大和が正式にこの鎮守府の所属になってから9ヶ月後。
俺と長門、陸奥は大淀の説明に聞き入っていた。彼女は壁に掲げた世界地図にマークされた
赤いポイントを指し棒で示す。あの棲姫襲撃事件以来、深海棲姫は急激にその数を増し、
その強大な力の前に、人類は徐々に取り戻しつつあった海の活動領域を
再び縮小せざるを得なくなった。
「……以上が、各海域で確認された棲姫級の出現ポイントです」
「多いな。各鎮守府の担当海域に必ず1体はいるじゃないか」
前回いきなりMI直前に放り出された時は知らなかったが、こんなにもいたとはな。
日本と海外を結ぶ要所に、行く手を阻むように配置されている。
「棲姫級が現れだしたのはここ3ヶ月の間です。どの鎮守府の艦隊も掃討作戦に
当たっていたのですが、あまりにも圧倒的な火力の前に、成功した例はごく僅かです」
無理もない話だ。大和がいても苦戦を強いられるほどの難敵なのだから。
「特に深刻なのは、日本とアメリカを結ぶシーレーンの中間に位置するミッドウェー諸島。
ここで農作物や機械部品などの輸出入に使用する航路を塞ぐ形で、棲姫級が陣取っています。
食料品の多くを輸入で賄っている我が国では、一刻も早い
ミッドウェー奪還が求められています」
腕を組んで考え込む長門が発言する。
「確かに、ミッドウェー、機密保持のため仮にMIとしようじゃないか。
MIは食料自給率の低い我が国に取っては2つの意味で脅威だな」
「日本だけで全部賄ってるのってお米くらいだからねー」
陸奥も長門に同意する。だが俺は上の空で聞いていた。
体感時間で約5年もかかった時間の旅もようやく終わる。
MIで散っていった前回の赤城達の無念を晴らし、計画を実行に移す。ただそれだけだ。
そう、MIで勝利し、歴史との戦いに決着をつけるのだ。それが出来なければ、
涙なき世界など実現できはしない。
「……と、いうのが現在の状況です。提督のお考えを伺いたいのですが、
どう思われますか?」
「俺達だ……」
「はい?」
「MIを奪還するのは、俺達だ!!」
俺は知らぬ間に立ち上がって叫ぶ。
「俺達には大和が、そして日々修練を積み重ねてきた精鋭達がいる!
俺達がやらなくてどうするんだ!みんなでアメリカと日本を結ぶ道を切り開くんだ!
明日の希望へと続く道を!」
「提督……そのお言葉を待っていました!正直、とりわけ凶暴なMIの深海棲姫に
他の提督方は皆尻込みしていました。私達、いや、全ての艦娘は
先陣を切ってくださる方を心待ちにしていたのです」
「長門、君の力を貸してくれるか」
「当然です、提督!」
長門が手を差し出して来た。俺は力強く彼女の手を握った。彼女もまたしっかりと握り返す。
そうだ。無為無策で挑んだ前回とは違う。“歴史は繰り返す”。
だが、シルクハットが言うには、歴史で死を定められた者は“いつか”必ず死ぬそうだ。
もしかすると逆に言えば時期をずらすこともできるということなのかもしれない。
……必ず変わるさ。この世界ではMIじゃない、俺達が勝つからだ!
「ふ~ん、提督も決める時は決めるじゃないの。もちろん私も手伝うわよ」
「陸奥、ありがとう!」
「提督、貴方のご決断に、心から敬意を表します。それでは、作戦の詳細を……」
「3ヶ月後だ」
「え?」
「3ヶ月後にMI奪還作戦を決行する!早すぎても遅すぎてもいけない!出撃メンバーは、
空母赤城、空母加賀、空母蒼龍、空母飛龍、重巡三隈、そして、戦艦大和だ!」
“!?”
突然俺が前もって決めていたかのように編成を告げたので3人は驚きの表情を浮かべる。
それはそうだ、決めていたんだから。
「提督、よろしいのですか。空母はともかく、何故重巡を?
もっと強力な金剛などの戦艦も検討されては……」
「このメンバーじゃなきゃ、駄目なんだ。頼む、何も聞かずに
この編成で決めさせてくれ……!!」
俺は長門に縋るように頭を下げる。そして、長門が優しく俺の手を取る。
「いいだろう。全て提督に任せよう。真っ先に
この困難極まる攻略作戦を立ち上げた、貴方の勇気に従います」
「長門、ありがとう……!」
「ま、一応理由は軍事機密ってことにしておくがな。
でも、作戦が成功したら教えてもらうぞ」
「私は自分のできる範囲で全力を尽くすのみです。勝利を祈っています」
「みんな、ありがとう。本当に、ありがとう!……それで、長門。
今言ったメンバーはこれから演習を入念に行い、“改”以上に昇格させておいてほしい」
「承知した」
長門に指示を出し、その日の作戦会議は幕引きとなった。
MI奪還作戦まで、あと1週間
「ふぅ、このところの演習は少々過酷でしたね。みなさんお疲れではないですか?」
「ホント、最近は演習続きできつかったよね~。まぁ、おかげで改二になれたけど」
「同じく改二になったのはいいけど、私もうクタクタ……」
「この程度でへばっていては、戦場で的になるだけよ。もっと体力を付けて」
「私、航空巡洋艦になれたんです。砲撃だけでなく、みなさんの航空支援も頑張ります!」
作戦会議室。招集をかけた艦娘達がお喋りしている。
俺は、長門、陸奥、大淀と共に入室した。皆、会話を止める。そして俺は彼女達に宣言した。
「諸君、今日集まってもらったのは他でもない。皆に極めて重要な司令を下すためだ」
誰もが静粛に俺の話を聞いている。俺はとうとう本題を切り出した。
「その司令とは、ミッドウェー改め、MI奪還作戦。君たちに出撃してもらいたい」
“……!”
「この3ヶ月、諸君に過酷な演習を課していたのはそのためだ。
危険な任務を押し付けてしまっているのはわかっている。だが!
このMI攻略を達成、アメリカとの航路復活を成し得るのは諸君において他にいない!」
「私達は敵と戦う為にここにいます。危険だのどうだのと言った前置きは不要です」
加賀が毅然として続きを求める。
「では遠慮なく言わせてもらおう。
1週間後、諸君はMI海域で深海棲姫率いる敵艦隊を撃滅、ミッドウェー諸島を奪還せよ!」
作戦会議室に張り詰めた空気が漂う。しばらくして、三隈が手を上げた。
「三隈君、何か?」
「あの……そんなに危険で重要な任務にどうして私が?
もっと戦艦や航空戦艦などの強力な方々がいると思うのですが」
「……済まないが、それは軍事機密に当たる事柄だ。話すことはできない。
だが、君でなければならないのは確かだ。奮闘を期待している」
「わ、わかりました。全力を尽くします!」
前の時間に生きた君の仇討ち、とはとても言えなかった。
「では、作戦会議を始める。まず、先にMI攻略を試み、撤退に終わった鎮守府から
提供された情報によると、敵艦隊の編成は、“中間棲姫”を始めとした空母ヲ級、
重巡リ級2、戦艦タ級、駆逐イ級2の大規模艦隊だ。地上には護衛要塞も確認されている」
室内の空気が更に緊張に満たされる。
「さらに、それぞれの艦は従来の深海棲艦より大幅に強化されているとのことだ。
駆逐艦1隻でも十分な脅威となるだろう。無理に火力を散開させるより、
各個撃破に徹するのが望ましい。各自に応急修理要員は支給するが、長期戦になるのは必至。
総員、覚悟を決めて任務に当たってくれ」
“はっ!”
続いて俺はさらに詳細な作戦説明に移る。
「これらの情報と諸君の能力を照らし合わせた詳細な作戦を伝える。
空母赤城、空母加賀は主に、戦闘機で敵艦載機を迎撃することに集中してくれ。
棲姫と護衛要塞が無数の艦載機を放つとのことだ。蒼龍隊、飛龍隊を防衛せよ」
「わかりました」
「了解」
「空母蒼龍、空母飛龍は艦爆隊、艦攻隊で敵艦にダメージを与える事に専念してくれ。
さっきも話したが、各個撃破を念頭に置いた編隊運用を心がけてくれ」
「わかったわ」
「任せてください!」
「航空巡洋艦三隈、砲撃と水偵の運用両方が可能な君は全体のサポートを行って欲しい。
ただこれが重要なのだが、敵の猛攻があっても、慌てず落ち着いて陣形を崩すことなく、
他艦との接触に注意してくれ。今更、と思うかもしれないが、不測の事態には意外と多い」
「わかりました、気をつけます!」
「戦艦大和、君は一番忙しくなるだろう。まず、戦闘が始まったら、
上空ではなく、敵陣の真ん中に三式弾をぶち込んでくれ」
「まず三式弾、ですか……?」
「ああ、奴らは航空機の発艦と同時に、こちらの数を上回る敵機を放ち、
赤城達の機体がほとんど落とされてしまう。そこで開戦同時に巨大な榴散弾を爆発させ、
敵艦隊を混乱させる。その隙に艦爆隊・艦攻隊を発艦し、先制攻撃を仕掛ける。
その後、通常弾に切り替え、駆逐艦から順に確実に数を減らし、
敵機が増えたら三式弾で支援、と柔軟な対応を取ってくれ。難しい役割だが、よろしく頼む」
「はい。必ずやご期待に沿うよう尽力致します」
ようやく俺は、艦娘達に、一度目の戦いで長門が与えてくれた教訓を伝え終えた。
そして俺は長門にも伝えていなかったことを告げる。
「なお、決戦当日は俺も軍用クルーザーで作戦海域ギリギリまで赴き、
諸君の戦いを見届ける。もしかしたら遠方から敵の動きが見えるかもしれん。
その際は電波通信でいち早く伝えよう」
“提督自ら!?”
「ちょっと待て!私にはそのようなこと一言も……」
「済まない、長門。これも俺のわがままだ。しかし、今回の作戦、
彼女らも決死の覚悟で出撃する以上、俺も不退転の決意で望むつもりだ。
確かに俺に戦う力はないが、この作戦の結末を見届ける義務がある」
「しかし、提督に何かがあっては……」
「もともとくじ引きで選ばれたような提督だ。代わりはいくらでもいる。
何かあったとしても鎮守府の運営に大した影響はないさ」
「……承服できません」
「……言いたくはなかったが、提督命令だ」
「承服できません!!」
長門の叫びが作戦会議室に響き渡る。沈黙が場を支配する。
しばし、皆身動きすらしなかったが、大和が口を開いた。
「提督、“代わりはいる”なんて、哀しいこと、仰らないでください。私にとって、
提督は貴方しかいないんです。私に生を与え、生きる喜びを教えてくれた、貴方しか……」
大和の机にポタポタと涙が落ちる。
「大和、済まない。だが、この考えを変えるつもりはない。
俺はMIとの因縁に決着を付けなければならない。君なら、この意味はわかるな?」
「でも……」
時間遡行に関わることを喋ってしまったが、皆大和に気が向いており気づかない。
この重苦しい雰囲気に嫌気が差した陸奥が前に進み出た。
「あーもう、このガンコジジイ!とうとう女の子を泣かせたわね!
そんなに行きたいなら、いっそ北極海まで行っちゃえばいいのよ!」
「陸奥、よせ……」
「ふん……まぁ、でも?そうなれば私まで大和ちゃんを泣かせた犯人になっちゃうし、
条件付きならOK出しても良いわよ」
「条件付き?」
「どういうことだ、陸奥」
「私達、つまりいつもの3人組で護衛に付く。まぁ、即席の移動司令室で行くってわけ」
「……大淀君、彼女こんなことを言っているがいいのか?実戦向きではない君まで!」
「私の任務は必要な情報を必要な所に報告することです。
貴方の声援があれば、きっと皆さん頑張れると思いますよ。それに失礼ですね、
私が実戦向きでない?私も本気を出せば凄いんですから」
そう言って大淀は俺にウィンクした。
「大淀、ありがとう。さぁ、提督。我々が譲歩できるのはここまでだ。
この条件が飲めないなら、今からクルーザーを一隻残らず破壊するぞ。
例えどのような処分を受けようと」
「……長門、みんな、本当に、すまない!」
「ぐすっ、みなさん……提督を、よろしくお願いします!」
「頑固なおっさん上司にすると苦労するわね、大和ちゃん。提督のことは任せてよ。
暴走しないように見張っとくから」
「はい!」
「みんな俺のせいで気苦労をかけて申し訳ない。大和、必ず生きると約束しよう。
だから、君も必ず帰ってきてくれ」
「絶対、勝って帰ってきます!」
もう大和の目に涙はなかった。ここまでだな。できることは全てやり尽くした。残るは、決戦のみだ。
「色々あったが、以上でMI奪還作戦の作戦会議を終了する。一同解散!」
MI奪還作戦 決行日
「ふぅ~突貫工事だったけど、なんとか駆逐艦並の強度に改装したわ。
近場の深海棲艦の攻撃くらいじゃびくともしないわよ」
「ありがとう。急な注文だったのによくやってくれたな。ご苦労だった」
俺は明石に礼を言って装甲クルーザーに乗り込んだ。中では既に長門と陸奥が待機しており、
大淀が持ち込んだ機材の調整を行っていた。
「受信状態問題なし、周波数OK、うん、大丈夫!」
「みんな、今日は世話になる。よろしく頼む」
「はっ!お任せを」
「では、みんなに出撃命令を出すと同時に我々も出港する。準備はいいな?」
“はっ!”
「……では大淀君、ドックの艦娘に出撃命令を!」
艦娘出撃ドック
“待機中の艦娘に出撃命令!直ちにMI海域の敵艦隊を殲滅し、制海権を確保せよ!”
「さぁ……とうとう始まりますね」
赤城がその黒髪を払い、精神を研ぎ澄ます。その横で黙りこくる加賀。
「……」
「どうしたんですか、加賀さん?」
「いえ、なんでもない。ただ、強い既視感がどうしても拭えなくて……気にしないで」
「ここには何度も来てるからじゃないですか、きっと!」
「加賀さんは激戦の経験が多いから、いつもの勘みたいなもんですよ」
「私は胸がドキドキしてきました」
「私も大きな戦いは初めてで、緊張してます……」
「ごめんなさい、私のせいで無駄な時間を取らせたわね。さぁ、行きましょう」
“はい!”
そして6人は出撃パネルに飛び乗り、地下から海上へ飛び出していった。
6人が出撃した姿を見て、俺もクルーザーのエンジンをかけた。
「出港する!」
目指すはMI。俺の知る限り最も激しい戦闘になるだろう。
もし神とやらが存在するのなら、今だけでいい。彼女達を導いてくれ。
俺の全てを差し出しても構わないから。
俺達は数日をかけて太平洋のど真ん中、ミッドウェー諸島近海にたどり着いた。
戦闘部隊達はMIに向けて全速前進を続けている。空は絶え間なく雷鳴が轟く、
薄暗い曇天模様。1発でもいいから深海棲艦に落ちてくれれば、などと考えてしまう。
「停止する。俺達はここで皆の戦いを見守ろう」
「無事提督を送り届けたはいいが、何もできないのは歯がゆいな……」
「信じて待つしかないね」
「提督、彼女達に伝えることがあればいつでも仰ってくださいね」
ここも決して安全とは言い切れない。いくら装甲板で強化したとはいえ、所詮はクルーザー。
流れ弾の直撃でも受ければ木っ端微塵だ。それを承知で3人は付いてきてくれたのだ。
この戦い、一瞬たりとも見逃すわけにはいかない。
そして赤城率いる戦闘部隊は、相変わらずMIへ向けて前進中。
すっかり日が落ちた海で赤城が皆に注意を呼びかける。
「すっかり暗くなりましたね。警戒を厳にしなければ」
赤城がMIの方角へ目をこらす。月明かりが太平洋を冷たく照らしている。
「ようやく敵の本丸ですが、ここまでの散発的な戦闘で航空機もやや損耗しています。
油断は大敵です」
加賀が手探りで矢筒の航空機発艦矢の数を確認する。
少し減ってはいるが短期決戦に持ち込めれば十分な数だ。
彼女が航空機の数を確認し終えると同時に、三隈が敵艦を視認。
「そろそろ開戦の時間、みたいですよ」
三隈が告げると全員がミッドウェー島に目を凝らす。
すでにちらほら敵艦の姿が見え始めている。
「総員、全速前進!砲雷撃戦用意!」
空母は弓に矢を番え、重巡は砲と水偵瑞雲を準備、そして大和は三式弾を装填。
準備が終わると同時に、既に敵艦隊全艦が視認できる距離に近づいていた。
「大和さん、お願い!みんな、三式弾炸裂が開戦の合図です!」
「わかりました、大和、砲雷撃戦、はじめます!狙うは敵陣中央……撃て!」
サンド島とイースタン島の間に展開していた敵艦隊の中央に
真っ赤な火の玉が飛び込み、炸裂。大爆発を起こした榴散弾が、爆発の超加速を得た
無数の燃え盛る弾子を撒き散らす。炎に包まれるMI。
対空用の砲弾とは言え、突然焼ける鉄球の嵐を打ち付けられた敵艦隊は、
何が起きたのか分からずパニックになる。
装甲クルーザーから彼女らの帰りを待っている俺達は、
サンド島の向こうで巨大な火柱が上がるのを見た。……ピシッ!はるか遠くから飛んできた
三式弾の弾子がフロントガラスに当たり、強化防弾ガラスに大きなひび割れを作る。
だが、俺は気に留めず一人つぶやく。
「メギドの炎……これが彼女達の戦いか」
「46cmの威力、この目で見るのは私も初めてです」
「始まったみたいだね……」
「航空機部隊の発艦信号、キャッチしました!まずは作戦通りです」
「先制攻撃のチャンスよ!航空機、全機発進!」
作戦の手筈通り、赤城、加賀は戦闘機、蒼龍、飛龍は艦爆隊・艦攻隊、三隈は瑞雲を発艦。
敵陣形は駆逐2を先頭に、後ろに戦艦、空母が横並び、更に後ろに重巡2、
そこを突破してようやく護衛要塞、“中間棲姫”にたどり着く。
2隻ずつ奥へ並んでいる構図だ。まず狙うは空母ヲ級。
ただでさえ多くなる敵機を増やされてはかなわない。今のうちに沈めなければ。
「大和さん、駆逐は無視してヲ級を叩いて!」
「はい!」
ガコォン、ガコォン……
46cm砲塔内で砲弾が三式弾から通常弾に換装される。
大和は駆逐2の向こうにいるヲ急の少し上方に狙いを定める。
直進させず、弧を描くように……当たって!
「敵艦捕捉、全主砲薙ぎ払え!」
三連装主砲2基が咆哮する。駆逐艦を飛び越えるように放たれた6発の砲弾。
衝撃波で駆逐艦がよろめく。そして斜め上から飛来した真っ赤な鋼鉄の塊に驚くヲ級。
4発が命中。爆発。超重量の鉄球を叩きつけられ爆発の衝撃を受けたヲ級の損害は、
頭部の怪物が半分消し飛び、右足がちぎれ、腹を破られ大量に青黒い体液を垂れ流していた。
ヲ級は苦悶の表情を浮かべる。
「今がチャンスよ、まずは一度目でヲ級を沈めるのよ!」
「わかりました!みんな、頑張って!」
蒼龍、飛龍の放った艦爆隊、艦攻隊に三隈の瑞雲が加わり、
爆撃、雷撃の波状攻撃を浴びせる。爆撃5、魚雷6が命中。
“アアアアア!!”
轟沈寸前のダメージを負っていたヲ級は、この集中砲火に耐えきれず、浮力を失い、轟沈。
「やったぁ!あっという間に空母片付けちゃった!」
「はしゃがないで。まだ大勢の敵が残ってるわ」
さっそく喜ぶ蒼龍を諌める加賀。そして間髪を入れず赤城が指示を飛ばす。
「皆さん、ここからは正攻法で。先頭の駆逐艦から沈めていきます!」
「はい!大和、続いて砲撃行きます!」
だが、敵もそれを黙って見過ごすはずもなく、護衛要塞と中間棲姫から
大量の艦載機が発艦する。
「戦闘機部隊、艦爆、艦攻を守って!」
赤城、加賀の戦闘機が敵艦載機と空中戦を繰り広げる。
落とし、落とされ、互角の勝負を繰り広げる間に、海上では大和が駆逐艦に向け、
次弾を発射しようと照準を合わせる。
「直撃させます……撃てっ!」
今度は直接敵艦を狙い撃つ。まっすぐに飛んだ6発の46cm砲弾は、駆逐艦に3発命中。
だめ、今ひとつ!落ち着いて狙わなきゃ!いつの間にか昂ぶっていた精神を
深呼吸して沈める。46cmの直撃弾3発を受け、撃沈寸前ながらも、
なんと駆逐艦は生きていた。体中至る所が破け、体液を吹き出しているが、
こちらに砲を向けようと重い体を動かしている。どうしよう!倒しきれなかった!が、
次の瞬間、駆逐艦は別方向からの砲撃を受け、今度こそ四散大破した。
「ふふっ、20.3cm(3号)連装砲。私の自慢です」
三隈の援護射撃だった。
「ありがとう、三隈さん!」
完全に頭に血が上る敵艦隊。戦艦タ級、重巡リ級2、そして残った駆逐艦が
大和達に一斉射撃を行う。
「全員散開!ちらばって!」
「提督の言うとおりに……落ち着いて、陣形を崩さず直撃だけに注意!」
皆、横一列のまま、距離を取って砲弾の集中を避ける。
海域のあちこちで落下した火の玉で水柱が上がる。三隈は事前に受けた提督の忠告通り、
無駄に動き回らず、陣形を意識しながら砲弾を回避した。
「もう一度よ!艦爆隊、艦攻隊、駆逐艦に攻撃を!」
Uターンした航空機部隊が今度は残りの駆逐艦に集中攻撃。爆撃、雷撃を繰り返し、
ガリガリと体力を削り取る。頭上からの怒涛の攻撃に悲鳴を上げ、
徐々に肉体を損傷していく駆逐艦。
「大和さんは次の大物に備えて、私に任せてください!」
「お願いします!」
三隈は再び連装砲で駆逐艦を攻撃。そして、遂に、上空と水上からの集中攻撃に耐えきれず、
駆逐艦はゆっくりと倒れていき、夜の深海に消えていった。
「私でも……役に立ててる!提督の言うとおりに!」
1列目撃破。次はヲ級を失った戦艦タ級のみ。しかし焦りは禁物。
「全機、一度帰艦して補給を!」
赤城達は一旦全ての艦載機を帰還させ、弓に戻して弾薬類の補給を行う。
「大和さん、今は敵航空機の迎撃を!空を埋め尽くされてからでは手遅れなの!」
「はい!」
中間棲姫と護衛要塞があっという間に10機を超える艦載機を展開。
確かに放置しておけばどうにもならなくなっていただろう。艦載機が大和達に迫ってくる。
大和は砲弾を再び三式弾に戻す。
「今度は空。敵航空機部隊真ん中に向けて……第一、第二主砲。斉射、始め!」
夜空の雷鳴と聞き間違うかのような爆音が轟く。
大和の主砲から放たれた榴散弾が今度は本来の目的を果たす。
全方位に散らばる燃える弾子が、敵機をぐしゃぐしゃに引き裂いていく。
そして海上に叩きつけられた弾子が再び敵艦に降り注ぎ、思わず彼女らは身をかばう。
「今です!航空機部隊、再発艦!大和さんは今のうちに通常弾に換装を」
「了解!」
4人が一斉に空に矢を放ち、三隈も瑞雲を発艦させ、援護に回る。
今度こそ戦艦タ級を撃沈すべく、艦爆、艦攻がタ級に躍りかかる。
爆撃、魚雷が4発ずつ命中。彼女の装甲を引き剥がす。
“ガアアアアア!!”
怒り狂うタ級が空に向けて大口径砲を発射。航空機部隊の大半が衝撃と直撃弾に撃墜される。
だが、その損耗も無駄ではない。通常弾に換装を終えた大和が、その隙にタ級に向け、
照準を合わせていたのだ。
「敵艦捕捉、全砲門射撃用意……」
左足を少し後ろに下げて反動に備え、
「発射!!」
両舷6門の主砲、6門つまり12門の連装高角砲の全てをタ級に向けて発射。
彼女が気づいた時には遅かった。既に空を焼きながら計18発の砲弾が
タ級めがけて飛びかかっていた。あまりの砲弾の多さに、もはやどれが何発当たったか
わからないほどだが、とにかく大量の鋼鉄の牙に食いちぎられた戦艦タ級は
身体の半分を失い、海に放り出されたまま沈んでいった。
「行ける……重量級を2隻も!」
「油断禁物。言ったはずよ」
喜ぶ三隈に、あくまで冷静な加賀。2列目撃破。3列目は重巡リ級2。
これさえ叩けば厄介な護衛砲台を直接叩ける。砲台は相変わらず艦載機を出し続け、
砲撃で赤城達になかなか発艦の隙を与えない。
蒼龍、飛龍の艦爆隊・艦攻隊の再発艦がまだだ。
「戦闘機のみんな、頑張って!」
「ここは、譲れません……!」
赤城と加賀の戦闘機部隊は懸命に敵艦載機と戦っている。
「大和さん、まずあの砲台を叩きませんか!?」
「いえ、先に目の前の重巡をなんとかしましょう。上に気を取られたら狙い撃ちされます」
三隈は砲台を攻撃しようとしたが、大和は重巡を選んだ。
「大丈夫です!私達二人なら1隻ずつ落とせます!」
「……はい!」
「ふふ、どっち行きます?」
「10時のやつから!」
二人は右手と左手をつなぎ、同時に10時に存在する重巡に照準を合わせる。
敵はもう戦艦・空母より装甲の薄い重巡洋艦。直撃させれば一度でやれるはず!
照準する間も敵弾の夾叉が彼女達を傷つけるが、今は手数を減らすのが優先だ。
二人は電探の機能をフルに活かして照準する。
「大和、照準よし」
「三隈、行けます!」
「それじゃあ……」
「「撃て!!」」
これまでにない轟音。46cmと20.3cm、2つの砲が放つ巨大な衝撃波で、
底の浅い海が一瞬浅瀬になる。6門プラス2門の8門から打ち出された砲弾が、
重巡の1隻に食らいつく。彼女は背を向けて逃げようとするが、間に合わず、直撃。
46cmが4発、20.3cmが1発。計5発が命中。
鉄塊の衝撃と爆発で、胴が真っ二つになり重巡リ級、轟沈。
「やりましたね、大和さん」
「ええ、残るは1隻!」
相棒をやられた怒りで闇を引き裂かんばかりの鳴き声を上げる残った重巡。
二人に砲を向けたが、その瞬間、彼女の頭上で──爆発。
“qygtlk!?”
「二人共待たせてごめんね!」
「赤城さんと加賀さんのお陰で無事に艦爆隊、艦攻隊、発艦できました!」
「私達の戦闘機も残りわずかよ。4人共急いで」
「大和さんたちは邪魔な護衛要塞をなんとかしてください!」
「わかりました!」
上空には隊列を成して、蒼龍、飛龍が放った艦爆、艦攻が舞っている。
航空機部隊は急降下すると、重巡リ級に集中砲火を開始。
艦爆隊が投下した爆弾が次々に命中、彼女の装甲、肉体にダメージを与え、
艦攻隊が放った無数の魚雷が突き刺さり、爆発。四方八方から襲い来る攻撃にリ級が
悲鳴を上げる。そして、1機が放った最後の酸素魚雷が、まっすぐ彼女に向け泳ぎ、着弾。
ひび割れた装甲に挟まり、大爆発を起こす。リ級は断末魔を上げ、その場に倒れ込み、
泡を立てて沈んでいった。
「護衛の排除に成功!残るは面倒な要塞だけね!」
「私が46cm砲で!」
「待って、その前に三式弾をお願い」
「あっ……」
その時、中間棲姫が腕を振り上げ、一瞬にして空を覆うばかりの白い球型の艦載機を展開し、
護衛要塞も同時に黒い甲殻類のような艦載機を展開、空から爆弾の雨あられが降ってくる。
皆、とっさに回避するが、やはり全ては避けきれず、何発かが彼女らに命中。
「キャアアア!!」
「ぐあっ……!慌てないで、彼女を待って回避に専念!」
「すみません、今換装中です……三式弾に換装、装填準備完了、空に向けて照準を……
皆さん伏せて!」
大和は砲をほぼ90度に向けると、もはや狙いを付けず、空中で爆発させることだけを考える。
「撃てっ!」
空に打ち込まれた三式弾は打ち上げ花火のように、上空を火の海に変え、
球型、甲殻類の航空機部隊は弾子で蜂の巣にされ燃え尽きた。
味方機も巻き込まれたが致し方ない。
「すみません、味方機まで!」
「いいえ、貴方はよくやってくれた。今度こそ通常弾で要塞を」
「はい!」
「ちょっとですが私がダメージを与えます」
大和が換装し、赤城達が再び矢を放つ間、三式弾の至近弾を浴びた護衛要塞は
決して小さくないダメージを受けていた。身体に無数の弾子が食い込み、
再発艦の準備に手間取っている要塞に、三隈から20.3cm砲弾が飛んできた。命中。
本体に大きな打撃を与えることはできないが、発艦直前の機体が粉々になる。
「この……やらせないんだから!」
「三隈さん、ありがとう。航空機の再発艦完了、そして……」
「大和、砲弾の換装、装填完了です。護衛要塞に向け、照準合わせ……
第一、第二主砲、斉射始め!!」
艦爆隊による上空からに爆撃に苦しんでいた要塞が、今度は雷のような爆音を聞いた瞬間、
巨大な砲弾が身体に食い込むのを感じた。何が起きたかわからないうちに、砲弾が大爆発。
凄まじい火力でその巨体が圧壊する。もはや機能不全に陥った護衛要塞は、
ただただ艦爆隊の爆撃を受け、内部の砲弾・艦載機に誘爆。
次の瞬間、内部で爆発を起こして吹き飛んだ。
「倒した……棲姫以外全部……」
「できました、私達があんな大部隊を!」
「勝つまで喜ばない。一番厄介なのが残ってる。残りの矢は……多くはないわね」
そう、ここまでの激闘すらいわば前座。最も強力な敵を倒さなければ、
作戦成功とは言えないのだ。皆の意識が“そこ”に集中する。大和は感じたことがある。
このどす黒い殺意。皆の精神に闇が押し寄せる。浅瀬を見ると、
白い怪物が口を開けるような台座があった。そこに真っ白い肌の女性が身を預ける。
彼女こそ、MIを支配する深海棲姫、“中間棲姫”
『ユウバクシテ……シズンデイケ……!』
意味は分からないが、彼女の宣戦布告と捉えていいだろう。
邪魔者を排除した全員が構えを取る。
装甲クルーザーにもその声は届いていた。
「死ぬのは、お前だ……!!」
気がつけば俺はMIを睨みつけ、つぶやいていた。
前回のこの日、この時間、皆、奴に殺された……!奴の最期を見るまでは、
彼女達に顔向けできない。
「提督、落ち着いて下さい。彼女達の方がテンパってるんですから、提督がしっかりしないと」
「ああ、すまない。大淀君、彼女達に打電。
《皇国の興廃この一戦にあり。各員の勝利を信じて待つ》以上だ」
「了解しました」
「提督からのメッセージですね。……うん。鎮守府、いえ、この国の運命は
私達にかかっています」
「この忙しいというのに。蒼龍さん、飛龍さん、浅瀬にいる奴に魚雷は使えない。
艦攻隊を、戦闘機部隊に切り替えて欲しい」
「ええ、もちろん。大和さんには砲撃に集中してもらわないと」
「提督……勇気が湧いてきました。ありがとうございます」
「瑞雲でわずかでも削ります!」
「艦爆隊のみんな、ここが踏ん張りどころよ!」
6人がそれぞれの胸の内を口にすると、早くも中間棲姫が
台座に設置された三連装大口径を放ってきた。
「散開!」
全員が横に広がり、空いた水面に隕石の如く巨大で超重量の砲弾が着弾。
海中で爆発を起こした。棲姫は笑いながら、三連装砲を連発してくる。
これでは反撃の暇がない。
「流石……棲姫は並外れてますね」
「皆さん、私が直撃弾を浴びせます。その隙に艦載機を!」
「大和さん、今、止まったら奴の的よ!?」
「次の砲撃の瞬間、弾の軌道を読みます!私でなかったら46cmを叩き込みます!」
「……お願い!」
『バカメ……!』
中間棲姫が散らばった赤城達に向け砲撃する。今だ、奴は空母を狙ってるんだ!
大和はその場に停止。全主砲、高角砲に装填。棲姫がこちらに気づく。
大丈夫、焦るな、慌てず急げ!棲姫が大和に砲を向けた瞬間……よし、照準合わせ完了!
「撃てええっ!」
大和の日本最強の砲が吠え、海面に大きな半円の穴を作る。
46cm砲6門、連装高角砲12門の鋼鉄の怒涛が中間棲姫に襲いかかる。
巨大な砲弾の並は棲姫の台座に飛び込む形で命中。2発ほど外してほぼ全弾命中。
台座の中で爆発が起きるのを確認した赤城達。
「奴の動きが止まりました!今のうちに艦載機展開を!」
「任せて」
「行くわ!今度は戦闘機のみんなも出番よ」
「今こそ攻め時です!」
4人は空に向けて矢を放つ。戦闘機、艦爆隊の大部隊が展開し、
艦爆隊が体制を立て直そうとする中間棲姫に情け容赦ない爆撃を加える。
『クッ、トラエテ…イルワ……』
彼女が苦痛をこらえて手を振り上げると、背後から雲が湧き上がるように、
球型艦載機が飛び立つ。すかさず戦闘機部隊が機銃掃射で球型を撃ち落としにかかる。
大規模な航空機同士の戦闘が始まった。
「さぁ、ぼーっとしてられません!何度でも砲撃を!」
「は、はい!」
大和が再装填している間、三隈は20.3cm砲で中間棲姫に着実にダメージを与える。
台座の外殻が徐々に吹き飛び、戦闘の合間を縫った爆撃機の爆撃も加わり、
彼女に苦悶の表情が浮かぶ。
「待たせてごめんなさい!さぁ、もう一度46cm砲、受けなさい!」
大和はまた左足を後ろに付いて反動に備え、艦載機の指示に必死になっている中間棲姫に
照準を合わせる。
「沈んで!!」
再び6門の巨大砲と6基の高角砲が牙をむく。爆炎の中から飛び出した砲弾の群れが
棲姫に直撃した。もともと台座に腰掛け、動きが少なく、一度46cm砲の直撃を受けた彼女に
ほぼ全弾が命中、爆発。煙が晴れて彼女の姿が顕になる。
両腕が吹き飛び、端正な顔は無残にひび割れ、胴に大きな穴が開いていた。
「さぁ三隈さん、撃てるだけ撃ちましょう!もうすぐです!」
砲撃チーム二人に敵艦載機が突っ込もうとするが、
後ろから蒼龍達の戦闘機が機銃で撃ち落とす。
「今度は私達もみんなを守るよ!」
「艦爆隊、もう一息よ!」
『ウウッ……ナンドデモ……シズンデイケ……!』
彼女は相変わらず意味不明な言葉をささやき、わずかに残った砲1基で反撃に出る。
しかし、既に1箇所しか狙えなくなった状態で6名を撃つので、
当たるはずもなく回避される。
「全機、大和と三隈の護衛に集中して!もう棲姫は虫の息です!」
大和と三隈は中間棲姫にとどめを刺すべく、再び手を取り合い、全砲門を棲姫に向けた。
「三隈さん、準備はいいですか?」
「はい。大和さんも、再装填できました?」
「もちろん!それじゃあ……」
「行きます!」
二人共確実に命中させるため、電探の索敵機能を集中し、棲姫に照準を合わせる。
二人の砲が禍々しき姫を捉えた。
「全砲門開け……!」
「「撃て!!」」
二人の全ての主砲、高角砲が吠える。放たれた燃える鉄塊の群れが中間棲姫に襲いかかった。
もはや命中弾を数えるまでもなく、直撃弾の衝撃と爆発で、棲姫に最期の時が訪れた。
下半身が完全に吹き飛び、全身に浴びた圧倒的破壊力で、生命活動が徐々に止まっていく。
『ソンナ……ワタシガ……オチルト……イウノ……?』
彼女は何か反撃に出ようとしたが、砲も腕も失い、横たわることしかできなかった。
そして徐々に視界が暗くなり、中間棲姫は、いつの間にか雲が晴れた空に光る、
満天の星々を眺めながら息絶えた。
その後、主を失いパニックに陥った球型艦載機は、4人の戦闘機に次々撃墜され、
瞬く間に全滅した。そして訪れる静けさ。赤城達はしばらく周囲を警戒していたが、
何も訪れる気配はない。静寂の中、戦闘で昂ぶった心が徐々に落ち着くと、
その事実を受け入れることができた。敵艦隊撃破という事実を。
「やったんですね、私達……MI奪還を!」
「そうみたいね。流石に骨が折れたけど」
「やったぁ!もう喜んでいいんですよね?いいんですよね!」
「勝利……しました。言葉ではこの気持ち、なんて言っていいか……」
「提督の仰ったとおり、元重巡の私でも役に立てた!」
「提督との約束、果たせました。二人共生きて帰る。早く会いたい……」
皆、それぞれの形で喜びの声を上げる。
「赤城さん、提督に通信を」
「はい!」
赤城は意識を集中し、提督向け周波数に電波を発信した。
《我、MI攻略に成功せり。深海棲姫を撃破、完全勝利》
同時に、装甲クルーザーでも歓声が上がっていた。
「提督、赤城隊より入電!《我、MI攻略に成功せり》、MI攻略に成功せりです!
全員生還の完全勝利です!」
「あ、あ、あ……うわあああああ!!」
俺は思わず雄叫びを上げた。やった!やったんだ!俺達は生き残った!
歴史が決めた運命では、今日死ぬはずだった艦娘は全員健在!涙が溢れて止まらない。
俺達は勝てるんだ、歴史に!
「提督、おめでとうございます!」
「あの娘達、よく頑張ったよね……」
長門と陸奥も彼女達を祝福する。
「ああ、みんなよく頑張ってくれた、よく生き残ってくれた……さぁ、行こう。
みんなを迎えに行くんだ」
俺は操舵席に乗り込みキーを回し、もどかしい手つきでエンジンをかけた。
すっかり深夜となった海にチカチカと規則正しい間隔でライトが光る。
「皆さん、見てください。発光信号です!」
「そのようです、内容は……《あ・り・が・と・う》」
「提督よきっと!」
「喜んでくださってるのよ」
「提督はきっと全てわかってて……」
「迎えに来てくれたんですね!」
俺はエンジンを切ると、ズボンが濡れるのも構わず浅瀬に飛び降り、赤城達に駆け寄った。
「みんなー!おめでとうー!」
「慌ただしい方。深夜くらい大人しくされればいいのに」
俺は浅瀬に足を取られながらも思い切り手を振りながら、皆の元にたどり着いた。
「はぁ、はぁ……みんな、みんな」
「ほら深呼吸なさって。提督ともあろう方がはしゃぎすぎです」
「まぁそう言うなって。……みんな、ありがとう。生きててくれて、ありがとう!」
「提督……約束、守りました」
大和が俺のそばにいた。思わず彼女の手を取り、固く握りしめる。
「ありがとう、よく頑張ってくれた……!」
「提督も、約束通り、無事でいてくれたんですね」
「俺のことよりみんなだ。みんなも、生き残ってくれて、ありがとう!」
俺は他のメンバーにも握手を求める。三隈に手を差し出すと、彼女も握り返す。
「ありがとう!無線で戦況は聞いていたが、総員全力で戦えたのは、やはり君のおかげだ」
「こちらこそ、提督!今回の戦いで、私、もっと強く慣れた気がします!」
赤城とも握手を交わす。
「君を旗艦に指名したのは、間違いじゃなかった。まさに一航戦の面目躍如だよ!」
「ふふ、その笑顔こそが、一航戦の誇りです」
蒼龍、握手を頼む!
「江草隊の猛攻、まさに攻撃の要だったな!深海棲艦も形無しだった!」
「ふふん、私を指名したのは正解だったわね、提督!」
飛龍、握手してくれ!
「君の友永隊も、大物相手に大きなダメージを与え続けてくれた。航空隊の誇りだ!」
「友永隊だけじゃなく、終盤には零戦部隊も活躍してくれましたわ。
メリハリのついた戦い方が勝因かと」
そして俺は加賀に手を差し出す、しかし彼女はぷいと向こうを向き、
「趣味じゃありませんので」
「今日くらい頼むよ、君の無事を手で確かめたいんだ」
「……しょうがありませんね」
そっぽを向いたまま片手を差し出す。俺は両手で握り込む。
「ありがとう、本当にありがとう。君の気高い戦いぶりは、
必ず後に続く空母達の手本になるだろう」
「……もとよりそのつもりです」
ちょっと彼女が照れたような気がしたが気のせいか。
とにかく俺は皆の命を肌で感じてこの上ない幸せを覚えた。さぁ、みんなで帰ろう。
俺達の鎮守府へ。
「みんな帰ろう!勝利の凱旋だ。鎮守府の皆も大喜びするぞ!」
数日後。広場には白い幕が張られたステージが設けられ、
左手には胸に勲章を着けたMI攻略作戦のメンバー、右手には俺と三日月、
そして司令部のメンバーが座り、中央にはマイクのついた演説台が設置された。
ステージの前にはこの鎮守府の全ての艦娘が集まっている。
聴衆の皆はMI奪還成功の知らせを聞いており、英雄の凱旋式に興奮を隠せず、
がやついている。俺は腕時計を見た。もう時間だな。俺は席を離れ演説台に立った。
「あ、あ、ゴホン。諸君、静粛に。只今より、MI攻略作戦成功の祝賀式典を始めたいと思う。
まず、今回ミッドウェー諸島を奪い返した英雄達の紹介から始めたいと思う。
右から空母赤城君、空母加賀君、空母蒼龍君、空母飛龍君、航空巡洋艦三隈君、戦艦大和君」
“やっぱり赤城、加賀ペアは流石だなー”
“蒼龍さんと飛龍さんも凄いわね!”
“重巡グループから英雄が出るなんて……私達も鼻が高いわ!”
“大和さん、やっぱ日本最強の名は伊達じゃない。凄すぎる……”
皆、口々に英雄の功績を称える。
「今回の勝利を受けて軍本部、各鎮守府、関係者、同盟国ドイツ、
そしてアメリカからも読み切れないほどの祝電が届いている。
皆が彼女達英雄の勝利を祝福している証だ」
演説台に立つ俺を長門達が笑顔で見守っている。
「それら一通一通を紹介したいところだが、あいにく時間がない。
ここからは少々私事に時間を取らせて頂きたい。実は今回この英雄たちが成し得たことは
ミッドウェー諸島奪還だけではないのだ」
予定にはない演説に長門達が顔を見合わせる。
赤城達もなんのことかわからない様子で困惑している。
「これから話すことは少々、いや、かなり突拍子もなく信じがたい事が含まれているが、
どうか最後まで聞いて欲しい。彼女達が成し得たこと、それは歴史への勝利だ。
実は、歴史が定めた運命によると、このMI奪還作戦は失敗し、
6名中5名が死亡という惨事に終わるはずだった」
“提督一体何を!?”
長門が飛び出そうとするが、俺は手をかざして制する。
彼女はどうすべきか迷いながら結局席に着いた。
「“歴史は繰り返す”、これは抗うことのできない世界の理のように思われた……今までは。
しかし!彼女達は見事にそれを覆し、全員無事生還。その運命の鎖を断ち切ってくれたのだ。
まるで時間移動でもできるような言い回しだな、と言いたげだね。
そう、その通り、私は偶然時間を遡る、時間遡行の力を手に入れた」
観衆からどよめきが起こる。赤城達も長門達も俺がおかしくなったのでは、
という顔で不安げに見ている。
「一度目のMI攻略作戦では、俺の慢心から準備不足のまま彼女達を行かせてしまい、
結果、5名戦死という取り返しのつかない過ちを犯した。
その教訓を元に俺はこの2年間、準備に準備を重ね、歴史というものに抗い続けた。
そして彼女達は成してくれた。1週目の自分達の仇討ち。
そして君たち艦娘を縛る死の輪廻の破壊だ」
“なんですかそれー?”
聴衆から声が上がる。確かにこの単語では意味不明だ。俺は説明を続ける。
「諸君も知ってはいると思うが、深海棲艦とは、戦死した艦娘の転生体だ。
そして、まれに撃沈した深海棲艦が再び艦娘として生を受けることも分かっている。
だが、どんな姿に生まれようと、戦っては死ぬというループから抜け出すことはできない。
俺はそんな運命を変えたかった。その時、手に入れたのが時間遡行の力だ。
皆は覚えているだろうか、2年前に戦死した夕雲という駆逐艦を。
俺は何度も彼女の死を見てきた。他にも悲しい現実を見てきた。
その度あらゆる手を試みて歴史を変えようとしたが、いつも結果は同じ。
最初に言った“歴史は繰り返す”という理に邪魔されてきた。だがもう違う!
歴史は変えられる!俺達は歴史に勝てる!この死の輪廻から抜け出すことができる!
それをこの英雄達が証明してくれた!俺はこの時間遡行の力で終わりなき戦いから
皆を救い出し、それぞれの人生を幸せに生きる涙なき世界へ皆を導く方法を手に入れた。
その詳細については残念ながら話している時間がない。
ただ、みんな、俺は再び会えると信じている。永劫の戦いから解き放たれた理想郷で。
最後に俺から一言。みんな、おめでとう……!」
いよいよ止めに入ろうとした長門が俺の肩を掴んだ瞬間、
ポケットから取り出した銀時計の竜頭を押した。