その日、大本営から軍関係者のみ受信できる周波数のラジオが放送された。
“諸君!只今より極めて重要かつ喜ばしき朗報をもたらすので心して聴くように!
熾烈なる深海棲艦との戦いに終止符を打ち、大日本帝国に勝利をもたらすべく、
此度我軍は必殺の特別攻撃艇の開発に成功した!
天を穿つ雷の如く、見事に敵深海棲艦を粉砕するであろう!”
──特別攻撃魚雷艇 「轟雷」
両舷に500kgの炸薬を搭載した小型艇。操縦席には一本のレバーがあるのみで、
トリガーを引くとわずかに注入されたロケット燃料に点火され、
魚雷を遥かに上回る速度で航行する。ただし、一度発進すると
わずかに軌道修正する以外直進することしかできず、止まることも戻ることもできない。
敵艦に体当たりするまで。
“轟雷の素晴らしき点は、特攻により散華した者は深海棲艦ではなく、
誉れ高き軍神へと転生する所にある!ヲ級空母、レ級戦艦、そして深海棲姫が何するものか!
大和魂と轟雷の前に深海棲艦など恐るるに足らず!
轟雷と征く栄誉ある者は近く上官より特命が下る。
栄誉求むるものは轟雷に相応しい兵士となるべく鍛錬に励むよう!”
そして鎮守府に特攻隊員が配属された。艦娘ではなく、生身の人間達が。
隊長らしき人物が進み出て、提督に敬礼する。
「迅雷特別攻撃隊隊長、武内貞夫一等海佐です。暫くの間、ご厄介になります」
戦いに対する捉え方の違いから、早くも艦娘と隊員達は対立する。
「死ぬ勇気のない軟弱者に御国が守れるか!この聖戦を何と心得る!」
「自殺志願者に何ができる!あんな粗末なボロ船でヲ級が沈むと本気で思ってんのかよ!」
「貴様、もう一度言ってみろ!天皇陛下からの賜り物を侮辱するか!」
「天龍ちゃんもあなたも止めて!」
葛藤する者達。
「長門、そろそろ彼らの出撃命令を出さないと……上が戦果を求めてる」
「わかっている、陸奥。2つの鎮守府を失った今、
我々に手段を選んでいる余裕がないことくらい。
しかし、本当にこんな作戦に意味があるのか?確かに彼らは命を落としても
深海棲艦になることはない。だが……それだけだ!」
「司令代理、偵察機より入電。“敵艦隊見ゆ。ヲ級空母からなる空母機動部隊”です……」
出撃の日。
枝垂れ桜を振る艦娘達に見送られたその隊員は、笑顔で応えながら轟雷に乗り込み、
金剛に曳航されて作戦海域にたどり着いた。はるか遠くに深海棲艦の群れが見える。
「ありがとう金剛さん、もう敵は轟雷の射程圏内だ。鎖を外して作戦に戻ってくれ」
「……こんなクレイジーな作戦、成功するはずありません!
今からでも司令に作戦変更の具申を……」
「いいんだ!……本当にありがとう金剛さん。俺が必ず旗艦を仕留めてみせる。
そして混乱に陥った残存兵力をあなた達が殲滅する。作戦通りに行こう」
「でも!」
「それと……天龍さんに謝っておいてくれないかな。本当は怖かったんだ。
御国の為、陛下の為、何かに理由を求めないと逃げ出しそうな自分を抑えられなかったんだ。
あなたは何が何でも生きてくれと伝えておいてほしい」
「……っ!さようなら……」
「さようならー!」
笑顔で手を振る隊員を背に金剛は去っていった。
「さてと!」
船首に鉄の輪を付けただけの粗末な照準にヲ級空母を収め、隊員は大きく深呼吸し、
トリガーに指をかけ、思い切り引いた。
遥か後方から爆音が響いてきた。特攻が成功したのかはわからない。
確かなのは、彼が戻ってくることは決してないということだ。
遺された者。
かつて隊員たちの控室だった、今はもう誰もいない部屋。神棚の下で天龍は一人佇む。
壁に掲げられた木札の一枚に手を滑らせる。
<軍神 菊池正広 一等海尉>
「馬鹿野郎、馬鹿野郎……!!」
歯を食いしばってこらえていたものが頬を伝う。
……
………
「させない。俺が、俺達が、絶対に……!」
夢から覚めた俺は、起き上がったまま誰にともなく言い放った。