダージリン様が隊長になってから使わなかったんですか?」

「私が選んだ戦術は堅さと火力を主とした戦術 だから出番がなかったと言えるわ」

「なるほど…… でも、その戦車だけ出すわけには行きませんよね」

「ええ、だからクルセイダーもそれなりの数を投入しますわ ローズヒップ」

「はい!」

「火力と堅さを併せ持つチャーチルとマチルダの部隊 そして速さで攻める部隊の2つで構成

 します あなた達クルセイダーの力を存分に発揮しなさい」

「もちろんでございますわ!」

「……さて、紅茶が冷めてしまう前に楽しみましょう」

 

 

 

 

 

 

全国大会 準決勝会場

「レンガ造りの建物の街なんですね」

「英国風だからな 石やレンガ造りの建物が多いのも当然だろう」

「勝てるかな…… 練習試合の時よりも聖グロの戦車多いし」

「何を言っている 必ず勝つぞ」

「……はい」

「皆、準備はできたな」

――――はい!

「西住さん 私たち、ちゃんとやれるでしょうか……」

「基礎は叩き込んだ 持ちきれるものをすべて出し切れ」

「……はい!」

「西住」

「河嶋か」

「期待していてくれ フラッグ車である八九式は必ず護る」

「……頼んだぞ」

「ああ!」

 

 

「ダージリン様、大洗はどう出ますかね」

「Ⅲ突でフラッグ車を狙ってくるでしょうね Ⅲ突さえ倒してしまえばこちらのものよ」

「練習試合の時と同じ手を取るでしょうか」

「チャーチルを抜けるとすればⅢ突くらいよ 側背を晒さなければ、勝利はこちらにあるわ」

「……そうですね」

「迅速な行動が勝利のカギを握る 紅茶が冷める前に勝ってしまいましょう」

「エルヴィン・ロンメルですね」

 

 

『それでは、聖グロリアーナ女学院 対 大洗女子学園の試合を開始する!』

「練習試合のときはしてやられました  でも、今回は勝たせてもらうわよ」

「あの時の我々と思わないことだ」

「それは楽しみね」

 

 

 

 

『試合開始!』

「戦車前進」                「前進」

 

 

 

「Ⅳ号とⅢ突でフラッグ車を仕留める ダージリンはクルセイダーを先行させてくるだろう

 護衛はフラッグ車を護り抜きつつ、作戦の場所へ向かえ」

――――了解!

「隊を分けるぞ Ⅲ突、ついてこい」

 

 

 

「行きなさい メインディッシュを一口で食べてしまっても構いませんわ」

「了解ですわーーーー!」

(さて、どう出るかしらね)

 

 

 

「やっぱり操作に慣れない……」

「基礎を叩き込まれたとはいえ練習期間は短かったですからね……」

「今更そんなことを言っても仕方ないっちゃ」

 

「ちょっとゴモヨ! ちゃんと操縦しなさい!」

「わかってるわよそど子~」

(前に出てきたときの為に装填しておこう)

 

「なんとしてもフラッグ車だけは護るよ!」

「桂利奈ちゃんがんばって~」

「あいーー!」

 

「河嶋 気、引き締めていけよー」

「はい!」

(今なら何でもできそうだ! 私の力を見せてやる!)

「会長も少しは仕事してくださいよ~」

「ん、じゃあ装填するわ」

「お願いします」

 

(!)

「こちらM3!左路地より敵戦車来ます!」

 

「おっ 来たね さてどの戦車か……」

(……?)

「なんだろあれ」

「クルセイダーじゃないんですか?」

 

『西住ちゃーん』

「会長か どうした?」

『あのさ、クルセイダーじゃない巡航戦車って何があったっけ』

「クルセイダーじゃない……」

(……! まさか!)

「クロムウェルだ! クルセイダーよりも速い!」

『本当ですか!?」

『どどどどうすれば』

「会長 クロムウェルは先頭か」

『うん 今撃ちあってる」

「とにかく曲がり角を多く曲がって相手の速度を封じろ  38(t)は路地に入って十字路に

 先回りだ おそらくクロムウェルは無視してフラッグ車の部隊を追うはずだ」

『おっけー』

「装甲もかなりのものだ 履帯を狙え」

 

「河嶋、履帯狙えだって」

「了解!」

「小山ー そこ左折」

「はい!」

 

「しかし、クロムウェルを出してくるなんてすごいですね!」

(去年の大会で聖グロリアーナはクロムウェルを出していたはずだ ……迂闊だった)

「先にフラッグ車を仕留めるぞ」

「はい!」

 

「お、追ってきたねクルセイダー 小山、次右折」

「はい!」

「河嶋 決めてくれよー」

「任せてください!」

(3,2,1……)

「ここだ!」

バキン!

 

 

 

「あっ! 履帯が!」

(行進間射撃で履帯に当てるなんて……!)

『38(t)はこちらで追跡します! 足止めされたクルセイダーは回り込んでください!』

『了解ですわ!』

 

『すみません、こちらクロムウェル! 履帯をやられました!』

(足回りを潰しに来たわね)

「クルセイダー達で追いなさい 早く履帯を直すように」 

『了解!』

 

 

 

「やったね桃ちゃん!」

「どうだ!」

『よくやった河嶋』

「フラッグ車たちと合流するね」

『クルセイダーは追ってきたか』

「うん ただ、私たち無視してフラッグ車追いに行ったけど」

『……合流したのち、すぐ離脱 追っているクルセイダーの履帯を狙え 近距離なら側面を

 抜けるはずだ 38(t)の後ろから来ていなければ側面を狙っても構わない』

「りょうかーい 小山、合流」

「はい!」

 

「おまたせ」

『よかった…… もう不安で不安で』

「あ、また離脱するから」

『え、ちょっと!』

「安心しなって 足止めするから」

 

「うわっ! 来た! 来た!」

「会長たちが足止めしてくれるはずだから!」

「でも、別に撃ってもいいぞな?」

「ぴよたん殿! 撃ってください!」

「……行くずら」

ズバン!

「あれ? 当たっちゃった……」

「初撃破ぞなもし!」

 

『こちら三式 追っているクルセイダーの先頭撃破しました!』

「広い道だから追ってくると思うし、待っててねー」

『はい!』

 

「急ぐわよ! なんとしてもフラッグ車を護るんだから!」

「そうはいってもそど子、なかなか操縦が……」

「できなくてもやるのよ!」

「えー…… ! 前の路地からクルセイダー!?」

「ちょ、どうするのよ!」

「あーもう! 吹っ飛ばしちゃえ!」

ガンッ!

「……抜けれた?」

『こちらM3! B1bisが吹き飛ばしたクルセイダーがうまく盾になって後続のクルセイダーが

 立ち往生しています!』

「結果オーライね」

「……これじゃ暴走族じゃない」

 

「三式ー そっちどう?」

『相変わらず追ってきています』

「よーしやるよ!」

「はい!」

(後ろはいないね)

『次、右折します!』

「小山、急いで」

「はい!」

 

「……停車!」

「桃ちゃん! 来るよ!」

「…………!」

ズバン!     

「やった!」

「小山! 後ろに逃げろ!」

「はい!」

 

 

 

「38(t)は多分別に動いている 多分この路地に…… いた!」

 

 

 

「……げ 砲塔旋回しつつ全速後退!」

「はい!」

 

 

 

「さっきの恨み、お返しします!」

 

 

 

「河嶋! 履帯撃て!」

「はい!」

(……!)

ズバン! ズバン!   バキン!

「やられちゃったかー」

「でも、履帯は切れました」

「後はみんなに任せるしかないね」

 

『ごめーん クロムウェルの履帯もっかい切ったけどやられちゃったー』

「ありがとうございました 私たちに任せてください!」

 

「どどどどうしよう!」

「落ち着くずらねこにゃーさん!」

「私たちにできることをやるっちゃ!」

「……そうだね  あ、来た!」

「撃つ!」

ズバン!

「外れた!」

ガタタンッ

「うわ、ちょっ」

「どうしました!?」

「だ、段差で……」

ズバン!     

 

『こちら三式中戦車 すみません、やられちゃいました……」

「わかりました 私たちで何とかフラッグ車を護ります」

『……お願いします』

 

(どうにかして足止めできれば…… ……!)

「あゆみ! あや! 壁を榴弾で撃って!」

「……あ! そういうことか!」

「沙希! 榴弾装填!」

「…………」

「撃て!」

 

 

 

「瓦礫で道が……!」

「引き返しますわよ!」

 

 

 

『こちらフラッグ車部隊 まもなく予定の位置に到着します』

「急いでくれ  チャーチルたちが来ている」

『わかりました!』

「Ⅲ突 やるぞ」

『了解!』

 

 

 

「……ダージリン」

「なにかしら」

「次の右側の角にⅢ突が隠れているのが見えました」

「そう……  全車両停車」

(この程度なのかしら? まほさん)

 

 

 

『気づいたのか、進んでこないぞ』

(気づいたか…… 作戦通りだ)

「Ⅲ突、車体を出してチャーチル左前方のマチルダを狙え」

『作戦決行か 了解!』

 

「左衛門佐、頼むぞ」

「任せろ!」

「……行くぜよ」

「応っ!」

 

 

 

「Ⅲ突が出てきました」

「……狙いなさい」

 

 

(撃たれるよりも前に撃つ……!)

ズバン!     ズバン!    

 

 

 

「Ⅲ突撃破」

(買い被りすぎだったかしら)

「前進」

「! Ⅳ号です!」

(ここでⅣ号? いったい何が狙い?)

「……!? Ⅳ号、長砲身に換装されています!」

「!」

(至近距離ならチャーチルの装甲を抜かれる!)

「停車 アッサム、撃ちなさい!」

「はい」

 

 

「……来るぞ 避けろ!」

ズバンッ!

 

 

「マチルダ! 前方のⅣ号を」

「すみません! 先程のⅢ突の砲撃で撃破されました!」

(! まさか初めからマチルダを……? ということは側面に来る!)

「後退!」

ズババババン!

(砲撃!? どこから……)

「ダージリン様、瓦礫で退路を塞がれた様です!」

 

 

『隊長!間に合いました!』

「よくやった!」

 

 

「追いつきましたわーーー!」

(ここで決めて差し上げますわ!)

 

 

『クルセイダーが来ました!』

「逃げます! 風紀委員さん!」

『わかったわ!』

 

 

「……! 砲塔左に旋回!」

「はい! ……これ以上砲塔が回りません! おそらく右後方の壁に当たっています!」

(まずい……!)

「回せるだけ回しきって向かってくるⅣ号を狙いなさい!」

「はい!」

 

 

 

「……砲塔旋回」

 

 

 

「撃ちなさい!」

ズバン!

 

 

 

ズバン!

「行くぞ!」

「はい!」

 

 

 

「……っ!」

(真横に……!)

 

 

 

「撃て!」

ズドン!    

 

 

 

『聖グロリアーナ女学院フラッグ車行動不能 よって、大洗女子学園の勝利!』

「…………ふう」

(うまくいった…… Ⅲ突を警戒してくれていたおかげだな)

「勝った……! 勝ちましたよ西住殿!」

 

 

 

 

「…………」

「ダージリン」

「……泣いてなんかいないわ」

『申し訳ありませんダージリン様! 我々がフラッグ車を早く倒していれば……』

「……いいえ、ローズヒップたちはよくやってくれました ありがとう」

『……はいっ!』

 

 

 

「河嶋」

「西住……」

「よくやった 大戦果だな」

「……ああ やっと、力に、なれ……っ」

「泣くな 泣くのは優勝した時にしておけ」

「……そうだな」

「まほさん」

「ダージリンか いい試合だった」

「ええ Ⅳ号が長砲身に換装されていたとはね Ⅲ突だけを警戒した私の負けだわ」

「その隙を突かせてもらったまでだ もし知っていれば、我々が負けていただろう」

「……次の試合、応援しているわ」

「必ず勝つ」

 

 

 

「負けてしまいましたね」

「……ええ」

「ダージリン」

(この声……!)

「アールグレイ、様?」

「久しぶりね 元気そうで」

「アール、グレイ様っ……!」

「あら、何を泣いているの?」

「すみません、勝つところをお見せできなくて……!」

「ダージリン なぜ負けたかわかるかしら?」

「……Ⅲ突以外の警戒を怠っていました」

「いいえ、違うわ」

「え?」

「いつものあなたなら、クルセイダーたちを使って相手を追い込んでマチルダの前に引っぱり

 出すくらいのことをしたでしょう でも今日の試合はクルセイダー達に任せただけだった」

「……」

「これはあなたの戦車道ではないでしょう? 手紙に書いたはずよ、『自分の戦車道を忘れる

 事の無い様に』、と」

(!)

「……ですが、よくやりました」

「……え?」

「負けはしても得るものは必ずある あなたにとっては高校最後の大会だけれど、これからも

 戦車道を続けるのでしょう? 次に繋げなさい」

「……はい!」

(なんだか、いつものダージリン様ではないみたいですね)

(憧れだった先輩ですもの 今のあなたみたいね)

(……そうですね)

「それでは、失礼しますわ」

「見に来ていただき、ありがとうございました」

「どういたしまして」

「あ、お待ちください」

「あなた、あの時の……」

「あの、お体は大丈夫ですか?」

「……ええ ご心配なく」

「そうでしたか それならよかったです」

「……あなた、お名前は?」

「オレンジペコと申します 1年生です」

「あら、ということは期待されているのね」

「はい 畏れながら」

「まだこれからもダージリンたちと関わると思うけれど、よろしく頼むわね」

「はい!」

「それでは」

「……ダージリン様」

「何かしら? ペコ」

「ダージリン様があの方をお慕いする理由が分かったような気がします」

「アールグレイ様は本当にすばらしいお方だもの 当然よ」

 

(勝つところが見たかったわ  大洗の隊長さん、なかなかの方のようね)

「お嬢様、迎えが来ております ご準備を」

「……ええ、お医者様にも無茶を言ってしまいましたものね 急ぎましょう」

「畏まりました」

(また会える日が楽しみだわ ダージリン)

 

 

 

 






プラウダ高校
「準決勝は残念でしたね」
「去年カチューシャたちに負けた隊長の学校に負けるなんてね 聞いたわよ、練習試合の時も
 負けたようね」
「あら、大洗の隊長さんのこと知ってたの?」
「当然よ 抽選会の時に会ったしね」
「そう」
「どうぞ」
「ありがとう、ノンナ」
「いいえ」
「! 違うの! ジャムは中に入れるんじゃないの 舐めながら、紅茶を飲むのよ」
「ついてますよ」
「よけいなこと言わないで!」
「ПирожноеКартошкаもどうぞ Печеньеも」
「次は準決勝なのに、余裕ですわね  練習しなくていいんですの?」
「燃料がもったいないわ それに去年カチューシャたちにボコボコに負けた学校よ? しかも
 隊長は西住まほの妹、妹が姉より有能なわけないじゃない」
「そうとは限らないんじゃなくて?」
「そんなことを言いにわざわざ来たの? ダージリン」
「まさか おいしい紅茶を飲みに来ただけですわ」




西住流本家
「…………」
「……あの お母さん?」
「みほ、あなたは知っていたわね? まほのことを」
「……はい」
「破門したとはいえ、西住の名を持つ者 あの様な戦い方は許されない 事情を知らない者が
 見れば、西住流とはこの程度なのかと誤解されることになる 『撃てば必中 守りは堅く
 進む姿は乱れ無し 鉄の掟 鋼の心』、それが西住流  みほ、西住流として全力を以って
 叩き潰しなさい」
「……っ!」
(また、頭痛が……!)
「……みほ?」
「姉が去った今、私は西住流そのものです」
「準決勝は私も見に行きます あの子に勘当を言い渡し、この家からも縁を切る為に」
「……はい」
(みほも変わったわね、昔と違って  まるで『西住流』の、まほかの様に……)



準決勝 大洗試合当日 観客席

『聖グロリアーナ女学院フラッグ車行動不能 よって、大洗女子学園の勝利!』
「……お母様」
「勝ったのは相手が油断していたから それだけよ」
「いえ、実力があります」
「実力?」
「相手の心の隙を突き、圧倒的な戦力を相手に勝利する そして、それに応えることのできる
 実力のある仲間もいる これも戦車道です」
「西住流として、あんなものは邪道でしかない 決勝戦では王者の戦いを見せてやりなさい」
「……必ず、叩き潰します」


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


大洗女子学園 放送部部室
「王は居るか」
「はい あ、西住さん お久しぶりです」
「今までのデータをもらえるか」
「はい! 黒森峰の試合のですね  こちらです」
「……助かる」
「いえ、取材を受けてもらったわけですしこれくらいは」
「次の黒森峰の準決勝だが、私が自ら見てくる」
「ということは、私はお役御免という訳ですね」
「今までありがとう」
「いろいろと戦車道のこと知れましたし、とても興味深かったです」
「そうか ……失礼する」




準決勝 黒森峰試合当日 観客席
(……懐かしいな 黒森峰が)
「まほお嬢様?」
(? この声……)
「まほお嬢様! いらしていたのですね!」
「……お久しぶりです 菊代さん」
「お久しぶりです  まほお嬢様もお変わり無いようで」
「今はもう、お嬢様ではありません」
「いえ、私の中ではまほお嬢様はいつまでも、まほお嬢様です」
「……そうですか   お母様は」
「いらっしゃっていませんよ ……まほお嬢様」
「……はい」
「奥様は、まほお嬢様を勘当なさるおつもりです」
(!)
「まほお嬢様は破門されたものの、西住の名を持つ者 勘当することで西住流とも西住家とも
 縁を切るおつもりです」
「……そうですか」
(こうなるのも当然、か)
「このことをお伝えするのは奥様のご意向に背くことになります ですが、まほお嬢様は勝つ
 為にあのような指揮を執られたことを、私は理解しています」
「今の私に西住流としての要素は、勝ちを第一に考えることしかありません お母様にそう
 思われるのも当然のことです」
「……今日は会わなかったことに致しましょう」
「……はい」

「……あの、菊代さん」
「なんでしょう」
「私が去ってから、みほの様子はどうでしたか?」
「……初めはひどく落ち込まれていました ただ、黒森峰の隊長としての自覚を持たれたのか
 様子が変わったそうです」
「様子が変わった?」
「はい まるで、かつてのまほお嬢様かのように」
(私のように……)
「……そうですか」




『プラウダ高校フラッグ車行動不能 よって、黒森峰女学院の勝利!』
「うそ、でしょ……? 私が…… このカチューシャが、こんな負け方を……!」
「カチューシャ、落ち着いてください」



「隊長 お疲れ様です」
「エリカ よくやってくれた」



「圧倒的でしたね」
「はい 菊代さんの言うとおり、まるで私の指揮かの様でした」
「……まほお嬢様?」
(みほ……)
「……先に失礼します」
「はい、まほお嬢様」
(本当に私の指揮かのようだった…… どういうことだ?)

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